面接終了後、別の部屋に移動してから3時間が経過した。俺はこの3時間ずっと同じことを繰り返している。これは魔王軍としての初仕事なのだろうか。この作業の繰り返しにどのような意味があるのか。俺には分からない。分からないが、繰り返すしかない。
なぜなら俺は洗脳されているから。勇者でありながら魔王軍に入った人類の裏切者だから。魔王様がやれと命じたからには、やる以外の選択肢は無い。
きっと馬鹿な俺には分からない深謀遠慮があるのだろう。魔王様は謀殺の二つ名を持つのだから。このまま無心で同じことを繰り返すことが、人類を滅ぼす最適解なのだ。
そう、俺は人類を滅ぼす。人類を救う為に旅立ち、数多の魔物と六柱の魔王を打ち倒した。そして、最後の魔王との戦いで仲間を亡くし敗北した。殺すべき魔王軍の味方となり、守るべき人類を滅ぼしに行くのだ。
生まれ育った村に残してきた家族も、あと……………友人……は、いないか。当然恋人もいなくて、えっと……恩師も、い……ないな。とにかく、人類を滅ぼすということは、家族も殺すことになる。あれ、家族ってもう死んだんだっけ?………あ、そうだ。村が燃えて家族が死んだから王都に行って、路地裏で寝てたら勇者がどうとかで王城に拉致されたんだ。1ヶ月も前だと思い出すのも大変だね。おっと、せっかくシリアス風で遊んでたのに我慢出来なかったよ。
「勇者よ、次はこれだ!」
「はい!」
まぁ、レヴィアタン様が楽しそうだからどうでもいいけどね!
で、勇者からレヴィアタン様の着せ替え人形にジョブチェンジした訳だけど、本当になんでなんだろうね。勇者であることを隠すって目的なら、髪染めて仮面つければ服とか何でも良いと思うんだけど。というか既に魔法で髪は染めたし。俺の顔誰も覚えてないだろうから仮面も意味無い可能性あるよね。
「次!」
「はい!」
レヴィアタン様楽しそう可愛い!
まぁ考えるのはレヴィアタン様に任せよう。俺馬鹿だし。レヴィアタン様が楽しいという意味がある時点で他のことは些事だから。
「ふぅ……大体30着ぐらいか。勇者はどれが良かった?」
お、突然の試練。俺のセンスを問われている。正直に言うと、どれが良いとかない。服とかどうでもいい。レヴィアタン様見てたから服あんま見てなかった。
しかし、レヴィアタン様を見ていたからこそ分かることがある。これは自分のセンスを見せる場ではなく、レヴィアタン様のセンスとどれだけ近しいかを問う試練。つまり選ぶべきはレヴィアタン様の反応が最も良かったもの。結論、24番目の服だ。
……どれだ、24番目の服。24番目のレヴィアタン様の反応は覚えているのに、肝心の服が分からない。いや、待てよ。レヴィアタン様の反応を完璧に記憶しているのなら、レヴィアタン様の瞳に反射した自分の姿すらも記憶しているはずだ。思い出せ俺!1ヶ月前のことを思い出せた俺なら出来る!
「……その、黒いやつです」
「そうか!お前もそう思うか!」
よっっっっしきたぁ!!!危なかった。人生の中で1番緊張した。これが死の圧……!流石レヴィアタン様だ。
「では、これを基にもう何着か合わせてみるか」
「はい!」
あ、まだやるんですね。いいけどね。うん。
魔王軍初日は服決めで終わった。予想外なんてもんじゃない。しかも結局試着した服全部貰ったし。選ぶ必要って……?いやまぁレヴィアタン様が楽しいなら何でもいいよ。いいけどさ。うん。
で、貰った服を持って与えられた部屋なう。机と椅子、ベッド、いくつかの収納。めっちゃ普通の部屋。俺の人生だけ見れば贅沢だけどね。歴代勇者の記憶見てると普通の中の普通って感じ。気楽でいいね。気に入りました。
部屋を軽く掃除して服を仕舞ってベッドにダイブ。柔らかい。疲れが取れて全回復しそうだ。お楽しみはないけどね。
しかし今日はびっくりした。人生がひっくり返ったし、これから世界の勢力図もひっくり返る。昨日まで魔王殺してさっさと帰ろって思ってたのに、まさかその魔王に協力して人類を滅ぼすことになるとは。
そういえば、なんで魔王殺してんだっけ。王様に言われたからってのはそうなんだけど、俺別に王様好きじゃないもんなぁ。人類滅ぼすのはレヴィアタン様に言われたからで、俺はレヴィアタン様が好き。うーん分からん。
勇者の加護とか……でも魔王を殺せなんて加護ないし。記憶探って歴代の勇者の戦う理由とか覗いてみるか。
えっと……求められたから、これはさっき違うって言ったな。生きるため、別に生に執着は無い。金、要らない。家族を殺された復讐、村焼いたのは人間だからこれも違う。未知の探究、興味無いかな。仲間の戦士が好き、これは魔王軍になる理由だしなぁ。
……あ、これだ。この理由はしっくりくる。なんだ、初代と一緒なのか。そっか、初代か…………うん。じゃあ、いいかな。人類裏切っても。サクッと人類滅ぼして、そして最後に──
良し、そうと決まれば心機一転!明日から頑張るぞ!
──────
勇者が魔王軍に入る。なんかとんでもないことになっちゃったなぁ。私は生きる為に必死だっただけなのに。
ま、難しいことは後で考えればいいから。今は勇者の服を考えよう!この勇者、意外と素材が良いから考えがいがある。与えられた素材をどう仕上げるか……私の腕が試されている。
と、意気込んでいたのが3時間前……え、3時間前?もうそんなに経ってたの?私この3時間ひたすら次って言い続けてたの?怖……
よし、今勇者が着替えてるので最後にしよう。流石にね。というか魔王モード剥がれてた。勇者に素の私を知られる訳にはいかない。威厳ある感じだ。威厳。
お、着替え終わ……ふむ。悪くない。いやむしろ良い。魔王軍としては黒を推したいがやはり勇者なだけあって白も中々捨て難くそもそも魔法で白髪に変えたのはそういう意図があってだからこそ黒が映えるのだが白で統一するのも悪くはないのであってそうだ私は赤を主役に黒を合わせているのだから勇者も赤黒でしかし私と同じというのもなんだか違うようなしかし洗脳魔法の関係で私の側近となるのだからそれもありでなら赤黒の比率を反転させるか髪色をもう少し拘るべきだったかそれより次は白黒で試してみてもいやだめだ最後にすると決めたはず……
「ふぅ……大体30着ぐらいか。勇者はどれが良かった?」
勇者も随分と拘束してしまった。洗脳されて断れないとはいえ、流石に私の趣味に付き合わせた申し訳なさがある。まさかこんなことで怒って洗脳が解けたり……え、しないよね?うん、しないはず。今してないし。大丈夫大丈夫……
適度に労わって勇者の好感度を上げるべきか?いや勇者が魔王に好感とかあるのか?でも人間ってそういう甘い部分あるし可能性は無きにしも非ず……なんか忠誠心高かったな。そっち方向でいくか。
というか勇者結構考えてるな。私の趣味に付き合わせたとか思ってたけどそうでもないのか?真剣に選んでくれるというのは中々嬉しいものだな。
「……その、黒いやつです」
「そうか!お前もそう思うか!」
やはり黒か。分かっているじゃないか。しかもこれは黒系統の中でも銀の装飾を組み合わせたものでこの装飾は私自らが魔力を込めた紅魔法石を使った一点物であり造形にも細かく口出しした拘りの装飾でやはり私のセンスを持ってすれば勇者をも無意識に引き付けてしまう魅力が──
「では、これを基にもう何着か合わせてみるか」
「はい!」
さぁ、夜は長いぞ!
やってしまった。私は一体何をしているんだ。馬鹿か、阿呆か。学院生の頃のようにはしゃいで魔王として恥ずかしくないのか?恥ずかしいに決まってるだろ。
結果として良いのはできた。それはもう私の趣味全開のやつが。冷静になって見ると顔から火が出るレベルのものが。もう勇者をまともに見れないかもしれん。こんなの学院生時代の日記を読み返した時以来だ……嫌なこと思い出した。大丈夫、あの日記は燃やした上に灰を空間魔法で消し飛ばしたはず。忘れるんだ。
そういえば、恥ずかしさを誤魔化すように今日着せた服と一緒に部屋に突っ込んだが、勇者は怒っていないだろうか。頼むから洗脳解けないでくれ。効果範囲の関係で隣の部屋にしたんだ。寝てる間に死にたくない。
それより明日のことを考えないと。城内の僅かな生き残りに命じて、各地に隠れ潜む同胞達に勝利を伝えさせている。明日以降その同胞達が順次城に集まってくるはずだ……部下が伝令に走っているのに私は何を……
また思考が逸れた。とにかくだ。勇者の脅威が去ったこと、魔王軍を再編し反転攻勢を行うこと、新たな側近を迎えたことなど……伝えるべきことは多い。
勇者が殺した3人の死体は晒しておけば良いとして、勇者の死体は……空間魔法で消し飛ばしたと言っても証拠が無いか。再編もどれくらい集まってくれるか次第だし、新たな側近が勇者だとバレるのもまずい。くっ……考える時間が足りない。今日をやり直したい……世界に干渉できる程の魔力さえあれば時間魔法を使うのに。
駄目だ。上手く考えられない。こういう時は何やっても無駄だ。寝よう。明日早起きして考えればいいから。頑張れ明日の私。おやすみ世界。
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勇者様が魔王討伐の旅に向かわれた日から、今日で丁度1ヶ月になります。歴代の勇者様方は、どの魔王を相手にしても討伐には至らなかったと聞きました。しかし今代の勇者様は、既に魔王軍に王手をかけています。正直私には実感が無いのですが、周りの人達は皆喜んでいます。
先代の勇者様と親交が深かったという元騎士団長、現軍部大臣のグレン様は複雑な心境なのか時折暗い顔をしています。先代勇者様の命を奪った魔王の城が、旅に出たその日に爆発し消滅した上に、次々と他の魔王の城が崩壊していけば、1ヶ月で心の整理をつけるのは難しいでしょう。
対して他の人はもはや人類の勝利を疑っておらず、勇者の凱旋をどのように執り行うかを話し合い始めています。上の人間がその調子ですから、国民達も活気に溢れて、経済もかなりの好景気となりました。
良いことばかりです。私も皆と同じように喜ぶべきなのです。でも、どうしても不安が消えてくれません。心の底から明るく振る舞うことが出来ません。
まだ終わっていないでしょう。まだ頑張っているのでしょう。なのに、誰も勇者様のことを考えていません。誰も勇者様を心配していません。勇者様に3人の仲間がいることを、一体どれだけの人が認識しているのでしょう。
過去を引き摺る軍部大臣、未来の利益を皮算用する財務大臣、勇者様に託けて騒ぎ立てる国民、毎夜別の女性を私室に連れ込むお父様……皆自分のことに夢中です。
なんて醜いのでしょうか。なんて悍ましいのでしょうか。なんて卑しいのでしょうか。人間という生き物は、何故こうも無価値なのでしょうか。もし勇者様が最後の魔王に負ければ……いえ、例え勝ったとしても王国は、人類は終わるでしょう。
いっそのこと、勇者様が人類を滅ぼしてくれればいいのに。信じて送り出した人が、人類繁栄の象徴が、利用してきた便利な道具が、自分達に牙を剥く。そんなことになれば、どんな顔が見れるのでしょう。どんな悲鳴が聞けるのでしょう。
勇者様はどうやって私を──バラル王国第一王女、ヴェロニカ=ルード=バラルを殺すのでしょう。楽しみで仕方がない。考えるだけで興奮してくる。きっと私はその時、心の底から笑えるはずです。
───あぁ勇者様、はやくわたしを