やはり俺の加速世界は間違っている   作:亡き不死鳥

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幕間みたいな話。


やはり女性との出会いは黒歴史の始まりである

 

 

 

 

「………そろそろか」

 

レイカーとの会合を済ませた翌日、俺はファーストフード店の前で待機していた。

レイカーに「どうせなら一緒に行きましょうか」という「おい、デュエルしろよ」レベルで気安く誘われたのが原因だ。もちろん俺は反対したよ?昨日レイカーにリアル割れの危険とお互いへの影響を思いつく限りの言葉で説明したのだが、結局三回目のデスマイルで論破された。論どころか一言も発さずに論破するレイカーさんマジぱねぇっす。苗木君もビックリだ。

 

「ごめんなさい。待ちましたか?」

 

聞いた事のある声が俺の耳に届いた。ただし現実では聞いた事はない。加速世界でのみよく聞いていた声だ。

 

「おはようございます。狼さん、ですよね?」

 

現れた人物に俺は身体が固まった。そこに居たのは絶世の美女といって過言でないほどの女性がいたからだ。容姿の良さもさることながら、制服を完璧に着こなし、スカートが絶対領域を作り出しているという素晴らしさ。

その上胸に膨らむ二つの山は黒雪とは比較にならないくらいでかい。視線が顔→胸→足→顔の無限ループの永久機関。今の俺は他人に見られたら完全に不審者だ。目だけでいつも不審者扱いだけど。

 

「あ、リアルでは初めましてですね。倉崎楓子、中学三年生です。お名前、教えていただいてもいいですか?」

 

え、なんだって?なんて難聴系主人公の裏技は一対一の状況では使えない。ならばここは発音をしっかりして第一印象をよくしなければ。通報されたら困るし。

 

「ひきゃぎゃ……」

 

……はい、終わったー。もうさすがと言わざるを得ない。言ったろ?女性との出会いは黒歴史の始まりだって。一日先の未来をこうもあっさり予言できるとかノストラダムスもビックリだよ。

やっぱり歴史は繰り返すもんなんだ。戦争だって常に繰り返されてきたんだから今更俺の黒歴史が繰り返されたって大した問題じゃない。そう思わないとやってられないや。

 

「……比企谷八幡。中学二年……です」

 

名前と学年だけ言って倉崎……先輩から目を逸らした。今の心情を一言で表すと『帰りたい』。もしくは逃げたい。あったかい小町が待っているお家に帰りたいよぅ。あ、ダメだ。今小町いねえじゃん。喧しい上月しかいなかったわ。

 

集合時間から病院が開くまで三十分程。結局立ち話もなんだから目の前のファーストフード店で時を潰すことになった。

しかし気まずい。朝だから客は比較的少ないが店員からの「え?なんでこいつ?」みたいな視線が痛かった。その後の「こいつよりも俺とかどっすか?」みたいに店員がチラチラ倉崎先輩を見ていたが、完全にスルーされていたのが違う意味で痛かった。ざまぁ。

それも席に着いた時には消えたが、今度は美人の先輩との一騎打ち。ふぇぇ…八幡のライフがなくなっちゃうよぉ。

 

「少しお話しましょうか。何か軽いモノでも入りますか?お姉さん奢っちゃいますよ」

 

「……いえ、自分の分は払えるんで大丈夫っす」

 

「…あっちとは結構印象が違いますね。別に敬語を取っちゃってもいいんですよ?」

 

「…あー、いえ、大丈夫っす」

 

お、おかしい。加速世界だったらいつも普通に話せてるのに全然対応出来ない。というか倉崎先輩も様子がおかしい。頬が紅くなってきているし目が……なんというか、獲物を見るようなモノに変わっている。

前者だけなら「あれ?この人俺のこと好きなんじゃ」とか勘違いして振られるところだが、その目だけでそんな勘違いが吹き飛んでしまっている。

そんなことを考えていたら俺の右手が倉崎先輩の両手に捕獲された。ヤバイ、喰われる!

 

「比企谷さん、私は加速世界のように貴方と気ままに話せる関係が好きなんです。現実で初めて会った相手に難しいかもしれませんが、どうか今まで通りに接していただけませんか?」

 

………え?この人今なんて言った?確か『……貴方……が好きなんです……』って言ったよな?惚れてまうやろーー!とはならない。いや、当たり前だけどね。そこまで耳は腐ってないし。

それにやっぱモンスターを狙うハンターみたいな目をしてるのが怖い。常にニコニコしてる人ってなに考えてるか分からなくて超怖いよな。他にもギャーギャー騒いでる奴とか喋らないで本読んでる奴とかも何考えてるか分からなくて怖い。なんだみんな怖いじゃん。

 

「………ぁぁ、鍛えてみたい」

 

「え?」

 

「今まで通りに接していただけませんか?」

 

いま艶めかしい声が聞こえた気がしたけど気のせいか?しかも倉崎先輩リピートしてるし。え、スルーで?アッハイ。

しかし仮にも先輩である人に普通に接するってかなり緊張する。こいつ調子乗ってる的な意味で。

だけど、なんかどうでもいい気がしてきた。どうせこの人との関わりは今日で終了。リアルで会うことなんて滅多にないだろうし見たとしてもスルーすればいい。会うとしても加速世界の中だけなんだから気にする必要もないだろう。

 

「………分かったよ。倉崎先輩」

 

「んーまあいいです。気が向いたら楓子お姉ちゃんとでも呼んでください」

 

…もしやもしやとは思ったがなんだこの溢れ出すビッチ臭。天然ゆるほわだと思ったら養殖ゆるほわだった感じ。世界には小学生低学年なのに高学年の奴を顎で使える養殖ゆるほわもいるしな。

つーかそのせいで久々にクソ親父の教えを思い出しちまったじゃねーか。親父曰く、『美人を見たら美人局を疑え(体験談)』。まだ小学生の頃に聞かされた言葉だ。小学生相手に何考えてんだと思うが意外と的を射ているから困る。無駄に年食ってるなよ親父。

 

「うふふふふ」

 

………怖い。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

結局地獄の三十分は終始倉崎先輩のペースで終わった。SAN値がゴリゴリ削られフラフラしながら店を出て病院へ向かった。

へんだなーおかしいなー黒雪を守る戦いのはずなのに怖いお姉さんと話しかしてないぞー。…はぁ、マジ疲れた。会話一つでここまで疲れるのにリア充は毎日よくあれだけ喋っていられるもんだ。そういうスキルあるしリア充はきっと社畜の才能があるんだろう。ならば社畜の才能がない俺はやっぱ専業主夫をやるしかないよな!

 

「……っと、ここだな」

 

「…ここに、さっちゃんが」

 

先程までのおちゃらけた雰囲気を消し、真剣な顔で倉崎先輩は病院を見つめる。タイミング的にはピッタリだったらしく数秒前まで反応しなかった自動ドアがゆっくりと開いていく。そして歩を進めた俺と倉崎先輩は病院のグローバルネットワークに接続し、親の仇を見るような目で病院の入口を睨みつけている有田に近づいた。有田の目の下には隈が黒々と浮かび上がり目はまるでゾンビのようだ。ちょっとシンパシーを感じる。

 

「よう。その様子だとまだシアン・パイルは来てないみたいだな」

 

「……比企谷先輩、後ろの方は?」

 

あいさつを返すことなく後ろの倉崎先輩に目を向ける。まあ仕方ないか。有田にはどこのどいつか知らない奴がこんな緊迫状態の時に現れたんだから警戒するのは当然だ。誰だってそうする。俺だってそうする。

 

「……俺のゲームの知り合いだよ。名前は…」

 

「倉崎楓子です。お名前を教えていただけますか?」

 

「………有田春雪です」

 

「有田さんですね。よろしくお願いします」

 

一つ礼をすると倉崎先輩は有田の対面に座り、有田は再び病院の入口を睨みつけ始めた。俺も座るとこの一角を沈黙が支配した。

………沈黙が落ち着くとか俺はもう人としてダメなのかもしれない。倉崎先輩もふざける気配はないし有田は必死だから会話をする余裕もない。不謹慎かもしれないが今この時が今日一番ゆったりできてるな。

 

そしてどれくらいの時間が経った頃か、不意に有田が立ち上がった。異常ありか?と思い入口を見るとイケメンがいる。チッ。

コホン、どうやら有田の知り合いのようだ。手だけで有田に『待て』のサインを出すと病院のネットワークに接続するため入口付近で虚空を操作し始めた。

 

………違和感がある。見たところ制服は確か新宿あたりの学校のものだ。隣の区とはいえ、普通こんな朝早くから知り合いの知り合いが入院した程度で病院に見舞いに来るだろうか。答えは否である。

人間とは友人が怪我をしたとしても放課後の帰りにのついでによったり、クラスで『○○のお見舞いいこうぜー』的なノリでもないと見舞いになど来ない。たとえ来たとしても間違いなく放課後だ。病院が学校の通り道だったとしても時間のない朝にくる事はない。

しかしあのイケメンは朝のクソ忙しい時に現れた。それも自分に関わり合いも重要性もない人間に対してだ。そこから導き出される答え。それは……

 

 

 

あいつが襲撃者、シアン・パイルだってことだ。

 

 

 

顔は覚えた。もしもあいつがシアン・パイルじゃないならそれでもいい。また次の候補が来るまで待てばいいだけだ。しかし可能性は限りなく高いだろう。

なんせ他人の悪意を感じる事だけは超一流の俺がそう感じるのだから。あのイケメンの有田を見る目は友人を相手にした奴の目じゃない。笑みで上手く隠しているがあの感情は嫌悪だ。俺がサッカーの組み分けの時に毎回受けている視線だからすぐに分かった。サッカー部の田中君、毎回『うわ、こいつかよ』みたいな視線やめて欲しい。気づかないふりするの大変なんだぞ。

 

「バーストリンク!」

 

俺がいつも以上に目を腐らせていると、有田が加速コマンドを叫んだ。それと同時、俺はクリア・ウルフになり観戦状態になる。場所は病院ではない建物の上だ。隣にはレイカーもいるのでまあまあ気が利いてる。

そして対戦する二人の名は『シルバー・クロウ』と『シアン・パイル』。どうやら有田の割り込みは成功したようだ。

 

「……さて、『無謀』と『勇気』。お前はどっちだ?」

 

ガコン、と音を立て1800の数字が1799を刻んだ。

『勇気』を出した『無謀』なカラスの三十分が始まる。

 

 

 

 




ヒッキーが師匠にロックオンされたようです。
リアルではヒッキーと師匠はこんな感じかな?楓子お姉ちゃんが微妙に難しくなって困る。
違和感は脳内保管だ。

ついでにいっときますと自分は基本的に一週間に一話書けたらいいなーのスタンスで書いてます。最近のオーバーランは一時的なものなのでペースダウンには目をつむってください。


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