風隠の刀使、荒魂を斬る   作:笛とホラ吹き

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34:龍と鳥

「母のやり遺した務めを果たすため……ここで必ずお前を斬る!」

 

「いいだろう……やってみせろ!」

 

 S装備の補助が【迅移】の段階移行をよりスムーズに行わせ、二段階まで上がった速度で姫和はタギツヒメに特攻を仕掛ける。それを補助するように可奈美も背後に回って挟撃の態勢を取り、ロボ零式がいつでも間に入って、タギツヒメの攻撃から2人を守れるよう待機する。

 

 防御をロボ零式が担ってくれるので、可奈美と姫和は攻撃に専念すればいい。守りを捨てひたすらに敵を斬るべく振るわれる剣は、それに相応しい相当なプレッシャーを相手に与えることができる。しかしタギツヒメはそれに動じることなく、両者を同時に相手取る道を選んだ。

 

「────覇星剣、【星辰の一撃】」

 

「ッ……カナミ、ヒヨリ、ワタシガマモル!」

 

 二段階の【迅移】による、拳銃の弾丸にも似た速度の挟み撃ち。タギツヒメはそれをまるで最初からどこに攻撃されるかを知っているかのように平然と受け止め、押し返した上で反撃を繰り出した。

 

 御刀が持つ神力と、自身の中にあるノロを用いて刀身を何倍にも延長。【覇星剣】から更に身体をコマのように回転させて、二振りの刃で同時に敵を斬る必殺【星辰の一撃】。ほぼ変わらないタイミングでの2人同時の攻撃ともなれば、流石にロボ零式といえど一つしかないボディでは守り切れない。

 

 ──ワタシハ、ミンナヲマモル!

 

 仕方なく、ロボ零式は自身の左腕パーツを分離し攻撃と可奈美の間に挟ませることで、彼女を【星辰の一撃】から守ってみせた。姫和の方は本体が割って入ることで防ぐ。分離したことで【金剛立ち】モードが解けてしまった左腕は、呆気なく破壊されて爆散してしまったが。狙い通り2人に無傷で攻撃をやり過ごさせることには成功していた。

 

「零式さん……ッ!大丈夫ですか!?」

 

「モンダイハアリマセン。ワタシノヤクメハアナタタチヲ、タギツヒメノコウゲキカラマモルコト……ソレデハカイサレルノナラバホンモウデス」

 

「くっ……お前の頑張り、無駄にはしないぞ!」

 

「無駄だ。どれだけ貴様らが身体を張り協力しようとも……我が『眼』はその全てを捉える!」

 

 その言葉の通り、タギツヒメの動きは2人と一機を圧倒していた。どんなに攻撃をしようともそれは避けられ受け止められ、攻撃から庇おうとするロボ零式をすり抜けて2人に当たる。動きを読んでいるだとか、反応が早いだとか、タギツヒメのそれはそういう次元の話ではない。本当に全てを見透かしているかのように、圧倒的であった。

 

 その秘密は眼。『龍眼』と呼ばれるそれは見た者の身体能力や思考、秘めた可能性などありとあらゆる事象を看破する。そうして視えた情報が未来視として視覚情報に現れることで、タギツヒメは先読みにより常に最善の一手を打てていたのだ。

 

「そうか……あの時、不意打ちだったはずの私の攻撃を受け止められたのも……堀川さんのいきなりの裏切りに対処できたのも……!全てはその眼があるからこそ、成し得たものだったのか……!」

 

「そうだ……我には全てが視えていた。お前達を殺すくらいはいつでもできた。だがそれをせずに敢えて解き放ったのは、お前達と邪魔な舞草を接触させ同時に潰すつもりだったからだ。結果お前達は我の目論見通りに動き、我が張り巡らせた全ての糸を手繰り寄せ舞草は壊滅に至った。そしてお前達もまた我に殺されるべく、こうして戻ってきた」

 

「させっ……ない!」

 

「ほう……成程?千鳥を継ぎし娘はなかなかの成長を遂げているようだな。未だ羽ばたくこともできぬ小烏とは違って」

 

 S装備を破壊され、写シも解けてしまった姫和に止めを刺そうとするタギツヒメ。それを阻止するべく無我夢中で飛び出した可奈美の一撃は、避けられることも止められることもなく、御刀を振り下ろそうとしたタギツヒメの右腕を貫いた。この未来が見えていなかったことに驚くタギツヒメをよそに、可奈美は姫和を抱えて距離を取る。どうにか姫和が殺される最悪の事態は避けることができた。

 

 ──もしかして、未来視は完璧じゃない?

 

 今の動きを読めていなかったということは、タギツヒメにも見えないものがあるということ。まだ復活したばかりで身体が鈍っているとか、視えるものが多過ぎて処理し切れないとか、だいたいそんな感じの理由が考えられる。後者の理由ならまだ付け入る隙があるが、前者だった場合は慣れられる前に倒せなければ余計に手が付けられなくなる。可奈美は姫和を立たせると、彼女にさっき以上の速攻を皆で仕掛けることを提案する。

 

「零式さんも攻撃参加お願い!この戦い、あんまり時間をかけてちゃいけないみたい!」

 

「リョウカイ。コウゲキモードイコウシマス」

 

「そうだな……何度だって、斬ってやる!」

 

「小賢しいことを考える……だが、貴様らに視えた希望など地に堕ちた一雫の水滴に過ぎぬ。我が眼をどうにかすることもできぬ貴様らに、初めから一分の勝ち筋もないということを知れ!」

 

 タギツヒメの言う通り、龍眼をどうにかしなければ可奈美達に勝ち目はない。どんな攻撃も防御もすり抜けられてしまうのでは、そもそも同じ勝負の土俵にすら立てないのだから。どうにかしようと躍起になる程、思考はそれだけを考えるようになってドツボに嵌っていく。視野が狭くなれば今までできていたこともできなくなり、相手の好き勝手を許してしまうようになる。

 

 そうなればもう腰も引けて、本来の実力の一分も発揮することができずに負けてしまうのだ。

 

 どんなに細かい作戦を練ろうと、どんなに密度の高い連携を繰り広げようと。それをする人間の心が負けてしまっていては、良いパフォーマンスなど見込めるはずもない。この場で頼みにできるのは機械故に感情に流され辛いロボ零式だが……タギツヒメも当然それを分かっているが故に、彼女は真っ先に命を狙われる立場となる。

 

「あぁっ……!」

 

「ぐっ、うう……!」

 

「筋は良いが、まだまだ貴様らの母親の腕には遠く及ばん。まずは鉄屑、貴様を破壊する。雛共の心を折るのはそれからゆっくりとしてやろう!」

 

「ヤラセハシナイ。フタリハコノセカイヲマモルサイゴノキボウ──ワタシハ、ヤクメヲハタス!」

 

 2人と一機の連携攻撃を、タギツヒメは龍眼を以て的確に対処し各個撃破してみせる。可奈美のS装備も破壊され、姫和は新しく貼り直した写シをまたしても剥がされてしまった。残ったロボ零式は倒れた2人を庇うように、タギツヒメの前に立ちはだかり彼女らを守るべく拳を振るう。

 

 しかし、既に可奈美を守るために右腕を犠牲にしている上三対一でも軽くいなされた相手。たったの一機それも万全でない状態で、いくら戦闘兵器とはいえ勝てる訳がなかったのだ。

 

「零式さん……っ!」

 

「カナミ、ヒヨリ……コノバハカイフクニセンネンシテイテクダサイ。シンリキヲモタナイワタシデハタギツヒメハドウアッテモタオセマセン。カノウセイガアルノハアナタタチダケナノデス。アナタタチノタメニシヌノナラバ……セカイヲマモルタメニシヌノナラバ、ドクトルモワタシモホンモウデス」

 

「ならば、貴様はネジの一本も遺させんぞ!」

 

「く、そぉ……!」

 

 龍眼による先読みがもたらす未来予知で、ロボ零式は少しずつダメージを与えられていく。攻撃モードに移行したことで【金剛立ち】状態のような硬い防御力は無くなり、御刀の一振りが彼女への甚大なダメージとなる。純白のボディは大部分が剥がれて中の回路が露出し、ズタズタになった配線は火花を上げるようになった。ここでタギツヒメが攻撃を止めたとしても、もう機能停止は確実だろう。

 

 ──私が……私がっ、もっと強かったら……!

 

 零式さんに、自己犠牲を強いる必要なんてなかったはずなのに。可奈美は無様にやられて地面に這い蹲る己の弱さを恥じ、歯噛みする。もっと強ければこんなことにはならなかった。もっと強ければこの世界の問題に零式を巻き込まずに済んでいた。全て己が弱かったから、こんなことになったのだ。

 

「可奈美……?」

 

 心が奮い立つ。ダメージでまともに動かせないはずの身体が地面を踏み締めて立ち上がる。その様子を見た姫和は可奈美がおかしいと気付いたが、そう指摘することはできなかった。

 

「【ハドウホウ】……ッ!」

 

「それが振り絞った成果か。良い火力だが……我を倒すには至らぬ。もう足掻く時間は終わりだ、いい加減貴様も楽になれ」

 

 残りエネルギーを振り絞った最後の一撃は、避けるまでもなくやり過ごされてしまった。御刀で受け止めるでも耐えるでもなく、ただ平然と食らった上でノーダメージでいられただけ。打つ手のなくなったロボ零式はもう、立ち尽くすしかなかった。

 

 仲間が折れた中でもできる限りを尽くしたロボ零式の頑張りに敬意を表し、一撃でスクラップにしてやると宣言するタギツヒメ。【覇星剣】が振り下ろされるのを、可奈美は間に割って入り止めた。

 

「何……?」

 

「ありがとう零式さん。あなたのおかげでもう一度立ち上がれた……後はどうか、任せて」

 

「……カナミ。デハ、アトヲタクシマス」

 

「ふん……雛鳥が立ち上がったところで、結果は何も変わらんわ!」

 

 ロボ零式のスクラップを防ぎ、その戦いを継いだ可奈美。彼女の稼動ランプから光が消えたのを見届けると、涙を拭ってタギツヒメを斬るべく刀を握り地面を蹴った。

 

 ──何だ、こいつの剣は……!?何故衛藤可奈美ではなく、違う刀使の姿がよぎる……!?

 

 可奈美と斬り合う中で、タギツヒメは不思議な感覚に襲われる。自分と今斬り結んでいるのは目の前にいる可奈美のはずなのに、何故か違う刀使の姿が被って見えるのだ。

 

 太刀筋が違う。衛藤可奈美の剣術ではなく、彼女がこれまでに見て受けてきたあらゆる強者の剣術を再現し振るっているのだ。次から次へと川の流れのように切り替わる太刀筋に、龍眼の情報処理が追いつかなくなってきている。タギツヒメも知っている太刀筋から、知らない誰かの太刀筋まで──ありとあらゆる剣術の先に、かつて彼女を死の間際まで追い詰めたあの剣が現れた。

 

「藤原……美奈都……!あり得ん、あり得ない!」

 

「らしいね!でも……ここで終わりじゃあない」

 

 20年来のトラウマを掘り起こされ、タギツヒメの心にも重大な乱れが生じる。この隙を逃さず可奈美は次の剣術へ太刀筋を切り替える──彼女が恐れ排除しようとした、イレギュラーの剣へ。

 

「御当主様は返してもらうよ、タギツヒメ!」

 

「その構えは──まさか、貴様!」

 

「七笑流──【石切】!」

 

「ぐっ……うう、おおおおぉぉ!!」

 

 見通された未来を斬り崩す。可奈美の必殺の一撃はタギツヒメの身体に一本線を引くように、綺麗にその肉体を両断した。内に留めきれなくなったノロが飛び出していき、素体として囚われていた折神紫の姿も見えるようになる。今がタギツヒメを討つ技を決める絶好の好機──可奈美は今を逃してはいけないと、姫和に向けて叫んだ。

 

「姫和ちゃん、一緒に……!」

 

「ああ……今度こそ母の務め、全うする!」

 

 五段階の【迅移】を使える者は存在しない。それをした者は隠世に囚われ、二度と現世に戻ってこれることはなくなるからだ。タギツヒメを滅ぼす一手とは、この五段階迅移を利用した真の【一の太刀】によって隠世へ永遠に幽閉することである。

 

 それは使用者の命を引き換えにする、言わば道連れの技。タギツヒメが20年前これを逃れることができたのは、姫和の母柊篝が犠牲になることを拒んだ藤原美奈都の献身と、彼女らを取り戻したいと願ってしまった折神紫の心の弱さが要因である。しかし今いるのは姫和と可奈美の2人だけ──心を揺さぶれるような相手はいない。

 

 ──我は……我は、滅びぬ!

 

 このまま【一の太刀】を受ければ、待っているのは十条姫和と共に永遠に隠世に封じられる未来。そんなことは到底看過できないと、タギツヒメが自身もどうなるか分からない『最後の切り札』に手をかけたのと、姫和の太刀がその身体を貫いたのは、ほとんど同時のことであった。

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