竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第九十四話 錬丹術の応用「信号」

 それは数時間前にまでさかのぼる。

 集まった錬金術師と錬丹術師。全ての情報を重ね合わせ、弾きだした一つの答え。

 

「……ま、しゃーねえ。俺達が内側にいけば、目印として機能するんだよな?」

「はイ。五人で、丁度でス」

「ならば最後の起動は彼女にやってもらうしかないだろう。問題は、敵が私達を殺さずに持ち帰ってくれるかどうかだが」

「俺は確定で人柱とかいうものになっている。お前たちは候補者らしい。恐らく殺されることはない」

「人柱、ね」

 

 エド達の用意した大掛かりな錬成陣──それは、レムノス・クラクトハイトが稀に使うノイズと呼ばれるものによく似ていた。いや、錬丹術を汲んでいるのだから、クラクトハイトのそれが錬丹術に似ている、というべきだろう。

 ある一定距離まで近づくと錬金術が使えなくなる、という状況にあるセントラルで、その範囲外ギリギリから「内側で起こる錬成反応を全て無効化する」という、ある種二重円の錬成陣を作り上げることにしたのだ。

 そしてこれの起動には、流れの噴出口を中央におく必要がある。錬金術封じは錬丹術には効かないとわかっているから、それさえ設置してしまえばこれから何が起ころうと全てに対処できる。

 

「問題はどうやって中央に辿り着いたことをメイに伝えるか、だな」

「拘束は、多分されちゃうだろうから……蓄積錬成も範囲内に入ったら消えちゃうし」

「何とか抜け出して錬金術ではなく銃声をあげる、というのはどうだ?」

「距離的にキツいだろう。それに、仮に地下に連れていかれるとしたら尚更だ」

「ふむ。では、こういうのはどうですかな。技術的にできるかどうかはわかりませぬが……」

 

 アームストロングの出した案。

 それは、彼がクラクトハイト隊にいたからこそ思いつくものであったと言えるだろう。

 且つ。

 

「それなら、いけまス!」

「おお。それでは──」

「んじゃ、いっちょ一芝居と行きますか! 完全無抵抗だと怪しまれるから、一応ちゃんとぶっ倒す気で行くけど、いいよな?」

「クラクトハイト本人が出てくるとは限らないがな。アイツは恐らくこの全貌の掴めない計画の要にいる。そんな要人を最前線に送り込むかどうか」

 

 そこへ、「いいえ」という凛とした声がかかる。

 

「だからこそ、私達が行きます。私達が出向けば、レミーは出て来ざるを得なくなる。ただし、あの子は私達と戦いたがると思います。ですから」

「仕込みを任せるなら俺達にやらせろ、ってな。アンタ達はあくまで陽動に徹してくれよ」

「……いいのか、自分の子だろ」

「いいかどうか、悪いかどうかはわかりません。ですが、その行いの行きつく先が──私達にとって悲しいものであることだけはわかります。なら、これは私達の役目です」

 

 クラクトハイト夫妻。

 レムノス・クラクトハイトの両親もまた、ここに来ていた。

 

「……よーっし! これ以上考えてても仕方ねえ。決行するぞ!」

「応!」

 

 さて、作戦は──。

 

 

*

 

 

「……錬丹術による遅延錬成。いや、感圧式錬成陣か。考えたものだね。ただ、残念だ。僕の手の内を知らな過ぎた」

 

 エドのポケットに入っていたソレを抜き出して、感心する。

 そういう使い方もあるのか、と。ま、仲間というものが少ない僕には無用の長物だったわけだけど。

 

「この錬成陣が握り潰されるなりして破壊された瞬間、噴出口が破壊されたことが外にいる錬丹術師へ伝わり、君達が指定の位置についたことが伝わる。僕は流れにばかり着目していたけど、噴出口にそういう使い方があったか。成程、今更だけどいい知見だ。流石はメイ・チャン。あるいはみんなで知恵を出し合ったのかな」

「その紙。全員が持っている可能性は?」

「大いにあるね。ただ別にここは中心じゃないから、今握り潰された所で特に問題はない。プライド、一応精査だけはしておいて。君、厚みがないからどこへでも入っていけるでしょ」

「……まぁ、適材適所ですか。いいでしょう」

 

 既に流れのできている錬丹術を持ち込ませて、その流れを断つことで合図とする。

 面白いなぁ。ああ、やっぱり本場で習ってみたかったなぁ、錬丹術。

 

「さて──これで万策尽きたかな? それともエンヴィー、君になんか仕込んであったりする?」

「……さぁね」

「一応これは見つけているけれど」

 

 それは、僕が隠者の剣で突っ込んだ時、粘性の高くされた大気から入り込んだと思われるもの。髪と服に入り込んでいた錬成陣は、()()()()()()()()()()とでもいうべきものだった。原作で実物を見たわけじゃないけど、マルコーさんが使ってたやつね。

 解読した感じ、お父さんが描いたものっぽい。ずっと研究してたんだね。

 

「……ッ」

「策と、次善策。そしてどっちもが失敗した時の保険策。最低策は三つ用意するものだ。そう考えたら、やっぱりエンヴィー。君に何かが仕込まれていると考えるべきだけど──」

 

 ズシン、と。また大総統府周辺が揺れる。中央司令部本部でも混乱が起きているようだけど、鎮めに行く人がいないから混乱はまだまだ続くはずだ。

 

「何が仕込まれていようと、食べてしまえば消えますよ」

「だからダメだって。エンヴィーの同化能力は必要なんだよ。ああ、まぁ、僕に利用されたくなくて自決、っていうのは別にいいけどね」

「しようとしたら瓶ごと食べます」

「グラトニーを食べたわけでもないのに、なんでそんなお腹空いてるの?」

「あなたにはわからないと思いますが、今仕事を終えて眠りに入っているスロウスを引っ張ってくる、という作業をしているんです。それ以外にも色々やっていますから、消費が激しいんですよ」

「あー。まぁ大半のホムンクルスが離反したから、全部の仕事が君に来ているってことか」

「ええ」

 

 それはご愁傷様であるが。

 

「……それこそ、それだよ。アンタ、ラストと何を企んでるワケ? 何の繋がりがあるんだよ」

「企んでいるというより、取引をした、が正しいかな。お父様のためになることだから、ラストもすんなり頷いてくれたよ」

「答えになってねーよ。……プライドも、なんでレムノスと仲良しこよししてんだよ。嫌いなんじゃなかったのか?」

「嫌いですよ、今でも。ですが、お父様の計画が最優先でしょう。そのために動くのであれば、誰と共にあっても特に不満はありません」

 

 と。

 エドが口をもごもごさせているのが見えた。プライドに促して、彼の口だけ解放してもらう。

 すると。

 

「そのお父様ってのがクソ親父を不老不死なんてものにした奴だな!?」

「ん、ああ。そうだよ。ヴァン・ホーエンハイムとお父様は友であり家族であり仇敵だ。でも、面白い言い方をするものだね。クセルクセスで彼の地の民を自らという賢者の石にしたのは、その指示を出したり陣を引いたりすることに加担したりしたのは、お父様だけでなくヴァン・ホーエンハイムも同じだっていうのにさ」

「……まるで見てきたように言うんですね」

「プライドは、そうか。その後生み出されたんだったね。だから直接見てはいないのか」

 

 まさかプライドから射撃があるとは思っていなかったけど、まぁまぁ乗り過ごせただろう。

 プライドからもエンヴィーからも目線が鋭くなったあたり、お父様のクセルクセス時代のことはあんまり話して貰えてないのかな。

 まぁでもそうか。お父様、若お父様になる前は昔話とか聞かれてもしないくらい無気力だったわけだし。

 

「クソ親父はンなことしねえよ! できるはずねえだろ!」

「初めて必要とされた──そして段々と上がっていく自らの価値は、どれほどの聖人であっても酔いしれ行くものさ。なんせ彼は元の出自が奴隷。奴隷二十三号。主人に買われ、名すら付けられず、許可も取られず錬金術の材料にされるような身分の彼が、間接的とはいえ王から意見を求められるにまで至ったんだ。彼の世界はただそれだけだったんだから、疑う心を持てなかったのは致し方のないことではあると思うけどね」

「……ほん、とうに……見てきたみてぇに言うじゃねえか。アンタ、そうだ、アンタは結局なんなんだ。レムノス・クラクトハイトなのか。あの二人の子供のレムノス・クラクトハイトは、どこへ」

 

 ふむ、と。

 わざとらしく顎に手を当てる。プライドの遮音は完璧だったから、その辺の説明をもう一回するのもアリではあるけど、未だこのままの方が面白い。本物のこともあるし。

 

「レムノス・クラクトハイト。少なくとも国家資格を取ったのは彼だよ」

「……嘘だろ。まさか、そんな昔から……」

「子供一人がちょっと様子おかしくなったって誰にも気にされないからね。それとも何かな、エドワード・エルリック。当時の僕のような幼子がイシュヴァール人なんて民族一つを殲滅できると、本気で思ってる?」

「……思ってねぇ。やっぱりそこからおかしかったのか。ただの子供にそんなこと」

 

 何かが飛来する音を聞いて、咄嗟に隠者の剣を出す。

 プライドも縛り上げている全員を下がらせて──瞬間、大総統府の壁に大穴が開いた。

 

「なんっ!?」

「……砲弾? ブリッグズの戦車かな?」

「否」

 

 錬成反応が走る。

 おかしいな。錬金術封じは発動しているままなんだけど。とりあえず隠者の剣で──あ、いや、やばいこれ。

 

「儂こそが、鉄血の錬金術師バスク・グランである!!」

 

 瞬時に錬成される兵器群。その中には機関銃なんてものまである。

 

「世話が焼けますね」

 

 それらが一斉放射される直前、僕を影が包み込んだ。いや、いや、ナイス過ぎ! 味方……ではないけど、仮の味方だとこんなに頼もしいのかプライド!

 

「助かった」

「構いませんよ。今アナタに死なれると父が困りますから。……それで、彼は何故錬金術を?」

「今解析中!」

 

 再度地面で錬成されるそれを避けながら、走る錬成反応の色を見る。

 どうみても青だ。賢者の石や隠者の石を使っているわけじゃない。じゃあなんだ。何故彼は錬金術を使えている。

 

「見損なった、とは言わん。貴様があの時と同じ"愛する者"であることはわかる。なれば、この奇特なる現象も全て愛する者がためなのだろう」

「……グラン准将。変わりませんね、あなたは」

「人はそう簡単には変わらぬ。──惑わされるな、若き錬金術師たち! この男はレムノス・クラクトハイト! 親元を離れ、親を守らんとするがために国敵を滅ぼし続けた愛する者なり! 誰の目を騙そうと、儂の目は騙せはせん!」

 

 ……グラン准将。

 できればこういう形で相対したくはなかった。けど、そうだよね。僕が情報を与えてそれを調べていたわけで。その僕がその調べられる側に入り込んだんだから──そうなるか。

 申し訳ない。

 恩のある人だとは、多少思っている。だけど──必要のない存在だ。扉を開けるタイプにも思えないし。

 

 だから、斬り伏せさせてもらう。

 隠者の翼をブーストに、一気に肉迫し。

 

「来たぞ! 今だ、マルコー大佐!」

「ッ!?」

 

 その名が今出ると思ってなくて、動揺した。マズい、ブラフにせよ本当にせよ──突っ込む以外の選択肢がもう無い!

 

 ぬぅと死角、グラン准将の背後から伸びてくる皺くちゃの手。

 纏う錬成反応は、まさか錬丹術!?

 

「成程な。これは確かに世話が焼ける」

 

 声。

 瞬間、目の前にいた二人が消えた。

 

 ……あっぶな。

 だから僕、拠点防衛型の錬金術師なんだって。何度自分を諫めたら気が済むんだ。隠者の剣も賢石纏成も、最終手段だってこと忘れるなよ一々さ。

 

 そして。

 

「……な、んで」

「恩は売れたかね?」

「ああ、助かったよ。丁度僕が憤怒(ラース)じゃないってバレたところだったし」

「はっはっは、実はタイミングを見計らっていたというのはある」

「じゃあその恩買わないでおくね」

 

 錬成反応が走る。

 ……マルコー大佐もグラン准将も、怪我が消えている。錬丹術か。

 いやホント、いつの間に。

 

「なんだって、大総統とアンタらが同じ側にいんだよ!?」

「茶番だからだよ。クーデター宣言。あれは僕に注意を引くための茶番だ。外側に目を向けさせないための。そして周辺諸国がここぞとばかりにアメストリスを狙ってくることを狙った茶番」

「ラース、説明が面倒です。見せてあげたらどうですか」

「そうか、もう隠す必要はないのかね。あれだけ用意周到に手回しをしていたというのに」

「グラン准将のせいで全部バレちゃったからね。いやぁ、いつの時代も策ってのは上手くいかないものだよ」

 

 何のことかわかっていない一同の前で。

 彼、僕に大敗を喫したはずの人質──キング・ブラッドレイはその眼帯を外す。

 

 そこに、左目に確と刻まれたウロボロスの紋章を見せる。

 

「……!」

「諸君、改めて、ということになるが。私が人造人間(ホムンクルス)憤怒(ラース)だ。そこな男は偽物。ただの人間ということになるな」

「この……国の、トップが、ホムンクルス……!?」

 

 さて。

 いろいろなものが色々台無しになったわけだけど、そろそろ大詰めではある。

 

 解析も、完了した。

 

「グラン准将。あなたのそれは、意図的に錬成エネルギーの汲み上げを直下ではなく遠くから行っているんだね。これは流れの理解があってこそできる話……誰に錬丹術を習ったのかは知らないけど、脱帽だよ」

「習ったのではない。──これだ」

 

 そう言って彼が見せてきたのは、ボロボロのノート。

 見覚えのあり過ぎるそのノートは。

 

「……それは、僕が回収したはずだけど?」

「ああ、血眼になってそれを探していた貴様を思い出し、再度あの周辺を儂も捜索した。そうして見つけた、というわけだ」

「二冊目……なんて、まさか、そんなことがあるとは……いや、おかしくはない、か」

 

 二冊目。

 同じようなノートに、適当に開かれたページに載っていた文章。遠目で見てもわかる。

 アレは、傷の男(スカー)兄のノートだ。

 

「国土錬成陣。正負の流れ。この国のものではない錬丹術……そして貴様と行動を共にしたマルコー大佐による証言。繋がるものが多くあった」

「そりゃ、多いだろうね。僕もある程度それを参考にした錬丹術を使っているし、錬金術の効率化もそれを参考にした。……ああ、本当に嫌になるな。あの天才、まだ僕の首を絞めてくるんだ」

 

 でも、もういい。

 タネが割れたらどうということはない。僕は真正面から彼を打ち破った。それを誇りに思わなかったことは一度もない。

 

「ラース。マルコー大佐だけ残してほしい。──グラン准将は、いいよ」

「私はお前の小間使いではないのだがね。まぁ、よかろう」

 

 踏み込みも何も見えない。

 来る、と思ったのだろう。グラン准将は身構えて、けれど次の瞬間には血だらけになっていた。

 

 目を瞠る一同。最速名乗っていいと思うんだけどね君。

 

「ぐ、ぉ……!?」

「殺すかね?」

「ううん。これで終わりだから」

 

 垂らす。

 賢石浸透。赤い雨の成分を、倒れ伏す彼へと。

 その間にプライドがマルコー大佐を縛り上げた。

 

「要らないのに殺さないのは何故ですか?」

「僕も君達もいなくなったアメストリスで、人間の指導者はいた方が良いでしょ。マスタング大佐やアームストロング中佐は若すぎるし、アームストロング少将は錬金術への理解が浅い。適任だよ」

「成程。どうでもいい話でした」

「そりゃホムンクルスにとってはね。それじゃ、プライド。その六人を地下へお願い」

「私もあなたの小間使いではないのですが」

「お願いします、プライド兄さん」

「兄でもありませんが。……くだらないやり取りをしました。わかりました、いいですよ」

 

 OK。あとはメイ・チャンくらいかな、不確定要素は。

 ──それじゃ、最後の最期と行こうか。

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