やはり俺の加速世界は間違っている   作:亡き不死鳥

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皆さんあけましておめでとうございます。
こちらの小説ではこれが新年初となりますね。至らない点は多量にありますが今年もよろしくお願いします!


二人の白

 

 

 

 

 

 

突然だが過去の話をしよう。俺が東京全体に喧嘩を吹っかけまくったきっかけの出来事についてだ。

 

今から二年前、八王会議が開催される数日前の夜、俺はレベル9に上がったテンションを抑えるために無制限中立フィールドにエネミー狩りに来ていた。

狙いは巨獣(ビースト)級か野獣(ワイルド)級。俺がソロで倒せるのは巨獣級までだ。しかし攻撃力の問題で倒すのにかなり時間がかかるので一番の狙い目は野獣級である。しかも現在は魔都ステージ、俺では周囲を破壊出来ないので必殺技ゲージを溜められない。これは初めの相手を選ばなければいけないかもしれない。

とは言っても特に決まった相手を探す気はなかったので、巨大な鳥型エネミーに乗ってアナザーしたり、恐竜型エネミーに乗ってドラえもんしたり、ゴリラ型エネミーに乗ってディーディーコングしたりしなからフィールドを駆け回っていた。

そんな事をしながら数時間、本日狩ったエネミー数、0。乗っただけで愛着が湧いて結局倒せないでいた。人間は嫌いだが動物は嫌いじゃない。まああれだ、今日のところは見逃してやる!俺の機嫌がよくてよかったな!

 

「さぁて次は猫型エネミーでも探しに……げっ」

 

「げ、なんて酷いなぁウルフ君」

 

「こんばんわ無色の王」

 

気分一転心機一転と駆け出そうとした時、横からかけられた声で冷や汗が流れた。

俺の横に立ちはだかるのは二人のデュエルアバター。加速世界なら俺でも『もうなにも怖くない!』みたいな感じになるけど、この人達相手には無理。絶対に無理!

 

一人は俺と同じレベルで白の王と呼ばれてる『ホワイト・コスモス』。『オシラトリ・ユニヴァース』のレギオンマスターだ。

全身真っ白で、ゴッテゴテに装飾された王座みたいなのに座っている。その上には白い球体、さらにその上にはワープゾーンでも発生しそうな輪っかが浮かんでいた。

普段の俺とこの人は関わりがまったくといっていいほどない。精々王達が集まる時くらいだが、なんか身体が拒絶する。というか硬直する。現実でも加速世界でも苦手な奴は多いが特に苦手な方筆頭だ。

 

だが現在最大の問題はもう一人、ホワイト・コスモスと同じレギオンのメンバーである『ホワイトレド・スピリット』だ。

こちらも体がほぼ白いが、余計な装飾が殆どなく完全な人型。胸に膨らむ双山がF(女性)型である事を教え、柔らかい微笑みを浮かべているマスクは見るものを安心させる雰囲気を持っている。

目立った部分といえば双山の谷間に乗っかる形で存在する大きな目玉模様くらいだが、これが凄まじく問題だった。

かつて教えられたこの人のアビリティ、『マインド・スキャン』。読んで字の如く『読心』。

さとり妖怪さながらに心を読んじゃうこのアビリティは、アバター一人を対象に心を読めるらしい。しかもON.OFF自在で切り替えも自由。ただし有効範囲はたったの10m!これで安心読心能力!

………ひっろい。いや10mって結構広いからね?10mのビル見上げてみろ、普通に高いから。ほんとなんで俺にだけ教えたんだろ。両親に『あなた、実は私達の子じゃなかったの』って言われるくらい知りたくなかった。『ウルフ君にだけと・く・べ・つ♪』とか耳元で囁かれて『じゃ、じゃあ』って流された過去の俺を殴りたい所存である。

おかげで見つかるたびに心臓バクバクで小町に祈りを捧げちゃうし、その能力でリアル割れの恐怖が一層増した。いつリアルで襲撃されるか分かったもんじゃない。幸い今までなかったけどずっと警戒する羽目になったじゃないか。

 

しかしほんとタイミングが悪い。現在の俺の身体は薄い緑のアバターになっているので二人から俺の姿は丸見えだ。ゴリラ型エネミー(ドンキーコング)の頭の上でついつい色を写し取ってしまったんだ。ほら、遠くから見たらまさに!って感じになったと思ったんです。まさか本当に見られてないよね?それっぽいからやったけど見られてたら加速世界でまで黒歴史ができて八幡立ち直れない!ってこの人相手に思い出すのってめっちゃヤバイィィィィ!

 

「………へぇ」

 

あ、オワタ\(^o^)/。マスクニヤッとするのやめてください(恥ずかしくて)死んでしまいます。

 

「いやぁ〜奇遇だねぇ。前の何ちゃらって鎧倒して以来だっけ?お姉さん寂しかったよー」

 

「そ、そっすか」

 

心が読めてるからだろう、ニヤニヤしながら腕を組んできた。右腕を完全にロック。逃げようと考えれば拘束が強まり、諦めれば拘束が緩む。諦めたフリをして逃げようとしても当然逃がしてもらえない。

万策尽きたか、早いな俺の策。策なんてないけど。

 

「そ、それで何の用っすか?俺そろそろ落ちようかと思ってたんスけど…」

 

「あれ?猫型エネミーはいいの?」

 

「いる場所わかってるんで問題ないっす。きっと今の時間は冷蔵庫の上で寝てると思うんで」

 

「へー。ウルフ君猫飼ってるんだ。今度リアルで遊びに行っちゃおうかなぁ」

 

「マジで辞めてください」

 

この人なら普通に可能だから怖い。バーストリンカーの殆どは東京に住んでいる。だから名前と顔さえ分かれば日帰り余裕だ。しかし当然リアルで会うとなるとお互いのリアルを晒さなくてはいけなくなる。つまり全くもって無意味、無価値。だからお願いします辞めてください!

 

「……まあいっか。今回は違う用事で会いにきたんだしね」

 

「…やっぱ会いに来たんすね」

 

「そ。コスモスちゃんよろしく〜」

 

「ええ」

 

ヒラヒラ〜と手を振ってようやく離れてくれた。代わりにコスモスが近づいてきたが、既に修羅場を掻い潜った俺に怖いものなんてないぜ!

自分に活を入れつつも、腰が引けてくるのを自覚しながらホワイト・コスモスと相対する。油断してはならない。現在の状況だとコスモスに一回殺されれば俺は全損してしまう。それだけは避けなければいけなかった。

だからコスモスが懐から銃型の強化外装を取り出した時は逃走準備を整えたが、コスモスの口から出たのは意外な言葉だった。

 

「無色の王、貴方にこれを渡したい」

 

差し出されたのはオーソドックスな回転式ハンドガン。その側面には交差する拳銃(クロスガンズ)、赤の王であるレッド・ライダー作の銃に必ずついているマークが存在していた。

 

「ライダーの銃?」

 

「ええ。数日後の八王会議で赤の王はこれを皆に配ると言っていました。これはそのサンプルです」

 

「サドンデスルールに対する停戦について、だったか?確かあいつは停戦派だったよな。

なに?もしかしてそれが核兵器レベルの抑止力だとか言わないよな?」

 

加速世界にはみんなが使える核兵器、心意システムが存在するが、それは各自の心の闇と向き合う行為だ。発生させるのが人間である以上、一定量以上の力にはならないはずだ。

だからほぼお巫山戯で言ったのだが…

 

「その通りです」

 

肯定されちゃった。

 

「赤の王はこの『八の神器(エイト・アークス)』によって八つのレギオンの王達を止めようと考えています」

 

「いや、無理だろ。それに心意が使ってあるのは分かる。だけどそんな小さい銃で……」

 

「装弾数無限。命中率百パーセント。一発一発に強大な心意の力を宿し、百人に襲われようとも容易く敵を殲滅できる、と言われてもですか?」

 

「……は?」

 

めーちゅーりつ100%?そーだんすーむげん?しかも一発の威力が強大ってチートか?取り敢えずチートチート言ってれば満足みたいな転生主人公か何かですか?ライダーさんは。

バッカジャネーノ視線をコスモスに浴びせると、コスモスが手に持った銃を誰もいない方角へ向ける。

そして一発、カチンと撃鉄が落ちた音がなると同時…

 

 

目の前の地形が削り取られた。

 

 

それは比喩に非ず。たった一発の銃弾が過剰な光と威力によって魔都ステージの建物と地面を抉り取った。しかもそれはすぐには終わらずコスモスは一発、また一発と何度も撃ち続けた。

装弾数無限。命中率百パーセント。一発に強大な心意を宿している。どれもこれも無茶苦茶だ。しかし実際に目の前で起きてる事まで否定する程愚かではない。

ライダーは皆にこれを配ると言っていたらしい。つまりこの銃を八丁拵えたわけだ。ここまで停戦に拘ると逆に男らしく見えてくるから不思議だ。きっと反対派のロータス辺りの説得に使うつもりなのだろう。

 

「……その銃の事は分かった。で、あんた達はなんで俺にその銃を渡しにきたんだ?」

 

そう、停戦になろうがなりまいが俺には知ったこっちゃない。元々通常対戦なんてここしばらくやってないし、レギオンメンバーなんぞいないから迷惑をかける事もない。領地を守って旗と名を飾っておければ俺は問題ないんだ。

しかし返ってきた言葉はやはりと言うべきか、俺の聞きたい言葉ではなかった。

 

 

「私は数日後、《バケツ》の中に『石』を投げ入れます」

 

「石?」

 

「その『石』は見た目は大きな波紋を呼ぶでしょう。しかしその波紋は《バケツ》の中で終わってしまう。『石』もバケツの底に沈むでしょう。だから私は《海》に『新しい石』を投げ込みたい」

 

「……ちょっと待ってくれ。本気で意味が分からない」

 

「その『石』が起こす波紋は小さく、水面に与える影響は少ないでしょう。しかしその波紋は遥か彼方まで届く可能性がある」

 

「………」

 

「その波紋が津波を呼ぶ事を、そしてその『石』に貴方がなる事を私達は望んでいます。性急な変化はなく、永い時が必要となるでしょう。……あわよくば、その津波がバケツの底に沈んだ『石』を海に戻す事を」

 

それだけ言い終わるとコスモスは黙ってしまった。つまり言う事は全て言ったという事か。

………うん、サッパリわからん。石?バケツ?海?津波?わけ分からん。石が人なのは分かった。しかしそれ以外は全くもって分からない。謎解きゲームは得意じゃないんだ。

小学校の時、隣の席の田中君に『悪いな比企谷、このゲーム三人用なんだ』と、誘われてもいないのに自慢されたクイズゲーム。しかもパッケージに堂々と《最大四人まで遊べるよ!》と書かれていて何も言えなかった。あ、よく考えたらクイズゲームじゃなくてコミュニケーションが苦手なだけでしたテヘペロ♪

うんうん言いながら真面目に不真面目な事を考えていると、小さく溜息をつかれライダーの銃を差し出された。

 

「………これは渡しておきます。さようなら、無色の王。次は八王会議で」

 

渡された『八の神器』を受け取ると、コスモスは王座を翻しフィールドから出るためのポータルに向かって行った。スピリットさんも片方のアイライトだけ消してウインクするという奇妙な行動をしつつも、コスモスの横に並び去って行った。

 

残されたのは俺一人とライダー自作の銃のみ。裸で渡されても強化外装の譲渡は出来ないのできっとこれはもうすぐ消えてしまうだろう。何故渡したのか、俺に何をさせたいのか、俺程度の人間には分からない。

なら成り行きに任せようと思う。何も出来ないなら何もしなくていい。何もしないという助けだってあるのだから。

 

俺は更地になったフィールドへ『八の神器』を向けた。その体制のままシリンダーを降り出し弾を見つめる。シリンダーには青、赤、紫、黄色、緑、白、黒、そして透明の弾丸が装填されていた。

シリンダーを戻し、引き金を引いた。カチンと音を立てる撃鉄。

 

 

 

 

弾は、発射されなかった。

 

 

 

 

 

 




白の王のアバターについてはゲームオリジナルを参照しています。やった事ないけど!
はやく原作にアバターを登場させて欲しいものです。原作でアバターが公表されればこの小説もそのアバターに書き換えるつもりです。

しかしホワイトレド・スピリット。イッタイダレナンダー。

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