風隠の刀使、荒魂を斬る   作:笛とホラ吹き

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6:伍箇伝入学

 親衛隊に連れて行かれてからは、百柄はいろいろと情報を貰ったり吐かされたりした。

 

 貰ったのは刀使に関する基本的な情報や、今まで自分が死んだものとして扱われていたことなど。どうやら死にかけ満身創痍の状態で行方不明になった上に、森の中で百柄の血痕が見つかったことで滑落死したものとして捜査を打ち切られたらしい。

 

 つまり、この場の百柄の存在は死人が蘇って戻ってきたのと同じことなのである。死んだはずの人間の戸籍はどうやって復活させればいいんだと、役所の人間が頭を抱えていた。

 

 吐かされたのは行方不明になっていた間どこで過ごしていたのかということと、身に付けている飾りなどの道具……特に御刀をどうやって手に入れたのかということだった。

 

 元の世界に帰ってきた以上、風隠の森での生活は百柄にとっても夢のような出来事である。再度訪れることができるのかも分からないのだから、適当なことを言ったり、馬鹿正直に風隠の森について話したりする訳にもいかない。なのでそういった名称のことはぼかして、親切な人に拾われて怪我が治るまで世話になったという体で話すことにした。場所については移動の時に寝ていたのでよく分からないと言って誤魔化す。

 

 刀の出所に関しては、これなら荒魂を斬ることができると言われて渡されたと出まかせを言った。

 

 一般人である百柄が御刀を持っていること自体がおかしいので、剣術の修行を受けて皆伝の褒美に貰ったと、経緯を正直に話しても別によかったのかもしれないが。それを言ったら最後妖術などの特殊な修行のことも言わざるを得なくなり、面倒になりそうだったので誤魔化したのである。

 

 

 最終的に百柄にはもう一度『堀川百柄』としての戸籍が与えられ、刀使として伍箇伝のどこかに入学することが決められた。刀使でもなしに御刀を持つことは銃刀法に違反するので、それを「死人は犯罪を犯せないからセーフ()」ということにしてそのまま百柄を刀使に据えることで、犯罪をそもそも無かったことにしたのだ。

 

 国としても強い刀使が増えることは歓迎すべきことであるので、多少の違和感には目を瞑ってくれるし誤魔化されもしてくれる。百柄としても、刀使になった方が荒魂を斬るには都合がいいし、学校にもちゃんと通えるようになるということで条件を喜んで受け入れた。

 

「……と、いう訳で。あんたがこれから通うことになる伍箇伝の学校……平城学館の学長、五條いろはです。これからよろしゅうな、百柄さん」

 

「堀川百柄です。これからよろしくお願いします」

 

「制服、よく似合っとるなぁ。親衛隊を助けたって聞いとるし、あんたには期待してるわ。どうかその実力、うちで存分に発揮したってや」

 

「勿論です。頑張らせていただきますよ」

 

 頑張る、と言えば当然荒魂討伐のことだが、刀使が実力を発揮する場はそれだけではない。五條いろは学長の言う実力への期待とは、もう一つの戦いの場でのことも指しているのだが。百柄がそのことを理解するのは、もう少し先の話。

 

「本日より皆さんと一緒に学ぶことになりました、堀川百柄です。よろしくお願いします」

 

 五條と話していた学長室を離れ、クラスに入った百柄はまずは新入生恒例の自己紹介をする。この後はクラスメイトからの質問に答えるのだが、制服の上から着ている和服や若くしての総白髪など、興味を引く部分は数多くある。

 

「その花飾り、なんていう花なんですか?」

 

「制服の上からそんなの着けて良いんですか!?」

 

「流派を教えてください!」

 

「刀の好みなどは……」

 

「その白髪って染めたりはしないの?」

 

「刀使を目指したきっかけは?」

 

「……えーと。一つずつ答えていくから、ちょっと考えさせてくださいな……」

 

 絶え間ない質問攻めに、上手く答えを出せずたじたじになる。百柄が平城学館に入学して初めてのホームルームは、クラスメイトからの怒涛の質問攻めで終わるのだった。

 

「もう御刀は決まってるの?」

 

「連絡先交換しよう!」

 

「このマフラーとか見たことないデザインだけど、どこで買ったの?」

 

「授業で分からないところあったら、遠慮しないで言ってね!助け舟出すからさ!」

 

 一限の授業が始まるまで、珍しい二年からの編入生と交流しようとするクラスメイト達のコミュニケーションという名の波状攻撃は続いた。同年代女子の溢れんばかりのエネルギーに、記憶喪失の百柄は初めて浴びた太陽の光が如き眩しさを、彼女らから感じるのであった。

 

 ──これが、花の10代……青春ってやつ!

 

 自分もカテゴリは同じなはずなのに、何だか全く違う種類の生き物のようで。切れ目なく続くお喋りにどうにか対処しながら、年上の男や人外ばかりの風隠の森では経験することのなかった、ガールズトークという未知を百柄はできる限り楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜

 

「一年の初めでもやったが、新入りもいることだしもう一度刀使の技を基本から教えるぞ!堀川はよく観察して覚えるんだぞ!まずは【写シ】から!」

 

「はいっ!」

 

「成程、身代わりを作るのか……便利だね」

 

「よし、それじゃあ堀川もやってみるんだ!」

 

 写シとは、御刀の力によって肉体を霊体に変化させる技術。攻撃を受けても僅か痛みが出る程度にダメージを抑えてくれ、霊体が欠損したところで写シを戻せば身体は元に戻る。常に命の危険を伴う刀使の戦いには必須の技術であるが、精神と体力に大きな負担をもたらすため日に数度が限度である。

 

 百柄は教師の指示に従い、クラスメイトの実践を参考に自分でも写シを展開する。陽剣【七笑】は御刀とは違うのだが、御刀が持つ神力の代わりに天狗の妖力を大量に備えている。百柄個人が持つ妖力も併せれば、神力などなくても刀使の技術を再現するのには十二分であった。

 

 因みに。御刀は刀剣類管理局という組織によって管理されており、刀使となったことにより百柄の陽剣【七笑】もその管理下に入ることになった。あくまで形式上という形なので、殆ど持ち出しは自由にできるのだが。いくら刀使とはいえ業務に関係ないところで刀を持つのは違法なので、これからの百柄には自重が求められる。

 

 ──うん、【七笑】でも大丈夫だね。

 

 写シがしっかりとできていることを確認し、安心したように小さく相槌を打つ。町での戦闘の後親衛隊に指摘されたことだが、写シもなしに荒魂と戦うのはあまりにも異常。生身よりも遥かにリスクを軽減できるこの技を使わない理由はないため、御刀という訳ではない【七笑】で写シを展開できたことは百柄には朗報であった。

 

「それじゃあ試してみるぞ。はあっ!」

 

「お、ちゃんとできてるじゃん」

 

「筋がいいとはこのことだね」

 

「入学してすぐに御刀も持ってたし、ちょっと嫉妬しちゃうねー」

 

 写シがしっかりとできているかどうかを確認するため、教師が百柄の身体を刀で斬りつける。斬られた箇所は消失し傷痕を残したが、百柄には少しの痛みがくる程度で収まった。写シを解除すると付けられたはずの傷も消えて、成程これは便利な技術だと感心する。

 

 心身への負担の大きい技と聞いているが、実際やってみた結果、百柄にかかる負担はそれ程のものでもないことが分かった。神力と妖力では消耗が違うということなのだろうか。まぁ訓練の中でそれだけやるのと、実戦の中で他の技も併用したり、周りの敵や味方のことも考えたりしながらするのでは話が全く違うので、そう単純な話でもないのだが。

 

 ──ま、風隠の森での修行と同じこと。意識しなくてもできるようになるまで、何度だって繰り返せばいいんだ。

 

 やり方を知ったなら、後はそれを無意識でも繰り出せるように身体に覚え込ませればいい。面倒事が増えるのは、技を頭で考えて出しているから。頭で考えるのは敵味方や周囲の状況、守るべき者のことだけでいい。自分に思考を割いている内はまだまだ未熟なのである。

 

 その後も刀使の技の多くを実践する。速度を向上させる【迅移】に、写シで作り出した霊体の耐久力を向上させる【金剛身】、御刀の神力を自分に移して力を増す【八幡力】。神力を目と耳に集中させ視覚と聴覚を強化する【明眼】、【透覚】。

 

 クラスメイトを参考にやってみるが、これがなかなか難しい。身体強化の【八幡力】や【金剛身】は似た要領の【練気】を既に習得しているのでかなり早く習得できたが、他の三つ……特に【迅移】は速くなった自分を制御し切れず何度も壁とキスをする結果となってしまう。【明眼】【透覚】も程々を見極められず感覚が強くなり過ぎて、その反動が強い頭痛となって帰ってきた。

 

 ──うぅ、初見で成功とはいかないか……やっぱ見様見真似だけじゃダメだね。

 

 道場の床に寝そべって、ぐらぐらと揺れる脳味噌が鎮まるのを待つ。修行の途中で倒れることは何も初めてのことじゃないが、やはりやろうとしたことをやり切れずに終わるのは屈辱的である。百柄はこの悔しさをまた糧とし、必ずや刀使の技を習得してみせると誓うのだった。

 

「堀川さん、体調大丈夫?大丈夫だったらこれから一緒に遊びに行かない?みんなで堀川さんの歓迎会やるからさ!」

 

「お、お気遣いありがとう……うぷ。気持ちは嬉しいけどまた今度にして、お願い……」

 

「あ、ごめんなさい……また今度ね!今日はゆっくり休んどいて!また明日ね!」

 

「うん……お疲れ様でした……」

 

 まだまだぐらつく頭を抑え、ふらふらになりながらも百柄はクラスメイトの誘いを蹴って寮にあてがわれた自分の部屋に帰っていく。視界も揺れるせいでなかなか鍵穴を捉えられず、苛立ちと吐き気が込み上げてきて、ベッドに潜る頃には頭の中はそれはもうぐちゃぐちゃになっていた。

 

 ──気持ち悪い……!夜には、刀使の技の自主練しようと思ってたのにぃ……!

 

 凄まじい程の吐き気と頭痛で、ピクリとも身体を動かせなくなっていた百柄であったが。ここで一つの妙案が彼女の中に浮かんだ。百柄がオロシから教わった妖術の中には、傷付いた身体を癒す効果がある術がある。それを使えばきっとこの体調不良もどうにかできると踏み、早速試してみることにした百柄であったが……

 

「【叢穣坊の大風】……どわあああっ!?」

 

 体調不良の状態で、適切な妖術など使えるはずもない。案の定出力の調整を間違えた百柄は回復と引き換えに部屋の中を壊滅させ、日付が変わるまで説教と反省文を書かされることとなるのだった。

 

「反省は?」

 

「今度はっ……間違えません!」

 

 この時間は学校中に知れ渡り、百柄はクラスメイト達や他の生徒から危険人物としてしばらく距離を置かれることとなる。百柄は信用を取り戻すまでは針の筵に座るような生活を送らざるを得なくなるのであった。自業自得だ。

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