風隠の刀使、荒魂を斬る   作:笛とホラ吹き

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33:大荒魂タギツヒメ

「ッ……!相模湾沖より、高速で接近する飛行物体あり!数は6、『舞草』によるミサイル攻撃と予想され──これは!?」

 

「ミサイルでなければ何だ!?」

 

「いったい何事なんですの!?」

 

「これは……S装備の射出コンテナです!着弾予想地点は──ここです!奴ら、この折神邸に向かって飛んできています!」

 

 飛行物体接近のアラートに、観測官である男が全員に警告を出す。ミサイル攻撃だと思われたそれは実際にはS装備を載せたコンテナであり、敵がそれだけを送ってくるとは考えられない。つまりあの中には6人の敵が詰まっているということになる。

 

 ──やってくれるね……!

 

 この回復に専念したい時に来るな、と真希は心の中で愚痴を吐く。百柄にやられた時のダメージがまだ残っているせいで、彼女も同じく百柄にやられた寿々花も本調子ではない。百柄自体はあの後に紫の手で直接葬られたそうだが……正直あの常識の捉えどころがない少女が、そう簡単に死ぬとは2人にはどうしても思えなかった。だから百柄との再戦を見据えて、身体を休めていたのだが……どうやら敵はその暇を与えてはくれないらしい。

 

 まぁ、当たり前のことだが。

 

 そんな怨みはさて置いて、真希と寿々花は自身もS装備を装着し迎撃の用意をする。まだまだ身体は重く本調子には程遠いが、百柄に敗北した後で紫に授けられた更なる力もある。折神家親衛隊の筆頭と二番手として、そう何度も賊にやられる無様な姿を晒す訳にはいかない。反応の鈍い身体を不屈の闘志だけが突き動かしていた。

 

「……行くぞ寿々花。迎え撃つ」

 

「ええ……いい加減、決着を着ける時ですわ」

 

 オペレーターから情報を逐一受け取りつつ、賊の予想目標地点に先回りする。断続的に響き渡る衝突音を聞いて賊が襲来したことを悟り、そう遠くない会敵の瞬間に備え気を引き締める。

 

 戦いの刻は、すぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜

 

「……また、戻ってきたんだね」

 

「全員と出会った御前試合の舞台……まさかこんなに早く戻って来れるとは思っていなかった」

 

 地面に着弾したコンテナから出てきた、タギツヒメ討伐の最後の希望となる6人。

 

 

 平城学館、十条姫和。

 

 美濃関学院、衛藤可奈美。

 

 美濃関学院、柳瀬舞衣。

 

 長船女学園、益子薫。

 

 長船女学園、古波蔵エレン。

 

 鎌府女学院、糸見沙耶香。

 

 

 ドクトルのもたらした技術で強化された、特製のS装備を着込んで準備は万端。後は折神紫──タギツヒメに向けて、全力で突っ走るだけ。

 

「ドクトルのおかげで、S装備の稼働時間は予備電池を含めてだいたい3時間くらいになってマス。制限時間には余裕があるように見えマスが……当たり前デスけど、そんなことはありまセン」

 

「みんなで協力して、スムーズにタギツヒメの元を目指すぞ。なーにこっちにゃあ同じ志の仲間が6人もいるんだ、いけるいける」

 

「ねねー!」

 

「……私は常に前面の敵を討つ、後ろの仲間に構っている余裕はない。だから舞衣……この作戦の指揮をお前に任せてもいいか」

 

「姫和ちゃんが……歩み寄ってる!?」

 

 短かったが、舞草での日々を通して姫和は舞衣の人となりや能力を知っていた。彼女の高い空間把握能力や統率力を活かし、この即席部隊をリーダーとして率いてほしいと要請したのだ。

 

 とても珍しいものを見てしまい、可奈美が揶揄うようにそんなボケたことを言う。それに姫和はキッと一瞬睨みつけるだけで済ませ、そのままもう一度舞衣の方を向き直った。例え過ごした時間は短くとも確実に仲を深めた友人へ、彼女への万感の信頼を込めて思いを伝えるのだ。舞衣の指示があれば絶対に折神紫の元へ辿り着けると。

 

「お前の指示の下でなら、絶対に折神紫の元へ辿り着くことができる……お前にはその力がある」

 

「十条さん……」

 

「姫和でいい。後ろは任せるぞ、舞衣」

 

「……うん、姫和ちゃん!」

 

「よっしゃ、道案内はねねに任せろー!」

 

「ねねねー!」

 

 ノロの気配を機械より繊細に探れるねねの案内を先頭に、6人は折神邸のある方角に向けてひたすらに走っていく。向かう方向は姫和が持つアナログのスペクトラム計が指す方向でもあり、そこに折神紫がいることはほぼ間違いないだろう。

 

 そこにあるのは、折神家が回収したノロを保管するための祭壇。屋敷の最奥にある当主以外立ち入ることのできない禁足地である。

 

「みんな待って、いる!」

 

「やっぱり、すんなりとはいかないよね……!」

 

 舞衣の【明眼】が向かう先の景色を捉え、待ち伏せがあることを看破しみんなの足を止めさせる。最初に第三席皐月夜見が可奈美、姫和両名と出くわし戦闘になり退けられる。次に第四席の燕結芽による舞草強襲と可奈美との一騎討ち。これは沙耶香の乱入と結芽の持病、そして最期を看取った相楽結月によって終わった。

 

 残っているのは、あと2人。

 

「ここから先は通す訳にはいかないな……君達なら必ず来ると思っていたよ」

 

 第一席、獅童真希。

 

「本当に……飽きさせない方々ですわ。あなた達の忌々しいその顔、二度と見なくて済むよう心身共に打ち砕いて差し上げましょう」

 

 第二席、此花寿々花。

 

 折神紫へ続く道を阻むのは、最後にして忠誠心も実力も最強の2人。それが自分達と同じくS装備を身に着けて門の前で仁王立ちしているのは、見る者が見れば殺到する程迫力ある絵面であった。

 

「既に堀川百柄は討った。君達も命をいたずらに失わせるような真似はせず、大人しく降参してはくれないか?」

 

「百柄ちゃんが……!?」

 

「嘘だ、そんな訳がない……!」

 

「本当のことです。彼女は紫様の手によって直々に討たれましたわ……最後の最期まで、意地汚く抵抗していたと聞いています。あなた方もあまり抵抗するような態度を取るのならば……彼女と同じ場所へ旅立っていただきますわよ!」

 

 百柄が倒されていることを言い、特に関係の深い可奈美と姫和の動揺を誘う。結局舞草にいる内に再会することは叶わなかったが、きっとどこかで潜伏して時を待っているはず……そう信じていた気持ちを破壊してくるこの言い草は、2人の心を揺さぶるにはいささか火力が高かった。

 

 百柄の死という情報による先制攻撃、更に加えて物理的な追撃。後手後手になった可奈美と姫和には対応し切れない技の数々に、少しずつ写シへの傷が重なっていく。尻餅を突いた隙を狙って放たれた大振りの一撃を受け止め、鍔迫り合いの中でふと真希と眼を合わせると。そこには荒魂のそれと同じような黄色い煌めきが見え隠れしていた。

 

 ──その眼……荒魂に身を堕としてでも、紫を守るというのか……!?

 

 何とか尻餅突いた体勢から立て直し、真希がノロを受け入れた理由について考える。彼女がノロを受け入れた理由は単純明快……荒魂の被害に怯え悩まされる人々を、この手で確実に守ることができるだけの力を手に入れることを欲したから。

 

 力無き正義は無力であり、理不尽に命を奪われる人達を守るなんて到底できない。そのための力を与えてくれるのならば、真希にとっては折神紫の正体などもどうでもいいことであった。

 

「力を与えてくれるなら……紫様が例え神であろうと鬼だろうと、僕は一向に構わない!」

 

「ところがどっこい」

 

「横槍ダイナミックゥゥゥゥッ!」

 

「わぶっ!?こっのお……!」

 

 姫和がやられてしまう。その瞬間に薫とエレンは連携攻撃で真希の一撃を阻止した。全長2mは超えるだろう圧倒的長さの愛刀【袮々切丸】でエレンをホームランし、突撃させることで姫和と真希の距離を突き放つ。その間に薫が姫和を掴み、【八幡力】で可奈美のところへ投げ飛ばした。

 

「さっきから何をふざけているんですの……ッ!」

 

「あなたの相手は、私達です!」

 

「……舞衣と一緒に戦う。私が守って見せる」

 

「ここはオレ達に任せて先に行け、ってな!」

 

「作戦の発案はマイマイですけどネ!」

 

「みんな……」

 

「行こう、姫和ちゃん!みんなの頑張りを……百柄ちゃんの犠牲を、無駄にしちゃいけないよ!」

 

「ソノトオリ。カナミ、ヒヨリ、ワタシノテヲトッテクダサイ。ゼンソクリョクデヒコウシマス、ユエニヨイニゴチュウイヲ」

 

「零式さん、お願いします!」

 

 S装備の射出コンテナを迎撃するミサイルを相手に奮戦していたロボ零式だが。この度は折神家のオペレーター達を全滅させ、通信網を潰してから前線に戻ってきた。

 

 挨拶もそこそこに、可奈美と姫和に両手を差し伸べて彼女らを掴み空を飛ぶ。ロボシリーズ最初にして最高の傑作に恥じぬ圧倒的な出力で、出し抜かれて尚も撃墜を試みる真希達を振り切った。そこには白い光の軌跡だけが残り、誰かがいたという痕跡などどこにも残っていなかったという。

 

「何なんだ、あのロボットは……!?」

 

「舞草はあんなのも造っていたんですの……!?」

 

「オレ達にも正直よく分からん。分かっていることは一つだけ……アレとアレの主人は、平和を望む穏やかで優しい人だったことさ!」

 

「そんな平和を愛する人達が、わざわざ手を貸してくれているのがこの戦いデース!絶対に、負ける訳にはいきまセーン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜

 

「ココデスネ。コノサキノトビラカラトテモツヨイノロノケハイヲカンジマス。オリガミユカリハココニイルトミテマチガイナイデショウ」

 

「覚悟はできているか?可奈美」

 

「……大丈夫。開けていいよ」

 

「……行くぞ。泣くか笑うか、これで最後だ」

 

 禁足地の扉を開き、ロボ零式を先頭として可奈美と姫和は中へ足を踏み入れる。そこにはもう二振りの御刀を携えた、折神紫が仁王立ちの状態で不敵な笑みを浮かべながら待ち構えていた。

 

「戻ってきたか、幼き二羽の鳥よ……巣立ちを迎えたかそれとも未だ雛鳥のままか、その剣を以て証しを立てるがいい。そうだな……部外者にはここから消えてもらうとするか」

 

「零式さん、危ない!」

 

「モンダイアリマセン。【金剛立ち】」

 

「これは……タツドンから私達を守った技?」

 

 百柄との戦闘経験から、イレギュラーが存在することを許せなくなっていた紫は、真っ先にロボ零式から潰すべく彼女に【覇星剣】を叩き込む。百柄の奥義にも勝る一撃が、大荒魂の完全復活により大幅に強化されて襲いくる。しかし身体を防御特化に再構築し全てを受け止める【金剛立ち】の前に、あえなく弾かれて終わった。

 

「最後に聞く。お前は折神紫か?それともタギツヒメなのか?」

 

「その問いの答えは────こうだ」

 

「……成程。あなたがタギツヒメなんだね」

 

「ココカラガホンバンデス。マモリハワタシニオマカセクダサイ、ドウカゼンリョクデコノダイサイガイヲオワラセテヤッテクダサイ」

 

 内側から溢れ出したノロが、『折神紫』の身体を包み込んで変化させていく。人のシルエットが段々と歪な形になっていき、やがてまた人型に戻っていくが……そこにもう折神紫の姿はなく、白と橙色に彩られた大荒魂がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我の名はタギツヒメ。さぁ……見せてみろ」

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