後々の展開を考えた結果、すぐフィードアウトするオリキャラが登場しました。
今話では名前すら出ません。
ルミルミか川崎弟にしようかとも思ったんですが…使い捨てになりそうなんでやめました。
それでもよければどうぞ。
日常カムバック
激動の一日の翌日。俺は学校には間に合わないと悟った後、一日くらい休んでも何も言われんだろうと結論付けて惰眠を貪っていた。
クラスメイトが勉強に噛り付いているであろう中で一人、椅子の背もたれに寄りかかりながら寝ている間に送られていた最愛の妹からのボイスメッセージを再生した。
『やっほーお兄ちゃん!そっちの生活どう?エンジョイしてる?
小町はとってもエンジョイしているであります!温泉とか温泉卵とか温泉饅頭とかちょー美味しかったよ!
今日は旅行のシメにディスティニーランド寄ってから帰るから、家に着くのは夜遅くになるかなー。
早くお兄ちゃんに会いたいのを我慢して、小町はお兄ちゃんの分まで楽しんでくるからね!あ、今の小町的にポイント高ーい!』
メッセージはここで終わっている。お前温泉飲んじゃったのかとか旅行の楽しみ温泉だけかよとか聴きたくなったが、久しぶりに妹の声が聞けて多少なりとも俺もテンションが上がっているらしい。まあ旅行のシメがディスティニーとはな。さすが我が妹、分かっていらっしゃる。
「……てか上月どうすんだよ」
俺はリビングのソファーで笑いながらテレビを見ているツインテール娘に目を向ける。
三日間同じ屋根の下に暮らしていたにもかかわらず、あまりに忙しくて初日以外はまるで背景のように存在をスルーしていた。しかし家族が帰ってきた時に小学生がいるのはさすがにマズイよな…。
「なあ上月。今日みんな帰ってくるらしいけど、お前いつまで家にいんの?」
ん?と首を傾げながら上月はテレビに向いていた顔をこちらに向ける。一瞬天使モードに戻ったかのようなあどけなさを醸し出していたが、要件を察するとうげーとでも言いたげに顔を歪めた。
「あーマジかよ。もうそんなになるのか」
ソファーに体を投げ出し、足をパタパタさせながら思考に耽る姿は小町に通ずるものがある。その外見に中身が備われば完璧だったのに…。
「……しゃーねー。そろそろ迎えを呼ぶか」
「迎え?」
「そっ」
足をパタパタさせるのを止め、今度は虚空にタイピングを始める。喧嘩したと言っていた寮長でも呼ぶのだろうか。
しかしどう説明する気だ?家出少女を匿ってくれる優しいお兄さんとか怪し過ぎるぞ。相手が聞き分けのない大人だった場合即通報もありえる。しかも事故とはいえ上月を撫で回したのは事実であって…。
あれ、詰んでる?
「オーケーい。夕方杉並と練馬の半ばにある公園で待ち合わせだ」
俺の苦悩を知りもせずに上月はとっとと迎えを呼んだらしい。まあうちに呼んだわけじゃなさそうだから、ひとりで行ってもらえば問題ないか…。
「おいウルフ、あんたも付き添いな」
「は?」
…とか思ってた数秒前の俺を殴りたい。
この堕天使ちゃんはどうしても俺を追い詰めたいらしいな。だが無意味だ。
せっかくの休み(違うけど)、俺はこの家を梃子でも動かんぞ!
「嫌に決まってんだろ。なんで俺が…」
「お・に・い・ちゃん♪」
俺の言葉を遮り、鼻と鼻がくっつきそうになるほどの距離まで詰めてくる。俺が思わず仰け反るのと同時に上月も一歩下がり、首にある赤いニューロリンカーを軽く叩いた。そして鼻歌でも歌いだしそうな声色で、今まで見た中でも最高の笑みで、目の前の天使はこう言った。
「け・い・さ・つ♪」
……天使の口から出たのは悪魔の言葉。それは帝王の如き絶対性を持ち、平民たる俺はただただ平服するしかなかった。
「……どこまでもお供いたします」
☆☆☆
「お供するとは言ったけどな……」
気怠い表情を隠しもせず、俺は昼に脅された通り上月の送迎に付き添っていた。
道中の上月は外出用の顔で明るく振る舞い、小さい頃の小町を連想させてくれる。それだけなら素晴らしいのだが……
「お兄ちゃん、わたしのどかわいちゃった!ジュース買って!」
「ねぇお兄ちゃん。あんな所にクレープが売ってるよ?わたし食べたいな〜」
「お兄ちゃんそこにサーティワンがあるよ!今日ダブルが安いんだって!これを買わない手はないよ!」
……うん、ほんとに妹そっくりだわ。甘え上手というか、あざといというか。てかそれに流されちゃう俺もダメな気がする。まあ古今東西『可愛いは正義』という世界の理もあるから問題はないけどな。俺の金以外は。
「…ねえお前何しに来たの?お前を送り届けるはずが、俺の金が世界の経済に送り出されてるんだけど」
「世界?よく分からないけど、お兄ちゃん世界に何かを送り出せるなんて凄いね!」
「…お前の本性知らなけりゃ笑って流せたんだがなぁ」
いかんせん、今の性格が猫の皮だと知っていると馬鹿にされているようにしか思えない。
それに軽く言ってるが中学生、しかも小町じゃなく俺なのだからもらえる小遣いは少ないのだ。あって困るものではないが、なくて困ることは沢山ある。少し金策についても模索すべきかもしれないな。
働く…のは嫌だから、働かなくても稼げる方法を。
「ふぅ、ごちそうさま。おい、ついたぞ」
「…いきなり戻るなよ」
猫を被っていると分かっていても、やはり天使モードの方が個人的に好きだ。というか素が怖い。天使モードとの差がありすぎで二重人格を疑うレベル。ついでに女性全員の表の顔を疑うまである。
俺を置いて公園の中に進む上月の後を追い、俺も公園へと足を踏み入れる。平日だけあって学生とおもしき人間は少ない。精々幼稚園から保育園程度の子供と同伴の親が何人かいる程度だ。
そこまで大きくない公園の中、ポツポツと離れて置いてあるベンチの一つに上月は迷うことなく進んでいく。その先には、上月より一つ二つ大きい程度の男子生徒が視界の端をチラチラと落ち着きなく見ながら座っていた。おそらく時計でも見ながら待ち合わせの相手を待っているのだろう。
それが正解だと教えるかのように、上月を発見した男子が凄い勢いで上月に駆け寄っていった。
「に、ニコちゃん!どこ行ってたの!?たしかに寮長さんも酷いと思ったけど、三日間も帰らないなんて!おなかすいてない?泊まる場所はどうしたの?まさか野宿とか……!」
「してねーから。落ち着けって」
詰め寄る男子の頭に軽いチョップを喰らわせる上月。
というか素の方で接していることに少し驚いた。いくらあれが外行き用だとしても、完全な部外者だけにしか見せないわけではないだろう。
つまりそれだけあの男を信頼しているということか。プロミネンスのメンバーか、それとも親か子だったりしてな。
まあ何はともあれ無事合流出来て、しかも通報直球ルートも回避したし、俺は帰るかね。散財しかしてないけど。
「おいこらウルフ、ちょっと待てよ」
「うおっ!?」
上月の待ち合わせ相手に存在を認識されていないことをいいことに、面識を持つ前に退散しようと思い公園の入り口に歩き出したのだが、随分と目ざといようで上月に手を掴まれ、その男子の前に放り出された。
そいつもいきなり目の前に年上の男が現れたからか、それとも上月が男を連れてきたからか、目に見えるほどの動揺を浮かべ始めた。
「ににににニコちゃん‼︎もしかしてこの人のうちに行ってたの⁉︎お持ち帰り⁉︎事案⁉︎それとも警察を…」
「まて、落ち着け、Koolになれ、いやCoolになれ。
妹だ妹。妹が上月の友達で、俺は見送りを頼まれたんだよ」
慌てていても人の話は聴ける子のようなので、この数日間を嘘と真実を織り交ぜながら説明すると、少しずつ落ち着いていった。さすがに小町どころか親も居なかったと知ったらまた通報ルートが開通されちまうから慎重になった。
…うん、そう考えると落ち着いてくれて本当によかった。通報ルートを回避出来てなかった訳ではなかったようだ。もう永久に復活しないでいてくれ。
「ま、それにこいつもバーストリンカーだし、そのうえ王だからな。何かされたら加速世界って戦場もあったからそこまで心配しなくても大丈夫だよ」
「アホか。コマンド言えなくなったらどっちにしろだろ。てか人がいるところでそういう話はよせ」
「大丈夫だよ。この近辺に学校はねえし、学校終わったばっかでいきなりここに直行してくる奴もいないだろうしな」
いや目の前にいるだろうが、お前の連れが。それにサラッと王なのバラすの辞めてくれませんかねぇ。
この後の流れは分かるぞ。「え、王?何色⁉︎…透明?なにそれパチモン?」みたいに疑われるんだろう。聞いたことないからとパチモン扱いされたことを何度も盗み聞きしたもんだ。
しかし少年はさきほどのように騒ぐでもなく、語尾を縮めて呟くだけだった。
「お、王なんですか。ってことはレベル9、なんですよね…」
…ん?思った以上に反応がない。というよりは…なんだ?卑屈さというか羨望というか、それに似たようなものを感じる。それにさっきから気になっていたんだが、こいつ上月に対して負い目のようなものがある気がするな。性格もあるだろうが…なんというか、店長に頭が上がらないバイトのような…。…ただ上月の性格のせいな気がしてきた。
「なんでもいいが、そろそろ解散しようぜ。遅すぎるわけでもないが小学生がずっといてもいい時間でもないぞ。帰る時間もあるし」
「あーそうだな、そろそろ帰っか。おいウルフ、連絡先寄越せ」
「…ほらよ」
「お、おう。なんだ、案外あっさり渡すんだな」
「いや、どうせ渡すことになりそうだし」
国家権力には逆らえませんのですはい。勘違いでも先に撫でまわした前科があるし。
「…はぁ。改めてそいつは水に流すよ。三日間世話になったしな。ついでに…ほれ、私の連絡先もやる。寂しくなったらいつでも連絡してね、おにーちゃん♪」
「はいはい、あざといあざとい」
「うっせ」
上月はゲシッと俺の足を軽く蹴り、笑いながら迎えに来た少年と去って行った。
厄介ごとは昨日で終わり、頭を悩ます堕天使ちゃんも帰宅。今度こそすべてを忘れて日常に戻れそうだ。
☆☆☆
二日連続同じような動作で仰向けにベットにダイブする。そこまで疲れてはいないが、二日連続で休むのはマズイのでタイマーをセットしていつでも眠れる状態にしておく。
やることがなくなると頭が暇になり、また色々考えてしまう。今回頭に浮かんだのは、先ほど別れた上月のことだった。寮監さんに怒られたのかとか、俺に飛び火が来ないかとか考え出すとキリがない。
「…まあそれでも、上月もこれで安心だろ」
突然だが、俺は自分がなかなかに賢いと思ってる。ブレイン・バーストで精神年齢の上昇に加え、様々な謀を見てきたからか現実でも行動の思惑を読む癖ができてしまった。
かつて小町が言っていた。
それは王である上月も、いや王だからこそ不安が何倍もあるだろう。特に上月はまだ小学生。中学生の男子が相手となれば手も足も出ないはずだ。
だからあいつは慎重に保険をかけた。最低でも二人俺のリアルを知っている存在を作ることで、「私の情報を売ればお前も道連れだ」と俺に示すことができた。
そして連絡を交換することで交換した時の状態、上月のリア友(リア充の友達ではない)が存在し、かつそいつもバーストリンカーであることを意識させて自分の安全をより強固にした。
つまり…
「俺にはなんの関係もないな」
連絡先を交換しても、それは互いの保険であって交流するためのものではない。俺はあいつに連絡しないし、あいつも俺に連絡することはないだろう。
ただリアルを知っているというだけの関係が続くだけ。それならこれ以上考える必要もないと結論付け、俺は上月について考えるのをやめた。
そして考えるのをやめたなら後は寝るだけだ。タイマーがかかっていることを確認し、俺はゆっくり意識を……
「たっだいまー!小町ちゃんのお帰りでーい!」
…手放せなかった。むしろがっちりキャッチされるまであった。頭を働かせないなら身体を働かせろとの妹神のお告げかもしれないな。
再びくだらないことに動き出した頭をよそに、ドタドタと聞こえる階段に俺は足を向けた。
遅れてすみません。
後々の展開に続けられるように悩んでたり、軽いスランプ気味になってたり、気晴らしに続きのない小説書いてたり…
まあそれはともかく、次回!時間が少し飛んで八幡の戦闘フェイズ!と思う!
乞うご期待!