風隠の刀使、荒魂を斬る   作:笛とホラ吹き

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27:お祭り

「わぁ……来てすぐなのに、お祭りに参加できるなんてラッキーだね!」

 

「うん、とっても賑やかだね」

 

 舞草に加入して数日、今日は隠れ里を賑わすお祭りの日である。みんな華やかな浴衣に身を包み髪を結っておめかししていたが、折神紫や大荒魂という敵がある中で、こうも浮かれててもいいのかという疑問もある。

 

 そうして苦言を呈するのは、姫和と舞衣の2人であったが。可奈美はお祭りなんだから浮かれて楽しまないでどうするんだと反論する。それでもまだ納得いかない様子の2人であったが、可奈美の意見を後押しするように味方は現れた。

 

 長船女学園高等部一年、益子薫。

 

 同じく高等部一年、古波蔵エレン。

 

 舞草の先輩として、可奈美達にいろいろと世話を焼いている彼女らの教育係でもある。2人が助け舟を出してくれたことで、可奈美は形勢が変わったと目を輝かせる。どうやら本当にお祭りを心ゆくまで楽しみたいと強く思っていたらしい。

 

「可奈美の言う通りデース!刀使にも息抜きは必要ですヨー☆」

 

「だいたい、しっかり浴衣着てんじゃん」

 

「よ、用意されてたから……」

 

「皆さんとってもお似合いですヨ!」

 

 浮かれるのはダメと口では言っても、浴衣は普通に着ているし、本当は楽しみたいというのが態度でバレバレである。それを指摘されて図星を突かれたことに顔を赤くする2人であったが、姫和の方はすぐに気を取り直して屋台の方へ向かっていく。

 

 何も言わずに歩いていく姫和に、可奈美はどうしたのかと問いかけるのだが。返ってきた答えには思わず笑顔を作ってしまった。

 

「……行くんじゃないのか?お祭り。浮かれるのは制服がクリーニングから戻ってくるまでだがな!」

 

「よーし、楽しんじゃおう!」

 

「まったくー、素直じゃないんデスから!」

 

「ツンデレってやつだな」

 

「そこ、うるさいぞ!」

 

「……照れ隠し」

 

「ふふ……私たちも行こっか、沙耶香ちゃん」

 

 たくさん並んだ屋台に向けて、みんなで思い思いに好きなところを回っていく。可奈美と姫和が最初に行ったのはチョコバナナ屋台。姫和が好物であるチョコミント味のチョコバナナを見つけ、テンションを爆上げしていたのを見た可奈美は、その組み合わせはどうなんだと思わなくもなかったが……嬉しそうだったので、黙っておくことにした。

 

「チョコミントバナナ……やはりチョコミントは市民権を得つつあるということか!」

 

「チョコミントはチョコミントで分けて食べた方が美味しいと思うんだけどなぁ……」

 

 舞衣とエレンは金魚掬い。小さく脆いポイ一つで大量に金魚を攫っていくエレンの業前は、不慣れな舞衣の技術とは比べ物にならず。舞衣が何とか一匹目を捕まえた頃には、エレンは既に十数匹を捕まえてたくさんの袋を両手いっぱいに持っていた。

 

「凄いね古波蔵さん、私は一匹掬うだけでへとへとなのに……」

 

「金魚掬いにはコツがあるんデース!次やる時は舞衣にもレクチャーしてあげマスよー!」

 

 沙耶香と薫は焼き物系の店を回る。とうもろこしや大判焼きなど美味しそうなものを、思い思いに買ってきては食べ歩く。大口を開けて楽しみにしていた焼きとうもろこしをペットにとられて、薫は大怒りで走ってどこかへ行ってしまったが。

 

「こらぁねねー!オレのもろこし返せー!」

 

「ねねー!」

 

「行っちゃった……すっごく速い……」

 

「待ちやがれー!」

 

 ねねは荒魂であるが、スペクトラムファインダーに反応しないという特殊な存在である。薫の属する益子家をある代からずっと支えてきた守護獣とされているが、守護獣として働いているところを薫は見たことがないらしい。今のところはただのすけべな畜生である。

 

 いなくなった者は置いておいて、それぞれ好きなことをしてきた後は再び集合して、今度はみんなで一緒に出店を回る。戦うべきその日がいつ来るのかはまだ分からないけれど……その時がいつ来たって可奈美達は戦える。

 

「はい沙耶香ちゃん!わたあめも美味しいよ!」

 

「りんご飴もあるよ」

 

「うん……美味しい……」

 

「楽しんでくれて良かったデスねー!」

 

 しっかりと、英気を養っていった。

 

「次、あの射的やってみたい……」

 

「それじゃあ行ってみようか?」

 

「景品たくさん打ち取っちゃおう!」

 

「ねへへへへ……ねねー!」

 

 今度は射的に向かおうと話していた沙耶香と舞衣のところへ、いつの間にか逃げ仰せていたねねがその胸の中へと飛び込んでいく。ターゲットは舞衣の年齢は相応に育った胸。ねねは大きな胸やそうなる将来性のある胸が大好きなのだ。

 

「ね、ねねちゃん!?あンっ……ちょっと、そんなところ触っちゃダメ……!」

 

「はは、舞衣ちゃんふかふかで柔らかいもんね!」

 

「ええ……止めないの……?」

 

「少しは自重しろ、この荒魂!あまり他人に迷惑をかけていると投げ捨てるぞ!」

 

 ふかふかの感触を楽しむねねであったが、その様子を見かねた姫和によって舞衣から引き剥がされ放り投げられる。困っていた様子の舞衣を助けようとした行動だが……その行動原理にはおそらく、自分はされたことがないという恨みも入っている。何せねねは、小さく将来性のない胸には興味を示さず見向きもしないのだから。

 

「おい!ねねはオレのペットだって言ってんだろうがこのエターナル胸ぺったん女!」

 

「はあ!?誰がエターナルだって!?」

 

「お前しかいないだろ!」

 

「あはは……あの、ありがとう……」

 

 低レベルな争いを尻目に、神社の方では祭りのメインイベントが行われようとしていた。御神体としてノロを祀り、安らかな眠りに着いてもらえるよう祈る……刀使の起源でもある巫女が執り行う、とても大事な式である。

 

 そもそもノロとは、御刀の原料となる『玉鋼』という鉱石を精錬する工程の中で分離された不純物のことを指す。出涸らし的なものとは言えノロだってあくまで神聖なもの、普通にやって消滅させられるものではない。加えてノロは結合しやすい性質も持っており、これらが合わさることで『荒魂』となる恐れが出てくるのだ。

 

 日本が近代化していくにつれて、ノロにも軍事利用のために目をつけられるようになった。当時の折神家によって、各地の社に祀られていたノロは回収され研究のため管理されるようになる。そうしてだんだんとタガが外れていき……その驕りのツケが、20年前の相模湾大災厄に繋がることとなる。

 

「ノロの結合……スペクトラム化が進む程、彼らは知性を獲得していった。『荒魂が人間以上の知性を得る』という、20年前の大災厄で隠蔽された真実がそこにあったんだよ」

 

「ノロが……知性を」

 

「つまり、ノロをたくさん集めたら頭のいい荒魂になっちゃったーって、そういうこと?」

 

「平たく言えばそういうことだな。これから我々が戦おうとしている相手はただの荒魂ではない……ともすれば神にすら等しい存在かもしれないな。彼らの眠りを妨げてはならなかったんだ……彼らは人が御刀を手にするために、無理矢理産み出された犠牲者なのだから。ちゃんと見ておきなさい……刀使として御刀を手にする以上は、巫女としての務めも君達は継いでいかなければならない」

 

 リチャードの言葉を聞いて、巫女としての務めを強く意識するようになった可奈美達。しかし可奈美は何かの違和感が、喉元まで引っ掛かるような感覚を覚える。それが何なのかを記憶の中から探り出していくと、答えは割とすぐに見つかった。

 

 それはこの場にいない百柄のこと。百柄が使っている妖術の源である妖力は、彼女が荒魂に襲われて死にかけた時に入り込んだノロが、命を助けられた時に変質したものだと言っていた。そして逃亡中に戦った追っ手の皐月夜見も、恐らくノロを自身に注入した上で妖術を扱っていた。それらはノロが御刀で祓う以外では、消滅させられないというこれまでのこととは矛盾する。

 

 このことをリチャードに質問してみたが、答えを返したのは彼ではなく、あちらの世界の人間でより妖力に詳しいドクトルであった。

 

「妖力に変わったところで、それが本来人間の持たない力であることは変わらない。妖力を手にするということは少し極端だが、人間であることを止めるということでもあるんだよ。可奈美君と姫和君が戦った折神紫の親衛隊が、海王バローロに意識を乗っ取られてしまったように……どのようなリスクが降りかかるかが分からない。私としてはおすすめしたくはない方法だね」

 

「成程ぉ……ん?じゃあ、その妖力を特に何事もなく使ってる百柄ちゃんって実はヤバい?」

 

「百柄君のことは君達の話でしか知らないから、断言することはできないが……恐らく彼女が妖力を得たのは天狗達が支配する風隠の森だと思う。あそこで死にかけた人間を治せるものといえば、陰陽の龍が落とす鱗や、森の支配者である魔王が巻き起こす癒やしの風くらいしか思い浮かばないな。話によれば彼女が使うのは天狗の妖術……何事もないということはつまり、百柄君はもう半分天狗と同じような存在になっているということだろうね」

 

「百柄ちゃんは天狗だったのかぁ……だからあんな風に自在に風を操れたんだね」

 

 百柄の強さの理由に納得すると同時に、タギツヒメの強さを想像し身慄いする。それだけでも多くのノロが融合し産まれた大荒魂……それが、別世界の強力な力と共に蘇るのだ。百柄を強者たらしめる天狗の妖術や、皐月夜見の水を操る妖術にも勝るとも劣らないだろう妖術を引っ提げて。いや……ドクトルのように妖術以外の力かもしれない。

 

 そう思うと少し恐怖が湧いてくるが、可奈美は覚悟を以てその身慄いを止める。相手が誰であろうとどれだけ強大であろうと、可奈美は既に戦う覚悟はできているのだ。

 

「ドクトル、どうか……力を貸してくださいね」

 

「もちろんだよ。タギツヒメを斬るために最前線で戦うことになるだろう君には、こいつをプレゼントしておこう。姫和君の分も渡しておく……きっと心強い味方になってくれるはずさ」

 

「植木鉢……ですか?」

 

「ただの植木鉢じゃあない。植えられている球根は大樹竜ルートドラゴンという、私達がいた世界のドラゴンの卵なんだ」

 

 ドラゴンの卵、その言葉に可奈美はテンションを高調させていく。絵空事かノロが姿を模すだけの存在でしかなかったドラゴンが、自分達の味方となり一緒に戦ってくれるというのだ。それでテンションが上がらない訳がないのである。

 

「ありがとうございます、ドクトル!この球根も大事に育てて立派に成長させて見せます!」

 

「頑張って。御刀の神力を与えると成長が強く促されるそうなので、常に側に置いておくと育ちやすくなると思うよ。……祭りが終わるまではまだまだ時間はある、最後まで楽しんでくるといい」

 

「はい……行ってきますね!姫和ちゃーん!」

 

「ふふ……」

 

 もうすぐ祭りの時間は終わるが、まだまだ回っていないで店はたくさんある。可奈美はそれらもみんなで制覇してやろうと、姫和達みんなを連れて元気良く駆け出していった。

 

 使命を忘れて楽しめるのは今だけだけど……またみんなでこんな風に、楽しい時間を過ごせたらそれはどんなにいいことなのだろうか。そんなことを考える可奈美なのであった。




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