不死鳥の焔を胸に抱き、一対の呪いの朱槍を持ちながら。
「………俺は負けたのか」
辺りにはクレーターができ、立ち上がることも、ままならない。
魔力すらつき、歩けない俺の前に何かが現れた。
「ヒヒン」
貴賓に満ちた黒馬であった。
見たことのない馬であり、何処か落ち着く感覚がする。
「お前は………そうか…乗れと、言うのか」
頷くように首を動かす黒馬に、俺は跨がる。
鞍がつけられ、剣や数多の武器が乗せられている。どれも、訓練時代に見たものばかりだ。
「……」
何処か安らぎを感じる黒馬に身を任せる、行き先はこの馬次第だ。
――――――
モルガンは荒れていた、英霊に準ずる男でも、カルナという相手は悪すぎたのだ。
「我が夫……何故、何故」
「モルガン、あの男が心配ならここから消えろ、五月蠅くて叶わん」
「愚妹、良いでしょう。死にたいようですね」
「待て!私!モルガンも、かの御仁なら生きていると信じられぬのか!妻なのだろう!!」
アルトリアセイバーオルタに喧嘩を売られ、アルトリアセイバーに諌められる。
モルガンには屈辱であるが、仕方のないことだ。
「モルガン!!リョウマくんの反の」
「ロマニ・アーキマン!早く出しなさい!」
そこにはバイタルが微弱であるが、確かに生きている反応をするリョウマがあった。
「……我が夫!」
『その声は……モルガンか………すまない、負けてしまった。人では……神には勝てないと言うのか……くっ………つぅ……』
音声通信ながら、カルデアにはリョウマが瀕死である事が簡単に伝わる。
「何を言う!見ていた、伝わった、お前の意思を、私は最後まで」
『…すまない、敵だ』
『ほぅ、より戦士らしくなるか。愛弟子』
『………何度、かの屈辱を忘れようとしたか。フフッ…フハハハハハ!殺してやるぞ!!スカサハァァァァ!!!!!』
普段の声とは違う、狂気的な叫び。
モルガンは覚えていた、かつてリョウマが自身に語った言葉を。
「真に愛するために、俺は一人の女を殺さなければならない。その女を、我が師であるスカサハを殺した時、始めてモルガン、我が妻を真に愛せるのだ」
と。
「我が夫、負けることは許さん」
『当たり前だ、我妻よ。殺す、殺してやるぞ!!スカサハ!!!!』
――――――
スカサハは歓喜していた。
自身を殺せないと切り捨てた弟子は自身を殺すため、より献身し、より強く、より醜く、より狂気的になっていた。
捨てた頃よりも壊れ、まともながらバーサーカーの如き強さがある。
「そのボロボロの装備で私と戦うと言うか?リョウ」
「カルナとの連戦など関係無し、今やるべき事。それは貴様を殺し、我が因縁に終止符を撃つこと!」
リョウマのボロボロだった身体が燃え上る。
いや、進化だ。不死鳥の呪いは祝福となり、燃え上る翼がスカサハには視えている。
肉体はより強固になり、まるで死ぬたびに強くなるようだ。
「これは………面白い魔獣だ」
「疾!」
自身の知らない速度で踏み込み、ゲイ・ボルクを心臓に突き刺そうとしてきた最後の弟子にスカサハは腕を貫き落す事で返す。
傷ついた肉体は燃え上り、より強固な者に変わっている。
「どうした、」
「何、お前のその力は何なのかと思ってな」
「…妻を看取るまで死ぬことがない肉体。私はソレを考えた。よって願った、聖杯にな。私は、不死鳥の呪いと呼んでいる」
「不老ではないな」
「置いて死ぬ、病気でも死ぬかもしれん。だが、傷で死ぬことはない!」
リョウマはゲイ・ボルグを地面に突き立てると、それを軸にスカサハの胴へ蹴りを入れる。
「くっ、甘いか!」
「いや、良い具合だ。弟子よ」
スカサハは武器を置く、リョウマ自身疲労は既に限界を越えている。ここで戦うのは得策でないこと自体は理解している。
「この先にレジスタンスの村がある、一度安め。そして、最後に殺し合うぞ」
「良いだろう、我が師スカサハ。アトゴウラを刻み、かならずや」
それはリョウマの誓だった。
殺すこと、その為に何度殺されようが構わない。
師に捨てられた怒り、師に捨てられた憎しみ、師に捨てられた自分への怒り、師に見放された悲しみ、全てを打つけ殺す為に。
「……よぉ、生きてたか」
「………キャスター兄弟子」
「リョウマ先生!!」
「……お前達か………笑え、無様にもカルナに敗北し、殺すと誓った師に救われたのだ。滑稽だろう」
リョウマはそうボロボロの姿で話すが、誰もそれを貶すことはしない。
藤丸達の救出の最大の障害であるカルナを抑えたのはリョウマであり、間接的にではあるが脱出の手助けとなったのだから。
「手当をします」
「そうか……貴方はかのフローレンス・ナイチンゲール。無駄だ、私自身に傷はない」
「それは」
「俺は不死身だ、死ねば傷が治る」
そう呟いた瞬間、額に銃口が突きつけられ引き金が引かれる。だが空砲であり、軽い火傷をするだけだ。
「何をする気だ」
「わかりました、貴方は病気です」
「病気は貴女だ、いきなり」
「普通の人間なら平常心ではいられない。撃たれたのだから、だが…貴方は違う。貴方は死に慣れすぎている」
「どういう事だ?」
それはリョウマ自身理解していなかったことだ。
相手に言われ、初めて理解した事実。
「貴方は恐怖という感情を忘れている。それは感情疾患の一つ」
「ふざけるな!恐怖など、必要は」
「違うぜ、弟弟子よ。恐怖ってのはな、誰にでもあるもんだよ。だからこそ、克服し、より強くなる」
「……キャスター兄弟子!しかし、」
『リョウマ弟弟子、誰にでもあります。僕も、死ぬのは怖かった。でも』
「……俺は我妻の盾であり、矛なのだ!それが……それが……恐怖という無価値な存在に」
「理解できました、貴方は失われる恐怖は知っている。ではもう一度、今度は弾丸を込めています」
「ふん、そんなもので」
しかし間を置かずして、その弾丸は額を貫く。
「だから無駄だと」
「貴男の力は不死でしょう、しかし避けなくて良い訳では無い。もし、相手が不死殺しの宝具を持っていたら、もし、貴男の存在ごと抹消させる力があれば、貴方はそれを考えていない。不死の力を得てから、貴方は恐怖を忘れてしまった。恐れることを忘れてしまった」
「何が……」
「貴男は2つのことに盲信している。1つ、彼女スカサハを殺す事。そして、貴男の妻を守る事」
「当たり前だ、俺の」
「俺の……なんです?」
「我が妻を守るのは俺が……彼女を愛しているから。スカサハを殺したいのは………」
「見返したいからだ、そうだ……俺は捨てられた。お前に私は殺せないと、」
「お前、そんなくだらない事で」
「くだらない……確かにな。でも、兄弟子。俺は……俺は認められたかった!この女に、師匠に!アンタとは違う!俺を、俺自身を、最後の弟子として見てほしかった!だが、この女は常にアンタを、クー・フーリンを引き合いに出してきた、そうだ!俺は!クー・フーリンを越える、その証明をスカサハで満たす!クー・フーリンなら殺せる、巫山戯るな!そんな理由で捨てただと!なら、俺が殺す!そう決めた!そして!今ここに居る!ここに殺したいほど愛した師がいる!なんという運命、これこそだ!スカサハの死体の地を啜り、内臓を抉り、この槍を心臓に突き刺した時、俺の!俺の呪は消える!そして、そして……ぐっ………」
「落ち着け、連戦で疲労してんだろ」
「……ここまでの患者は見たことがありません。気絶させて寝かせます、良いですね」
《藤丸立香》
「殺すことへの妄執、恐ろしいですね」
「ナイチンゲール先生、でも、リョウマ先生は普段は優しいんだ」
「優しい?」
俺達にに英霊について教えてくれたり、カウンセリングしてくれる事をナイチンゲールに話す。
「危ないやつです、いつも牙を研いでる野獣。化け物ですよ」
そんな話をしようとした矢先に律花が邪魔をしてきた。
「律花、先生は俺達に親身に」
「わかってる!でも、お兄ちゃんもおかしいの!わかんないわけ?この男の異常性!理解できない!」
『律花、我が夫の』
「モルガンもそうよ、なんで?死ぬことになれすぎてる!なんで誰も悲しまないの?死んでるんだよ!」
「律花、先生は生きてるよ。それに、壊れてないんだよ。きっと、大切なものを真に守りたいから、自分を犠牲にできるんだよ。俺達、そんな先生に救われたんだよ」
「でも……おかしいよ!殺し合うなんて!聖杯を回収したら戻ればいいじゃん!何時もみたいにさ!!」
「……律花の嬢ちゃん、こいつはケルトの戦士なんだよ。それを理解しろとは言わねぇ。でもな、わかってやってくれや」
「そんなの」
「ミス律花、眠りなさい、貴女は休む必要があります」
「……ナイチンゲール」
「貴女は優しい、人が傷つくのを見たくない。そんな優しい人なのでしょう、救いたい、きっとそう思う心があるのでしょう」
「しかし、彼等にも信念がある。目的がある、それを受け入れ理解するのも必要な事です」
ナイチンゲールはバーサーカーとは思えない言葉で律花を抱きしめながら話している。
考えたら、律花は争い事なんて嫌いなんだ。本当は優しい女のコのはずなのに、こんな事になって、でも、耐えてる。
俺も耐えてるけど、それ以上に辛いんだ。
傷つくのも、誰かが傷つくもの、きっと。
「ナイチンゲールさん、妹を頼みます」
「立香、貴方はどうするのです?」
「皆と話してみます、大丈夫!俺、コミュ力強め男子なんで!」
俺は俺のできることをするんだ!これ以上、律花を苦しめない為にも。