竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第七十七話 錬金術の友情「元・クラクトハイト隊」

 手足を握る。解放する。

 軽く跳躍する。宙返りをする。

 

 パチパチパチ、という乾いた音に振り返れば、そこには「まぁ、仮の姉にはなるのかな。腹違いだけど」だのなんだのとくだらない説明をされた人形が一人。

 

「ンだよ」

「私が起動した当初はそこまで身軽に動けなかったので、賞賛の意を送りました」

「そりゃあんがとよ。だが俺様はちぃっとばかし事情が違ってな、地続きなんだ。感覚を取り戻してるに過ぎねえ」

「私も恐らくそうであると考えられます。記憶はありませんし、知識もありませんでしたが、地続きであることは変わりないかと」

「記憶が無いんなら地続きって言わねえよ。……あー、なんだ。レティパーユ、つったか」

「はい」

「『第二号』ってのはどこにいんだ? アンタが『第一号』、俺様が『第三号』。なら、間の奴がいるはずだろ」

「まだ調整中らしく、私もどこにいるかは知りません」

「そうかい」

 

 感情の起伏の少ない少女。いや、正しく人形か。

 グリードの周囲にはいなかった手合い……強いて言えば"親父殿"くらいだが、今その親父殿が錬金術の実験やら飲食に夢中と来ているらしい。世の中分からないものである。

 だから、というわけでは……ある。

 苦手だった。対応が難しかった。

 

「なんだ、お目付け役でも任されたか?」

「いえ。所長が私に求めてくるのは、情緒を育てろ、と。ただそれだけです」

「情緒ねえ。ンなもん、こんな薄暗い研究所の中で育つとは思えねえんだが」

「少し前、イーストシティには行きました」

「へぇ。なんだ、造形師の嬢ちゃんと小旅行でもしてきたのか」

「はい。アンファミーユと共に、アンファミーユの兄が寄生した錬金術師を倒す大冒険でした」

「大冒険っつーんなら大冒険だ、って感じに話せよ。まるで大冒険って感じがしねぇ」

「……」

「……あー、なんだ。なんか気ィ悪くさせたか?」

「いえ。……その、大冒険だ、という感じに話す、という手法を知らないので、考えていました」

 

 やりづらい。本当に。

 グリードの仲間……デビルズネストの面々は全員大人だった。当然だ。軍に使われ、軍に捨てられた者の掃き溜め。……そんな風に自虐してはいるけれど、大切な大切な場所と仲間。

 彼らは相応の過去を背負った、言ってしまえば汚れという汚れを見てきた者達ばかり。少数だからこその繋がりというのを強く感じることのできる者達だった。

 

 さて、ではレティパーユを見る。

 グリードの要求に頭を悩ませている少女を。

 

「……身体が慣れるまでの間だ。造形師の嬢ちゃんが作ってるパーツもまだ完成してねぇしな。それまでの間、俺様が色々教えてやるよ。がっはっは、情緒は育つかもだが、情操教育にゃ悪いかもしれねぇ、が!?」

 

 咄嗟の硬化が間に合ったのは、相手がわざわざ足音を鳴らしてくれたからだ。

 暗殺者の如き速度で来られていたら、そのまま首が飛んでいたことだろう。飛んだところで作り直せば良い話なのだが。

 

「やめてください、スライサー兄弟。彼は私の弟です」

「知っているとも。私達も殺人鬼である以上揶揄はできんが、この子は今己を形成している途中なのだ。余計な真似はやめてもらおうか」

「オイオイ、それなりの保護者サマがついてるじゃねぇか。そこまで言うんならアンタがしてやれよ、こいつの相手」

「……心躍るような話は持ち合わせていない。人をどう殺すか、の話題であれば可能だが」

「他人の事言えた口じゃねぇなオイ」

 

 刀を引くスライサー兄弟。そう名付けられたキメラ。

 

「やめてください。私は彼の話を聞いてみたいと思っています」

「ム……」

「はっはっは! フラれちまったな兄者! いや、父親離れって感じかこりゃ!」

「がっはっは! 言われてんぞキメラ! ……あん?」

 

 笑い声が被る。

 グリードと──スライサー兄弟、その弟の豪快な笑い声が。

 

 三対一。折れたのはスライサー兄だった。

 

 

*

 

 

 なんだか賑やかになった第五研究所を後にする。アンファミーユにあとは任せたよって言っておいた。

 すっごく嫌そうな顔をしていた。うん、基本的にグリードガツガツ系だから、あんまり相性良くなさそうだよね。

 

 で、なんで後にしたかって、クセルクセスにいくから──ではなく、アームストロング中佐達を探すためだ。

 行方不明。刻限までは然程時間があるわけではないんだけど、まぁできる限りね。

 

 さて、本当に久しぶりのセントラルだ。

 僕はとても有名人なのでそれなりに騒がれるけど、声をかけてくる人はいない。アイドルとかじゃないからね。

 

「クラクトハイト」

 

 いた。

 ……しかも、えぇ。

 

「まさか──君の方から声をかけてくるとは微塵も思っていなかったよ。何用?」

「アームストロングとマース・ヒューズについてなら、情報がある。何も聞かずについてきてくれるか」

「……僕の思想に触れるつもりは毛頭ない、と受け取っていいんだよね? ()()()()()()()()()

「よしてくれ。俺は軍を抜けたんだ。今はただのマクドゥーガルだ」

「そうかい。それで、答えは?」

「勿論だ。アンタを裏切る真似はしない。その上で、ひと気のある所じゃ話せない内容でな。協力者もいる。……まぁアンタとは折り合いが悪いとは思うが」

「つまりマスタング大佐が来てるわけだ」

「本人は無理だが、子飼いがな」

 

 ははぁ。

 ま、マース・ヒューズが行方不明となれば、流石にそうなるか。

 

 ふむ。

 うん。

 

「いいよ。マスタング大佐がいないのなら、険悪な空気から抜け出せない、ってこともなくなるだろうし」

 

 それで、子飼いって誰?

 

 

 

「お久しぶりです、クラクトハイト少将。といっても、最後に会ったのはドラクマの」

「リザ・ホークアイさん、ああいや、中尉だね。成程、子飼いも子飼いだ。それほどマスタング大佐はこの件を気にしているらしい。けど珍しいな。彼が自ら君を危険な所に送り込むなんて。他にも来ている、と見ていいのかな?」

「はい。既にブレダ少尉とハボック少尉が周辺の警邏に当たっています」

「おお、隠さないんだ。偉いね。僕の扱い方を心得ている」

 

 まさかのホークアイ中尉。

 マスタング大佐、かなり切羽詰まってるね。原作と違って中央へ栄転していないから手を出しあぐねているんだろうけど、それで三人も送り込んでくるとは。それだけ信頼しているんだろうけど、些か危険意識が……って、そうか。まだホムンクルスとさえ接触していないような時期だから、そんな危険らしい危険が潜んでいるなんて思ってないのか。

 いるとして錬金術師だけど、渡りにつけたのがマクドゥーガル少佐……マクドゥーガルだったから信頼した、とか。そんな感じかな。

 

「それで、こんなアパートにまで連れ込んで、わざわざ人目を気にした理由は何?」

「軍上層部が絡んでる可能性が高い。アンタのとこにも回って来たんじゃないのか? 軍法会議所爆破事件のレポート」

「ああ、これでもかって程に隠蔽されてるアレね」

「そう、それだ。ちなみにアンタ基準、あの隠蔽は裏切りじゃないのか?」

「僕は一度たりとも軍上層部を味方だと思ったことはないよ」

 

 一人だけ、グラン准将くらいかな。味方だと思っているのは。

 あとは全部有象無象だと思ってる。あ、グラマン中将は除く。忘れてた。

 

「それでみんな私服なんだ」

「だから俺は……まぁいい。アンタはどうする?」

「僕だけは軍服のままの方が良いと思うよ。圧力になる」

 

 隣国三つを潰した、という偉業は今尚恐れられている。中央軍、というか軍上層部は、僕がお手軽に賢石錬成ができるのを知っているから。牙を向けたら、次は我が身、って。

 だから早々僕に手出しはしてこないはず。してきたらありがたいんだけどね。エンヴィーのお小言を気にせず潰せるわけだし。

 おっと、僕は味方殺しをしないことで有名な錬金術師だった。

 上っ面だけでも味方なら、消しておきたい、なんて考えないようにしないと。

 

「調べはどこまでついてるの?」

「聞き込みをした。近隣住民によると、轟音がした後に爆発音が三回鳴ったという証言が多くあってな。つまり」

「アームストロング中佐達を誘拐、ないしは殺害したことの隠蔽に軍法会議所を爆破した可能性が高い、と」

「アンタは話が早くて良いな。それで、アンタを抱き込んだ理由だが」

「それは話さなくていいよ。実は結構時間が無くてね。明日の正午にはセントラルを出なきゃなんだ。ぱっぱとやりたい」

 

 本当はもう少し時間があるけど、長話に付き合う余裕がないのは事実。

 ちなみにキンブリーは今査定やってる。

 

「とりあえず軍法会議所に行ってみようか。ああ、二人は来ないで。というか、僕がこの話の指揮を執っていいならやってほしいことがいくつかあるんだけど」

「俺は構わん。アンタは……やり方に思う所はあれど、アームストロング達を助けたいって部分だけは同じだと思ってるからな」

「私も構いません」

 

 さて。

 もう大方の予想はついちゃったんだけど、この予想が当たっている場合、二人は助けられないんだよね。

 外れててほしいなぁ、とは。……勿論思うよ。

 

 

 

 二人と、東方司令部の二人へも命令を出して、今軍法会議所なう。古いか。いや逆に新しすぎるのか?

 

 で、ええと。

 

「……これさぁ」

「アタリよ。……さて、どう償えばいいかしら」

「いや君に過失はないんじゃない? ちなみに暴走? それとも故意?」

「故意ね。予想外に抵抗が激しかったみたい」

「アレ故意に引き出せるものなんだ……」

 

 壁越しの会話。

 少将権限で人払いをしているからこそできることだ。

 

「あー。どうなの? 実際。取り出せるものなの?」

「無理でしょうね。出せた事例は今まで一つとしてないもの」

「だよね」

 

 予想は完璧に的中していた。

 だから、つまり。

 

「疑似・真理の扉……そんなん一般人相手に使う? フツー」

「あら、豪腕の錬金術師は一般人扱いなのかしら」

「まぁ僕らの隊の中では抜きん出て強いし万能だとは思っているけども。実行犯はグラトニーと君?」

「いいえ、エンヴィーよ」

 

 マース・ヒューズ。そしてアームストロング中佐は──疑似・真理の扉というゴミ捨て場に飲み込まれた、と。

 いや、いや、困ったね。

 助ける助けないの問題じゃない。もう死んでるでしょ、餓死で。

 

 遺体だけでも取り出せないものか……あー、作るのはアリかな。原作でマリア・ロス少尉にマスタング大佐がやったように、焼死体とか、圧死とかで身元不明にすればあるいは?

 とにかくやる気はなくなったかな。疑似・真理の扉がどれほどヤバいものかを知っているからこその諦め。アレ出てこれたのはエドが凄まじい天才で真理の扉見てたからで、且つ賢者の石があったからじゃん。

 一般軍人と一般錬金術師が脱出できるワケ。

 

「ちなみに今グラトニーとエンヴィーはどこに?」

「行方不明よ」

「え?」

「行方不明なのよ。どちらも音沙汰なし。どこかで捕まっているか、死んだか」

 

 うわー。

 グラトニーがいれば実験に実験を重ねて、とかも考えられたけど、まじかー、その二人も行方不明かー。

 確か疑似・真理の扉って現実世界と時間の流れとかフツーに一緒だったよね。

 いや無理だよ。絶対死んでる。

 

 ……いや、うん。

 僕が冒せるリスクが無いな。

 

「ラスト。グラトニーは、必要な駒?」

「私達ホムンクルスにそれを聞くのは酷ではなくて?」

「君が一番冷静だから聞いているんだよ。プライドはお父様にお熱で、ラースは決められたこと以外やる気がない。スロウスもそうだ。エンヴィーとグラトニーが失踪中で、グリードは離反中。他に誰に聞けって?」

「……計画には不要よ。けれど」

「君の心情は考慮しないよ。君達はお父様のために製造されたんだ。余計な兄弟愛は捨てた方が楽でいいと思うけど」

 

 最強の矛は──来ない。

 ただ、何か噛み締めるような音が聞こえた気がする。

 

「……ええ。もう一度言うけれど、不要よ」

「うん、ありがとう」

 

 それじゃ。

 いや、いや、まったくまったく。

 

 どんだけ人間らしいんだか、って話ね、コレ。

 

 

 

 夕刻、件のアパートに戻れば、もう全員が揃っていた。

 

「どうだったかな。聞き込みは」

「どういう読みをしてんのかは知らねえが、全部当たってたよ。丸っこいチビと細身のガキの二人組。人間にはあり得ねえ跳躍を見せてたって結構な数が騒いでた」

「あー」

「それと、その二人がどこに行ったかを聞きまわる三人組の情報も入手しました」

「三人組?」

「金髪金眼の兄弟と、黒髪の少女だそうで」

 

 ワオ。

 ……ワーオ。

 

「向かった方角は?」

「西へ」

 

 キツネザル……。

 

「アンタはどうだった。なんかわかったか」

「わかったけど、君達じゃどうしようもないことだった」

「それでもいい。アンタから見てどうしようもないことでも、どうにかしようとする意志がこっちにはあるんだ」

 

 そこまで言うのなら、仕方がない。

 そう言ってくれると信じていたよ、という言葉は隠して、真実の一端をプレゼントフォーユー。

 

「まず──ホムンクルス、という存在を知っているかな」

 

 ホムンクルスがいて。グラトニーというのがいて。それの能力がとんでもなくて。二人は恐らくそれに飲み込まれていて。餓死していなければ奇跡で。そこに入る方法と、出る方法。グラトニーの向かった方角と、彼が行方不明になっている恐らくの理由を──全部話した。

 錬金術師に疎い三人でさえ蒼白になる内容を、一息に話し終えて。

 

「最後に重要な事がある。二つ。一つは、僕が協力できない、ということ。用事があるからね。もう一つは、疑似・真理の扉に入ってから出てくるには通行料が必要であるということ。これはあまりにも丁度良くグラトニーのいるところに一つ存在するはず」

「……賢者の石、か」

「そう。所有者を説得できるかは君達次第だし、仮に出てくることができなくても、加えて二人が死んでいたとしても僕はもうこの件に関与しない」

「助けは無いと」

「それでも他人のために動けるというのなら──出る為に必要な錬成陣を今渡してあげる」

 

 果たして、マクドゥーガルは。

 

「ああ、それを貰うためにアンタを抱き込んだんだ。当然受け取るさ」

 

 なんて、不敵に笑うのだった。

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