竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第八十七話 錬金術の小技「裏面錬成」&最終確認

 多対一。

 僕が最も苦手とする戦闘だ。周囲に味方がいれば話は違うけれど、イシュヴァール然りドラクマ然り、孤立無援となった時点で僕は弱体化する。

 ならどうして一人で乗り込んできたんだ、という話については──あとでにしよう。

 

「よくもまぁそう逃げ回るものですね。国軍少将の名が泣きますよ」

「武力で少将になったとは誰も言ってないから、ね!」

 

 あらゆる小技を駆使してリオールの人間を無力化していく。

 殺さないのは、殺してしまっては憎悪の紋が刻めないからだ。彼らには彼らのやるべきことがある。カリステムに操られたまま死しては意味がない。彼らには憎しみの中で死に行ってもらう必要がある。

 無論、そうできなかった場合の策もあるけれど、使わないに越したことは無い。

 

 それに。

 

「君こそ、おかしなことをしているね」

「おかしなこと、ですか」

「ああそうさ。リオールの民という助力によって君には余裕ができた。ならとっとと思念エネルギーの爆弾である天使をぶっ放せばいい。だというのにやらないのは、できないからだろ!」

 

 声を荒げてしまうのは仕方のないことだと思って欲しい。 

 こちとら飛んだり跳ねたり忙しいのだ。

 

「ふむ。それはどんな理由があると思いますか?」

「簡単だ。制御できないんだろ、君一人じゃ。ああいや、君達だけじゃ」

 

 僕が焼き焦がした一人を除いて、残り四人。

 たったそれだけの数で、三百の脳の連結した天使を制御できるとは思えない。思念エネルギーはあくまで他エネルギーの流れを変えることに長けたエネルギーであり、思念エネルギー同士のぶつかり合いでは、より堅固で強大な方が勝る。さっきの僕と天使の思念急流のぶつかり合いみたいにね。

 そして同じことがカリステムと天使の間にも起きる。

 カリステム達四人では、三百を御しきれないのだ。

 

 それを御すためのコントローラーがリオールの民であるのだろうけど。

 

「流石ですね、クラクトハイト所長。アメストリスで唯一思念エネルギーというものに着目した錬金術師」

「理由はもう一つある。──まだ国土錬成陣が完成していないから、でしょ」

 

 リオールがウィークポイントになり得るのは、国土錬成陣が完全に完成したその時だ。

 しかしスロウスが怠惰であるため、国土錬成陣は未だ円すら完成していない。これにより、天使を爆発させたとしても望む効果の三分の一も得られない。

 そしてそれだけの損害であるのなら、僕が一年をかけて修復してしまえる。

 

「成程、及第点をあげましょう。ですが、理由は他にもありますよ」

「何が良い? ホムンクルスが近くにいるから、目立ちたくない。僕を動かしている誰かの存在が掴めていないから、僕を殺しきりたくない。アンファミーユの脳が欲しいから、僕を生け捕りにしたい。リオールを囲みつつある中央軍対策のためにも戦力は残しておきたい……いくらでも言えるけど、どれがいいかな、カリステム」

 

 強く地面を踏む。

 それによりせり上がるは円形の壁。跳水錬成だ。だけど賢石錬成に使うのではなく、完全に上の方まで囲む。ドーム状にする。

 

「無駄です」

「残念、四枚重ねだ」

 

 僕のやろうとしていることに気付いたのだろう、カリステムが壁を破壊せんとするけれど、その奥にもまた壁があった。

 やろうとしていること。

 密閉空間でできる広範囲殲滅錬金術と言えば──勿論焔の錬金術である。

 

 中火でね。殺さない程度に、ドン! だ。

 

「また無茶なことをしますね」

「……錬成速度はっやいなぁ。一瞬で壁作ったってこと? 自分の前にも、リオールの民の前にも」

 

 されど、無傷。

 僕は賢石でガードしたけど、まさか相手まで無傷だとは。

 

「そろそろ限界ではないですか? クラクトハイト所長、貴方の小手先が通じないとわかったでしょう」

「そうだねぇ。僕は小技と呼んでいるけれど、それが通じないとわかったら、じゃあどうしようか」

「ああ、クラクトハイト所長の肉体が死んだとしても、脳髄は保管させていただきます。脳だけの存在となって秘密裡に推し進めてきた国土錬成陣が壊れる様を見ていてください」

 

 限界か。

 確かにそうだ。真っ当な正統派錬金術師に対して、これ以上僕にできることはない。

 真っ当な手段であれば、だけど。

 

「"遺脱"」

 

 ガコッという音がする。

 僕の右腕の機械鎧が外れた音だ。音声認識で外れる仕組みはキメラ・トランジスタのおかげだったりするけどそれは追々で。

 

「カリステム。僕の代名詞である錬金術は、時代と共に変遷してきた。今でこそ賢石錬成が僕の切り札だけど、その前は違ったんだ。何か知っていることはあるかな」

「連鎖生体錬成弾のことですか? あれも中々に外法ですねぇ」

「そう、それ。じゃあ問題だ。この機械鎧の中身って何だと思う?」

 

 ぶん、投げる。

 パージした右腕を、思いっきり投げる。

 その芯の部分からポロポロと零れ落ちてくる鉛玉──その表面にはうっすらと錬成陣が刻み込まれているのが見えることだろう。

 

 鉛玉が、リオールの民にあたる。

 それはそんなに重くないのに、そんなに速度も出ていないのに、ずぶりと皮膚に潜り込んで──めきょ、と肥大化した。肥大化し、数秒後に弾け飛ぶ。弾け飛んだ肉片は他の民へ付着し、同じことが起きる。

 

「これが当時、イシュヴァール人の救護施設で起きたパンデミックだ。僕はあれからずっとこの連鎖生体錬成弾の改良を続けていた。使う相手がいなくても、だ。おかげで肌に触れただけで自ら潜り込んでくれる素敵な弾丸になったよ」

「……しかも、殺さない、と」

「流石だね錬丹術師。そう、これの真価は相手を殺さないことにある。運悪く心臓近くで破裂してしまったら流石に死んじゃうけれど、その大体が四肢をもいだり、腹を爆ざす程度だ。時間が経てば勿論死ぬだろうそれも、即死ではない、ということに意味がある」

 

 ぎろり、と。

 誰かが、僕を睨んだ。

 誰かじゃない。誰しも、だ。

 

「やぁやぁ、リオールは東部にあるからね。僕の事は世間一般とは全く違う、正反対の異名で伝わっていることだろう。──ハロー、竜頭の錬金術師だよ。これより君達は、イシュヴァール人と同じく弾圧される。おっと抵抗はしないでほしい。なんたって正式な軍事行動だからね」

 

 悲鳴だった。悲鳴が響いていた。

 リオールの民のもの、ではない。

 

 最小単位となった人間……ナノキメラの悲痛な叫び声だ。

 もうこの宿主には宿っていられないと、発狂にも等しい思念エネルギーの奔流に溺れ死んでいく。

 

「これは……」

「カリステム。君は錬丹術師として、そして錬金術師としても優秀だ。素晴らしいほどに。僕なんか足元も見えないくらいの高みにいる。──けど、思念エネルギーというものの扱いにおいては、流石に僕が勝る。さて、これはなんだろう。リオールの民から滲み出ている赤黒いオーラは、果たしてなんだろうか」

 

 大きく腕を広げて言う。

 ああ、右腕無いんだけどね。

 

「憎悪だよ、カリステム。この憎悪こそが必要でね。ありがとう、心から礼を言うよ。なんせこの教会は国土錬成陣の円の、その真上に位置している。ここだからこそ、ここでこそリオールの民は憎悪を星に刻み付ける意味を持たせられる」

 

 痛みは、苦しみは、洗脳にも等しい「カリステム」という病を振り解く。

 腹が爆ぜた経験はあるだろうか。腕がもげた経験はあるだろうか。皮膚だけが剥がされた経験は、内臓だけがねじ切れた経験は、はたしてあるだろうか。

 

 ない。ないだろう。

 錬金術師ならあるかもしれないけれど、ただ懸命に日々を生きるだけの一般人にそんな機会はない。

 だからこそ耐えられない。カリステムであることより、自身であることを優先してしまう。優先してしまう方がもっと苦しいというのに。

 

 そうして見るのだ。意識の戻った視界で、竜頭の錬金術師という巨悪を。

 

 憎悪はしとしとと地に刻まれる。感情の乗った血は紋としてリオールに刻み込まれる。

 

「っ、仕方がない、時期尚早ではありますが──」

「そして、その赤子も例外ではない」

 

 飛びつく。

 思念エネルギーの壁を纏う天使に、まるで獣のように、あるいはプレデターのように。

 

 賢石纏成がvs錬金術師に弱いように、隠者の石だって錬金術師にとっては然程の脅威ではない。

 思念エネルギーを扱う場合、そして錬丹術師にとっては最悪の相手だろうが、僕は別に錬丹術師ってわけじゃない。

 

 だから、使う。

 天使の思念エネルギーを、自ら消費していく。

 

 消費し、作り上げるものは、勿論サンチェゴだ。

 恐らく初めてだろう。空中にサンチェゴを作り上げるのは。

 

「やぁ、初めまして。──僕は今から君を食べるけれど、そこに恐怖はあるかな、醜悪なる天使よ」

 

 思念隔壁を突き破り、その肥大化した頭部に触れる。

 

 金切り声に似た叫び声が響き渡った。

 

「可哀想に、痛覚が生きているんだ。カリステム、ダメじゃないか。実験動物の痛覚は切っておかないと──こうやって今、僕が手を当てた部分だけがぐちゃぐちゃになったせいで、激しい痛みを訴えているよ」

「赤子、ですよ。こんな姿でも、一応」

「おいおい、もしかして今更人道でも説こうとしているのかい? そんなのが効く奴だったら、最初から龍脈遮ったりなんかしてないって。さて、さて、じゃあもっと面白い物を見せてあげよう。カリステム、まさかさっきの小技だけで僕のレパートリーが尽きたとか、そんなこと思っていないよね」

 

 生体錬成弾を排出し終わった腕を拾い上げて、くっつける。

 神経接続の痛みが走るけれど、それだけだ。

 

 途中まで呆気に取られていたカリステムだったけど、僕が腕をくっつけたタイミングくらいでまた攻撃してきた。掌底。当然僕は反応できないけど、悲鳴を上げたのはカリステムの方。

 

「完全物質に打撃を与えるとか、勇気あるね」

「……賢者の石、か!」

「そうだとも。別に、見えるところに纏ってあげる必要はないんだよ。服の内側に張り巡らせたって気付かない──氣を感じ取ろうにも、もっと強大なものが僕自身に埋まっているから、気が付かなかっただろう」

 

 ラストのように爪に沿わせて伸ばしたり、服の内側に仕込んで防御したり、なんだってできるのが賢者の石のいいところだ。その分思念エネルギーの消費は大きいけれど、幸いここには巨大で巨大な隠者の石が浮かんでいる。

 

「……仕方がありませんね。ここでさようならです、クラクトハイト所長。天使を爆発させます。お互い、生きていたらまた会いましょう」

「僕さぁ、ターン制バトルあんまり好きじゃないんだよね。──趨勢がこっちに傾いたんだ。君のターンはもう回ってこないよ」

 

 天使の思念隔壁に、錬成陣を描く。

 あるいはカリステムであれば気付けただろう。

 

 それが何の意味も持たない、ともすればぐちゃぐちゃな錬成陣である、ということに。

 

 だから彼は強行した。天使の暴走──御せずとも良いと、暴発させてしまえばそれでいいと言わんばかりに。

 

 

 

「裏面錬成、という。本来は薄紙なんかに陣を描いて、裏側が正式な錬成陣になっているっていう小技さ。さて、じゃあ問題だ、カリステム。──僕はこの天使に、何を描いたと思う?」

 

 

 思念収束。

 つまりはまぁ、この場にいる同質の思念エネルギー体で行う、隠者の石の錬成陣、ってところかな。

 全員カリステムだっていうんなら、そりゃ。

 

 

 

*

 

 

 

 原作でいうレト教の教会を出る。

 ちなみにしっかりサジュは回収されていた。これでマスタング大佐を人柱にしなくてよくなったけど、まぁ仕込みはしておいて損はないよね。

 

「クラクトハイト少将、お疲れ様です! メルバード少尉であります!」

「これ、リストね。国軍に反抗の意思のある住民のリスト。問答無用で殺していいよ。テロリストだから」

「は……ハッ!」

「それと、中央軍って今来てる?」

「いえ、少し前に連絡が入り、引いていきました。今いるのは東方司令部の面々だけです」

「……ああ、そう。ありがとう。それじゃあテロリストの排除、お願いね」

「お任せください!」

 

 探すまでもなかった。

 やってきた軍人の流れを遡って、その二人の場所に辿り着く。

 

 そうだよね。

 あんだけ用心深い人が、決戦の場に本体を残しておくはずがないんだ。

 

「やぁ、ロゼ」

「……」

「恋人の方の名前は知らないから何とも言えないけれど、君だよね」

「……何が、ですか」

「カリステムを呼び込んだ張本人」

 

 最初、僕に打撃を食らわせた後、いつの間にか姿をくらましていた彼女。

 その背後に佇む彼女の恋人は──まるで、粘土細工のような色をしていた。

 

「……別に呼び込んだわけではないですよ。行き倒れていたので、ご飯を上げました。その日の夜から、私達はおかしくなりました」

「自覚はあったんだ」

「知らない単語がいくつも出て来たんです。そして、欠けた記憶を埋めないといけない、という衝動が出てきて、アンファミーユ・マンテイクという方が欲しくなりました。この時点でおかしいとわかりますよ」

 

 口調も安定していない。

 ロゼなのかカリステムなのか。 

 

 最早。

 

「一つ、受け取ってほしいものがあるんだ」

「はい?」

 

 紙を一枚渡す。

 それを素直に受け取るロゼ。

 

「――ぁ」

「対人賢石錬成。対象が賢者の石の錬成陣を持っていることを条件に、対象の命のみを奪う賢石錬成だ。……まぁ、随分と苦しんだようだし、最後くらいは楽にね」

 

 今しがた作った賢者の石を使用する。

 対象は粘土細工にも似た彼女の恋人。それを破壊するためだけに使いきる。

 

 ふぅ、とため息を吐いて。

 

 

 崩れ落ちた。

 別段、受け止めてくれる人がいるわけでもなし、大の字になって地面に転がる。

 

 ……今回、誰も連れてこなかった理由。

 一人で来た理由、それは。

 

「最後だからね……これでもう、僕は止まらない。止めて欲しかったとは思っていないけれど、これはもう、抵抗はないものとみていいのかな」

 

 それは、世界へ向けてのメッセージ。

 あと、少しだ。

 

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