Q.欲しいものは?星歌「結婚相手……」   作:ILL・NOtheef

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ナイショ

 

 

 

「え〜〜〜なにそれデートじゃ〜〜ん!!」

「フ、フフ……デート、か。やっぱりそうだよな」

 

 

近藤とSICK HACKのライブに行く約束をした日。

星歌は驚く虹夏の声を心地よく聞いていた。

 

 

「しかも向こうから誘われたって、それもういけるじゃんお姉ちゃん!」

「そ、そうか……?ンフフ…でもあの人は新宿のことがよくわからないからって言ってたけど……」

「いやいやそんなの誘う口実に決まってるじゃん!先生も誘い方下手だな〜〜笑」

 

 

妹にそう言われて内心有頂天になる星歌。近藤が口実などではなく本当に新宿のことがよくわかってないから頼んだのだという可能性は頭の中から消し飛んでいた。

とはいえ形としては男女が2人でライブを観に行くというのは立派なデートと言っていいだろう。

まぁ行くのは廣井のライブ、というのがやや気に食わないが……と思いながらも星歌はやはり舞い上がってしまうのだった。

 

 

 

「いや〜でも順調だよね!みんなも応援してくれてるし、お姉ちゃんがんばってよ!」

「フフフ……順調、そうかそう、か……?」

 

 

ん……みんな?

 

 

「なぁ虹夏……みんなってなんだ」

「?みんなはみんなだよ。結束バンド」

「はぁ!?なんで知ってるんだよ!?」

「え、内緒にしてるつもりだったの?フツーにバレてるけど」

「お、ちょ、おま……」

「まぁまぁいいじゃん応援してくれてるんだからさ、ほら」

 

 

そう言ってグループロインのトーク画面を見せる虹夏。

 

 

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虹 : お姉ちゃん今度新宿でデートだって!

 

喜 : ほんとですかきゃー♡もう秒読みって感じですね♡

 

リ : 近藤のやつああ見えて手が早いな

 

ぼ : おめでとうござ

 

虹 : でも向こうからきてくれてよかったーお姉ちゃんったら先生のロインのアイコンばっかずっと眺めて全然連絡しないんだから

 

喜 : 店長さんって意外とウブなんですね!かわいい♡

 

虹 : こないだなんかソファで寝てると思ったら「せんせぇ…」なんて寝言言うんだからも〜こっちが恥ずかしくなっちゃうよ

 

喜 : うわ〜♡♡♡♡あの先生もなんだかかわいらしい人でしたし、すごくいいカップルになりそう♡♡♡

 

リ : 式にはぜひ呼んでほしい、うまいもん食えるし。金は出せないけど

 

 

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情報が筒抜けの状態になっていると知って身悶える星歌。

ちなみにひとりのメッセージが途切れているのは色恋沙汰に拒否反応を起こし力尽きたからである。

 

 

「何言ってくれてんだよぉぉぉぉ……ていうかお前いつのまにそんなにメッセージ打ってんだ……」

「お姉ちゃんがなんかンフンフ言って浸ってる間にだよ?」

「……頼むからバンドの中だけで収めてくれ。とくにPA。とくに寝言」

「ごめん寝言はもう昨日言っちゃったー♪」

「くぉぉぉぉぉ……お前、お前……」

 

 

星歌は嬉しさとそれを遥かに上回る恥ずかしさで眠れぬ夜を過ごすのだった。

 

 

 

 

******************

 

 

 

ライブ当日。

星歌はライブハウス最寄りの新宿駅東口に立っていた。

星歌自身も新宿は久しぶりだった。週末の新宿はかなりの人混みだったが、そんなことは気にもならなかった。

集合時間の5分前だったが近藤はまだ来ていない。

もしかしたら迷ってはいないだろうか、ロインのほうにはそういうふうな連絡はきていないが、一応聞いておいたほうがいいだろうか、いや時間になってからのほうが……そんなふうに考えていると、

 

 

「あ、いた!お姉さ〜ん!」

 

 

後ろから呼ばれて振り向く。

その先には笑顔の彼がいた。

………なぜか背中にきくりをおぶりながら。

星歌の顔が一瞬で曇る。

 

 

「………………」

「いや〜すみませんちょっと迷ってしまって、ギリギリになっちゃいましたね」

「あの……それ……」

「ああ、さっき間違って地下におりちゃって、そしたら通路に廣井さんが寝てて……連れてきたほうがいいかなと思いまして」

「ふぇ〜?お姉しゃん?」

 

 

話をしていると近藤の背中で寝ていたきくりが起きる。

 

 

「あれ先輩じゃ〜ん、ぐうぜ〜ん」

「偶然じゃないですよ廣井さん」

「んあ?」

「僕がお願いしたんですよ、一緒に来てほしいって」

 

 

廣井は近藤に来てくれと言った。

星歌は近藤に来てくれと言われた。

この差は大きい。

おぶわれているきくりを見て正直キレかけていた星歌であったが、機嫌を取り戻しドヤる。

 

 

「ま、そういうわけだ。先生にお願い"されて"な」

「むー……」

 

 

「されて」をわざと強調して言う星歌に、今度はきくりのほうが曇る番だった。

おぶわれながら近藤の太ももあたりを下駄で蹴る。

 

 

「いでっ!?ちょ、廣井さん!?」

「おい何してんだお前!」

「ふーーーんだ」

 

 

拗ねたきくりは蹴るのはやめたが、今度は近藤に強く抱きつく。

 

 

「女心がわかってない先生は〜、罰としてFOLTまで私を運ぶこと〜!」

「は、はぁ……」

「お前わけのわからんこと言って先生困らせるなよ、降りろ」

「わけわかんなくないもーん、降りないもーん」

 

 

子どものように駄々をこねるきくり。

近藤は最初は困り顔だったがそんなきくりの様子を見てむしろ優しく微笑む。

 

 

「僕は大丈夫ですよ、お姉さん。さ、行きましょう」

「れっつらご〜」

「……ったく」

 

 

近藤の笑顔に気をそがれた星歌は彼に付いて歩き出す。

 

 

「いでぇっ!?」

 

 

でもおんぶされてヘラヘラしてるきくりにはムカついたので尻を叩いておいた。

 

 

 

 

******************

 

 

 

「ここだよ〜」

「へぇ〜STARRYとはまた雰囲気が全然違うんですね……」

「でしょ〜あたしらの本拠地だよー」

 

 

開場時間にはまだ早い。FOLTの中は人気がないように思われたが、入っていくと机に座って作業しているガラの悪い男性が1人いた。

 

 

「お〜す銀ちゃん」

「ん?あらやだ!きくりちゃん何よその人〜!」

「でへへ〜」

「聞いてないわよも〜水くさいんだから!」

 

 

近藤を見て驚くと同時に盛り上がる2人。

見た目とは裏腹なオネエ口調に近藤は困惑している。

 

 

「あら〜かわいいお顔!吉田銀次郎37歳でーっす!ここの店長やってまーす」

「あっ、ど、どうも……」

「やっぱみんな最初はこうなるよね〜」

 

 

大丈夫だよ〜心が乙女なだけだから、ときくりに言われ、銀次郎の陽気な感じに近藤もだんだんと打ち解けてくる。

 

 

「…………」

「あら?星歌ちゃん!?久しぶりじゃな〜い!」

「……ああ、どうも」

「も〜相変わらず冷たいんだから!今度そっちにみんなで乗り込んでやるから!」

「やめてください……」

「あれ、お姉さんとお知り合いなんですか?」

「そうよ〜……ってお姉さん?」

「あ〜銀ちゃんこの人、先輩の妹が通ってる学校の先生なんだよ〜」

「あらそうだったの?どおりで真面目な感じだと思った〜絶対音楽関係じゃなさそうって」

「ははは……」

 

 

星歌はバンド時代、このライブハウスにも何度か出演した経験がある。ただ銀次郎のテンションには昔からついていけなかったが……

 

 

「おい廣井お前また遅刻……って、その人……」

「ワオ!」

 

 

するとそこにSICK HACKの2人が顔を見せる、と同時にこちらもきくりをおぶっている近藤を見て驚く。

 

 

「ごめ〜ん駅の地下で力尽きててさー、助けてもらっちゃった♡」

「近藤さん、ですよね?申し訳ありませんうちの廣井が……私はドラムの志麻です」

「ギターのイライザ!いつも話聞いてるヨー!」

「あ、そうなんですね……はい、近藤です。下北沢高校で教師をやってます」

「近藤さん……どうか廣井をよろしく頼みます」

「末永くお幸せニ!」

「???」

 

 

…………なんだこのアウェー感。

 

仲間が突然彼氏くん連れてきましたみたいな空気に星歌は非常に居づらかった。この女なに?何でいんの?と言われてるぐらいの居づらさだった。

いや、もちろんバンドメンバーにとっては星歌はすごい先輩として知られているし、志麻たちも丁寧に頭を下げて挨拶をするのだが、それ以上の何か疎外感を星歌はひしひしと感じるのだった。

 

 

「さ、廣井さんそろそろ下りて準備しないと」

「え〜!このままステージ上がりた〜い」

「いやダメだろ……近藤さん、本当にありがとうございました。ほら廣井下りろ」

「廣井さんの歌ってるとこ、楽しみにしてますよ」

「ん、よーし私のかっこいいとこちゃんと見てけよ〜!」

 

 

そう言ってようやく近藤の背中から下り、意気揚々と楽屋へ向かっていく。

 

 

「……なんかすごいところですね」

「ええ……何もしてないのに疲れた」

 

 

残された2人はそんな風に言い合うのだった。

 

 

 

******************

 

 

 

「いや〜すごかったです廣井さん!」

「そうでしょそうでしょ〜かっこよかったでしょ〜」

 

 

たしかにすごかった。

ダイブはもちろんのこと、照明にぶら下がるわマイクスタンド叩き壊すわやりたい放題だった。

うちでやったら即殺だな……

ただ、やはり演奏のレベルは非常に高かった。そこは認めざるを得ない。

 

 

「それじゃ打ち上げいこっか〜!先生も一緒にいこ〜!」

「え、僕関係者とかじゃないですよ?」

「そんなの関係ないって〜むしろ先生いなきゃ今日ライブできなかったかもしれないし」

「そうです、近藤さんぜひ」

「ゼヒゼヒ!」

 

 

うおーーーい勝手に話進めてんじゃねえよ。

他のメンバーもぐいぐい先生に詰め寄っている。何これ私呼ばれないパターン?

今日はせっかくの先生との初デートだというのに廣井に持っていかれっぱなしで、ろくに話もできていない。

もはや何故かついてきた人、くらいの地位に落ちている気がした。

 

 

「ごめんなさい!今日は遠慮させてください……」

「えーーなんでぇ?行こーよー」

「実は明日出勤しなきゃいけなくて……朝が早いんです」

「む〜じゃあ今度どっか飲みいこ。絶対だかんね?」

 

 

先生はそう言って、手を合わせて廣井に謝っていた。

そうだったのか……明日は日曜。それなのに出勤となると、やはり教師は忙しいのだろう。

となればもう帰るということだ。

 

 

 

 

 

廣井たちと別れて私たちは駅までの道のりを行く。

……はぁ、今日はなにもできなかった。散々だ。帰ったらぼっちちゃんの写真でも見て癒されよう……

 

 

「お姉さん」

「は、はい」

「もし時間あれば、ごはんにでも行きませんか?行きたいお店があるんです」

「え、で、でも明日早いって……」

「実は、廣井さんたちには嘘ついちゃいました。明日は出勤でもなんでもないんです」

 

 

先生はいたずらっぽく笑う。

かわいい……と思いながら同時に何故、という思いが湧く。

 

 

「ど、どうしてそんな……」

「だって、今日は廣井さんとじゃなくてお姉さんと約束したんですから」

「先生……」

「今日のお礼もしたいしそれに……もっとお姉さんとゆっくりお話したかったんです。今日は」

 

 

……すまんぼっちちゃん。出番はまた今度だ。

 

 

「ありがとうございます……ぜひ」

「よかった!それじゃ行きましょう……あ、嘘ついたこと、廣井さんには内緒にしててくださいね?」

 

 

ふふっと笑い合う。

……やっぱりこの人は優しくて、とてもかわいい人だ。

私たちはゆっくり駅から逆のほうへ歩きだした。

 

 

 

 

 

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