Q.欲しいものは?星歌「結婚相手……」 作:ILL・NOtheef
「おつかれぇ〜〜〜〜い!!!!!」
ジョッキがカチャカチャと鳴る。
SICK HACKの恒例の打ち上げだった。
「いやー今日もだいせいこ〜!」
「成功じゃないだろ、まずリハにちゃんと来い」
「ぶっつけだから合わせるの大変なんだヨー!」
「壊したマイクスタンドはしっかり請求させてもらうからね……♡」
非難轟々だがこれも毎回のことだった。
今日はメンバーだけでなくFOLTの店長である銀次郎も参加していた。
「うぇ〜〜ん銀ちゃん勘弁してよ〜〜」
「ダメ♡」
「お前いい加減機材壊すのやめろよ……」
「うるさ〜い!ライブなんて感情のままにやったもんがちなんらから〜!」
「はぁ……」
ドラムの志麻は嘆息する。
リハの遅刻、練習の無断欠勤、酔い潰れたきくりの警察からの引き取りなどはこのバンドの日常だった。
プレーヤーとしてのきくりは尊敬しているがこういう部分をどうにかできないものか、と彼女はいつも頭を悩ましているのだった。
「近藤さんみたいな人がずっといてくれたらな……」
「近藤さん、ってあの先生よね?今日は誘わなかったの?」
「誘いましたよ、でも明日お仕事があるとかで……」
「あら〜残念」
近藤が今ごろ星歌と食事に行っているとは知る由もないメンバー。
志麻はとくに残念そうだった。
「そうだ〜!こんな美女の誘い断るなんて〜!」
「今日もこいつの介護しなきゃいけないんだろうなぁ……もう疲れた。近藤さんに代わってほしい」
「あらあら、そのために2人くっつけようとしてるの?」
「そういうわけじゃないですけど……」
ケラケラと笑う銀次郎の言葉を否定する志麻だったが、おおむねそれが正解だった。
ただしそれは単に自分が楽になりたいからという意味ではなく、きくりの幸せのためにもバンドのためにも、近藤のような感じの人間がそばにいてくれれば、きっとちゃらんぽらんな彼女もしっかりしてくれるのではないかと期待しているのだ。
「でも今日初めて会ったんでしょ?あんまり彼に期待しすぎるのも良くないんじゃない?」
「それは、まぁ……」
「どうするの?誠実そうに見えて実はガールズバンド食い漁ってるクズ男、とかだったら……♡」
「も〜銀ちゃんそんなことあるわけないじゃ〜ん。いつも言ってるでしょ〜!私の勘はあ・た・る!んだから〜」
「ただ、廣井がいつもこんな調子なんで、私らもなんか期待しちゃって……」
「いっつも話してるヨー」
そう、なんだかんだ志麻たちはきくりを信頼している。それゆえ、彼女の目に期待しもするのだった。
ただ、それでも昨日まではメンバーの気になってる人、くらいの認識でしかなかった。
だが、今日近藤がきくりをおぶってきたのを見た時直感したのだ。
あ、この人めちゃくちゃ世話焼きだ、と。
いくら知った顔とはいえ、酒臭い女を嫌な顔ひとつせず、下心もなく介抱して連れて来れる人間はあまりいない。
きくりは昔からモテる。だが泥酔していても線引きははっきりしていた。
酒の席で彼女を甲斐甲斐しく介抱しようとした男を志麻は何人も見た。殆どは"そういう"目的のためだ。
きくりはその度に「大丈夫大丈夫〜」とおちゃらけながらも有無を言わせない雰囲気で断っていた。
そういう光景を見てきたからこそ、志麻は近藤のお人好しっぷりと、それに心を許すきくりを応援したいと思ったのだった。
「あら〜なによもう王子様じゃないそれ〜♡」
「そうなんらよ〜、さすがにあの時だけは酔い覚めちゃったぁ」
「ちょっと志麻ちゃん聞いた〜!?」
「え、すみません考え事してて……」
きくりと銀次郎は2人で盛り上がっている。
志麻は思考に耽って聞き逃してしまっていた。
「この子ったら初対面でお姫様抱っこされたんですって〜!」
「ああ……廣井から聞きましたよ、何百回も……」
「あたしも一回されてみたいわ〜、お姫様抱っこ♡ねえ?」
「ねぇ、と言われても……」
「アニメならベタすぎるって叩かれちゃうヨー!」
話を振られて答えに困る志麻。
イライザはアニメ好きとしての少しズレた意見を言う。
それに対してきくりの「またアニメ〜?」なんて反応が笑いとともに返ってくると思いきや、彼女はそれを聞いてなぜか急に静かになる。
「んー……でもさぁ、女ってベタなのに弱いじゃん?結局」
顔は赤いままだが、妙に真剣な顔できくりはそう語りはじめる。
「私さぁバンド始める前は教室の隅にいるネクラちゃんだったのは知ってるでしょ?だから恋愛なんて私には無縁だって思ってた。けどやっぱり本とかドラマでそういう世界に憧れて浸ってた。
大学入って、バンド始めて…付き合った人だっているけど、こんなもんかぁって感じだった。結局続かなかったしね。
でも、あの時、あの人がスッて私を持ち上げてくれた時、思ったんだよね。あ、もしかしたら私の憧れてた世界って本当にあったのかもしれないって。私を好きだからとかそういうんじゃなくて、純粋に私を助けたいって思ってくれる人がいるって……グッときちゃったんだよね」
志麻もイライザも、こんな風に話すきくりは初めて見たかもしれないと、そう思うのだった。
「廣井……」
「お」
「お?」
「おろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろらろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろ」
「うわあぁぁぁぁぁ!!!!!!???馬鹿やろおおおおおおおお!!!!!!!」
しかし直後に、今まで何度も見た光景が広がる。
いつも以上にハイペースで飲んでいたきくりは、秘めた思いと一緒に盛大にぶちまけてしまうのだった。
その後志麻は銀次郎とともに店員へ平謝りし、そのまま眠りこけてしまったきくりをおぶって帰る羽目になった。
やっぱり近藤さんを無理にでも連れてくればよかった……そう思いながら酒とゲロくさい女を死んだ顔でおぶって帰るのだった。
あくまでヒロインは星歌さんですので悪しからず