風隠の刀使、荒魂を斬る   作:笛とホラ吹き

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12:姫和の不穏

「いやぁ……負けちゃったなぁ。どの辺で私の作戦に気付いてたの?」

 

「眼の動き。私のことを観察しているのが見えたから……きっと私の剣がどんな風に振るわれてるかは見破られてるものだと思ってた。でもそんな簡単に中断できるような技じゃないから……いっそのこと最後まで付き合うことにしたんだ」

 

「成程ぉ……深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだってやつだね!」

 

「……ま、そうなんじゃない?」

 

 可奈美が【紫電】に対応する傍ら、自分の剣筋を観察して反撃の機械を窺っていることを、百柄もまた彼女を観察して気付いていた。

 

 今は【紫電】を受け切ることで手一杯、でも最後には必ず、息継ぎのためにどこかで一度止まるタイミングがある。その瞬間を狙って踏み込んでくる相手を逆に狩るために、わざと一撃分の余力を残して【石切】を放つのが百柄の隙潰し。だからそれを利用してやろうと可奈美は構えていたのだが……

 

「【紫電】を受けるので精一杯なら、チャンスは最後にしかないからね。いつあなたが動いてくるかは流石に分かったよ」

 

 百柄もまたそこに罠を張っていた。実は可奈美の一回戦の試合で同じようなシチュエーションがあったのだが、その時も彼女は相手の利き腕を斬り飛ばすことで御刀を使えなくして勝利していた。だからまた同じ場面に出会った時、同じやり方で突破しようとしてくると睨んだのだ。

 

 持ち手を利き腕である左から右に変え、左腕は可奈美にくれてやることで油断を誘う。失敗した時のリカバリー案は考えていただろうが、作戦自体は成功しているのだからそれも使えない。動けない相手を斬るくらいなら、【石切】の破壊力のおかげで慣れない右手でも容易にできる。百柄は見事に可奈美を真っ二つにし、勝利したのだ。

 

「決勝、もう一人の平城の子……十条姫和ちゃんだったっけ?あの子とも戦ってみたかったけど負けたからには仕方ない!百柄ちゃん、あなたが負かした私達の分まで、しっかり戦ってきてね!」

 

「こちらこそ対戦ありがとう。衛藤さんが強かったおかげで、私もまた一つ成長できたよ」

 

「決勝戦、応援してるからね!あ、私の呼び名は可奈美でいいよ!」

 

「……可奈美。それじゃあ午後の決勝戦も、どうか応援してちょうだいよ」

 

 試合の後は固く握手を交わして、お互いの健闘を讃え合う。斬り合いを通して打ち解けた百柄と可奈美は名前で呼び合う仲となり、休憩を挟んで午後に行われる決勝も応援する約束を取り付けた。

 

 会話も終わり、可奈美は自分の応援に来てくれた美濃関のクラスメイト達のところへ行く。去り際に大きく手を振って別れた彼女に百柄もまた手を振り返し、姿が見えなくなったところで止めた。そのまま昼食の弁当を受け取りに行こうとするが、そこに何の用か姫和現れる。姫和が自分の方から訪ねてくることを珍しく思いながら、百柄は彼女に要件を聞くべく話しかけた。

 

「十条先輩、どうしたんですか?」

 

「ああ。特に用はな……いや、堀川さんは確かクラスで浮いていると言ってたのを思い出してな。なら一緒に昼食をどうかと思ってな」

 

「そうですか、お誘いありがとうございます。なら一緒にお弁当受け取りに行きましょう」

 

「……そうだな。混雑する前にさっさと行こう」

 

 何だか姫和の様子が不自然だが、まぁあまり自分を表に出さない人だしと自分を納得させ、百柄は様子を見ることにした。もしも他に何か自分に用事があるのならその時言ってくれるだろうと。今は弁当の方を優先しようと、そう決めた。

 

 弁当は思っていたよりもすんなりと受け取れ、2人は食べられそうな適当な場所を探し歩く。どこも既に多くの生徒達に陣取られており、最悪御屋敷の屋根の上にでも登ろうかと考えたが。その前に可奈美達と遭遇したことで、彼女らのグループと一緒に食べないかとお誘いを受けるのだった。

 

「あ!百柄ちゃーん!姫和ちゃーん!せっかくだし一緒にご飯食べよーよー!」

 

「どうします、先輩?」

 

「……断る理由もない、か」

 

 姫和に伺いを立ててみると、特に断る理由もないからと誘いを受けることになった。今までの彼女のイメージだと無視しそうなものだったが、普通に受け入れてくれたことを百柄は少し意外に思う。何かしら心境の変化でもあったのかもしれない。

 

 美濃関からの大会出場者である可奈美と舞衣以外にも、その友人達が何人かいたのだが。彼女らとも挨拶と自己紹介を交わしてから、レジャーシートにご一緒させてもらう。伍箇伝の学校同士ここでは腕を競い合うライバルなのだが、そんな関係でも険悪な雰囲気になることはなく和やかであった。

 

「ま、恨み節の一つ二つは言いたいけどね!舞衣も可奈美も堀川さんに負けちゃったんだから!」

 

「可奈美、十条さんとも戦うことを楽しみにしてたんだけどねー。決勝でしか当たれなかったのに、よりにもよって準決勝で……」

 

「勝負自体は紙一重だったから……」

 

「確かに負けちゃったのは残念だけど、百柄ちゃんとっても強かったし楽しかった!だから負けたことに関する悔いはないよ!みんなはああ言ってるけどあんまり気にしなくていいからね!姫和ちゃんには悪いけど、決勝は百柄ちゃんを応援するから!」

 

「……随分と仲良くなったんだな。これができるならどうして、平城では孤立しているのか」

 

「……それに関しては、ちょっとした思いつきにも耐えられない寮の軟弱さが悪いと思いまーす」

 

 いったい何のことかと可奈美達が興味津々で食いついてきそうだったので、百柄は適当なことを言って彼女らの追求をかわす。別に平城学館で自分が孤立していることを知られるのは別にいい。その理由が馬鹿みたいなやらかしの結果であるということを知られたくないだけなのだ。

 

 体調不良を治すために妖術を使おうとしたら、その体調不良のせいで調整をしくじり部屋をズタズタに破壊して、編入初日から反省文を書く羽目になるなんて恥ずかしい話は、できたばかりの友達には流石に知られたくないと思う乙女心なのである。

 

 そもそも、妖術のことを馬鹿正直に話せば確実に面倒なことになる。御刀の神力で代用して使えるのならまだいいが、それができないのなら自分の存在に強烈な違和感を覚えられることになるだろう。百柄は普通の御刀を持っていないため、それができるのかどうかを実験することができない。だから寮の事件のことも、ゴキブリに驚いてパニックを起こしたということにしているのだが……むしろそっちを知られる方が恥ずかしいだろう。

 

「決勝戦、どっちも平城って凄いよね!2人ともそれだけ頑張ってきたってことだし……平城には何か特別な修行法でもあるのかな?」

 

「そういうのは特にないんじゃないかな。私は剣術を習って半年も経ってないから、みんなに経験で追いつけるように練習を続けてるだけ」

 

「私も……特別なことはしていない。強いて言うのなら、幼い頃から刀使だった母に鍛えられてきたからということになるか」

 

「ほう……天才と英才教育って訳だね!」

 

 天才、そう言われると何だかむず痒いものを感じるのだが。百柄は普通半年足らずで剣術だけでなく刀使の技まで習得するのは、あり得ない速度だということを知っている。自分のやってきたことはまさに天才と呼ばれるに相応しい所業であり、ここまでで出してきた結果もまたそれを証明していた。

 

 ──それでもやっぱ、恥ずかしいんだよなぁ。

 

 百柄が剣術を身につけたのは、あくまで荒魂を斬るために。刀使を相手にして仲間割れのように刃を振るい、それで天才と持て囃されたところであまり嬉しさは感じないものなのだ。どちらかと言えば自分よりも七笑流剣術を褒められる方が嬉しい。

 

「2人とも、決勝戦頑張ってね!自分がその場に立てないのは悔しいけど……その分の念を込めて応援するから!」

 

「もう、それじゃ応援じゃなくて呪いじゃない」

 

「姫和ちゃんもそうだけど、特に百柄ちゃんは私達を負かして勝ち上がったんだから!ちゃんと私達の分まで楽しんでこなくちゃ許さないからね!」

 

「もちろん。私だけじゃない、この大会に出場した誰もが立ちたかった場所……そこに立った以上私は迷わない。私に剣術を授けてくれた師匠への感謝、私に刀使の戦い方を教えてくれた先生方やクラスのみんなへの感謝、私の前に立ちはだかる障害として全力で挑んできてくれた、可奈美達この大会で出会ったライバルへの感謝。そして……私が負かしてきたみんなの無念。全部の気持ちを刃に乗せて、私は戦ってくるよ」

 

「おおー!ばっちり覚悟決まってるね!」

 

 この大会を通して、百柄は刀使として大きな成長を果たした。使いこなせなかった【迅移】をはじめとする技を扱えるようになり、七笑流剣術との併用も可能になった。実戦経験豊富な先輩達との立ち合いの中で、目線や仕草によるフェイントや相手の少ない動作から次の動きを導き出す洞察力に、そんな中で相手を出し抜く駆け引きなどいろいろなことを学ばせてもらった。

 

 もともと、七笑流の強さを宣伝するために参加を決めた大会だったが。気が付けば百柄は七笑流の垣根を越えて多くの相手を吸収し、大会前よりも確実に強くなっている。そんな好敵手達の努力や願いを踏み潰して、百柄は決勝の舞台に立つ。多くの敗者に代わって戦う以上、半端は許されない。

 

 ──にしても十条先輩、様子がおかしいな。やっぱり決勝戦が何か関係あるのかな?

 

 戦う覚悟は決めた百柄であるが、一つだけ気になることがある。昨日の出発時からずっとどこか様子のおかしい姫和のことだ。思い詰めているようにも悩んでいるように見えるし、何かに悩み苦しんでいるように見える。聞いても話してくれないだろうし何があるのかは分からないが、どうでもいいことなら試合に持ち込まれても困る。どうせ分かることがないならと、百柄は姫和に一言声をかけた。

 

「十条先輩……あなたが何を思っているのか、何に悩んでいるのかなんて知りませんけど。試合が始まってもその様子が続くのなら、私は遠慮なくその隙突かせてもらいますよ」

 

「……そうだな。すまない、試合が始まるまでにはどうにか折り合いをつけるさ」

 

「しっかり楽しんできてね!」

 

「私達も、2人を応援してますから」

 

 まだ心配だが、姫和は試合までには冷静になってくれると約束した。ならば後輩としてはその言葉を信じて待つのが務め。それ以上姫和に対して何かを言うことはなく、百柄は姫和のことを知りたいと思う口と弁当箱を同時に閉じるのだった。

 

 決勝の試合会場に向かう直前、可奈美から激励の言葉がかけられる。百柄はそんな彼女らに振り返ることなくサムズアップを返し、意気を示した。いい試合をするから期待して見ていろ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜

 

「それでは折神家御前試合、決勝戦を行います。両選手は前へ」

 

「遂にこの時が来ましたね。平城の予選では見られなかったあなたの真の姿、見せてもらいます」

 

「……ああ、見せてやろう」

 

「双方備え。写シ……」

 

 互いに抜刀して構え、同時に写シを展開して試合開始に備える。

 

 

 

「……始め!」

 

 

 

 剣術大会、最後の試合が始まる。

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