竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第八十話 錬金術の悲願「前準備完了」

「お見舞いに来たよ、アームストロング中佐」

 

 言って、メロンを置く。スイカにしたかったんだけどね、南部に行ってたら色々面倒だから、セントラルの高級店で買っちゃった。贈答用だから良い物のはず。

 

「おお、ありがとうございます、クラクトハイト少将」

「一応私もいます」

「これは失礼しました、キンブリー大佐」

 

 僕らが来るまで。

 いや、僕が声をかけるまで窓の外をじっと見ていたアームストロング中佐。

 

 彼が今いるベッド。胸元あたりまでかけられた布団は、しかし下半身となる部分にふくらみが無い。

 食べた、そうだ。マース・ヒューズと共に、自らの両足を。腕は豪腕の錬金術師として、あるいは錬金術を使えないと困るから残したのだろうが、両足食べたらどっちみちな気はする。

 転生者としてはどこぞの赫足さんを思い出しちゃうけど、アームストロング中佐は蹴りメインじゃないからまたちょっと違う話か。

 

 とにかく、マクドゥーガルは成功した。

 しっかりグラトニーを暴走させ、疑似・真理の扉に入り、中にいた二人を救出し、正規の扉を通って出て来た。しっかり賢者の石を通行料に指定して。

 やはり彼もちゃんとした天才だ。果たしてその時真理を見たのかどうかはわからない。手合わせ錬成でもしてくれたら一発でわかるんだけどね。

 

「脚。機械鎧にするつもり?」

「……はい。我がアームストロング家は……技師こそ抱えておりませんが、伝手ならありますので」

「元気ないね。いつもの君って感じがしない」

「……申し訳ありません」

「少将、言いたいことがあるのなら早く言った方がよろしいかと。順番待ちをしている云タング大佐殿がとても言葉では言い表せない形相になりつつありますので」

「ああ、来てたんだ。いや来るか。マース・ヒューズは親友だもんね。それじゃ、二つ。用件を告げておくよ」

 

 二つ。

 一つは。

 

「リゼンブールに、ロックベル夫妻という医者夫婦がいる。加えてその母、ピナコ・ロックベル、娘、ウィンリィ・ロックベル。この二人が機械鎧技師だ。このロックベル家の面々が、現状、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言っておく」

「……珍しい。少将の口から信頼などと言う言葉が出てくるとは」

「キンブリー大佐、吾輩も……少しばかりの感動を覚えていますぞ」

「他人をからかえるくらいの元気はあるのか。まぁ良かったよ。で、用件の二つ目。僕は君の足を治せる。機械鎧ではなく、本物の脚として。けれどそれは非人道的行為を経る必要がある。──機械ではなく、本来の脚を取り戻したいと思うのなら」

「思いませぬ。元より、この足は命を救い繋ぐために失ったもの。……喪失感に苛まれることはあれど、取り戻したいと願うことは、あの時足を切り落とす判断をした吾輩への侮辱に他ならないと、そう考えます故」

 

 即答。

 ……本当に、頭が下がる。アームストロング家にさえ生まれなければ、軍人にはならなかったのかな。けれどアームストロング家だったからこそこの性格に。いや、生来か……どっちでもいいか。

 

「それじゃあ僕の用件は終わりだ。アームストロング中佐」

「……はい」

「僕は君を誇りに思うよ。君が僕の隊の一員であったことを、心の底から」

 

 返事を待たずに病室を出る。

 追従するキンブリー。彼もこれ以上話すつもりはないらしい。

 それと、病室の外で順番待ちをしていた二人──足が悪いとかではない様子だけど、経過観察として車椅子に乗っているマース・ヒューズと、その車椅子を押しているマスタング大佐に手を振って、廊下を歩いていく。

 マスタング大佐からは「待っ」まで言葉が聞こえかけていたけれど、聞こえなかったことにした。

 何度も言うけど、僕と君が話したって良いこと無いんだからやめとけばいいのにさ。

 

 病院を出る。

 

「ありがとうございました」

「わお、出待ち? 僕も有名になったなぁ。どっから覗いてたの?」

「普通にここからです。目が良いもので」

 

 マスタング大佐が言えなかったことを代わりに言うホークアイ中尉。

 リスクを考えて、疑似・真理の扉に入ったのはマクドゥーガルだけだった──つまり東方司令部の面々は置いていかれたらしかった。まぁ当然だよね。そんな二人三人と引き連れて行ったら賢者の石足りなくなるって。

 

「マクドゥーガルは?」

「『あの二人に礼を言われるのはむず痒い』と言って、どこかへ行ってしまわれました」

「気持ちは理解できるけど、一番の功労者が逃げてどうすんのさ……」

「……私達からもお礼を言いたかったのですが、口を開こうとしたときにはもう消えてしまっていて」

「褒められ慣れてないし、お礼言われ慣れてないんだろうなぁ」

 

 彼、どこか偽悪的だし。

 ……僕への伝言が無いことを見るに、会いに来いと言われているような気がする。はぁ、面倒な。まぁいいんだけど。

 

「キンブリー」

「ええ、構いませんよ」

「まだ何も言ってないんだけどね」

「一度解散しよう、でしょう。わざわざ合流させておいてよくもまぁそんなことが言えたものだとは思いますが、私も彼の姿を見てそれなりに思うところがありましたからね。今回は手打ちとしますよ」

「うん。ま、大体の仕事は片付けたし、あとはSAGの残党狩りかなー。進捗はどうなの?」

「総数がわかりませんから何とも言えませんが、もうそろ終わりかとは思っていますよ」

「そっか。じゃ頑張って」

「……ええ、アナタも。それでは」

 

 置いてけぼりになっているホークアイ中尉に手を振って、わざとらしく凍らせてある地中の錬成物を辿って人混みに入っていく。ヘンゼルとグレーテルの気分だ。しかし錬成物探査なんてひっさしぶりにやるなぁ。

 アレは確か、ラストとのデート以来だっけ。

 

 

 

 結構な距離を歩いての、路地裏。

 そこにマクドゥーガルはいた。

 

「や」

「……ああ」

「なんか元気ないね。偉業を成し遂げたってのにさ」

「……あのレベルの化け物が、あと六体はいるんだろう? アームストロング達を連れ出した後、暴走状態を抑え込むために大槌やあの金髪兄弟と協力してギリギリなんとかできたが……先が思いやられる、と思ってな」

「ああ、グラトニーまた捕まえたんだ。凍らせたとかそんな感じ?」

「お前の父親と協力して、外側も内側も完全に凍結させた。脳髄まで凍っているはずだ」

 

 お父さんとお母さん。

 グラトニーとエンヴィーが逃げ込んだ森はアルドクラウドの森であり、そこにエルリック兄弟とメイ・チャンがいて、まぁなんやかんやあったのだとか。

 グラトニーは僕の匂いがついているお父さんとお母さんに手出しできなかっただろうし、エンヴィーも様子見気味だったのだろう。お母さんの大槌は質量でぶん殴るソレだけど、エンヴィーが最初から本気だったら勝ててなかったと思う。彼の腕を伸ばして攻撃する奴、速度だけで言えばかなり速いからね。

 

 その後からエンヴィーが行方不明で、グラトニーは凍り付いている、と。

 

「ちなみに、残りの六体の内一体は僕が完封してるから、君達が戦う可能性があるのは五体だと考えていいよ」

「……クラクトハイト」

「"お前はホムンクルスと繋がっているのか"、かい?」

「ああ。流石に今回の事は知り過ぎだっただろう。グラトニーの特性から、性格や能力まで……。クラクトハイト、お前は」

「そうだな、敢えて曖昧な言葉を使うけれど──僕は憤怒(ラース)と呼ばれたことがあるよ」

「──ッ!?」

 

 呼ばれただけだけど。

 後退する、でもなく、ただ引き攣った顔を見せるマクドゥーガル。

 

「お前は、人間だろう?」

「さて、どうだろうね。君から見て僕は人間かな」

「……少なくともアームストロングを善意で助けるくらいには、人間だ」

「善意? 打算だとは思わないの?」

「打算だとして、お前に何のメリットがあった。あの錬成陣……人体を人体に錬成する錬成陣など、秘中の秘も良い所だ。アームストロングを助けることに打算が絡むとして、俺にそんなものを預けるくらいなら自分で行った方が良い。リスクとリターンを天秤にかけたとしても、今回の件はお前が提供した情報が多すぎた。明らかにお前が損をしている。──それが善意でなくて、なんだ」

 

 打算か、善意か。 

 そうだね。

 別に、死んでいても良かった。アームストロング中佐は絶対に扉を開けないだろうし、一般軍人のマース・ヒューズなんかもっての外だ。

 それを助けさせたのは……善意、か。そうか、そんなものが僕に、まだ。

 

「じゃあそういうことでいいよ。善意があるから人間ってことで」

「わざわざ疑われようとするあたり、本当に人間だな。フッ、演技下手は相変わらずなようで安心したぞ」

「え、僕が演技下手ってことなんで知ってるの君。見せたことあったっけ」

「キンブリーから聞いた」

 

 ……爆破しかできない爆弾馬鹿のクセに、陰口とは良い度胸だなあの触覚。

 

「まぁ、好きに考えてよ。僕が君達の味方か敵かは、僕が人間であることと相関しないからね」

「……その件について、聞きたいことがある」

「答えるかどうかは別だけど、聞くだけなら聞いていいよ」

 

 それで、何が聞きたいのか。

 

「大総統が周辺諸国に降伏勧告を出したのは知っているな? 正確には、『こちらには戦争の用意がある』と堂々と宣言したことは」

「ああ、知ってるけど通達はされてないんだよね。普通にハブられてる」

「そうか。……大総統のこの宣言を受けて、シンは降伏宣言を出した。だが、幾つかの国は反発の意思を見せているらしい」

「へぇ」

 

 存外。

 かなり低い声が出た。

 

 ……ま、危険因子なだけあって、シンは賢かったってことだね。

 

「クラクトハイト。お前はまだ、国防をする、という気概はあるんだよな?」

「当然だね。というか、その意思を見せているっていう国を教えて欲しいくらいだ。明日にでもアメストリスを出て潰してくるからさ」

「それは国防ではなく侵略だ」

「君は銃口を向けてくる相手に対し、盾を構えるだけで良しとするタイプだったの?」

 

 マルコーさんに「外国を賢者の石にするつもりはない」と言った手前アレだけど。

 それは「約束の日」でやる錬金術でやるつもりがないだけで、まだ「約束の日」まで時間のある今は関係のない話。

 

 大総統が何でこのタイミングでの宣戦布告を出したのかは知らないけど、降伏の意思を見せないというのなら僕が直々に潰しに……。

 

 ……。

 

「もしかして、僕を遠ざけるため、だったりするのか、これ」

「どういうことだ」

「いや、今ね、僕ホムンクルスの一人から締め出し食らってるんだよ。嫌われててさ。僕が煽りまくったのが悪いんだけど。……それで、全国に宣戦布告して、頭下げない所があったら僕が自ら行くってわかってるから、体よくお払い箱にできる……」

「おい、秘密主義者。お前もしかして俺達からもホムンクルスからも信用されていないのか?」

「信用されていないっていうか、地雷踏み抜いたせいで蛇蝎の如く嫌われているっていうか」

「……別に同情するつもりはないがな。味方は一人でも多くいた方がいいぞ。キンブリーでさえも、ありゃ味方じゃないだろ」

「ビジネスパートナーだね」

 

 敵ばかりだ。どうせレティパーユやスライサー兄弟にも反抗されるのは目に見えているし、アンファミーユは……まぁ、ギリギリどっちになるかわからない感じ。エルリック兄弟は絶対敵対でメイ・チャンも多分無理。ヤオ家は自分で返した。

 理解者となり得そうなお父様も多分僕を利用する気満々と。

 

 おや。

 本格的に僕、味方いなくない? ぼっちじゃない?

 

「まぁ、味方は要らないんだよ。いると邪魔になるし、守らなきゃいけないし」

「守ってもらうって考えはないのか」

「ないね。それに、僕ってばちゃんと悲しむタイプだから、味方や仲間を作って死なれると悲しいんだよ。悲しいのは嫌だろ? だから味方はいなくていいのさ」

「悲しめることを自慢してくる怪物、というようにしか聞こえんが」

「そういったのさ」

 

 それに。

 味方は、要らないんだ。

 最後に独りになることは決まっているから。

 

「それじゃあね、マクドゥーガル。周辺諸国の話ありがとう。実際に行くかどうかは別として、情報自体は助かった。……軍を抜けた君が、何を以て義を為すか。見届けるには多忙すぎて無理だけど、良い報せを期待しているよ」

 

 ……味方、かぁ。

 味方ねぇ。いや上っ面だけで言ったら今のところアメストリス国民は大体味方なんだけどね?

 

 

 *

 

 

 とりあえず聞いてみることにした。

 

 何故かまだいるグリードはおいといて、アンファミーユに。

 

「はぁ、味方ですか。私は常そうあろうと思ってますよ。所長側がどうかは知りませんが」

「ふぅん。レティパーユは?」

「私は所長の所有物です。味方でも敵でもありません」

「私もそうだな。この刀、既にお前に捧げている。味方でも敵でもない」

「俺様は言うまでもねえよなぁ?」

 

 ううん。

 アンファミーユにしか聞いてないのに、なんで乗っかってくるかな。

 というかこの質問、味方って答えるに決まってるよね。敵だ、って言った瞬間バトルになるわけだし。グリード以外。

 

「なんでまだいるの、グリード」

「なんでってお前、いちゃ悪ィのかよ。命令があるまで自由なんだろ?」

「そうだけど、デビルズネストは?」

「あいつらに俺が生きてること知らせて、けどお前の下にいる、なんて知られてみろ。あいつら俺様の事崇拝してるからな、お前を殺しに行くのが目に見えてる。んで返り討ちにあう所までだ」

「成程、仲間を殺したくないから、か」

 

 グリードさんが誰かの下につくとかあり得ないですよ! みたいな話に発展するのは確かに目に見えている。

 

 だとしても第五研究所にいる意味はないと思うんだけど。

 

「もう少し男前にしろとか、腕の長さが足りないとか、注文が多いんです」

「それと、隙あらばレティパーユに情操教育的に良くない話をしようとしてくるのでな。時折私と戦闘にまで至る」

「私が聞きたいと言っているのに、スライサー兄弟が邪魔するんです」

 

 仲いいねぇホントに。

 レティパーユの用途とか知ったらグリード激昂してきそうだなぁ。

 

 ……うわ、なんか大所帯だと居心地悪いな。

 昔の研究者だらけの時はみんな自分の研究に忙しかったから雑談とか和気藹々とかなかったけど、こうも賑やかだと疎外感を覚える。

 

 うーん。

 掌で転がされている感は否めないけれど……行ってくるかぁ、侵略。あ、いや、国防。

 一個派手に潰せば手のひら返す国も多くなるでしょ。

 

「アンファミーユ」

「はい」

「僕はまた小旅行に行ってくるからさ。適当にやっててくれる?」

「……わかりました」

「え、何、不満?」

「いえ。……いえ。なんでもないです」

 

 絶対不満じゃん。

 なに?

 

「がっはっは、乙女心ってもんがわかってねぇなぁお前。聞けば結婚したてらしいじゃねえか。それが一か月も二か月も家を空ける夫とかよ、嫁は寂しいモンだろうよ。なぁ?」

「確かにアンファミーユは地方の風俗店などでストレスの発散を」

「お、オウ。がっつり言っちまうのな、そういうこと」

「だから情操教育が大事なのだ。レティパーユはまだデリカシーの部分に関して欠けがある」

「……所長。忘れてください」

 

 あー。

 うーん。

 

 でも僕とアンファミーユの間に愛とか無いからなぁ。ハニトラ防止用の結婚なワケだし。

 いいんじゃない? 風俗店で済むんなら、それでさ。

 

「ま、その辺も適当にやっといてよ。言われた通り忘れるからさ。それじゃあね、アンファミーユ。不在の間は任せたよ」

 

 そそくさと。

 逃げるように、第五研究所を出る。

 

 さーて中央司令部へ行って情報収集して、国防に精を出すぞー。

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