風隠の刀使、荒魂を斬る   作:笛とホラ吹き

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32:VSミコト・ヤマト

「ギャアア!」

 

「下がってなシロッチ。こいつは私だけでやらせてくれるかい?」

 

「ギャア!」

 

「てめェ一人だと……!?舐めてんじゃねえぞ!」

 

 ヤマトとも戦う気なシロッチを下がらせ、百柄は単騎で彼と向き合うことにした。それを舐められていると感じたヤマトは、百柄に対して青筋が切れて額から血を流す程の怒りを見せる。とはいえシロッチを下がらせた理由は、ヤマタノオロチを対タギツヒメの戦力として見ているからであるため。別に彼を侮っている訳ではないのだが。

 

 そんな事情を知るはずもないヤマトは、草薙剣を振るい百柄と互角の斬り合いを繰り広げる。しかし祟神となった百柄にも勝るパワーで、ヤマトは次第に有利を引き寄せていく。刃が重なり合う度に強くなっていく力に百柄はその源泉を探るが、そんなことをさせてくれる程、ヤマトは甘くはない。

 

「業剣【クサナギ】ィ!」

 

「がっは……この、やってくれるね!」

 

 力の源泉を探る、そのためにヤマトの攻撃から意識を逸らしてしまったことで、その油断に草薙剣の一突きをモロに受けてしまう。胸の上辺りから肩の方までを貫通し、刃の抜けた傷口からは呪いの影響かドス黒く染まった血が噴き出していった。

 

 もし反対側に受けていたら、痛みで刀も握れなくなっていたであろうダメージ。【癒やしの風】なら回復することはできるが、それでもバカにならない傷を負ってしまった。

 

 ──油断したなぁ……しっかし、最初に見た時はここまでの力は感じなかったのに。いったいどこから力を得てるっていうんだ?

 

 タギツヒメの兵士として最初に現れた時、ヤマトからは今程の力は感じられなかった。だからこうして最後まで放置され、残されたのだが……今の彼はこの通り、百柄にも勝る力がある。踏ん張り切れなかったせいで力負けした、最初の技の撃ち合いとは違って。今度は純粋に相手のパワーに耐え切れずにやられてしまったのだから。

 

「【横一文字】……七笑流、【一閃】!」

 

「御先祖様の猿真似がァ……そんなモノで打ち勝てると思うな!【ヤキヅナギ】ィ!」

 

 スサノヲの技、全体重を刀を横長にする一振りに乗せて放つ【横一文字】。それを【一閃】に応用することで、百柄は七笑流最速の技に更なる重みを与える。伝説に聞く先祖の技を下敷きとして使われたことにヤマトは激怒し、草薙剣の軌跡に立つ火柱は怒りを燃料として更に火力を増した。

 

 ──成程、あの冠がそうか……ッ!

 

 またしても打ち負けた上に、着物の袖を焼かれて百柄の焦げた左腕が露出する。しかし今度はタダでやられた訳ではなく、ヤマトの強くなっていく力の源泉を見つけ出すことができた。ヤマトが被っているあの冠がそうであるようだ。

 

 なんの変哲もない飾りのような面だが、ヤマトが感情を昂らせる度に禍々しいオーラを発して彼に力を与えている。そしてその度にヤマトは昂ったまま気持ちを抑えられなくなり、どんどんその昂りの向くままに暴走していく。アレを放置しておけばそのまま心が限界を超えて憤死してしまうだろう。彼は恩のスサノヲの子孫であるし、あんな厄介な物自分から付けるとは考え難い。ほぼ確実にアレを通してタギツヒメに操られていると思った方がいい。

 

 そうと決まれば、百柄が目指すべきはあの冠を破壊すること。マルドクが心の内にある邪悪を破壊されて正気に戻ったように、ヤマトも冠さえ無くなれば元に戻るかもしれない。

 

「狙うは頭、か……簡単にはいかないな」

 

「何をぶつくさと……くっちゃべってんじゃ、ねぇぞ!業剣【クサナギ】ィ!」

 

「っ……【山吹の風】!」

 

「そんなそよ風が……効くかァ!!」

 

 祟神に勝るとも劣らない、業剣【クサナギ】に込められた膨大な量の呪い。無い地面に踏み込みでクレーターを作る圧倒的な脚力と、並の剣ならば柄を握り潰される握力が呪われた剣を支え、百柄の剣も風も意に介さず斬り裂く圧倒的な一撃となる。

 

 どう狙うかを考えている間に迫る一撃に、百柄は【山吹の風】で迎撃を試みる。物を浮かせて運ぶことに特化した山吹色の風で、草薙剣を浮かせて何とかできないかという期待だったが。普通に失敗して刃に眼前まで迫られてしまった。

 

「呪剣【アメノハバキリ】!」

 

「互角、か……所詮は紛いもん、御先祖様には遠く及ばねえカスだ……気に入らねえ!」

 

「さっきから聞いてりゃ、御先祖様御先祖様……!そんなにスサノヲ様が特別か!?」

 

「あいつの武名が轟く限り……俺は御先祖様の添え物にしかなれねェ!武名を轟かせるのは……あんたじゃない!俺なんだよ!」

 

「ガキが……わがまま言ってんじゃないよ!ていうかそういうことは、本人に直接言いな!」

 

「分かったような口を……聞くなァ!」

 

 呪剣【アメノハバキリ】と、業剣【クサナギ】の力は互角。それがヤマトにはいたく気に入らない様子であり、スサノヲと比較しては百柄では足りないと彼女をこき下ろす。百柄としてもこの場にいない人間と比較されることも、それで勝手に失望されてこき下ろされるのも不愉快なこと。2人の戦い模様はまるで、子どもの喧嘩のようにしょうもないものとなっていた。

 

 呪われし二振りの刀が撃ち合い、互いに持ち主の腕を弾き飛ばす。何度も何度もそれこそ馬鹿の一つ覚えのようにそれを繰り返して、コイツには負けたくないと意地を張り合うのだ。冷静に考えなくとも他にいい手段はいくらでもあるだろうに、彼女らはそれでも打ち勝つことにこだわった。

 

 

 

 

 ──御先祖様の影がチラつくこのガキに。

 

 

 

 

 ──力不足を他人のせいにするわがまま野郎に。

 

 

 

 

 ──絶対、負けられない!

 

 

 

 

 タギツヒメにより着けられた【マガツヒの冠】によって、ヤマトの中のスサノヲへの嫉妬心や劣等感が増幅されてしまっている。抑えつけていた気持ちが表に出てきているだけだが、この気持ちに折り合いをつけられない限りは例え、冠を破壊したとしてもヤマトはどうにもならないだろう。ムカつく相手とはいえ、荒魂に洗脳されている被害者をただ斬るだけで終わらせようとは思えない。百柄はヤマトのことも救うつもりでいた。

 

 負けられないことに変わりはないが、それ以外の思いだってもちろんあるのだ。

 

「【ヤキヅナギ】ィィィィ!」

 

「【練気】──七笑流【石切】!」

 

「チィィ……!吹き飛べや、業剣【クサナギ】!」

 

「呪剣、七笑流──【石切】ィ!」

 

 燃える剣と、【練気】によって強化された剣の一撃は完全に相殺され2人の手が残る。そのまま体勢を整えてもう一度渾身の一撃を放てば、今度は両者共に弾かれることなく鍔迫り合いが始まった。

 

 マガツヒの冠がヤマトに力を与えるように、祟神の呪いも百柄の血肉に変わる。今や互いの力関係は完全に互角の状態となっており、勝負を決めるのはどちらが最後まで意地を張り切れるか、というところにかかっている。

 

 そうなれば、どちらが勝つのかは明白だろう。

 

「グッ……ウウウウウゥゥ!!」

 

「私の……勝ち、だ!」

 

 鍔迫り合いを制し、ヤマトが握る草薙剣を弾き飛ばした百柄。勢いそのままに七笑をマガツヒの冠目掛けて振り下ろす。ヤマトを操り力を与える呪いの源泉だけあって硬く、【石切】でも一撃ではヒビを入れるだけに留まったが。それ以上に百柄に打ち負けたという事実が、ヤマトの心にヒビを入れた。

 

「クソ……俺は……俺は!」

 

「その後をちゃんと言え!」

 

 脳天から突き抜ける衝撃を受け、ダメージの大きさにヤマトはたたらを踏む。だが身体と冠に受けたダメージ以上に、スサノヲの紛い物でしかない百柄の攻撃にやられたことによる精神的ダメージの方が彼の中ではより多くを占めていた。

 

 頭上から滴る血を拭くのも忘れ、弾かれてその辺りを舞っている草薙剣に目を向ける。よたよたとした足取りで、手放してしまったそれを再び握ろうと歩を進めるが……そうは百柄が許さない。

 

 千鳥足な内に冠を破壊するため、間合いを詰めてヤマトを手で、足で、刀でボコボコにする。あまりの硬さに少しずつしかヒビが入らず、舌打ちをする百柄であったが。それでも亀の歩みでも破壊を進めることはできているので、諦めずに何度も抵抗するヤマトごと冠を打ち据えた。しかしどうしても少しずつしか壊せない焦りがでたか、ヤマトを冠ごと蹴り飛ばした方向を、草薙剣が揺蕩っているところにしてしまった。

 

「あ、やっべ……ミスった」

 

「さっきから好き勝手やってくれやがって……御先祖様はもう関係ねェ!てめェはこいつでぶち殺してやらァ!!【大禍津火剣】!」

 

「……今が一番、いい眼をしてるね。【祟神剣】」

 

「灰になれやァァァ!!」

 

 草薙剣に呪いの文字が刻まれ、禍つ火を纏って巨大化した刃が百柄を襲う。プライドも対抗心もコンプレックスも、全てをかなぐり捨てて放った全力の一撃。百柄もまたその全身全霊を全力の呪いを以て正面から迎え撃つ。祟神の呪い文字を呪剣【七笑】に刻んだ【祟神剣】は草薙剣と交差し、その刃を完全にへし折り消滅させた。

 

 呆気に取られる暇もない。最強最高の一撃が破られたことにショックを受けるよりも先に、百柄の追撃がマガツヒの冠を襲う。何度も何度も執拗な攻撃を受けて耐久が限界に達していた冠は、ついに堪え切れず音を立てて粉々に崩れ落ちた。

 

「……俺は。俺の剣は、どうだったか?」

 

「強かったよ。あなたならスサノヲ様だって超えられるはずさ。だから……これからはあんなものには頼らず、自分の力で歩いてみな」

 

「……そうか。……ありがとうよ」

 

「あんまり強くなり過ぎるもんだから、消耗が凄くなったよまったく……恨み言しか出ないよ、もう」

 

 マガツヒの冠が破壊されて正気に戻ったか、ヤマトは少し考えるように立ち止まり百柄に問う。いくら研鑽を積んでも『スサノヲの子孫』としか見られないコンプレックスが、タギツヒメに操られてしまう隙を作った。百柄の言葉はヤマトのその心を蝕んでいた劣等感を、的確に消し去ってくれた。

 

 力は冠に与えられたものでも……それを扱う技量と耐え切った器は、紛れもなく彼が最初から持っていたモノなのだから。

 

 劣等感と支配から解放され、ヤマトは満足したような顔で隠世から消えていく。その後ろ姿を見届けた百柄は、想定以上の消耗をさせられたことへの文句を土産として渡したのだった。

 

「さて……終わったよ、シロッチ。さっさと現世に戻って十条先輩達の助太刀に行こう」

 

「グァァ!!」

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