やはり俺の加速世界は間違っている   作:亡き不死鳥

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お久しぶりです。
そしてまたこの話が終わったらまた一ヶ月になりそうです。




過去からの問題

それから八王会議が開かれロータスがライダーの首を落とした瞬間、コスモスが言っていた『石』がロータスであることを確信した。

 

小町の全損以来人間関係に聡く…いや敏感になった俺だが、なにもそれは現実世界に限った話ではない。加速世界では表情なんてまるっきり分からないが、現実世界で養った観察術で声色や細かい仕草により判断できた様々な関係性を見てきた。

だからこそ分かった。分かっていた。普段強気なロータスが、コスモスに対してだけ警戒を解いていた事。八人が集まる時、それとなく二人がいつも隣り合っていた事。それもロータスがさり気なくコスモスの隣に移動していた事を。

その姿は子猫が親猫に寄り添うかのようで、白の王と黒の王の二人が親子である事を如実に示しているようだった。

 

…警戒しておくべきだったんだ。普段隣り合っていたはずの二人が何故か離れ、ロータスがライダーの隣に陣取った事を。

何故わざわざコスモスが俺に『八の神器』を見せつけ、尚且つそれが偽りの情報であったのかを。

 

…少し考えれば分かっただろ。コスモスが俺に見せて、ロータスに見せてない訳が無い。

停戦に然程興味がない俺と停戦にされては困るロータス。恐らくその反応は正反対であり、同じでもあっただろう。

『八の神器』の威力を目の当たりにした時は共に驚愕したはずだ。その後、片やある種の尊敬の念を抱き、もう片方は混乱と焦燥の淵に突き落とされたことだろう。いや、ロータスにとってライダーは敵とはいえ、共に戦いあった相手だ。裏切られたとも思ったかもしれない。

 

 

『戦わないバーストリンカーに何の存在価値がある!たとえサドンデスルールを突きつけられようとも、我々は対戦をし続けるべきだ!』

 

 

かつての会議でロータスの言った言葉が思い起こされる。最後まで停戦を否定し続けた少女の言葉は、他の王達には届かなかった。しかも言葉しかないロータスとは裏腹に、ライダーには停戦を強制できる『八の神器』がある。実際には弾が出なくとも、コスモスが俺の時のように『弾は発射される』という思い込みをロータスに刻み込んでいたはずだ。

だからロータスはライダーが銃を配る前にライダーを永遠に加速世界から退場させたんだ。

 

しかし結果は最初から最後まで空回り。ライダーは力づくで停戦を結ぶ気はなく、全てはコスモス達の手のひらの上。

 

手のひらで弄ばれた『石』は、八王会議というバケツに放り投げられそのまま捨てられた。築き上げられた信頼なんて、たった一つの些事で崩れる。それが人間関係だ。

 

だが気に入らない。他人の事情に首を挟む気はないが、それでもこだわりくらい俺にもある。

コーヒーはマッカン派だし、キノコタケノコ戦争ではどっちでもいい派にこだわる男だ。

 

であるからして、このゲームにおいて親子仲至上主義の俺としては親であるコスモスの手でロータスに実害が行くのを見逃すのはそれに反するものであって、少しばかり手を出すのも吝かではない、というかなんというか。

ほらあれだ。コスモスが新しい石を海に云々とか言ってたし?ちょっとばかりコスモスの策略に乗ったフリ(ここ重要)をしてもいいかなって思ったんだよ。あくまで乗ったフリ。

 

まあそんなわけで石は石らしく、石の如く加速世界に一波(ひとなみ)起こしてやろうと思ったわけだ。

だがそこからが大変だった。加速世界だと現実世界のカーストポジションはまるで意味をなくしてしまう。おかげでヘイトを稼いで目を逸らさせるような作戦は取れなくなった。しかもアバターの地味さから、注目を集めて話題独占みたいな事も出来ない。

 

ならどうするか。ここで俺はブレイン・バーストのプレイヤーの年齢に注目した。当時のバーストリンカーの最大学年は中学一年。大人に憧れる者、少しばかり大人になった気分を味わっている者達が溢れていた。しかしその大部分が当然のことながら好奇心溢れる子供だ。ならばそこを刺激してやればいい。

好奇心旺盛な少年少女が食いつくといったら、そう『噂話』だ。それは神獣級エネミーの存在であったり、幻の強化外装だったり、八王の存在そのものだって噂話たり得る。恋話を求める女子、かっこよくなれる情報を求める男子。どいつもこいつも噂話を必ずと言っていいほど把握している。そのせいで俺が一時間校舎裏で待ってた事も翌日クラスメート全員に知れ渡ってましたとも。…チッ。

 

……おほん。つーわけで噂話を作ってやった。唯一目立つであろうレベル9というステータスのおかげで、情報のレアリティは相当高い。題目は『東京全区に現れるレベル9』ってところか。

思ったとおり食いつく食いつく。俺の目論見通り、破竹の勢いで広がった噂はロータスの噂を覆い尽くすように東京全域に広まった。

この噂を作る為に東京全域を移動しまくった時に発生した料金が予想以上だった事以外は大体計画通り。さらにさらに度重なる疲労で一週間程寝込んで久しぶりに出没しようと思ったら、ロータスの噂ごと俺の噂も消えてた事以外は計画通りだった。

あの時は本当に予想外過ぎて帰って寝ました。噂って一週間で消えるものでしたっけ?噂ってアバターの影響受けるんですかねぇ。いや、きっと全て月島さんのおかげだな。ありがとう月島さん!

 

とまあそんな感じの二年前の昔話(黒歴史)でした、ちゃんちゃん。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

「……懐かしいな」

 

二年前の事は良くも悪くも記憶に残る。思い出し過ぎて怖い人達の事まで思い出した事以外はこの一言に限るだろう。

あれから二年。結局バケツに沈み込んだ石を拾い上げたのは、俺ではなく銀の烏だった。コスモスの望んだ津波は起こらず、人知れず復活した黒の王は加速世界への復帰を果たしたんだ。

 

「思い出したならいい加減吐いてもらおうか。朝、お前は、何をしようとした?」

 

……そういえばそれを聞きたかったんでしたね。あまりに遠回りし過ぎて完全に忘れてたわ。

 

「……その前にお前の予想を言えよ。合ってたら言ってやるぜ?賢くて知恵も知識も備わっている黒の王様?」

 

「…うん、堂々巡りになるよりかはいいか」

 

思ったより簡単に承認してくれた。なんだ、これでいいなら始めからこう言えばよかった。合ってようが間違ってようがその通りって言えばいいわけだし。

 

「そうだな、順序立てて言っていこうか」

 

腕組みもどきから片腕を出し軽く掲げる。

……指でも立ててるのか知らんが、指がないので手をフラフラしてるようにしか見えない。こいつ天然……というよりはドジっ子の気質があるんだよなぁ。

 

「まず一つ目、フーコを連れてきた理由だ」

 

……え?理由なんてあるんですかロータスさん!あの人元々居ない予定だった人っすよ?

 

「それは襲撃者、シアン・パイルを特定する確率を上げるためだったんだろう。

……もしくはあいつが付いて来たいと言っただけか」

 

後者です。友人としてもうちょっと慎みを持つよう言い含めといてください。俺じゃああの人を止められないんで。

レイカーブリッジ封鎖できません!それどころか俺が封じ込められてます!

事件は現実世界で起こってるんじゃない、加速世界で起こってるんだ!あ、今日で現実世界にも侵略されたんだった。

うわぁ、ざる警備。

 

「…あー、正解だ」

 

「よし。次はお前が朝何をしようとしたか。…まあこれは簡単だ。先程も言ったとおりシアン・パイルのリアルを割る為だろう」

 

「まあ正解だな」

 

これは隠す必要はない。それこそ基本的な知識だ。ブレイン・バーストにとって一番恐ろしいのはアバターを纏っていない現実世界。特に女の場合はリアルでは何も出来ないだろう。なのでより一層リアル割れには注意を払わなければならない。だから顔見知りの皆さんとも末短いお付き合いをお願いしたいものだ。

 

 

「……だが、それでは足りなかったんだろう?」

 

「………」

 

 

……ドジっ子でも頭はいいんだよな、こいつ。スペック高いのにドジっ子属性を付けてギャップ萌えとかどこのヒロインだよ。

つーか俺とロータスの温度差がやばい。ドキドキしながらテストの問題を解いてる生徒と答え知ってるから適当に流してる先生の気分。

 

 

「あちらが持っているのはレベル9のリアル情報。しかもフィジカルフルバーストを私が使ったから制限時間も限られている。

そこから手っ取り早く解決する方法と言えば、シアン・パイルを全損させるか襲うのを諦めさせるしかない。しかもリアル情報を割らせない保険付きでな。

ならその方法はなんだ?当然相手のリアルを割ることだ。しかしそれをやるには状況が少し変わってくる。

私とシアン・パイルが交渉する場合、互いが互いにリアル情報というナイフを相手の首に突きつけているので私達は一蓮托生、片方が情報を漏らせばもう片方も躊躇なく道ずれにできる」

 

しかし、とロータスは一つ溜めを作った。

 

「交渉をする人間が私ではない第三者の場合、確かにこちらも脅せてはいるが私が人質になってしまっている。

彼奴はレベル4、私はレベル9。私が対戦で負けた場合失うポイントは一回につき15ポイント。フィジカル・フル・バーストで99%のポイントを失っている私には大損害だ。

元のポイントが1500以下なら一回、3000あっても二回で全損してしまう」

 

ロータスは淡々と自らが以下に危なかったかを紡いでいく。

ポイントの残高は不明。しかも二年もの間加速世界から逃げていた黒雪は減ることはあっても増える事はなかっただろう。

 

「相手のリアルを割り、かつ己のリアルを明かさずに、精々3.4日で全てを完遂させるのは難しいだろう。下手したら私のポイントが3000以下かもしれない

………なら、どうするか」

 

僅かばかり視線を鋭くさせたロータスが言葉を続けた。

 

 

 

 

「それは、相手に私と同等以上のポイントが稼げる存在を用意する事だ」

 

 

 

 

この言葉にはさすがのクロウも気付いたのか俺に目を向けようとして顔を彷徨わせた。

 

「『意識なきプレイヤー』と『意識ありしプレイヤー』。この違いは彼奴にとっては破格の差がある。

『意識なきプレイヤー』は一日一回確実なポイントをくれる。だが『意識ありしプレイヤー』、しかも脅迫ネタを持った『意識ありしプレイヤー』は別だ。

直結して一日に何回もポイントを奪うでもよし。ショップでポイントをカードにさせて纏めてポイントを奪うでもよし。

ありとあらゆる方法でポイントが手にはいる。それもリアル情報を盾にな」

 

「…………」

 

俺は沈黙を保った。だがロータスにとっては十分だったようだ。

 

「この役をお前がやろうとしたのだろう? 真っ正面から行けば相手は少なからず警戒する。そこに今までより好条件な取り引きをチラつかせれば間違いなく飛びつくとふんでな」

 

苦々し気な声を出すロータスは右手の刃を振動させ始めた。現実世界だったら拳を握りしめているのかもしれない。

 

「違うか、ウルフ?違うなら違うと言ってくれ、謝ろう。

だがあっているなら……」

 

言葉の続きをいう前にロータスは黙り込んだ。

 

………さすがだよロータス。いや、黒雪。それは確かに俺がやろうとしていた最有力候補だ。問題の先流しどころか破綻が訪れそうな選択だが俺はやったと思う。

もっと簡単で、もっと安全な方法を見つけていなければそうなっていたかもしれない。

 

「…そうか」

 

全く、本当に最近は厄日続きだ。レイカーの件も、黒雪の件も。

 

 

……だけど、ようやく長かった問題に一つ、解を付けられそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「大ハズレだ」

 

 

 

 

 

 




「こうだろ!」→「くっ、その通りだ」

の流ればかり書いてたので

「こうだろ!」→「バカめ」

を書きました。嘘です。
設定を詰めてなかったので理論に穴が生じてこうせざるをえなかっただけです。
プロット書く気が出ないので全部脳内で設定構築してるとよく起こる。だが反省はしない。

明日か明後日に投稿がなければ三月中盤までサヨナラです。
ワタシハエタリマセン。

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