やはり俺の加速世界は間違っている   作:亡き不死鳥

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最近学んだこと。予告なんてするもんじゃない。だって守れないもの。


休日の二組

 

 

 

 

 

 

 

黒雪、レイカー、上月。この三人の問題ごとが全て終わってから何日たっただろうか。

激動過ぎる一日ベスト5に入りそうなくらいイベントが続けて起こった日+αだったが、それ以降は平々凡々普通の毎日。むしろ黒雪がいない分、今までよりも平和だった気がする。

……その日から二週間ほどたった土曜日。つまり今日、再び俺にとってよろしくないイベントが起こっていた。

 

 

「狼さん、デートをしましょう」

 

「………は?」

 

 

先ほどから寒気がするほどの笑顔で対面に座り、俺如きには到底理解できない言葉を発したのは、スカイ・レイカーこと倉崎楓子先輩。昨日の夜、突然この場所に呼び出すメールが入ったのだ。

呼び出されたのは梅郷中学から程よく近く、値段もリーズナブルでお財布に優しく、なかなかにいい雰囲気なカフェ。リア充ほいほいな場所であり、休日効果も相成ってカップルの数も多い。あーんとか、口にご飯粒ついてるよーとかいってイチャイチャしてる奴らが大量にいる場所なのだ。リア充が爆発出来たら連鎖するレベル。

 

「……ねえ狼さん。私は今すごーく怒っています。なんでだと思います?」

 

殺気と共に意識が無理矢理倉崎先輩に引き戻される。

余所見したら殺気を放たれるなんて緊張感があり過ぎるな。さらに怒っているのに男をデートに誘うなんて…。謎が謎を呼ぶぜ。

 

……それはともかくとしても、真面目に考えても怒っている理由なんて見当がつかない。そも二週間まるっきり会ってない相手の心境を読めだなんて無理ゲーにも程がある。

 

ならば、ここは俺の最も身近な女子である小町を基準に考えてみよう。

小町が怒る理由…冷蔵庫のプリンを勝手に食べた時、買ってきたアイスを勝手に食べた時、出かけてお土産を買うのを忘れた時。ここから導き出される答えは……!

 

「……ダイエット中とか?」

 

「殴りますよ?」

 

「嘘ですごめんなさい冗談です」

 

ふぇぇ…軽く上げた拳に死のオーラを感じるよぅ。いやまじ怖い。椅子に座って無かったら瞬時に土下座するレベルで怖い。てか今も机に付けた頭が上げられないくらいに怖い。あと怖い。

 

「……そんなに太ってるように見えるんですかね…」

 

…小さく呟きながら、自分のお腹をプニッと軽く摘まむ倉崎先輩が視界の端に映った。

どちらかというとおなかよりもう少し上の箇所が見るからに豊かなので勘違いを…。いやほんとすみません。女子との関わりとか小町や黒雪しかなくて分からないんです。ついでに黒雪の怒った記憶は制服にカレーうどんの汁が飛んだ時でした。

 

「……すみません降参で」

 

「はぁ、仕方がないですね」

 

俺が頭を上げると同時に、自然な動作で溜息を吐きつつお腹にやっていた手を頭に当てる。その流麗な仕草に感嘆しつつも俺は倉崎先輩の言葉を待った。

 

「二週間」

 

「…?」

 

「これがなんの数字か分かりますか?」

 

「……俺と先輩が最後に会ってからの期間…だよな」

 

「そうです」

 

…よかった。さらっと答えちゃったけど、これで間違ってたらまた恥をかくところだった。勘違い……自意識過剰……ナル谷…うっ、頭が。

 

「……えーと、それで?」

 

「…なんで会いに来てくれなかったんですか?」

 

「え?」

 

「待ってますって送ったのに…」

 

「……あー」

 

忘れてた…わけじゃない。ただなんか気まずいというか、1日2日で行くのも鬱陶しく思われるかもなーとか、小町の相手やプリキュアの視聴とかでタイミングを逃していたらいつのまにか二週間。時間が経つのは早かった。

 

「……まあ、その、なんだ。…悪い」

 

「…んー、まあいいです。ですからデートしましょう」

 

「いやその理屈はおかしい」

 

行くと約束したのに行かなかったのは俺が悪い。理由も大したことなかった事もあってそれは認めよう。だけど…

 

「俺とお前の関係は加速世界(あっち)だけだろ。なんでわざわざ関係のないリアルで呼び出したんだよ」

 

そう、黒雪の時は緊急事態だったのでやむを得ないが、バーストリンカーがリアルで会うのはかなりリスキーだ。俺はそんな気はないが、PKを仕掛けてくる奴もいるだろう。特に加速なんて力を持つもの同士、警戒はするに越したことはないはずだ。

 

「そうですね…」

 

うーん、と目を瞑り顎に手を当て考えてますのポーズをとる倉崎先輩。考えてる時点で何も考えてないのは明白なのだが、女の人の思考は邪魔しちゃいけないってばっちゃが言ってたので無言を貫き通す。

そして数秒で答えが出たのか、ピコーンと効果音が聞こえそうな仕草で指を立てた。

 

「狼さんをもっと知りたかったから。それじゃあダメですか?」

 

「……いやダメでしょ」

 

「むぅ。嘘ではないんですけど…」

 

…お、おう。ボソッと言うのやめてください惚れてしまいます。

そんな俺の心の叫びも聞かれず(聞かれても困るが)倉崎先輩は懐から一本のケーブルを取り出した。

 

「続きはこっちで話しましょうか」

 

そしてそのまま取り出したケーブルを自分のニューロリンカーに挿し、もう片方を俺の方に差し出してきた。その瞬間、店の中の視線が一気に集まった気がする。

 

直結。ニューロリンカーの防壁の99%を素通りできるので、基本これをするのは絶対的な信頼をおいた相手、家族だとか彼氏彼女だとかだけと言われている。

その中で、さらにこんな昼間っから店の中で見せつけるように直結しようとするなんてカップルくらいしか考えられないだろう。俺が今の状況を第三者視点で見てたら、即座に呪詛を唱えてるだろうから周りの奴らの反応も分からんではない。でもこっちみんな。

 

「……ん」

 

このままフリーズしてても仕方がないので、取り敢えず受け取ることにした。ゆっくりと渡されたケーブルを掴み、これまたゆっくりと首に持っていく。

見られて困るものはないか、悪用されて困るものはないかと必死に稼いだ時間を使いつつも記憶を巡らせる。しかしよく考えると、普段よく使っているのは家にある親父のアカウントだし、消えて困るほどの連絡先はない。困るのは精々買った電子書籍くらいだ。なんだ問題ないじゃん。

 

『てかこれ二回目だな』

 

そも今まで何度も黒雪と直結してきたのだ。悪用されても最小限に、見られても特に困らないように整理しておく癖が知らずと付いてしまっていたのだろう。この二週間はぼっち飯だったから失念していた。

 

『さて、これでゆっくり話せますね』

 

『俺は直結してる時点でゆっくりできそうにないんですが…』

 

『それは二週間も来てくれなかった罰です』

 

倉崎先輩は周囲の視線など、まるで意に介してないように自然体だ。思考発声された声も淀みなく、むしろ少し楽しそうな声になっている。

俺が縮こまっているのを見て喜んでいるのか、このドSめ。

 

『…さて、もう少し楽しみたいですが本題に入りましょう』

 

わー待ってましたー。早く終わらせて帰らせてー。休日のぼっちパラダイスは7日のうち2日しかない貴重な時間なんだぞー。

まあ毎日がエブリデイでぼっちだから希少価値はそこまでありませんがね。

 

『狼さんに会ってもらいたい人…というよりは、その人のお願いを聞いて欲しいんです。そして、まずその人に会うためにする事があります』

 

『する事?というか俺の意思は…』

 

『する事というのはですね…』

 

無視ですかそうですか。ええツッコミませんとも。

こういう強引なところは黒雪そっくりだ。これが類は友を呼ぶというやつか。…なるほど、俺がぼっちな理由の一つが解明された気がする。

 

しかし俺が世紀の大発見をしたとしても、倉崎先輩はまるで気にしない。俺は急速に目の腐敗が加速していくのを感じながら、倉崎先輩が首筋のニューロリンカーを小突くのをボーッと眺めていた。

 

『タッグ戦です!』

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

同時刻、神田神保町に存在する大型書店の一角、そこに二人の少年少女が向かい合って座っていた。

一人は丸っこい目とこれまた丸っこい体をした、今加速世界を騒がせている完全飛行型アビリティを所持する少年、有田春雪。

もう一人は控えめな服に同じく控えめな髪型、そこに昨今では珍しい赤いプラスチックフレームの眼鏡をかけている、一昔前なら文学少女という言葉が相応しい少女。

 

書店という雰囲気にマッチする少女と、書店とは些かミスマッチな少年という組み合わせ。それに加え、この二人はなんと直結をしているのだ。これに関心を示さない奴はいないとばかりに、近くに座っている女子高生は興味津々のご様子で二人を盗み見していた。

 

しかし二人は揃って互いの目を見たまま微動だにしようとしなかった。それもそのはず。現在二人は加速世界の中で対戦中なのだから。しかし対戦といってもこの二人が戦っているわけではない。タッグ戦と呼ばれる二対二の対戦だ。

 

そもこの二人がこうしているのは春雪ことシルバー・クロウがレベルアップしたことにまで遡る事になる。いや、この場合して()()()()というべきか。

このブレイン・バーストというゲームは、レベルアップするには相応のバーストポイントを支払う必要がある。レベル1からレベル2に上がるためには300ポイントが必要だ。しかしハルユキのドジっ子スキルが発動し、レベルアップ可能になった対戦後すぐにレベルを上げてしまったのだ。その結果、ハルユキに残されたポイントは僅か8。全損一歩前という状況に陥ってしまった。

そこで急遽ポイントを安全圏まで戻すため、新ネガ・ネビュラスに加わったシアン・パイルこと黛拓武により用心棒(バウンサー)に頼む事にしたのだ。

 

用心棒(バウンサー)

レベル2以下でポイント残高が危なくなったバーストリンカーに雇われ、依頼人が安全圏まで復帰できるまでのタッグマッチの相棒を務めているバーストリンカーの事をそう呼んだ。

その用心棒にハルユキは依頼したのだが、どこの因果(作者)のイタズラか、その用心棒本人に転倒という名のダイレクトアタックを決めてリアルを割るというタクティクス(おっちょこちょい)を決め込んだのだ。

 

その先が今である。

バーストリンカーだけが感じられる僅かな間に乱入すること二回、乱入されること二回。合計四回のタッグ戦全てに勝利したハルユキのポイントは、充分安全圏といえる70台まで回復した。

ここまでくるとハルユキの気分も緩み、ほっとした気持ちになってくる。

 

『……きたの』

 

しかし、それだけでは問屋が卸さないとばかりに目の前の用心棒、今はフルダイブ用アバターのイタチの姿をしているバーストリンカー、《アクア・カレント》は小さく声を上げた。

 

『あ、あの。来たって、何が来たんですか?』

 

オドオドしつつも一戦三十分、フルではないにしてもそれなりに意思疎通をしてきた慣れか、噛む事なく聞くことができた。

それに対し、カレントは真っ直ぐハルユキの目を見て答えた。

 

『……あなたの最後の対戦相手』

 

『最後の…対戦相手、ですか』

 

ハルユキが言い終わる前にカレントはタン、タンと小さな手で対戦相手を指定し、《DUEL》と名のついたボタンが現れた。

 

『……あの、カレンさん』

 

『なに?』

 

『始まった時にも聞いた気がするですけど、マッチングリストの並びってレベル順ですよね?』

 

『そう』

 

『いまカレンさん、一番レベルが高い相手を選ぼうとしてたように見えたんですけど……』

 

『………』

 

 

タンッ

 

 

『ちょっとぉぉぉぉ⁉︎』

 

ハルユキの叫び虚しく、質問を無視してカレントはボタンを押した。それを言及する暇もなく、ピンクの豚型アバターは色を変え大きさを変え、見慣れた銀色のアバターを纏っていた。

 

ここでようやく足元や景色が落ち着き、ハルユキ自身も周りを見る余裕が出てきた。

ステージは《魔都》。オブジェクトが異常に硬く、シルバー・クロウではまるで壊せないステージだ。その変わり地面は規則正しく組み合わされた石畳なので、地上戦では安心して戦える。飛んでしまえば関係ないっちゃないが。

 

「あ、対戦相手!」

 

対戦が始まった以上、カレンに文句を言っても仕方がないと判断し、すぐさま対戦相手の名前の確認を急いだ。そこに表示されていたのは……

 

 

・Sky Raker(Level8)

・Clear Wolf(Level9)

 

 

「え、えええぇぇぇええ⁉︎」

 

休日の加速世界、そこに大きな悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 




次回!……予告はしない。どうなるか分からないし。
しかし薄っぺらくなりそうで怖い。

とにかく少しはハルユキにスポットを当てないと(使命感)

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