風隠の刀使、荒魂を斬る   作:笛とホラ吹き

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30:大荒魂顕現

「うっ……がっ、あああぁっ……!」

 

「結芽ちゃん……っ!」

 

「可奈美、妖術で治せない……!?」

 

「……ッ!やってみよう!」

 

 最期の斬り合いは可奈美の勝利で終わり、最後の一滴まで力を使い果たした結芽は、糸の切れた操り人形のように力無く倒れ伏す。そこにもうヘリコプターで飛び込んできた時のような、エネルギッシュな雰囲気はどこにもなく。今にも消えてしまいそうなくらい弱々しくなっていたのだが……実際にそうなるのだと可奈美と沙耶香に告げるように、黄色と黒のオーラが暴走を始めた。

 

「アハ……大丈夫だよ、おねーさん」

 

「結芽ちゃん!今は喋ったら……!」

 

「変な力に手を出したから……そのバチが当たったんだよ。こうなることは……分かってた」

 

「ダメ!絶対助けるから!」

 

 もともと、ノロでも体調の維持が満足にできなくなった時の最後の切り札である。紫もいざという時以外は絶対に使うなと念押ししていた力、何かしら反動があることなんて分かっていた。

 

 外付けの力に頼って暴れたツケを払うだけ、だから何も可奈美達が気にすることはないのに。可奈美も沙耶香も決して結芽を消えさせまいと、やったこともない妖術に全力を尽くしている。しかし所詮は猿真似の風。悪鬼に魂を差し出す代償を覆すような出力にはなり得ない。神力を無駄遣いしながら結芽が消える様を見ていることしかできなかった。

 

「もう……やめておけ。彼女は私が看る」

 

「綾小路の……相楽学長」

 

「早く行け、こんなところでのんびりしている暇はないはずだ。さっさと仲間達の元へ戻れ」

 

「っ…………はい!」

 

 もう何も言うことはない。2人は学長の言葉に従って潜水艦に向けて走った。力はあったのに何もできなかったという、後悔と無念を連れて。

 

 

『選ぶがいい。このまま朽ち果て誰の記憶からも消え失せるか──それとも、刹那の間でも光り輝きその煌めきを焼き付けるか──お前を見捨てた全ての者達に』

 

 

「もう……おしまいかぁ……」

 

「……」

 

「負けちゃったなぁ……みんなにもっと、もーっと凄い私を焼き付けてやりたかったのに……」

 

「結芽……楽しかったか?」

 

 身体が朽ち果てていく中、結芽を抱いて相楽結月は歩いていく。醜宴を終えた彼女の身体はもう半分も残っておらず、ただでさえ軽かった体重は持ち上げるのにも片手で足りる程になっていた。

 

 いろいろな相手に勝って勝って、勝ち続けて己の価値を世界に刻みつけるのが、結芽の望みだった。

 

 最期の戦いは敗北に終わった、歓迎するべきではない結果かもしれないが……死にゆく中でこんなにも笑える彼女を見たら、結月にはもう何か気の利いたことを言ってやることもできない。だから交わす会話はただ一つ……その人生は結芽にとって、幸せなものであったのかということ。

 

「──────────うんっ!」

 

 その答えは、聞くまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜

 

「観念しな、タギツヒメ……もう新しい手下を生み出すノロもないみたいじゃないか」

 

「この我が……人間、如きにィ……!」

 

 隠世での百柄とタギツヒメの戦いは、百柄の優勢でそろそろ決着が着こうとしていた。頼みの綱である【覇星剣】も切り札だった【星辰の一撃】も百柄を倒すには至らず、逆に返り討ちに遭う。そこからはノロを切り離し荒魂に変えてけしかけつつ、隙ができたら攻撃を仕掛けるというヒットアンドアウェイ戦法をつかっていたのたが、それも見事に対処されてしまった。

 

 あまり小さくすると【太郎坊の大風】で近付く間もなく消滅させられてしまい、大きくしようするとノロの消費が激しく、自分が戦える頭脳と身体を維持できなくなる本末転倒な事態となる。ジリ貧の状態をずるずると続けている内に、ここまで追い詰められてしまったのだ。

 

 ──何か、小さくなってるような……弱体化してるって訳ではなさそうだけど……

 

 余裕のあるようなセリフを吐いてはいるが、百柄にも警戒していることがあった。タギツヒメの身体が最初の頃よりも明らかに縮んでいるのだが、力が全く落ちていないのだ。

 

 ノロを失って弱まっているのなら、ジリ貧になんてならず瞬殺されていたはずだが。事実タギツヒメはここまで粘り、まだ百柄にトドメの一撃をやらせないでいる。少なくともまだ何か、隠していることがあると見ていいだろう。劣勢になっていることに憤るような言葉は、それを悟らせまいとするカモフラージュと見るべきか。

 

「【呪剣──」

 

「【天翔る剣──!」

 

「──────────アメノハバキリ】」

 

「スタァ……ぐあああっ!」

 

 七笑に祟りを纏わせ、強化された刃で敵を斬り裂く【呪剣アメノハバキリ】をモロに食らい、タギツヒメは傷口から大量のノロを噴き出しながら苦悶の叫び声を上げる。演技であるならばあまりにも迫真過ぎる叫びは、百柄に今の攻撃はちゃんと有効打になったと確信させた。間に挟まったことでタギツヒメを守るように御刀はへし折られ、戦う術も奪うことができた……しかし当のタギツヒメ本人は、その土壇場の中でも余裕の笑みを崩さなかった。

 

 ──やっぱり、何か隠してるな……奥の手を切られる前にここで終わらせないと!

 

 タギツヒメが何を企んでいようと、決して何もさせないよう百柄は追撃の力を溜める。刀身に纏わりつく妖力と祟りが雷鳴の軌跡となって弾け、これで後は思いっきり振り下ろせば……七笑流【明星】の完成である。

 

「……っ!外した!?」

 

「ははは……貴様が我を警戒して、力を出し惜しんでいてくれたおかげだな。最早この場の我を斬ったところで、タギツヒメは終わらぬ!貴様は我の力を見誤ったばかりに、我を祓うことのできる千載一遇のチャンスを手放したのだ!」

 

「何だと……ッ!!?」

 

「最早隠世にも用はない。私は本体を現世の折神紫の元へ移した……20年刀使共にコツコツと集めさせたノロで、我は完全復活を果たす!貴様が付けた傷も癒える……全て無駄に終わるのだよ!」

 

 百柄と戦っている中で、タギツヒメは本体の機能を折神紫の中にいる分体に移動させていた。このまま百柄と戦っていても勝ち目はないと踏み、ある種の賭けに出たのだ。

 

 百柄に最初から【呪剣アメノハバキリ】のような大技を使われていれば、タギツヒメはなす術なく祓われていただろう。しかし百柄は大荒魂の未知なる力を警戒し、一気に力を解放するというようなことを控えていた。その慢心とも取れる立ち回りをしてくれたおかげで、タギツヒメはこの作業を行うだけの余裕を得ることができたのである。

 

 ──くそ、やられた!

 

 出し抜かれていたと知り、百柄はすぐに現世に戻って折神紫の方を斬りに行こうとするが、それを阻止するための手駒をタギツヒメは揃えていた。『あちらの世界』で力を得るために回らせていた現世のとは別の分身が洗脳し連れてきた、あちらの世界の名だたる強者達。それらが百柄が現世に向かうことを阻止するべく、彼女の前に立ち塞がる。

 

 

 スサノヲの子孫『ミコト・ヤマト』

 

 闇に堕ちた愚王『狂王マルドク』

 

 暗黒を振り翳す剣士『魔界騎士エッジ』

 

 陰陽を束ねし者『渾沌龍タイチーロン』

 

 

 単体でも一筋縄ではいかぬ強者を、全て撃ち倒さねば百柄は現世に戻れない。更にそれだけではなく追い打ちをかけるように、百柄も知っている制服と知らないアーマーを着けた、複数人の刀使もやって来て百柄に刃を向ける。

 

 ──あの制服、確か綾小路の……!

 

 面倒なことに、彼女らを斬り殺しては百柄の人を守るために荒魂を斬るというアイデンティティが崩壊してしまう。だからあちらの世界の戦士達はともかく、刀使を殺すなど論外なのだが……それをするにはあまりにも骨が折れるし、時間が足りない。

 

「残念ながら、我では貴様には勝てんようだ。だから此奴らと遊ばせてやる。せいぜい楽しんでくるといい」

 

「待て、タギツヒメ……ッ!」

 

「あの方の元へは、行かせん」

 

「あまり私を舐めるなよ……すぐに終わらせる!」

 

 現世に消えていくタギツヒメを追えず、百柄は行く手を阻む彼らと戦うことになる。すぐにでも終わらせてタギツヒメを追うべく、百柄は祟神としての力を全開にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜

 

「みんな、遅くなってごめん!」

 

「何とか無事に戻って来れた……」

 

「可奈美ちゃん、沙耶香ちゃん!」

 

「君たちは無事だったか。良かった……各地に潜伏中の舞草のメンバーと連絡が取れない。それどころか長船と美濃関に、平城までテロリストへの関与の疑いで封鎖されたようだ」

 

「……真庭学長は?」

 

「すまない……わからないんだ」

 

 どうにか欠けることなく集合できたが、状況はかなり悪くなっている。伍箇伝は折神家の息がかかっていなかった三校が封鎖され、そこに通っていた刀使は御刀を没収されることとなる。この隠れ里以外にもいた舞草のメンバーも連絡が付かず、既に機動隊にやられていることが予想される。対折神紫にかけられる戦力は大幅にダウンしていた。

 

「……………!?」

 

「何だ、この感覚……!?」

 

「分かりまセン、こんなの初めてデス!」

 

「ど、どうしたんだ!」

 

 意気消沈しているところに更に追い打ちをかけるように、刀使だけが大きな地震のような衝撃を受ける感覚を体感する。この衝撃の正体を唯一知る朱音はもうこの時が来たということを知り、こんな時に起きるなんてと絶望する。

 

 そう、これは大荒魂出現の前兆なのである。

 

 この現象が起きた以上、もう大荒魂討伐に一刻の猶予もない。この20年の間に折神家が集めたノロの量は、大災厄の時を優に超える。しかし伍箇伝は封鎖された上に、舞草はほぼ壊滅。刀使に戦える者は結芽のせいで可奈美達しかおらず、ドクトルのロボも零式以外は、戦闘にはあまり向かないタイプのものばかり。

 

「打つ手なし、だ……!」

 

 悔しそうにそう言うリチャードに、姫和も反応し拳を強く握り込む。しかし可奈美はその手を更に優しく包み、緊張を和らげてやった。

 

「大丈夫……重い荷物も6人で持てば、かなり軽くなるものだよ」

 

「あなた達、まさか……」

 

「ゴエイ、センドウハワタシニオマカセヲ」

 

「頼んだよ零式。私は要塞型四式のエネルギーチャージに入るから……どうかお前の力で、あの子達を導いてやってくれ」

 

 確かに舞草は壊滅した。援軍を期待できた伍箇伝も封鎖されて身動き取れなくなった。しかしそれは戦いを放棄する理由にはならない。

 

「6人分のS装備を託す!どうか……タギツヒメを討ち、世界を救ってくれ!」

 

「あなた達だけに命運を任せることを、本当に申し訳なく思います。どうか……皆さん無事に帰ってきてください、私達の最後の希望よ」

 

「部下が私達の世界の力を使っていたんだ……タギツヒメが使ってこない道理はないだろう。どんな未知と相見えようと、覚悟だけは失わないようにね」

 

「はい……行ってきます!」

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