竜頭の錬金術師 作:ONE DICE TWENTY
錬丹術。
アメストリスにはほとんど文献のないこの技術は、隣国シンで普及している技術である。
さて、前に「錬金術には三と四ばかりで五が全く見受けられない」という話を述べたように思うけれど、錬丹術はその逆で、ほとんどが五だ。メイ・チャンのそれも、
……なんて語ったけど、他のサンプルケースは賢者の石の錬成陣くらいなので、ほとんどが、なんて冠はつけられない。知ったかぶりである。
僕が今持っている錬丹術の知識はメイ・チャンが作中で言っていた奴と、前世における丹を煉る術……
ただまぁ、荒川弘先生が完全に一から作り出した技術、ってことではないのは前世の錬丹術との照らし合わせでわかる。なんなら錬丹術の方が錬成陣っぽいものがあったくらいだ。いや陣に手を当ててバチバチ、ってものではないけど。
そんな前世の知識における五。
たとえば風水術の中には五術っていうのがあって、「命、卜、相、医、山」の五つを指しているだとか、五臓六腑の概念だとか。まぁ命卜相医山は時として命卜相霊山だったり命卜相医仙だったりするので曖昧というか本場中国でもどれが正しいとか無いみたいだから微妙だけど、そういう考えがあったり。
地理風水の基本原則たる地理五訣は有名だよね。龍、穴、砂、水、向の五つ。
多分この地理五訣が遠隔錬成の元ネタなんじゃないかなぁとは思ってる。
大地の流れを汲み取り、その入り口と出口を理解することで起こす、ある種の自然現象。故意で起こす自然現象、みたいなものだ。ちなみに五芒星である理由は上記のそれに加え、五芒星に「穴」の意味があるからだと思う。
「物質の理解」、「物質の分解」、「物質の再構築」が基本の錬金術に対し、錬丹術は「流れの理解」からの「物質の修正、再生」という工程であると言える。この二つの違いの最たる部分は「流れ」……大地の流れ、龍脈、地脈。そう言ったものへの理解が錬金術側の「理解、分解」に組み込まれているという点だろう。
錬金術は自由度が高い。どこにでも、どこに対しても、何に対しても様々な効果を発揮させられる。代わりに起点は術者だ。それは変わらない……と言いたいところなんだけど、アニメの方の氷結の錬金術師さんが遠隔錬成モドキしてたよなぁ、とか思ったり思わなかったり。
あれはあくまでアニメオリジナルなのかなぁ、とか思うのと同時に、賢者の石の力だからか……とかいう妙な納得もあったりで。
と、その辺の「例外」を除いて、錬金術は天動説、錬丹術は地動説、みたいな考え方を僕はしている。
すべての中心は自身にあって、どこに作用するにも自分の意志こそが大切な錬金術と、流れに沿っていなければ作用させられない代わりに、流れに沿ってさえいれば別の場所にも起点を作ることのできる錬丹術。
これは絶対に覚えた方が良い技術だと思った。ここが鋼の錬金術師世界だと自覚してすぐのあたりから。
で、えーと、そう。
この「流れ」というのは厳しい修行を積まないとわからないらしいんだけど、というか今の僕もあんまりわかっていないんだけど、つまりは地脈だ。
前世にも龍穴の概念はあった。たとえば「荒々しい流れは荒々しい地形を作り、静穏な流れは静穏な地形をつくる」とか、「大地は安定を取ろうとする。突出した流れは埋没した流れに向かって動き、その埋め合わせをしようとする」とか。
風水術じゃなくても陰陽道なら尋龍点穴だとか、道教、修験道における気脈なんかもそうだ。まぁ修験道は陰陽道がベースにあるから似てるのは当然なんだけど。
とかく、水脈というものが存在し、理解された以上、似たものを大地に見出すのは酷く当然の話で、それについてちょっと知っていればある程度の理解はできるっていう話なんだけど。
その「流れを理解」した後、錬丹術は「詰まりを正す」というのを行っている。人体なら怪我、大地なら破壊、構造物なら破損。とにかく「自然のままでないもの」はどこかしら歪んでいる。ので、それを患部と見做して正常にする……って感じ。
それでー、えーっと。
錬金術で作られたものは当然「自然のままでないもの」なので、流れを詰まらせやすい……っぽい。先生もいなければ教本もないので完全独学の見習いの言葉だというのをわかってほしいんだけど、どうにも錬金術は壊しやすい。いや、錬金術じゃなくても、構造物は全部壊しやすい。
僕が対お母さん戦でやったのはそれ。「錬成物たる錬金術」に出口を作り、「自然物たる地面」の入り口を叩いて分解のエネルギーを送った。
本来の「流れに沿った錬丹術」というよりは、目の前に果てしないつまりがあるからこそできる、「ここからここ流れなかったら何が流れだよ」っていうぶっつけ本番作戦。上手く行って本当に良かった。
本場で修行なるものをすれば軽身とかも覚えられるのかもしれないけど、今の僕にはそんな時間はないので、とりあえずこの独学錬丹術を武器とすることにする。
独学錬丹術と、そしてこの引き抜く錬金術。
あとは「成型」の錬金術の思考速度を速めるための練習と、「成形」の錬金術用の思考速度の純化。
これらに関しては近道が無い。だから戦役が始まる前までに毎日毎日やるしかない。今日休みにさせられているけれど。
そんな風に研究日誌を書き連ねていた折、である。
コンコン、と。
窓が叩かれた。
そちらを見れば、リスが。
……暇? もしかして。
「よお。いつもみたいに外で遊ぼうぜ、レムノス」
「ごめん、今日はお休みの日で」
「ふぅん。ま、知ってたけど」
まぁ知ってるだろうね最後まで見てたし。
「アンタの母親、おっそろしい錬金術使うね。アレ本来なら石とか鉄でやるんだろ? 人間なんか一瞬でぺちゃんこだぁ」
「国家錬金術師は兵器、って言いたいの?」
「お」
ニタリ。
リスは、嗤う。
「なんだ、察しが良いじゃん。もうやめたのか、
「……気付かれてたんだ」
「親子揃って演技が下手過ぎんだよ。な、な。どこまでわかってんの? アンタにあげた石ももう理解したのか?」
「うん。理解したよ。……賢者の石でしょ、これ。でも回数制限付き。本物……があるかどうかは知らないけど、多分数十回増幅器として行使すれば力が尽きて、リバウンドが起こる。そういうものだよね」
国家錬金術師になると決断した以上、バンバン賢いアピールをしていく必要がある。
リスにどれほどの決定権があるのかは知らないけど……さて。
「へぇ、そこまで見抜くか。──そりゃちょっと
冷たい──冷たい声だった。
いつもの百倍見下した声。愚かしさを突き付けるような声色は、強く、強い後悔を引き起こさせる。
「ダメだろ、悪い癖だ。──アンタまた、動物は賢くないと思ってる。驕り癖だ。そういう思い上がった行為をしていたら──必ず天罰が下るものだよ、レムノス」
「……ごめん。そうだね、今僕は、君を欺こうとしていた。これ、悪い癖だ」
「ハ! なんだ、謝るのか。素直だな。……気が変わった。天罰は次にしてやるよ。もし次、また俺を欺こうとしたら、今度こそ悲劇が起きると思いな。天罰という名の悲劇がさ」
そうだ。
そうだった。
こいつは、決して……人間を同等だ、なんて思っていない。
気まぐれで人を殺せる力があって、なんなら僕ら家族全員に扉を開かせる隙が無いか狙っている監視者で。
会話ができるからって、決して気を許してはいけない存在で。
「これは忠告だよ、レムノス。どんぐりのお礼とでも思えばいい。──いいか? 今のところ、
「舐めるなよ、人間風情が、ってことでいい?」
「……僕の話聞いてた? そういうトコって……ああもう、いいよそれで。そういうことだよそういうこと」
じゃあもう、なりふり構わず大立ち回りをさせてもらおう。
そっちがそう来るなら、こっちだって。
*
国家錬金術師になりたいと、そう告げた。両親に。
沈黙は重い。
先に口を開いたのはお母さん。
「なんのために、でしょうか」
「家族のため」
「なんだ、お金の心配でもしているのか? まあ確かに母さんの研究は金食い虫だが、生活が困るって程じゃ」
「だから、家族のため、かな」
便利な言葉で告げる。
察したらしいお父さんと、目を細めているお母さん。聞かなかったことにする、なんて無理だ。
どうあっても、どうやっても気にしてしまう。
僕が気にさせてしまった。そして──。
「脅されていますね」
「……ううん。違うよ」
「あまりにも唐突過ぎる意思表明。誰ですか? 脅迫は立派な犯罪です。──潰してきますよ、国家の名のもとに」
それ私刑になるからダメ……だと思うけど、エドたちもよくやってたなぁ、とか。
今はそうじゃなくて。
「あのね、お母さん。僕はある研究がしたいんだ」
「研究……それで、誰の手伝いを?」
「賢者、って言ったら、信じる?」
賢者、だけなら、「そんな怪しい人叩き潰してきます」になっただろう。
けど、信じる? がつくと意味合いは一変する。
事実、お母さんは……いいや、お父さんも、目を見開いている。
「……お伽噺の妄想なら、良かったのですが。レミー……あなた、証拠を持っていますね? 私達を説得するに足る証拠を」
「うん。──これ」
言って見せるのは、当然あの赤い石の嵌まった指輪だ。リスに返しそびれたそれ。
「まさか……本物、なのか」
「これの研究がしたい、と」
お父さんはワナワナと震えるように、けれどお母さんは冷静に。そう問うてくる。
「レミー」
「うん」
「国家錬金術師になることを止めるようなことはしません。言ってしまえばただの国家資格です。私がそうであるように、戦闘技能に長けた錬金術師もいれば、技術の向上をメインにした術者も多くいます。レミーの錬成速度は戦場において耐え得るものではありませんが、後者を目指すのならば特に問題はないでしょう」
「僕が目指すのは、前者だよ」
再び降りる沈黙。
今僕は言ったんだ。「賢者の石を研究の題材にしたくて、戦闘する錬金術師になりたい」と。
それは即ち──賢者の石に必要なモノが、戦闘に関連するモノであるとバラしているも同義。
本末転倒かもしれないけれど。
守るために、巻き込むよ。
「では、無理ですね。レミーの錬成速度では何もできません。国家資格はそう簡単に取れるものではないのです」
「挑戦することもダメ?」
「ダ……いえ、少し考えさせてください。……あなた」
「あ、ああ」
挑戦するのもダメか、と問えば、お母さんは言葉を詰まらせる。
お父さんもそうだけど、二人は僕に「自由にすくすく育ってほしい」と思っている。と、思う。よくあるというか、親が子に抱く感情として当然のものだ。
だからこそ、この「国家資格は取ってはいけません」なんて頭ごなしの否定は、二人にとって禁忌に近い。
でも、止めたい。
お母さんは自らが国家錬金術師であり、明らかに僕が何者かの接触により変わった、と見ているからだし、お父さんは僕が戦火の気配をなぜか知っていて、その上で戦い、軍属となる国家錬金術師になりたいと言っているからだし。
今は育休中とはいえ、お父さんだって軍人。しかも一時期はペンドルトンでドンパチやっていたらしい。だから、戦闘という行いや命の取り合いについても良く知っているはず。
そして国家錬金術師という存在の三大制限──人を作るべからず、金を作るべからずからの、最後。
軍に忠誠を誓うべし、というのが、どういうことなのかも理解しているはずだ。
挑戦させるだけなら、なんて甘い考えは出せないと思う。どうせ落ちるから、で合格された時のリスクが大きすぎるし、二人から見たら僕はそこそこに天才の域にある、と、思う。思いたい。まだ錬金術を知って二週間と少しで、完全オリジナル錬金術(という名の錬丹術)を作り出したのだから、そう思うのも仕方がない。
話し合って。
話し合って。
話し合って。
二人が出した結論は。
「──いいでしょう。国家資格を受けに行くことを許可します。ただし」
「お母さんを倒してから、とか……言わないよね?」
「その通りですよ、レミー。国家錬金術師……大槌の錬金術師を完膚なきまでに負かすこと。それがあなたをセントラルへ送り出す条件です。もしできなかったら、もう一生アルドクラウドから出しません」
罰が重い、とは思わない。
ただ国家資格を取りに行くだけ、じゃないのだ。それをわかっているからこその話し合いで、決断。
現役の国家錬金術師を倒す。
「期限は?」
「ありません。レミー、あなたの全てが万全になってから挑んできてください」
「……っ」
「わかった。……大丈夫だよ、お父さん。僕、案外強いから」
「そういう意味で心配しているんじゃ……いや、いい」
さて、じゃあ。
明日から、錬丹術の勉強と並行して、攻撃的な錬金術も考えて行こうか。