竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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※この作品に出てくる錬金術は現実の錬金術と空想の錬金術の混ざり合ったものです。鵜吞みにしないでください。


第九十一話 錬金術の基礎「統一三原則」

 

 珍しく上機嫌な様子で帰って来たキンブリー。鼻歌なんか歌っちゃってまぁ、よほどいいことでもあったのだろう。

 

「みんな、元気だった?」

「ええ。有り余っていましたよ。しかし、よろしいので? ああして通路を崩した程度、錬金術師を相手取っているのですから、簡単に修復されてしまいますよ」

「それは大丈夫。もうそろこっちに近づけば錬金術なんか使えなくなるから」

「使えなくなる?」

 

 お父様の錬金術封じの範囲に入るから、という意味だ。

 本来はアメストリス全土にある蓋によって行われるものだけど、今回は賢石の雨の作用も考えて極小範囲に絞ってもらった。

 一応まだ協力的なプライドによれば、浸食率は87%程度。上々だろう。

 

「ふむ。なら早めに使っておいた方が良さそうですね」

「戦いたいならね」

「……」

「キンブリー。その顔は、"はて、どうして私は彼らを殺さなかったのか、傷つけもしなかったのか"……って顔だと見るけど、どうかな」

「そう、ですね。自分でもおかしな話だと思っていますよ。……情、でしょうか」

「理性でしょ。だって彼らはテロリストでもなんでもない。ただ()()()()()()()()()()の一般人だ。君に一般人を殺す趣味はないでしょ? 無差別爆弾魔ってわけじゃないんだし」

「その理論で行くと、私の標的は中将ただ一人になりそうですが」

「使えなくなる前に、やっておいてもいいよ」

 

 ──数瞬、沈黙が流れる。

 

 けれどキンブリーの口は「いえ」と動いた。

 

「やめておきましょう。また、見回りをしてきます。たとえそうなる未来があったとしても、今ではないでしょうから」

「賢明だね」

 

 どちらが強い、とかじゃない。

 互いに賢者の石をふんだんに使える環境下なんだ。無駄な破壊が起きるに終わる。

 

 でも、戦いたいなら未来なんかを望むんじゃなく、早めにしておいた方が良いよ。

 僕が未来にいることはないんだからさ。

 

 

 

 さて──暇である。

 拠点防衛型の錬金術師である僕は、確かに兵器工場だ。兵器を作って、それを配置して、けど僕自身は何もしない。獲物が罠にかかるのを、あるいは罠を察知した獲物が逃げていくのを上から眺めるだけ。

 

 ましてや今はキンブリーが見回りに出てくれているから、本気でやることがない。

 これをこのまま二か月、というのはまた面白くないというかなんというか。

 

「だから、ここへ来て新たな錬成兵器を開発しようと思うんだよね」

「ふむ。上を目指すのは良いことだが、具体的なコンセプトは決まっているのかね?」

「全く」

 

 大総統府。

 クーデター宣言をし、大総統と戦った体である僕は未だ大総統を手放していない。

 僕ら的には赤い雨が染み込むまで時間稼ぎが必要で、軍関係者的には僕を頭として認める──あるいは鎮圧するための準備が必要で。

 その間とても暇なので、こうして地上に出て来たお父様と錬金術師談義のお時間なのだ。

 大総統は万が一にも僕と仲良く話しているのを見られたらマズいので、既に地下へ潜っている。一応大総統夫人には挨拶をしておいた。「余計な真似はしないでくださいね」と。そうしたらセリムが出張って来たので大人しく退いてあげた。

 あそこ、よくわかんない絆があるよね。

 

「僕のアイデンティティたる遅延錬成も、既に二人の錬金術師には理解されてしまった。どっちも殺したとはいえ、この先の二か月間に新しいのが出てこないとは限らない。人間というのは追い詰められたら追い詰められるほど作業効率が上がるものだし、突飛で飛躍的な発想も出てきやすくなるから」

「その遅延錬成についてだが、結局オマエは、その原理について理解し終えたのかね」

「いいや。想像はしているけど、理解はしていないよ。これについては約束の日までお楽しみだね」

「……そうか。いや、私は構わない。しかし、既存には無い錬金術による兵器の開発か。心躍りそうで、踊らん話だな。なんせ外敵は全てオマエが排除してしまっている」

「まだシンって大国の連中がいるんだよ。しかも虎視眈々と偵察兵が来てるって僕の部下から連絡が入ってる」

 

 スライサー兄弟は、なんなら一度切り結んだらしい。

 雨粒を全て避ける、がそもそも彼の嘘だとは思っているけれど、これでほぼ確実に彼ら兄弟は連れて行けなくなった。多少、レティパーユが悲しむのかな、みたいな親心を見せてみたりしてもいいかもしれない。

 

「シンか。確かオマエの言う錬丹術師とやらの使い手の多い」

「そ。流れを理解し、流れを利用し、流れと一体となる錬丹術師は、お父様にとってもそこそこ脅威……と言いたかったんだけどね。今のお父様に勝てる生物は多分いないだろうから、気にしなくても良い。だから、僕のコレは単なる学術的興味だよ」

「そう言われるとやる気も湧いてくる。真理も神もいずれ手中に収めるとはいえ、それで終わる気はない。私も進み続けることを選ぶだろう」

「そうこなくっちゃ」

 

 ということで、まず基礎の基礎からやっていきたいと思う。

 

 紙に円を描く。コンパスで。……え、まだ綺麗な円描けないのか、って。そりゃずっと逃げ続けてたんだから、上達するものも上達しないでしょ。

 

「円?」

「そう、円。錬金術にとっては重要なファクターだけど、錬丹術にとってはそうでもないんだ。多少歪んでいても効果を発揮するし、どちらかというと交点が大事でさ。僕は錬丹術における交点をAMP(Alchemy Manifestation Point)と呼んでいる」

「錬成エネルギーの発現点か。成程?」

「錬金術は円によって錬成エネルギーを回転、増幅させて中心点で噴出、中心素材が錬成される、って仕組みだけど、錬丹術は違う。このAMPに錬成エネルギーを集中させて、そこに穴を穿つ。さっき言った流れの穴──だから円は割とどうでもいい。()()()()()()()()円に見えるだけで、必要なのはAMPの方だ」

「聞いていれば、それは賢者の石の錬成陣とほぼ同じ仕組みだな」

「そう。だってこの錬丹術は、西の賢者……つまりお父様と別れたホーエンハイムがシンに伝えたものだからね。クセルクセス式源流錬金術自体が交点を要とするもので、彼が最後に見た最も強烈な錬成陣が賢者の石の錬成陣なら、そういう伝わり方もするよ」

 

 アメストリス式の錬金術はお父様が理論を詰めている。

 故にクセルクセス式源流錬金術から()()()()()辿()()()()()()()()()()作り上げた理論なのだ。だから異様なまでに五角形の錬成陣が無いし、もっともらしく乾湿の錬成陣のように「六角形の方が安定している」と見せている。

 無論ただ辿り着かせないためだけに作った理論というわけでもない。

 実際賢者の石の錬成陣には六角形も使われている。五角形を囲む形で。それは安定させる、という意味でもっともらしく活躍する。

 

「統一三原則、といって伝わるかな」

「錬成エネルギーの保存法則のことだろう?」

「そう。一見無制限に吐き出されると思われがちな錬成エネルギーだけど、実は限りがある。これは錬丹術的に言えば流れだ。どこかで流れが隆起したら、どこかで陥没する。増えたら減る。減ったら増える。その流れは常に一定量であり、たとえば僕みたいに流れの阻害を行った場合、かならずどこか……この惑星のどこかにそのしわ寄せがくる」

 

 これが第一の法則。エネルギー保存則と名前が似ているだけで、実際はあんまり関係ない。錬成エネルギーは他のエネルギーに変わらないからね。

 

 そして第二則が。

 

「次に、すべての錬成反応は平衡状態にある。破壊する錬成反応と修復する錬成反応、押し流す錬成反応と阻害する錬成反応。これらは、これらの間を行き来する錬成エネルギーの循環によって起こるものである。破壊と修復は衝突、あるいは相殺をしない。逆に利用し合う力関係。詰まりを改善し、押し流す力と阻害する力も同じ。すべての錬成反応は見た目相反しているように見えても、その実利用し合うことで同じ流れの中に存在できる」

「そうでなければ錬金術など破壊の権化にしかならん。これだけの量の錬金術師が昼夜問わず錬金術を使っておるのだ。それら力の均衡は必ずどこかで支払われている。破壊の多いアメストリスに対しては、成程、シンか」

「シンにも破壊系のはあるけどねー」

 

 これが錬成エネルギーのバランス則。循環則と呼んでもいい。

 

 そして最後が。

 

「これが最も厄介な法則だ。不安定の法則──錬成エネルギーは錬成エネルギーとして安定していられない。より高次の結果か、より低次の結果。そのどちらかを求める。成功か失敗か、とかく錬成エネルギーは錬成反応を起こさずにはいられない」

「その次善策がオマエの遅延錬成だな」

「そうだね。あと、レティパーユによれば例の兄弟が蓄積錬成っぽいものを使っていたようだけど、とにかく錬成エネルギーは錬成エネルギーで在り続けられないという致命的すぎる欠点があるんだ」

 

 錬成エネルギーの不定則。

 これら三つをして、統一三原則と呼ぶ。

 

「それで?」

「錬成エネルギーの不定則を、どうにかしてみたいと思ってるんだ」

「……無理だな。賢者の石でさえ、思念エネルギーの凝縮核でしかない。人間の魂を思念エネルギーごと閉じ込め、それを素材とすることで錬成エネルギーの増幅を行う石。しかしあくまで錬成エネルギーの発生は錬金術を使うその瞬間のみであり、賢者の石の中に錬成エネルギーが溜まっているというわけではない」

「まーねー」

「そこを解決したのがオマエの遅延錬成で、だからこそこの国の者達はオマエの遅延錬成の解析に躍起になったのだろう。誰もが錬成エネルギーの保存を行いたいがゆえな」

 

 そう、なのだ。

 だから無理。……と決めつけるのは、僕らしくない。

 

「円だから悪いんじゃないか、って思ってるんだ」

「ほう?」

「円にするから、錬成エネルギーは必ず錬成反応を起こしてしまう。何故って中心点が必ず存在するから」

 

 何を当たり前のことを、という顔のお父様。

 当然だ。僕は当然のことを当然ではない風に言っているだけで、事実として当然なものは当然なのだ。

 

 だけど、錬丹術を考えてみて欲しい。

 AMPさえあれば錬丹術は発動できる。ならば。

 

「この紙を、こうして、こうする。で、ここを錬成して繋げる」

 

 子供でもわかるやつ。細長い紙を捩じって両端を繋げるやつ。

 そう、メビウスリング。

 テープで貼り付けるとかじゃなくて、錬成しているから、これはもうこういうものとして作られたわっかになる。

 

 この円は一見円に見えて三次元上の複雑な円になっているから、この表と裏に繋がりを持たせた錬成陣を刻んで行けば──。

 

「まぁ待て。危ないから私がやる」

「えぇ」

「前もそうだったが、オマエは未知に対しての恐怖心が無さすぎる。不死でもないのだ、代われ」

「……わかった」

 

 まぁ僕は大事な要になるから、死んでほしくないのはわかるけどさ。

 もうちょっと良くない? 少しくらいの錬成実験だよ。見習い錬金術師でもできるような。まぁやらせたらパーペキにリバウンドするけど。

 

 錬成反応が走る。

 ……失敗か。錬成反応が走った時点で失敗なんだ。うーん、机上の空論は机上止まりかー。

 

「ふむ。今のは、素材の脆さが原因だな。錬成エネルギーの圧に紙が耐えきれなかっただけだろう。どれ」

 

 ノーモーションで青い錬成反応が走る。

 大総統の部屋のなんかトロフィーみたいなのを使って作り出されたのは金属のメビウスリング。こんな些事に賢者の石を使う気は無いらしい。

 エコ精神、あったんだねお父様。

 

「ここに、思念エネルギーを通す」

「……おお?」

 

 思念エネルギーから変換された青い錬成エネルギーはメビウスリングを通り抜け、中心へ向かい──しかしもう片方から現れた錬成エネルギーと衝突。それはしかし第二則に従い互いを利用し合う関係となり、消えずに残り続ける。

 中心には何もないというのに、まるでそこに引力を発生させるコアのようなものがあって、コアを中心にエネルギーが回り続けている……というような現象が起きた。

 

「……いや」

 

 僕が「もしかして成功?」という前に、お父様が否定の意を放つ。

 瞬間、金属のメビウスリングはパァンと粉々に破砕した。

 

「錬成エネルギーの圧に耐えられないんだ」

「それもあるが、今回は形も悪いな。これを……つまり、縦横で行えば」

 

 メビウスリングとメビウスリングが垂直に交わったものが錬成される。

 そこにまた思念エネルギーが、そして変換された錬成エネルギーが流されて……今度は四つの錬成エネルギーがコアのない所をぐるぐる回り始めた。

 

「これ、タングステン?」

「……ふぅむ。これでも耐久性能が足らんか。だが、理論は完成しているな。ああ、つまりは」

 

 お父様は、賢者の石を指先に──って。

 

「いやいや、完全物質だから耐久性能はばっちりだろうけど、それやったら賢石のエネルギーが優先されて錬成エネルギーの保持どころじゃないでしょ」

「むぅ。良い案だと思ったのだがな」

「うん、僕も一瞬成程、とは思ったけど。……でも、もっともっと硬い物質があれば、あるいは作りだせたら、錬成エネルギーの保持装置は作れそうだね」

「だが……そもそも錬成エネルギーの保持装置など何に使うのだ?」

 

 沈黙。

 ……。

 

「錬成陣にぶつけて、錬金術を……一般人でも使えるように、とか」

「だがもうオマエの味方には一般人などおらんではないか」

「それもそうだけど、そもそもその場合のリバウンドって誰に返ってくるんだろ」

「無論術者だ。故に、過分な錬成陣へ足りぬ錬成エネルギーの保持装置が投げつけられた場合、錬成陣にエネルギーが入ることはあれど発動せず、代償がどこか遠くにいる術者に帰る……欠点だらけではないか」

「ね」

「ね、ではないだろう……まぁこういうものを研究するのが楽しい、というのはわかるがね」

 

 そう、こんなのただの理科の実験だ。

 結局お父様とは一緒にレジャースポットとか行けずに赤い雨を降らせる時期になっちゃったからね。こういうところで親子ごっこしておかないと。

 

 ……お父さんとお母さんとは、しないクセにね。

 

「まぁ、安心しろレムノス。こういった未完成の研究は必ず私が引き継ぐ。オマエが消えても、な」

「それは嬉しいな。じゃあさ、お父様。僕まだまだいっぱい仮想論抱えてるんだけど、全部聞いてくれたりする?」

「なんだ、抱え逃げするつもりだったのか? 聞かせろ、オマエの発想の全てを。それが唯一の痕跡となる」

 

 微かに。

 優しさ、のようなものを感じた気がする。

 でも、僕とお父様は互いに利用し合う関係だ。キンブリーと同じ。

 

 優しさなど。

 ……警戒しすぎなのかなぁ、とか思うけど、でもやっぱり警戒はしておくに越したことは無いと思うんだよね。特にお父様なんか僕を一瞬でジュッできる相手なわけだし。

 

 どうしても、心は許せない……かな。

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