風隠の刀使、荒魂を斬る   作:笛とホラ吹き

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8:剣術大会予選

「さて……いっちょ頑張りますか!」

 

 時は流れ、今日は剣術大会に平城学館を代表して出場する2人の選手を決める予選の日。トーナメント形式で勝ち抜いていき、決勝戦まで進むことができれば本戦出場が確約される。それまでに戦う相手も刀使の頂を目指して訓練を積んだ強者達、一筋縄でいかない勝負になるだろう。

 

 ──でも、だからこそ勝利には価値がある!

 

 強者達に勝ち決勝まで上がることができるということは、百柄に刀使としての実力がそれだけ身に付いたということ。勝利は己の成長の証であり、七笑流剣術の素晴らしさも喧伝できる。百柄は師匠より習った技に、それだけの自信と誇りをもって大会に臨もうとしていたのだった。

 

「どうか見守っていてください、師匠。あなたから受け継いだこの剣と技は、どんな相手にだって負けやしないと証明して参ります!」

 

 もう会うことはないであろう師匠に向けて決意を叫び、百柄は会場である道場に向かう。まだ見ぬ強敵達の存在に心を躍らせながら、空気を踏むように軽い足取りで一歩を踏み出した。

 

 ……百柄は初日のやらかし以降クラスメイト達からすら遠巻きにされていたため、他人とほとんどコミュニケーションを取れていない。寮の部屋を僅か1日で廃墟に帰るなど前代未聞。そんな馬鹿なことさえしなければ、友達もできていたし強敵達もまだ見ぬ存在にはならなかったのだが。今ではもう後悔しても遅過ぎる話であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜

 

「それでは一回戦、岩倉早苗と堀川百柄。構え!」

 

「対戦、よろしくお願いします」

 

「……よろしく、お願いします」

 

 ──予選は、御刀使わないんだね。

 

 せっかく刀使の技能を鍛えてきたが、予選はまさかの木刀による試合で御刀は使わなかった。出鼻をくじかれた形にはなってしまったが、これはこれで百柄にとっては好都合。純粋な剣の腕前だけを競うというのなら、面倒なことをせずに自前の身体能力を押し付ければいいからだ。

 

 それに、もう一つ。

 

「始め──────────っ!?」

 

「え……?嘘、で、しょ……?」

 

 七笑流抜刀術の速さに加えて、百柄の風隠の森での修行によって人間離れした身体能力。それに刀を無駄なく振れる技術が合わされば、【写シ】による強化のない生身でそれを受けることなど、不可能に近い神業である。

 

「七笑流──────【一閃】」

 

「しょ、勝者、堀川!」

 

 七笑流【一閃】は、納刀状態では目で追うことすら至難の神速の居合斬り。生身の動体視力で追いつけるような、柔な技ではない。それができるという情報もないのなら尚更──他人とのコミュニケーションが少ない百柄の情報は、他の刀使には殆ど出回っていない。それ即ち、誰も百柄への対応策を持っていないことを意味する。

 

 ──うん。私、ちゃんと強いみたいだね。

 

「岩倉先輩。対戦、ありがとうございました」

 

「ねぇ、あれ見えた……?」

 

「目が全然追いつかなかった……御刀も使ってないのに、あんなのおかしいよ……どうやったらあんなに速く刀を振れる訳……?」

 

「化け物……」

 

 試合を観戦していた生徒達は、あまりの呆気なく一方的な決着に各々感想を述べる。その中に百柄に好意的な内容は殆どなく、彼女らの気持ちは「あんなのに勝たないと、本戦に出られないの……?そんなの絶対無理でしょ」というような形で概ね一致してしまっていた。

 

 当の本人はそんな周りからの評判などどこ吹く風といった様子で、勝利に気をよくしながら選手控え室に戻っていく。そんな軽い態度の百柄の姿を見た生徒達は、それを気味悪がり更に彼女と距離を置くことを決めるのだった。

 

 

「さてと。順調に勝ち上がって決勝までこれたのは良いけども……私の決勝戦の対戦相手は、果たしてどっちになるのかな?」

 

 

 その後も百柄は勝利を重ねていき、一足先に本戦への出場権を手に入れた。今は昼食に持参したおにぎりと豚汁を傍らに、決勝戦で戦うことになる相手がどちらになるかを予想している。どちらもベスト4まで残るに相応しい実力者だが、押しているのは長い黒髪をした三年の生徒。しかし相手も食い下がり猛攻に耐え忍んでおり、どちらが勝つのかまだまだ分からない。観戦する眼にどんどん熱が籠るのを百柄は自覚する。

 

 ちなみに。百柄は速過ぎて相手が見切ることすらほぼ不可能な【一閃】は封印し、最初から抜刀した上で【紫電】を中心に据えて戦っていた。対戦相手の強さを体感するためにそうしたのだが、相手の方が【一閃】を警戒する立ち回りをするため、あまり彼女らの強みは見られなかった。

 

 ──残念だけど、そういうのも全部ひっくるめて試合だからねぇ。

 

 他の生徒達が積んできた研鑽を知ることは叶わなかったが、残念ながらそれも試合の内。こうして横から観戦するだけでも満足するべきだと自分に言い聞かせ、おにぎりと一緒にそれでも惜しいと思う気持ちを腹の底に飲み下すのだった。

 

「お、終わった。十条姫和さん、か……」

 

 そんなこんなしている内に、もう一つの準決勝も決着が着いた。勝ったのは攻め立て押していた黒髪ロングの少女。百柄より一つ年上の先輩で、名前は十条姫和というらしい。

 

 何と言ってもその眼がいい。果たすべき目的だけを見据えて一直線といった感じの、覚悟と決意に満ちた力強い瞳。あの眼ができる人間の強さはそれはもう素晴らしいものとなるだろう。恐らく百柄の存在すら眼中に入っていないかもしれない。

 

「気に入らない、なぁ……」

 

 ああいう眼をする人間は嫌いじゃないが、それはそれとして気に入らない。遠い目標を真っ直ぐに見据えるのは構わないが、その道中には大きな壁があるのだということを分からせてやろう。見たいものだけ見て周りのものを見ようとしないその目に、堀川百柄という存在を刻みつけてやる。

 

 ──ふーん……?へぇ?

 

 試合を終えた彼女と目が合ったのだが、姫和の眼には百柄か道中で踏み潰す雑草や蹴り飛ばす砂利くらいにしか見えていないのだろう。これから戦うことになる相手だというのに、まるで関心のないような表情を向けられた百柄は本当に自分が眼中に入っていないと確信し、姫和に自分のことを忘れられないようにしてやろうと誓うのだった。

 

「堀川百柄……私は、負けんぞ」

 

 まぁ、それは百柄の主観であって。実際のところ姫和はかなり百柄のことを意識していた。若干の意識のすれ違いもありながら、もうすぐ行われる決勝戦に向けて2人の剣士は集中力を高めていく。戦いの刻が、着々と近付いていた。

 

「それでは両者、構え!」

 

「十条先輩──勝たせて、いただきますよ」

 

「……私も、こんなところで負けてはいられない」

 

「では、いざ尋常に──────」

 

 

 

 

「勝負!」

 

 

 

 

 審判が旗を振り、試合の開始が宣言される。合図と同時に2人は動き出し、互いの木刀を打ち合わせ鍔迫り合いが始まった。

 

 押しているのは百柄。力で勝る彼女は少しずつ前進しながら姫和を潰し、膝をつけさせることで試合を終わらせるつもりであった。姫和の方に力で劣る現状を覆す技があるかで戦局は変わるが、今のところそんな技を出す気配はない。

 

「どうしたんですか……!?このままじゃ良いとこなしで終わっちゃいますよ!」

 

「ぐぅ……何事も、タイミングが重要だ!」

 

「うおっと……流石、やりますね!」

 

 このまま地面まで潰され膝を着かせられるというところまで来たが、姫和は身体の捻りと刃を滑らせ流す動きで百柄の間合から脱出した。力をかけていた相手がいなくなったことで今度は百柄がバランスを崩してよろけ、その隙を後ろから姫和が刺そうと木刀を突き出す。

 

 しかし、百柄もまた接地させた右足を軸に身体を捻り180度後ろに逸らして姫和の刃を弾く。互いに一歩後退して間合いから外れ、短いながら警戒と膠着の時間が生まれた。

 

 

 ──やっぱり(やはり)、強い!

 

 

 お互いの強さを体感し、迂闊に動けば格好の的となることを悟った2人は警戒し足を止める。一挙一動を見逃さず観察し続けながら、百柄は自分の勝ち筋を探っていった。

 

 鍔迫り合いで押していけたように、パワーに関しては百柄に分がある。スピードも同様だろうが、それでも勝ち切るには至らなかった。百柄のやりたいことを姫和が見透かし対応したからだ。

 

 相手の動きを目線や力の入り具合から判断し次の行動を読み切る洞察力と、どうすればそれに対応できるのかを瞬時に理解し実行する判断力。素振りや筋トレを独りでやるだけでは培えないもの、幼い頃から多くの場数を踏んだ経験の力。刀を握ってたかだか半年の百柄では、今は到底辿り着けない境地に姫和はいるのだ。

 

 ──【明眼】【透覚】を使ってる訳でもないのに全部見透かされる。経験値ってのはつくづく偉大なものだね。だったら……

 

 経験値でパワーの差を埋められているのなら、その判断ができなくなるまで追い詰めればいい。相手より優れている部分を押し付けて、年季の差も意味を成さない状況を作り出す。そのためには──

 

「【練気】、七笑流──」

 

「っ……!」

 

「──────────【紫電】」

 

「……来い!」

 

 ──息吐く暇も、与えない!

 

 連続攻撃の【紫電】でその対応だけに思考のリソースを割かせ、反撃の隙を与えず押し切る。しかし息吐く暇もないということは、相手だけでなく自分もそうだということ。姫和が先に対応し切れなくなり百柄が勝つか、百柄の息が続かなくなり姫和が反撃で終わらせるかの根比べとなる。

 

 ──落ち着け。確かに速いし手数も多いが、私なら捌けないようなものじゃない!首、胸、足元……狙われる箇所も急所ばかりだから分かる、この嵐を耐え抜けば私の勝ちだ!

 

「凄い、姫和先輩あの攻撃を全部捌いてる!」

 

「お願い、あの化け物を倒して……っ!」

 

 緊張感の高まる攻防に、周囲の応援もどんどん熱が高まっていく。姫和への声援は彼女が百柄の攻撃を防ぐ度に少しずつその勢力を増していき、やがて道場全体を揺らす程の轟音となった。

 

「はぁっ!」

 

 百柄が斬る。

 

「ぐうっ……!」

 

 姫和が防ぐ。

 

 両者の剣は撃ち合う度に鋭さを増し、応援に後押しされるように表情にも熱を帯びる。それは絶え間なく動くことによる体温の上昇によるものか、それとも強者同士の戦いがもたらした気分の高揚によるものか。何にせよ、戦いはもうじき決着する。

 

「……………ぶっ、はあっ!」

 

「っ!この勝負は、私の……勝ちだ!」

 

 百柄が遂に息継ぎをした。それは攻撃を続けるだけの酸素がなくなったということであり、相手の目の前で致命的な隙を晒すということ。ここを勝機と見た姫和はすかさず木刀を掲げ、全力で百柄の脳天に向けて振り下ろす。息を切らし顔を地に向けている百柄に、それを避けることなど不可能。観客も審判も姫和の勝利を確信した、その時。

 

「この、瞬間を──待っていた!」

 

「なんだとっ……ぐうぅっ!」

 

 何と、完全に視界外からの攻撃であったのにも関わらず百柄はそれを回避し、姫和との立場を完全に逆転させた。

 

 最後の一撃を、受ける者から撃つ者へと。

 

 百柄は一撃分の余力を残した状態で、【紫電】を中断していたのだ。姫和が【紫電】は息の続く限り終わらない技だと誤認し、勝負を決めるつもりの一撃を繰り出すこの瞬間を作り出すために。

 

 中途半端なところで止めたとしても、姫和ならその経験でまだ余力を残していると判断できる。そう考えた百柄は、自分も限界ギリギリまで技を出し続けることで姫和を誘った。本当に崖っぷちに立っているのなら、絶体絶命の状況が演技かどうかなど分かる訳がないのだから。

 

「七笑流──【石切】!」

 

 何とか受ける体勢を作れた姫和は、最初の鍔迫り合いの時のように流して対処しようとする。しかしその選択は間違いだったと、彼女は木刀同士が触れ合った瞬間に気付いてしまった。

 

 七笑流【石切】。抜刀した状態で放つその一撃は筋肉、骨格、神経全てを使う最強の一振り。全身を全て捧げて放つそれは──

 

「がっ……!?」

 

「そ、そこまで!勝者──堀川!」

 

 石を超えて岩盤すらも容易く砕く、その名前すら見劣りする程の威力を生み出す。姫和が緩衝材代わりとなって威力が軽減されたにも関わらず、道場の床は破壊されその跡に彼女を飲み込んだ。

 

 これが決定打となり、審判が百柄の勝利として決着を告げる。元の世界に戻ってからは実質初めての格上との戦いに勝利し、百柄は未だ痺れ震える手を強く握りガッツポーズを作るのだった。

 

「十条先輩、対戦ありがとうございました。怪我はありませんか?」

 

「あ……ああ、問題ない。こちらこそありがとう、良い試合だったよ」

 

「……!機会があれば、またやりましょう」

 

「その時は勝たせてもらうぞ」

 

 ──あまり良い噂は聞かない子だが。実物はそれ程でもないのかもしれないな。

 

 床に埋まった姫和を引き上げ、対戦後の感謝を伝える百柄。相手に礼を尽くす姿を見て、姫和はそれまでの彼女に対する認識を少し改めた。そして自身も久しぶりに『目的』抜きで純粋な気持ちで剣を振れたことに感謝し、その手を差し出す。平城学館の予選大会は、対戦者同士の握手で終わりを迎えるのだった。

 

 平城学館『折神家御前試合』代表選抜大会──優勝者、堀川百柄。準優勝、十条姫和。

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