竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第八十四話 錬金術の分析「思念エネルギースペクトル」

 まずね、と。切り出す。

 

「アンファミーユ。僕と君の結婚は建前上のものだ。ゆえに夫婦らしいことをする必要は全くない。それは理解しているよね」

「……はい」

「だから、性交をするとか、子を成すとか、そういうことをする必要も意味もない。ゆえにこの部分に不満を抱かれてもただ面倒なだけだ」

「……わかってます」

「そして」

 

 ここまでは、再確認。

 ここからは彼女たちの知らない情報。

 

()()()()()()()。この作戦において死ぬのは僕だけだ。ああ、ホムンクルスも、かもだけど」

「……え」

「だから意味が無いんだよ。幸せ家族を見せたって、何の意味もない。終わりはすぐそこで、君達はもうすぐ自由を得る」

 

 話す気はなかった。

 アンファミーユは依存心の強いタイプだけど、依存先がいなくなるのならすぐに他に乗り換えることのできる性格だ。僕がいなくなると知ったら、僕への熱が消える。それだと色々……遠回りが必要になる。だから言いたくなかった。

 でも確かに、言わないと始まらない。

 

「……」

「死ぬ、という表現は嫌いか。会えなくなる、と言った方が良いかな。僕と君達は永遠の別れを経験する。だから」

「そんな言葉遊びはどうでもいいです。……何を言っているのか理解できません。何故あなたが死ぬのですか? いなくなる? どうして? 貴方達が何をやっているのかを理解できるとは思っていませんが──それは、あなたの犠牲が無ければ成し得ないことなんですか?」

 

 犠牲。犠牲と来たか。

 別に僕は犠牲だとは思っていないんだけどね。

 

 やっぱり死という言葉を使ったのがマズかったな。一番わかりやすい言葉を選んだだけなんだけど。永遠の別れをわかりやすくしたら死だろう。もう絶対に会えなくなるんだから。

 

「それは、セティスさん達には」

「知らせてないよ。知らせたら止められる。ただ妨害されるだけならいいけど、最悪地下室に監禁とかだってあり得る。だから言ってない」

「でも、私は今聞きました。これから言いに行くことだって」

「いいよ、それくらいは。でもそれをやったら、僕はもう君を第五研究所に入れない。機密情報を漏洩するような研究員を野放しにしておくほど僕は甘くない」

「っ……」

 

 だから。

 だから、言う。

 

「ごめんね」

「……!」

「幻想を抱かせたかな。少しでも夫らしい行動をするってさ。君の心の穴を埋めるようなことをするように見せてしまったかもしれない。両親に君を紹介したのも、君と結婚すると決めたのも、その後一切手を出さなかったのも全部打算だよ。計画の内。──君を想っての行動なんか一つもない」

「それくらいは、わかっていました。私が今問うているのはそこじゃなくて」

「なに、僕との永遠の別れが嫌なの? 僕は君の兄を殺した張本人で、アメストリスを引っ掻き回すホムンクルスと繋がっていて、隣国のみならず周辺諸国を滅ぼして回っている極悪人なんだけど」

 

 アンファミーユ・マンテイク。

 思えば長い付き合いになったものだ。あの募集に応募してきた一介の研究者が、今僕に怒りを向けている。

 人生何があるかわからないものだねぇ。

 

「嫌に決まっています。──あなたは、恩人で、私の夫なんです。離別を嫌がらない妻がどこにいますか」

「でも仮初だよ」

「仮初でも籍は入れました」

「僕から君への愛情なんか、欠片もないよ」

「私だってそうです。別に所長を愛しているとかありません」

「じゃあ何にそんなに怒っているのさ。愛してないならいいじゃないか」

 

 愛はない。わかっていたことだ。

 欠片もない。理解していたことだろう。何を今更怒ることがある。

 

「先ほどの言葉。"()()()()()()()()()()()()()()()()"というニュアンスを感じ取りました。アンファミーユが怒っているのはその部分では?」

「……へぇ、レティパーユ。君、僕に意見できるようになったんだ。命令遵守はやめたの?」

「今のは面倒な言い争いをしている夫婦へ向けたもので、所長への意見ではありません」

 

 言うじゃないか。

 本当に順調に情緒が育っている。これなら十分だろう。

 

 で、なんだって?

 

「君達は死なないから安心してほしい。うん、確かにそう言ったね。安心してほしいを省いたのは、伝わると思っていたからだけど、それが何か逆鱗を撫でたかな」

「私達は、家族どころか──第五研究所の一員にすらなれていなかったんですか」

 

 目を細める。

 そして、笑って。

 

 頷いた。

 

「……!」

「第五研究所の所長は僕で、それ以外は実験体と客人だけだ。レティパーユ。今この時点を以て君も実験体から客人に呼称を変える。もう僕の命令を聞く必要はないよ」

「拒否します。レティパーユは所長の手により作られた生体人形(リビンゴイド)。自由は取り戻すものでも得るものでもなく、貴方の支配下にあることこそが自由であると判断します」

「そうかい。好きにすると良い」

「御意」

 

 良い。拒否するのも情緒の育った証だ。

 グリードやスライサー兄弟との交わりは、彼女に良い影響を与えてくれたらしい。

 

「さて、アンファミーユ。そんなにショックだったかい。自分が僕の部下ではないということが」

「……じゃあ、私は、何」

「アンファミーユ・マンテイク。僕に利用されるだけ利用されて、もうすぐ捨てられる哀れな女の子じゃないかな」

「……偽悪的な言葉は聞き飽きました。所長。レムノス・クラクトハイトさん。貴方の本心が聞きたいです。無理に悪ぶっても痛々しいだけです。なんですか、私を遠ざける理由は。私を傷つけようとするその言葉の意図を教えてください」

 

 ……まーた演技下手って言われてるよねこれ。

 どうしよう、「約束の日」までに演技指導とかに通った方が良いのかな。演技指導なんかこの時代コンテンツとしてあるのかな。

 

「君が大切だからだよ」

「嘘はいいです」

「ホントだよ。僕にとっては全く大切じゃないけど、お父さんとお母さんにとっては息子のお嫁さんだ。君はただそれだけで大切なんだよ」

「……あくまで両親のため、と」

「もう一つ理由がある。とってもどうでもいい理由が。聞きたい?」

「当然です」

 

 ふむ。

 それじゃあ言おうか。

 

「君はね、餌なんだ。カリステムの本体を引き寄せるための」

 

 あっさりと。

 本当の本当の、本音の本音を言う。嘘偽りない、演技の欠片もない──アンファミーユを傍に置き続けた本気の理由。

 

「カリステム事件だっけ。オズワルドの奴。アレまだ解決してないよ。エルリック兄弟に接触していた方のカリステム。キメラ・ネットワークはまだ生きている。金歯医者もオズワルドも試験体でしかなく、カリステムは未だ虎視眈々と機会を狙っている。君はそんなカリステムをおびき寄せるための餌だ。だった、かな」

 

 エルリック兄弟とヴァン・ホーエンハイム以外の不安要素。

 それがカリステムだった。それさえクリアできればあとは心配ないってくらい。だから僕は外国に行ってまでカリステムを探し続けた。滅ぼすのはついででね。

 

 でも、いない。

 いるはずだ。いないはずがない。

 僕が第五研究所を開ければ接触してくるかと思ったんだけど、来たのは小物の端末だけ。

 

 絶対来るはずだ。

 カリステムは、そして──天使だのなんだのを目指した彼と、隠者の石の存在を知っている彼女は。

 僕はあれらが死んだとは全く信じていない。

 

「もう一度、今度は言葉を全て並べよう。──君達は死なないから安心してほしい。安心して、役割を果たしてほしい。妻としてとか、伴侶としてとか、そういうのどうでもいいから、餌として機能してほしい。僕から君に要求するのはそれだけだよ」

 

 アンファミーユ・マンテイク。

 僕が君だけを特別扱いするわけがないだろう。僕が特別扱いするのは、この世でたった二人だけなんだから。

 

 

 

 動かなくなったアンファミーユをレティパーユに任せて、地下へ降りる。

 しゃらん、と音がして、首元に刀があった。

 

「なに? 君、そんな紳士だっけ」

「いや、殺人鬼に紳士性など求めるな。私は聞きたいことがあるまでよ」

「君は死ぬよ。死なないのはあの二人だけだ。ああいや、アメストリス国民は大体死なないけど」

「……やはり良い主に恵まれたようだ。そんなお前に良い情報をくれてやろう。──カリステム。私達を混ぜたあの研究者は、頻繁に何者かと通信を行っていた。キメラ・ネットワークだったか。それを用いてのものと思われる動作だった」

「君さ、有能って言われない?」

「ここへ来てからは良く言われるな。──死を恐れぬか、レムノス・クラクトハイト」

「怖いことは怖いんじゃない? ただ、だからと言って動けなくなるわけじゃないってだけで」

「そうか」

 

 刀が降ろされる。

 あんまり武器向けないでほしい。反射で攻撃するところだった。

 

 けれど、良い情報をありがとう。

 

「君達は死ぬ。けど、もしよかったら最後までレティパーユの面倒を見てあげて欲しいかな」

「無論だ」

「うん。じゃあね」

 

 

 

 さぁて、久しぶりに転生者らしいことをしようか。

 内容はどうでもいいからね。

 

「カリステムがいた位置は、この辺で……」

 

 ナノキメラ及びキメラ・ネットワークでは、無線通信に似た周波数帯のようなスペクトルが生じる。これはナノキメラの通信方法が思念エネルギーによるものであるからであり、その思念エネルギーとは「流れ」であるのと同時、「波」のように周囲に影響を及ぼしながら進むからだ。

 よってそのスペクトルを分析できれば、地点Aから地点Xへ通信が行われたことを確認できる。スペクトルアナライザを僕自身がやるって感じだね。

 そして記録は、大地にある。電波と違って思念エネルギーは地を這う。だから思念エネルギーは必ず大地にその痕跡を残す。特定の思念エネルギー周波数帯で放出されたナノキメラ間のスペクトルを探し出し、分析していく。

 

 ……サンチェゴを二つ起動。僕一人の想像力じゃ無理があるから、賢者の石のブーストも使う。

 大地に残された思念エネルギーの痕跡。……ある。もうだいぶ昔だから微かにはなってしまっているけれど、確かにある。この辺りで思念急流とか使わないで良かった。アレやってたら痕跡消し去ってたよ。危ない危ない。

 方向は……イーストシティの方。いや、その先かな?

 回数は無理だ。把握できない。内容も……多少しかわからない。多少わかるだけで褒めてほしいものだけど。

 

 これが軍の秘匿回線なりを使っていたら僕は手も足も出なかっただろう。

 軍が秘匿回線の電波パターンなんか記録してるわけもなし、お手上げだった。

 けど思念エネルギーを使っちゃだめだよ。思念エネルギーで色んなことをするっていうのを開拓したのは僕なんだからさ。

 

 さぁて、それじゃあ。

 餌を食べられてしまう前に、網で魚を掬い上げてしまおうか。

 

 

 

 リオール。

 鋼の錬金術師の作中において一番に出てくる町で、1911年から流行り始めたレト教という新興宗教に騙されている町……だったはずなんだけど。

 

「コーネロ? ……すまねぇが知らねえなぁ。なんだ軍人さん、ソイツなんか悪いことしたのか?」

 

 とか。

 

「レト教、ねえ。まぁ新興宗教はいくらでも立ち上がっちゃいるだろうから気に留めたこともねぇや」

 

 とか。

 

「ロゼ……ああ、もしかしてあの赤髪の子? あの子ならあっちに住んでますよ。恋人と一緒に!」

 

 とか。

 いや待って、それ重要な情報。

 

 ロゼと、その恋人が生きている、のか。

 そしてコーネロはおらず、レト教もない。

 

 代わりに、カリステムの思念エネルギーの痕跡がこの町に続いていた。

 

「軍人さん、軍人さん」

「うん?」

「これあげる!」

 

 子供。渡してきたのは、便箋?

 ……開ける。それを確認すると、元気な子供は走り去っていった。

 

「『拝啓レムノス・クラクトハイト所長。お久しぶりですね。お元気でしたか』……ねぇ。別に、優位性を保とうとするのは良いんだけど、あんまり馬鹿にしない方が身のためだと思うけどなぁ」

 

 順番は関係なくなったから、今ここで暴動を起こさせて血の紋を刻むのもアリなワケで。

 

「すみません、あそこの教会ってどこの宗派の奴ですか?」

「ああ軍人さん。知らないのかい、あそこは天使様を祀る教会でね。名前は……名前はよく覚えてないんだが、一度でいいから見てきた方が良い。天使様の神々しさは私達を魅了してくれ」

「ありがとう、お爺さん」

 

 乾湿の乾。

 ナノキメラが頭蓋の中にいるお爺さんに手を当ててナノキメラを焼き焦がし、意識を失った彼をベンチに寝かせる。

 さっきの便箋渡してきた子供も、他の住民も。

 とりあえず全員ナノキメラの感染を確認。リオールはもうカリステムに染まっている。

 

 それでいて、天使様ねぇ。

 サジュも諦めが悪いというか。

 

「さて、最終決戦に臨む前のケリって奴だ。全力でぶっ壊していこうか、小物の計画なんてさ」

 

 敢えて陳腐な言葉を使うなら。

 

 喧嘩を売る相手を間違えたね、って。

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