竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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この次の話から最終章です。


第八十一話 行進曲の物語「和気藹々」

 七つ程の国を制圧したあたりで、ようやく周辺国の全てが降伏宣言を出した。

 一夜にして消える国民。不気味な赤い光。そしてそれらは防ぎようがなく、研究も出来ない。むしろ時間のかかった方ではある。もう少し早めに降伏してほしかったものだ。おかげで余計な時間を食ってしまった。

 

 やりたいことは結構あったのにさ。

 使わされたよ、一年も。ま、七国で一年だ。効率化はできている方だとは思うけどね。

 

 二か月置きくらいでアメストリスに帰ってはいるけれど、特に情報収集もしていないから、今国がどうなっているのかとか全く知らない。エド達やメイ・チャンの動向、グリードは結局どうしたのかとか、あとホーエンハイムの行方とか。

 この一年で助かったのはお父様がしびれを切らしてくれたことだ。

 つまり、プライドの嫌がらせ妨害を跳ね除けて、僕と接触してくれた。流石はお父様というべきか、量産型リビンゴイドの生産は順調らしい。コツも覚えたとかなんとか。やっぱり天才は違うね。

 

「……まぁ」

 

 ゴーストタウンになった国を眺める。

 これは独り言だけどさ。

 

 もう1914年なんだ。これから、全てが動く。全てが始まる。

 その先に至るものが苦痛であるかどうかは君達次第だけど。

 

 やぁやぁ、いい傾向だ。

 まぁまぁ、望んだ未来だ。

 

 僕の理想とお父様の思想は少しだけ違う。やることは変わらないけど、最後の最後が少しだけ違う。 

 

 さて。

 

 

 

 1914年5月7日。

 僕は今──練兵場にいた。キング・ブラッドレイと対峙する形で。

 

「一応、理由は聞いておこうか。さっきからずっと『上官命令だ』としか聞かされていないからね」

「はっはっは、なに、今観客にいる者達が君の実力を疑っているのだよ。故に、ここで見せつけておくべきであると判断したまでだ」

「実力を? おいおい、イシュヴァールを含めないでも10個の国を滅ぼしている僕の何を疑うっていうんだ。それとも剣術の腕のことを言っているのかい? それなら確かに弱いけどさ」

「逆だ、逆。──恐ろしいのだろう。その矛先が、自分たちに向かぬかどうか」

「ああ」

 

 道理で、一般の客がいないわけだ。

 いるのは軍関係者ばかり。それも上層部ばかり。

 

「それで、どうかね憤怒(ラース)。私と一手死合うてはくれないかね?」

「はは、冗談キツいねぇ憤怒(ラース)。本気でやれっていうの? ──観客の命は保障しないよ」

「構わんだろう。それすらもわからないで見に来ている者など、居なくなってもらって一向に構わん」

 

 つまりは、これから派手に動き出す僕に対して余計なことをしないようにさせるためのアピールの場でもあるわけだ。

 僕が単体でどれだけ戦えるか。拠点防衛型の錬金術師ではなく──敵地に単身突っ込んで。あるいは差し向けられた刺客に囲まれて、どれほど生き続けられるかのテスト。

 

 そのテスト相手がキング・ブラッドレイっていうのは何の冗談だって話だけど。

 

「ハンデが欲しいな」

「十の国を滅ぼした錬金術師に、かね?」

「その気になれば一日でアメストリス国民の全てを殺害できるだろう大総統に、だよ」

 

 合図はなかった。

 

 反応も出来ていない。首を狙う一撃に対し、完全物質がその衝撃を食い殺しただけだ。

 

「……ッ!」

「君のような急造品でも、父親を取られたコンプレックスはあるんだね」

「無論だ。わからんだろうな、お前には。言外に不要だと言われる子供の気持ちが」

「親に必要だと思ってもらいたいと思ったことは無いよ」

 

 軍服の内側を通して、賢者の石を纏う。賢石纏成。長期戦はできないから、大総統の剣を弾き飛ばして終わりか、僕がいい感じに善戦して負けて終わりにしたいところだ。

 

 あるいは、この場にいる高官の全てを殺すか。

 

「それが切り札かね?」

「どれほど良い眼を持っていても、そんな鈍らじゃ傷一つ付けられない鎧だよ」

「つまり」

 

 思いっきり蹴り上げる。

 何を蹴り上げたのかはわかっていない。だけど、唯一露出している口元部分に突きが来るだろうことはわかっていたから、思い切り足を上げたってそれだけだ。

 僕自身は決して強くない。錬金術師相手にはそこそこ立ち回れる自信があるし、一般人相手なら無双もいいところだけど、こういう純粋な武人に対してはめっぽう弱い。

 

 だけど、だからこそできることがある。

 だって僕は一年間戦い続けたんだ。純粋な武人集団と。

 その勘は、今も僕の中に根付いている。

 

 袖から賢者の石を出して、鉤爪のような形に形成する。

 広がる動揺。うるさいな、今格上も格上と戦ってるんだから静かにしててよ。

 

 斬りかかる、も、遅い。果てしなく遅い。

 だから尾を用いて自身を引っ張り、僕を飛び越して空中にいるキング・ブラッドレイの落下点に合わせる。

 

「む」

「オ、ォ!」

 

 叩きつけられる剣。

 おいおい、なんでこんな重いんだよ。老人の体重じゃないぞ。空中でくり出す剣技があることは知っているけれど、体重を重くするとかそれもう魔法の領域だろ。

 

 足で円を描く。

 

 なんとか大総統を弾き飛ばして、鉤爪で線と記号を書き込む。

 

 直後噴出する霧。姿を隠すのと、空気中に水分を作り出すための錬金術……は、剣の一振りで薙ぎ払われた。ねぇそれ軍刀だよね。風圧なんか起こせてもそこまでいかないよね。

 

 ああ、予定変更だ。

 

 全身に滲みださせる賢石。

 完全体の賢石纏成。ドラゴニュートを思わせるその形に、今度こそ観客の全員がどよめく。何か叫んでいるものもいる。

 練兵場の大きさを計算し、賢者の石を用いて錬成を増幅。 

 跳水錬成を行い──ワームの口と呼ばれるもので練兵場を囲む。

 

 そして、観客席の一部に尾を突き刺した。

 

「──うるさいよ。騒ぐのなら、君達に隣国と同じ道を辿らせる。君達が用意した場だ。黙って見ていてよ。僕は一度たりとも君達を味方だと思ったことはないよ」

 

 底冷えする声で。

 これは演技とかではないから、ちゃんと伝わってくれているはずだ。そうでないのなら、そいつが死ぬだけ。

 

「ふっふっふ、良いのかね、そんな啖呵を切って。あとで立場が悪くなるぞ?」

「もう関係ないからね。君がどこまで聞いているかはしらないけど、もうどうでもよくなることなんだよ、階級とかさ」

「成程、父が何やら楽しそうに練っていた計画はそういったことに関係しているのか」

「そういう、こと!」

 

 観客席から地中に潜らせた尾を大総統の真下から突き出す。

 けれど、読まれていた。躱され、一気に肉迫される。

 

 そして剣で、ではなく柄で──物凄い力で吹き飛ばされた。

 

 ……こっち、完全物質なんだけどね。

 

「問おうか、キング・ブラッドレイ!」

「何かね、レムノス・クラクトハイト」

「君は君達の父に、僕に! 楯突く勇気があるのかな──レールの上を行くだけでない、新たな道を歩まんとする、その一歩を踏み出す勇気が!」

 

 連撃。連撃。猛連撃。

 観客席の一部を蹴っ飛ばしてぶっ壊して、両の爪で大総統を攻撃する。

 その全てを軍刀でいなしているあたり、やはり最強の眼だ。軍刀が壊れないように応力の調整までしていると来た。恐ろしすぎるよ、ほんと。

 

「ない」

「だろうね、君にとっては、従った方が得なのだから──」

「だが、貴様を討ち果たさんとする意思はある」

 

 爪と軍刀が正面からぶつかる。

 そうなれば当然軍刀が負ける。材質差だ。

 

「レムノス・クラクトハイト──父をも利用せんとする諸悪の根源に、私が立ち向かわないはずがないだろう?」

「それは、良い考えだね!」

 

 尾だった。

 先程地中から突き出した尾。それは戦闘中、さらにさらに上へ上へと昇っていて、そこから糸状の賢石を垂らしていた。

 

「む、ぅ……!?」

「要らない高官しかいないんでしょ? わかってるよ」

 

 引っ張り上げる。釣り上げる。

 さしもの大総統もこれには抗えない。抗えないまま高く高くへ行って。

 

「まさか国内で使うとは思っていなかったけど、僕を疑い、利用しようとした自分を恨むことだね。──さようなら、名も知らぬ誰か達」

 

 賢石錬成。

 

 

*

 

 

 どこまでも続く草原。

 そこで、一人の大男が──筋トレをしていた。

 否、両足が機械鎧であるから、筋トレではなくリハビリなのかもしれないが、とにかくここの家主のコレクションの一つだという鎧を持って、スクワットをしていた。

 

 眺めるのは彼の機械鎧を調整した技師の一人。

 

「……常人なら二年、両足ともなれば三年はかかるんだがねぇ。まさか一年足らずでここまで仕上げるとは、感嘆の息も出やしないよ」

「吾輩は、一秒でも早く復帰する必要がありますので!」

「ばっちゃ、ただいまーっと……中佐。何やってんのソレ」

「おお、エドワード・エルリック! 見ての通りトレーニングだ。両足の機械鎧に負荷をかけないように腰回りの筋肉を集中させて」

「ちょっとエド、走らないでって……あ、おはようございます」

「うむ、今日も精が出ますな、ウィンリィ・ロックベル殿」

 

 リゼンブール。

 ピナコ・ロックベルの前でスクワットをし続けるアレックス・ルイ・アームストロングは、なんというかこう、暑苦しかった。それでいて爽やかだった。

 セントラルの練兵場で起きていることなんかまったく知らない彼らは、今を生きていた。

 

 そこへ。

 

「ただいま」

「ん、おかえ……り……」

「あん? ……アンタ」

 

 金髪金眼の、初老の男性が帰ってくる。

 あまりにも当たり前に帰って来たから反応の遅れたエドとピナコ。

 

 男性の後ろから、ぴょこっとアルが顔を出して、「兄さん兄さん! 父さんが帰って来たよ!」なんて無邪気に言うまでフリーズしていた。

 動いているのはアームストロング中佐だけという空間で──ようやく声を発したのは。

 

「……あなた?」

「ああ、トリシャ。……ごめんなぁ、ずっと家を空けたりして。ただいま、って言っても、許されるのかな」

 

 洗濯籠を取り落として、口元に手をやるトリシャ・エルリック。

 彼女に、男性は、ヴァン・ホーエンハイムは、苦笑いと共に後頭部を掻いて謝って。

 

「許されるワケねーだろッ!!!」

 

 エドの飛び膝蹴りにぶっ飛ばされるのであった。

 

 

 

 

 相も変わらず不機嫌なエドワードと、にっこにこのアルフォンス。これまた穏やかな笑みのロックベル夫妻に、あきれ顔のピナコ。居住まいの正しいアレックス。色々とどうしたらいいかわからないでいるウィンリィ。

 

 今日の夕飯は大所帯だった。

 

「あら? 食べていていいって言ったのに……」

 

 そこへトリシャが料理をもう一品持ってきて、ようやく彼女も席に着く。

 皆の近くでロックベル家の愛犬であるデンもたおやかな様で脱力し。

 

「改めて……何も言わずにいなくなってすまなかった。特にエドワード、アルフォンス。お前達には寂しい思いをさせただろう……」

「してねーよ!」

「うん、寂しかった。ご飯の後、全部聞かせてくれるんだよね?」

「ああ。そうしないといけない理由ができたから、帰って来たんだ」

 

 そうしないといけない理由。

 少しばかり不穏になる空気──は。

 

「まぁまぁ、とりあえずいただきましょう! トリシャさん、私達までお世話になってしまって、本当にありがとうございます」

「いえいえ、こんな記念日に私達だけじゃ寂しいですから。ほら、あなた。ユーリさんの言う通り。冷めてしまうから、食べて。ね? エドとアルも、よ。ウィンリィちゃんも」

「なんだいトリシャ、あたしには言わないのかい?」

「ちょっとお母さん、そんな意地悪なこと」

「ハン、冗談だよ冗談。ほらホーエンハイム。そんでエドも。辛気臭い顔はやめな! 食事の時くらい楽しい顔をみせとくれよ。アンタ、最近根詰めて研究だのなんだのしてて、ずっと顔が暗いだろ? なぁ、アームストロングさん」

「うむ。最近のエドワード・エルリックは顔が暗い。吾輩も世話になっている身ですから、何とかしたいとは思っていましたが、またとないこの機会。是非笑顔を取り戻してほしい所ですな」

「……るっせ」

「じゃあ、いただきます。兄さん、兄さんの好物、思いつく限り全部ボクが食べちゃうね」

「ちょ、待てよアル! わかった、わかったよ! ……クソ、またクソ親父と食卓を囲む日が来る……のは、予想してたが、心の準備ってモンがあんだろ……」

「アルフォンス。エドワードの好物は、これとこれだな?」

「あとこれも好きですよ、エドは」

「肉関連は大体好んでいるイメージがありますなぁ」

「だぁーっ! 食うっつってんだろ! なんでお前らはオレを虐める時だけ一致団結すんだよ!」

 

 笑う。

 綻ぶように笑う、トリシャ。そんな彼女を見て、ロックベル夫妻も、ピナコも、また優しい笑みを浮かべた。

 

「……トリシャ」

「なあに、あなた。エドワードがせっかく食べる気になったっていうのに、また雰囲気を重くするつもり?」

「い、いや、そういうつもりはないよ。──君の料理をまた食べられると思っていなかったから、なんだか泣けてきて痛ッ!?」

「それが雰囲気重くするっつってんだよ。いいから黙って食いな、ホーエンハイム」

「……ああ」

 

 ロックベル家とエルリック家。

 この日、ようやくこの日。両家に本物の笑顔が戻ったのだった。

 

 なお、アレックスはそれなりの期間ロックベル家に滞在しているので疎外感は全く覚えないものとする。

 

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