Q.欲しいものは?星歌「結婚相手……」   作:ILL・NOtheef

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ライバル

 

 

夜。

星歌は自室のベッドに寝転がりながらニヤけが止まらなかった。

手に持ったスマホの画面には交換したロインのアカウント、そこには笑顔の彼のアイコンがあった。

ライブの後始末と打ち上げが終わり、部屋に戻ってきた彼女はずっとこの調子だった。

 

 

「ンフフ……フフ……」

「おねえちゃーん」

「んあっ!?」

 

 

そこへ突然虹夏が入ってきた。

慌ててニヤケ顔を元に戻す星歌。

ところが虹夏のほうがむしろニヤケ顔を作っているのだった。

 

 

「な、なんだよ」

「んふふ……お姉ちゃん、PAさんから聞いたよ〜」

「はっ?」

「お姉ちゃん、先生のこと好きになっちゃったんだって〜?」

 

 

いきなりぶっ込んでくる妹に心臓が跳ね上がる星歌。

 

 

「はあっ!?」

「うわ〜!!やっぱりそうなんだ〜!!!」

「ちょ、ちが、違う!!」

「ヤバーいドキドキする〜!!!もう明日から先生の顔まともに見れなそ〜!!!」

 

 

あからさまな嘘の否定など無視してキャーキャーと盛り上がる虹夏。

星歌は真っ赤な顔でうわああああああと頭を抱えるのだった。

 

 

「で、で!?次いつ会うの!?」

「え……いや、まだ何も……」

「えーーー!?もうダメだよお姉ちゃーん!せっかく連絡先あるんだから、ガンガンアピールしてかないと!」

「だ、だって今日会ったばっかりだし……向こうだって忙しいだろうし……」

 

 

指をモジモジとさせる星歌。

もうすぐ30とは思えない乙女ムーブを内心かわいいと思いつつも、虹夏は心を鬼にして言い放つ。

 

 

「ダメダメ!近藤先生さえない感じだけどああ見えて女子人気高いんだから!」

「えっ!?で、でもあの人は自分で影薄いって……」

「そんなの謙遜だって!先生優しいしかわいいし話しやすいし……同僚の女の先生と話してるのもよく見るよ?」

「えっ……」

 

 

先ほどまでと打って変わってズーーーンと沈み込む星歌。

そうだ……そもそも先生がフリーだとはまだわからない。指輪はしていなかったけれど、普通に恋人がいる可能性だって……

 

 

「あ、で、でも!先生休みの日はなにもすることないって言ってたし、彼女とかはいないと思うな!」

 

 

ちょっと追い込みすぎたと思い慌てて恋人の存在を否定し慰める虹夏。

と同時に、ああ本当に好きなんだな〜としみじみ思うのだった。

 

 

「そうだ!来週ちょうど結束バンドもライブやるじゃん!私学校で誘ってきてあげるよ!」

「ほ、本当か!?」

「その代わり〜来週のノルマなしで!お願い!」

「はぁ?ダメに決まってんだろ」

「あっそ、じゃーねー」

 

 

ちゃっかり取引を持ちかけてきた妹に普通に断る星歌だったが、妹があっさり引き上げようとすると急に惜しい気持ちが湧き上がってくるのだった。

 

 

「ちょ、ちょっと待て」

「んー?なぁにお姉ちゃん」

「く……わかった。半額、半額で手を打とうじゃないか」

「ちぇー、まぁ仕方ないか」

 

 

一組のノルマといっても安いものではない。しかしあまり彼に対しがっつくような真似をするよりは、生徒が自然に誘う形の方がいい。そう思い、今回限り折半という形で妥協したのだった。

後日、近藤が快諾したと虹夏から聞き、星歌はまたニヤけ出すのだった。

 

 

 

 

******************

 

 

 

 

ライブ当日。

星歌はソワソワしていた。

あまり仕事場にプライベートを持ち込むのは良くない、とわかってはいながら、やはり期待せずにはいられないのだった。

ガチャ、と扉が開く。星歌の身体がピクっと反応する。そこには、

 

 

「おーーーすせんぱ〜い」

 

 

いつも通り酔っ払った廣井きくりの姿があった。

はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……と星歌はSTARRY中にひびくため息を吐いた。

 

 

「悪い、水道を止められてるんだ。シャワーなら浴びれない。というわけで帰れ」

「もーー今日はちゃんとお客さんとして来たんれすよ〜。ぼっちちゃんたち観に来たんだから〜」

「あっそ……金はちゃんと払えよ」

「ていうか今日はあの人来るのー?」

「あの人?」

「あのなんたら先生〜!」

 

 

作業していた手が止まる。このライブハウスで先生と呼ばれるような人物は1人しか思い当たらない。

 

 

「……なんでだよ?」

「んーとねぇ、こないだのお礼言いたくてぇ」

「そうか……まぁ、来るらしいが」

「やった〜」

 

 

長い付き合いだからわかる。

この廣井きくりというやつは、自分から興味を示した人間にはとことん興味を持つ女だ。自身の審美眼に絶対の自信を持っていて、その相手の懐にどんどん入り込んでいく。

そんな女だ。

介抱してくれたお礼、それだけとはいえ、きくりが自分から名前(は覚えていなかったが)を出すのは経験上珍しかった。

だからこそ、星歌はやや胸騒ぎがした。

 

 

「こんにちは〜」

「えっ」

「あーー先生ぇ〜!」

 

 

そこへタイミングが良いのか悪いのか、近藤が入ってきた。不意をつかれうろたえる星歌。

 

 

「あれ?こないだの……えーとお名前を聞いてなかったですね」

「廣井きくりちゃんでーす。わーい覚えててくれたんれすか嬉しい〜」

「それはまぁさすがに……今日はライブを?」

「そー。てか、こないだはありがとうございました〜迷惑じゃなかった?」

「いえいえそんな。というか今日は大丈夫ですか?また酔っ払ってるみたいですけど…」

「いつもこんなんだから大丈夫大丈夫〜。立てなくなったらまた抱っこして♡」

「ははは……」

 

 

苦笑いする近藤だったが、2人の会話を星歌は悶々とした思いで見つめるのだった。自分の店なのに自分が取り残されている……そんな気がした。

 

 

「あ、お姉さん。今日はありがとうございます」

「え?」

「伊地知さんから言われたんです。『お姉ちゃんがぜひ来てほしいって言ってた』って」

「え!」

「すごく嬉しかったです、そう言ってもらえて」

「……!」

 

 

本当に嬉しそうにニッコリ微笑む近藤を見て胸がギュッと締め付けられる星歌。しかしそれはもちろん苦しさではなく温かな気持ちを生むのだった。

星歌は先ほどのきくりに対する胸騒ぎも忘れて、ウキウキと準備の続きに取りかかり始めた。

 

 

 

 

******************

 

 

 

 

「どうもー!結束バンドでーっす!」

 

 

 

メンバー全員がセッティングを終え、虹夏が元気よく挨拶する。

いくつかのバンドが出演する中で、今日の結束バンドはトップバッターだった。

観客は20人ほど。大体が見知った顔ぶれだが、今日は気になるオーディエンスがいる……近藤先生。

学校の教師が観に来る、なんて学生の頃の自分が聞いたら死ぬほど辟易しただろうが、虹夏もリョウもそんな様子は全くない。そこからも彼が慕われていることがわかる。

 

 

バンドの様子をチェックしながらも、チラチラとあの人のことが気になってしまう。

先生は後ろのほうに立ち、MCをする虹夏たちを優しく見守っている。その目は観客というよりは教え子の姿を見る教師という印象だ。そういえば、当たり前だが虹夏たちは毎日先生と会って話してるんだよな……いいなぁ。

と、そんな風に眺めていたら、廣井が先生に近づき話し始めた。

 

 

「どうも〜あたしも一緒に見ていーい?」

「あ、廣井さん。もちろんです」

「いぇ〜い」

「そういえば、廣井さんって何されてる方なんですか?」

「んー?私もバンドやってるんだよ〜SICKHACKってとこでボーカルやってまーす」

「あ、そうだったんですね!」

「けっこう人気あるんだから〜今度見に来てよ」

 

 

あの野郎、また……

って、あいつ先生に近すぎじゃないか!?

並んで観るというよりはほとんど寄り添っていると言ったほうが正しいくらい、廣井は先生と肩が触れ合うくらいの距離で立っていた。

結束バンドの演奏が始まる。その間も2人は合間合間で何か喋っているようだが、聞こえない。

 

 

ふと視線を感じて見ると、PAがブースからこちらを見て何かパクパクと口を動かしている。

 

 

ラ  イ  バ  ル  ?

 

 

とりあえず無視しておいた。

しかし……万が一、万が一廣井が先生に惚れてるとして、あいつがライバルとなると、なかなかにキツい。

廣井は大学時代からかなりモテていた。あいつの無防備すぎる距離感に何人もの男があっというまに惹かれていった。それでいてあいつ自身の心の奥にまでは入らせてはもらえない感じ、それも男を狂わせる、らしい。

そのどうしようもなくだらしない感じはむしろ時として安心感と庇護欲をかき立てられる。私とは対照的だ。

先生は、廣井みたいなタイプをどう思うのだろうか。私と比べたら……

さっきまで浮かれていた心が急に沈み込んでいく。

……最近はこんなことばっかりだ。

 

 

 

 

その後全てのバンドが演奏を終え、観客もパラパラと帰っていく。その中で私のほうに向かってくる人がいる。先生はいつも挨拶をしてくれる。

 

 

「今日はありがとうございました!いや〜伊地知さんたちのバンドの曲って聴いたことなかったからどんなのだろうと思ってたんですけど……すごくよかったです」

「それは……なによりです」

「僕は別にあの子たちに音楽の指導をしてるわけではないですけど……なんだか感極まっちゃいました。教え子の立派な姿に!」

 

 

先生は誠実に結束バンドの感想を言ってくれている。

妹のやっているバンドが褒められるのは素直に嬉しい。

それなのに私の心はライブ中彼の隣にいた廣井との仲の良さそうな姿を引きずったままだった。

仕事に集中しなければと思いながら結局気にかかって仕方がなかった。

 

 

「そういえば廣井さんって方もバンドをされてるんですね!来週ライブがあるみたいで、ぜひ観に来てって言ってくれました」

 

 

先生は廣井のことに話題を移した。

やめて。

私と話してるのに他の女の話しないで。

 

 

「新宿のFOLTっていうところでやるらしいんですけど……お姉さんはご存知ですか?」

「え、ええ……こことは雰囲気は違いますけど、いいところです」

「へぇ〜行ってみたいなぁ」

「ぜひ行ってみてください……あいつも喜ぶ、と思います」

 

 

あ〜〜〜〜やだやだやだなんであいつが目つけるんだよマジで「それで…」いやそりゃまだ廣井が先生に惚れてるなんて決まったわけじゃないけどさぁ「お姉さん?」もし廣井と先生が付き合って結婚して年賀状とかに幸せでーす♡とか写真貼っつけられてたら「あの…」ほんと死ぬわていうかマジあいつ今度会ったらころ「お姉さん!」

 

 

「は、はい?」

「あの、よかったらライブ一緒に行きませんか?」

「え」

「僕、新宿自体もほとんど行ったことなくて……ライブハウスのことも、よく知ってる方と行けたら安心かな、なんて……ちょっと図々しいですけど、お願いできませんか?」

 

 

 

 

……………………………………よっしゃ廣井ありがとおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!

 

 

 

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