風隠の刀使、荒魂を斬る   作:笛とホラ吹き

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7:VS獅童真希

「こんな夜中でも訓練か。精が出るな」

 

「あなたは……獅童真希さん、でしたっけ」

 

「おや、覚えててくれたのかい?確か君に名乗った覚えはないんだけどな」

 

「寿々花って人に聞きましたよ。同じ親衛隊とかいう組織の仲間だからって」

 

 月が北の空に浮かぶ夜、百柄は入学してからの日課である自主練に今日も励んでいた。

 

 どうやら今日は特別な日のようで、こんな真夜中にも関わらず自分を訪ねて人がやって来る。この世界に戻ってきて初めて出会った刀使、折神家親衛隊が一人獅童真希。その時の彼女は荒魂にやられて意識を失っていたので、他のメンバーから聞いた名前なのだが。百柄はしっかり覚えていた。

 

 真希がやってきた理由は、単純に百柄に興味があったから話をしにきたというものであった。部外者でありながら学校の中に平然と入れるのは、彼女が平城学館の卒業生だからであり、普段からこうして様子を見に来ることがあるからであった。流石にこんな夜中に来たのは初めてなのだが。

 

「訓練がてら、どうだい?」

 

「良いですね。先輩の胸をお借りしますよ」

 

 真希が御刀を抜き、百柄に突きつける。別に斬りたい訳ではなく、御刀がないと使えない刀使の技術を使えるようにするための気遣いである。百柄が苦戦しているのは剣術以外のところだと訓練の様子を観察して解っていたので、せっかくだしその手伝いをしてやろうという思いだった。

 

 互いに写シを展開し、霊体を作って生身の身体を真剣の刃から守れるようにする。技術の習得に苦戦する後輩に胸を貸すために、真希は先制で自分の方から動き出した。

 

「……成程。私達を助けてくれただけあって、剣の腕前は見事なものだ。苦手なのは神力を自己強化のために使うことかな?これだけの実力があるなら普通にできていそうなものだが、不思議だね!」

 

「同じような技なら、習得しているんですけどね。元々自分の中にはない力を使うってのが、どうにもやりにくいんですよね!【金剛身】や【八幡力】はまだマシな方なんですけど、【明眼】や【透覚】が本当に制御が難しくって!」

 

「難儀なものだよな。私も、習い始めの頃は制御に苦労したものさ!」

 

「最初の内が難しいのは、誰だって同じということですね!」

 

 七笑流の【練気】にも身体強化の効果があるが、これでは感覚はそこまで強化されない。慣れていない上に効果があり過ぎて、脳が増加する情報を処理し切れず酔ってしまうのだ。これでは他の技や七笑流剣術との併用どころか、写シの維持すらままならなくなってしまう。どうにかしたいとは思っているのだが、現状効果的な方法が思いつかない。

 

 陽剣【七笑】から引き出す妖力を少なくして強化幅を下げてみたり、事前に酔い止めを飲んで脳味噌への被害を抑えてみたり、【練気】や【金剛身】で自己強化することで脳を強くしてみたり、いろいろと思いついた方法を試してはみたのだが。あんまりどれも効果はなかった。

 

「【明眼】【透覚】を使いこなせれば、相手の動きが手に取るように分かるようになる!ひたすら身体能力を上げるのもそれはそれで効果的だが、情報のアドバンテージを取れるというのは、戦闘においてそれ以上に効果的だ!」

 

「……ぐうっ!身に染みて、分かりますね!」

 

 ──さっきから、動きを先読みされてる!私にもちゃんと【明眼】ができたなら、きっと同じことができるはずなのに……!

 

 会話しながら斬り結びながら、真希はそれが当然であるとでも言うように【明眼】や【八幡力】を併せて使っている。その上強くなった感覚に酔う様子も見えないし、どこかに巧く効果を制御するコツを見出すことはできないかと観察してみるが。身体の動きからでは大した情報は得られなかった。

 

「──────────【一閃】!」

 

「おっと……!居合斬りか、身の毛もよだつような凄まじい速さだ。一段階の【迅移】では、確実に回避が間に合わなかったな」

 

「刀使の技って、段階があるんですね。私そんなの初耳なんですけど」

 

「一段階目も満足にできないのなら、それより上を教えられることなんてないさ!」

 

「そりゃあそうですよね!すいませんでした!」

 

 至極当然のことを言われ、百柄もそれはそうだと返す。最初の段階すらも踏めぬ者が、その先になど行ける訳がないのだ。

 

 刀使の技はいくつかのものは段階毎に強化されていくものがあり、【八幡力】や【金剛身】、百柄がこれまた苦手とする【迅移】が該当する。強化は一番下から一つずつ段階を踏んで行われ、ステージが進む程強化幅も大きくなるが、その分効果時間が短くなる。達人ともなれば、段階をいくつかすっ飛ばして一気に最大までいくことも可能だ。

 

 真希が使ったのは【迅移】の二段階目。百柄の技の中でも最速の【一閃】すら回避できる速度を出すことが可能となるが、その分負担も大きいし効果時間も短い。回避したにも関わらず、いくらか距離を取って回復の時間を稼がなければならないくらいには実際紙一重であった。

 

 ……【金剛身】も【八幡力】も使わずに、生身でそんな速度を出せる百柄も実際異常なのだが。刀使としての技量で水を開けられている今は、そんなこと自慢できる状況でないのが惜しいところ。ちなみにこれは刀使としての技能を身に付けるための戦いなので、【練気】は使っていない。

 

「ぐっ……力でも、負けて、る……!」

 

「神力を受け入れるのはそんなに大変かい?御刀の持つ力はどこまでいっても君の味方だよ、そんなに拒絶されてちゃ御刀もヘソを曲げるさ。君が御刀の神力を上手く扱えないのは、君に御刀を受け入れるだけの器が無いからなんじゃないか?」

 

「そんなこと、言われましてもね……っ!」

 

 刃同士が重なり、鍔迫り合いが起こる。四段階の【八幡力】で強化された真希の膂力は、風隠の森で鍛えられた百柄のそれすら上回り彼女に膝を着けさせた。少し皮肉の混じった指摘も添えて。

 

 ──そもそも、【七笑】が内包してるのは神力じゃなくて妖力なんですけどねっ……!

 

 百柄の握る陽剣【七笑】は、魔王ナナワライから託された妖刀でありそもそも御刀ではない。同じことはできるし都合上御刀ということにしているだけであって、そもそも力の質が違うのだ。【写シ】などが成功したからといって、御刀と同じ要領で技を使えると結論付けたことがそもそも間違いだったのかもしれない。

 

「……あっ!」

 

「……どうやら、何か掴んだようだね。でも」

 

「あっ、刀……」

 

「残念だけど、決着だ」

 

 そこまで考えて百柄はようやく気付いた。しかしそれを実践する前に刀を弾かれてしまい、閃きの甲斐なく決着の時が訪れる。喉元に刃を突きつけられた百柄は写シを解いて両手を上げ、降参の意思を示すのだった。

 

 ──うぅ、負けてしまった。

 

 閃きに思考を奪われたせいで、真希の攻撃に対応できなくなり刀を弾かれるという負け方。かなり情けない負け方をしてしまったことに、己の不甲斐なさと師匠への申し訳なさで赤面する百柄。そんな彼女の姿を見て、真希は「それだけ悔しがれるのなら君はもっと強くなれるさ」と励ました。そういう気遣いがまた、悔しさを加速させる。

 

「本当なら閃きの内容も知りたいところだけど、残念ながらそろそろお暇する時間だ。ありがとう、君との試合は楽しかったよ」

 

「……そうですか。お時間いただきありがとうございました」

 

「どうも。……もうすぐ、折神家主催の剣術大会が開かれる。私はもう伍箇伝を卒業したから大会には出られないけど、君の活躍が見れることを楽しみにしているよ。それじゃ、訓練も程々にね」

 

「行っちゃった。……剣術大会、かぁ」

 

 どうやら、刀使の戦う相手は荒魂だけではないらしい。鍛えてきた成果を披露する場、剣術大会。七笑流剣術の修行を積み皆伝を貰ったとは言え、百柄が修行に費やせた期間は半年もない。周りを見渡せば自分以上のキャリアなどどこにだっている。

 

 そんな中、今の自分はどれだけ通用するのだろうか。荒魂相手なら負けるつもりはないが、刀使を相手にした今の自分の実力がどれ程のものなのかというのには興味がある。

 

 荒魂を斬るという目的があり、刀使と同じことができるのとそうした方が都合がいいから刀使の真似事をしているだけ。競える場があるのなら、全力で戦って自分の立場を確かめてみよう。

 

 ──そう、私はあくまで刀使の真似事をしているに過ぎなかった。そのことを忘れて、普通の刀使のようにやっちゃダメなんだ。

 

 剣術大会のことから今しがたの閃きの方に頭を切り替え、百柄は弾かれた刀を拾い構える。御刀から力を貰うという感覚がどうしても掴めず、そのせいでここまで苦戦していたが。そもそも七笑は御刀とは違うし神力も持っていない。御刀を使って技を出す刀使と同じ要領でやるということが、土台無理な話だったのだ。

 

 使う技は同じ、しかしそのための力は違う。参考にこそすれど全く同じではいられない。七笑の妖力を御刀の持つ神力と同じ目で見ていたのはそもそも間違いであった。

 

 ──神力は持ってないけど、妖力なら私も持っている。七笑に内包された妖力と、私の中に内包された妖力を繋げて一つの力として使えば……

 

「……できた」

 

 試みは成功した。【明眼】【透覚】を発動しているのに頭痛や酔いが起きない。自分以外のところから力を使おうとするから上手くいかなかったが、同じ力なのだから自分のものにすればいいのだ。何度もやって慣れている自分の中の妖力操作なら、反動なしで技を使うことができる。

 

 閃きが実を結んだことに思わず口が緩む。他の技も試してみたいと欲が出た百柄は、早速今の感覚を反芻し、【迅移】をはじめとした他の刀使の技でも同じようにできるよう練習を始めた。

 

「【迅移】の高速機動……うん、ばっちり制御できてる!【明眼】も【透覚】も、しっかり使えるから速い中でもちゃんと見える!聞こえる!私……技をちゃんと使いこなせてる!」

 

 ──【練気】と併せてみたり、妖力で技を使えるなら七笑なしでもできるんじゃない?ふふ、色々と試してみたいことが浮かんでくるなぁ!

 

 刀使の技を出すコツは掴んだ。後はこれを剣術大会の日までに扱い切れるようになるだけ。正直時間は全然足りていないが、刀使が相手だろうと負けるつもりは毛頭ない。師匠ナナワライと七笑流皆伝の誇りに賭けて、向かう相手は全て斬る。

 

 ──見てなよ真希さん。今度戦う時は、あなたにだって負けませんからね!

 

 夜空の下、百柄は刀を振るう。休みなく動く身体は疲労でかなり鈍くなっているが、その表情はそんなことも悟らせない満面の笑顔であった。

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