やはり俺の加速世界は間違っている   作:亡き不死鳥

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父の日のバイトが凄まじく疲れました。人来すぎよ。

それはともかくまたオリ話。書く予定がなかった話も書くことになるのはもう諦めた。だって計画性なんてないもの。


加速世界の異変

 

 

 

 

 

 

 

『お疲れ様です』

 

『……おう』

 

結局あの後は特にレイカーに加勢することもなく、タッグの意味など皆無な戦いに終わった。というかレイカーがカレントのライフを削り取りバーストアウトする前に聞いた話なのだが、先ほどのは元々互いに対戦することを決めていたとか。しかもこの後合流するのだとか……。

 

『…なあ。さっきの対戦、意味なくね?』

 

『ふふ、対戦に意味を求めるなんてナンセンスですよ?』

 

そうはいっても通常対戦なんてここしばらくまるっきりやっていないのだ。基本バーストポイント集めは無制限フィールドでソロ狩りしてるし、現実じゃ対戦を挑まない挑まれないのコンボが常に発動している。対人戦も観戦者がいるのも不慣れなのだ。他人に常に見られてるなんて恐怖しか感じない。

 

『ですがもう一人が鴉さんだったのは驚きましたねぇ』

 

『…知ってたんじゃないのか?』

 

『いいえ、カレンからは聞いていませんでした。ですが私の勘が告げていたんです。やるなら今日しかないって』

 

そうだったでしょう?とウィンクしてくる倉崎先輩に対抗する手段は目を逸らすくらいしか俺にはなかった。ちくしょうあざと可愛い。いや、この場合はあざと綺麗とでも言うべきか。小町のような幼さより大人っぽさを感じるあざとさは初めてだ。効いたぜ…。

 

「遅れてごめんなさいなの」

 

俺が必死に虚空に目を向けていると、その射線に入り込むように一人の女性が現れた。眼鏡越しでも分かる美少女なのだが、大人しい雰囲気でクラスの端で読書でもして空気になってそうな人だ。

まあいきなり話しかけてきた上に遅れてごめんなんて言ってきたのだから、こいつが先ほど倉崎先輩と一騎打ちしていたアクア・カレントなのだろうが……

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

………なにこの空気。カレント(推測)と倉崎先輩が見つめ合ったと思ったらどちらも沈黙してしまい、かといって俺が話すことなど出来るはずもなく場が沈黙に包まれている。普段なら沈黙など気にしないしむしろ推奨なのだが、目の前の二人が真剣な雰囲気を出している場面だと居心地が悪くなってくる。

だが二人がこうなるのも仕方がないのかもしれない。ネガ・ネビュラス崩壊の際にカレントは帝城を守る四神に無限EK、エネミーに延々と殺される状態に陥ってしまったと聞く。黒雪と倉崎先輩はなんとか現実に戻れたが、カレント合わせて三人の幹部が無限EK状態。そのうちの一人との対面はさすがの倉崎先輩でも感じるものがあるのかもしれない。

 

「…喫茶店を待ち合わせ場所にしたのは失敗だったの」

 

「…そうですね、同感です」

 

そう言い合い、倉崎先輩が立ち上がりカレント(仮)と手を握り、笑い合った。先ほどの真剣さはどこに行ったのか、二人とも破顔している。

つまり…どういうことだ?カレントによる八つ当たりがあるわけでもなく、むしろ会えたことを喜んでいる?いや会うのすら嫌なら今日の会合があるわけないんだが…。むむむ、わからん。

 

「さ、まずは座って。立ちっぱなしというのも迷惑でしょうし」

 

「ん、分かったの」

 

結局なんで笑いあってたのか分からないまま、空気八幡は現実に引き戻された。流れるような気軽さで倉崎先輩とカレント(本物)が直結していたのことにはもう違和感すら感じない。

カレントは取り敢えず何か注文しなければと紅茶を頼み、俺と倉崎先輩も飲み物を再度注文してから1分もしないうちに全ての飲み物が届くことで会話の準備が整った。

 

『まずは自己紹介なの。私は氷見あきら、アバターネームはアクア・カレントなの。リアルでは二人とも初めましてなの』

 

『相変わらず妙に丁寧ね、カレン。私は倉崎楓子、こちらこそリアルでは初めまして』

 

『…比企谷八幡、クリア・ウルフだ。こちらこそハジメマシテ』

 

『クリア・ウルフ…無色の王。噂は極々稀に耳に入るの』

 

『…そりゃどうも』

 

ここは稀にでも耳に入るのを喜ぶべきなのか、誰かが俺のことを話題にしたのを恐れるべきなのかよく分からない。まあ俺のアバターは影の薄さが売りですし?むしろ加速世界じゃ影の方が濃いまであるから噂になったことを驚くのが正解か。

 

『…それで?倉崎先輩から聞いたのは、これから来る人のお願いを聞いてくれってだけで細かい事は聞いてないんだが』

 

『では早速本題に入るの』

 

クイっと紅茶を一口飲み、真っ直ぐこちらを見据えるカレント(リアル)。ぼっち故に視線は苦手だが、美人の視線は殊更苦手だ。威圧されてるわけでもないのに自然と視線を外してしまう。

それを気にするでもなく、カレントは最低限の説明でこう言った。

 

 

『今日の9時ジャスト。上に行ってここに出向いて欲しいの』

 

 

思考発声と同時に送られてきた地図、そこには目的地を示すであろう赤丸が描かれていた。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

そして9時より1分ほど前、俺は結局言われるがままに無制限フィールドにダイブしていた。やっぱり、美人二人には勝てなかったよ…。まあ二週間分の負債はそれで帳消しにしてくれるらしいのでよしとしよう。その代わりもう一度誘われたので、今度は二週間経つ前に行こうと思った。

 

さておき今回の目的だが、ここ最近エネミーをテイムしている奴らがいるらしいので、そいつらの確保かアバターの確認を頼まれた。ただエネミーをテイムしている、そこまでなら何の問題もないように見えるのだが、なんとそのテイムはアイテムを使わないテイムらしいのだ。専用アイテムを使わないとテイムできないはずなのだが、不思議な事にそんな事案が相次いでいるのだとか。

さらにさらにそのテイムしているエネミーがなんと軒並み巨獣(ビースト)級エネミーだと言うではないか。俺もかつて巨獣級エネミーをテイムした事はあるが、テイム用アイテムの『幻想の手綱』がめちゃくちゃ高い。王と呼ばれている俺も少し躊躇してしまう程度にはバーストポイントを失うのだ。

 

つまりそんなことができる奴、もしくは奴らが弱いわけ無いのでハイレベルのプレイヤー以外に任せられない。しかもカレント調べでは、ここ最近連日決まった時間に大型モンスターの生息地(主にダンジョン)でテイムを行っていることが判明した。

ならば大部隊で突撃すればと聞けば、テイムされた巨獣級エネミー二、三体が常にそのダンジョンの入り口付近を徘徊していて近づけないと返される。一度無理矢理突破したことがあるらしいが、その時は既にもぬけの殻だったらしい。

突破するまでに激しい労力を割き、それなのに成果は0だった経験があるならば誰もやりたがらなくなるのは必然だ。

そこで白羽の矢が立ったのが俺というわけだ。姿が見えないのでエネミーとの戦闘を回避できる。そのうえ敵にバレないので逃げられる心配もなくなる。万が一戦闘になったとしても逃げきるなど俺には容易いと言われた。

 

面倒ではあるが、巨獣級のアイテムを使わないテイムも少しばかり気になる。あわよくばその技術を……。

なんて下心と共にそこまででもない距離を走り続けた。

 

「あそこか…」

 

たいした時間もかからず、目的のダンジョンが見える場所までたどり着いた。

今回の目的地は【善福寺公園】。地下にある洞窟のようなダンジョンで、所々に巨大な川や池が存在し、そこを住処とするエネミーも多い場所だ。

 

「うっわ、いるわいるわデカイのが」

 

ダンジョンの入り口には俺の何倍も大きい百足に蝿に……ありゃゴキブリか?…帰っちゃダメっすかね?いや見つからないだろうけど生理的嫌悪ががが。

 

「……とっとと終わらせて帰ろう」

 

そう決意し、ダンジョンの入り口へと駆け出した。

…地面に突き刺さる小さな針に気がつかないまま。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

ダンジョン内、その最深部付近。巨大な湖と岸が存在するそこでは、四人のアバターが思い思いに寛いでいた。

一人は手の中にある複数の針を弄び、一人は石に座り微動だにしない。もう一人も石に座っているが、暇なのか左手の触手のようなもので近くの石を砕いておもちゃにしていた。

異様なのは最後の一人。他2人と同じように座っているのだが、座っているものが問題だった。鋭い目に鋭い牙を持ち、皮膚すら柔らかい物なら傷がつくであろう。その姿はまさしく鮫。肉どころか硬いアバターも噛み砕いてしまいそうなエネミーが、まるで借りてきた猫のように大人しく水上を泳いでいる。まるで真上の主人の機嫌を損ねないように細心の注意を払っているかのようだ。

そんな静かな時間を過ごしていると、針を弄んでいた少女が口を開いた。

 

「……!姐さーん、もう来たみたいですよー」

 

「もう来たのかー。いつもより早いね。何人?」

 

「反応は…一人みたいです。あ、なんかすっごい早い」

 

「一人?笑えますねぇ、僕達に対してたった一人とは」

 

ほへぇーと感心するような声に割り込んだのは、石から立ち上がり触手を操っている少年だった。

 

「放っておいて良いんじゃないですか?入り口に配置してあるエネミーを突破出来なくて終わりですよ」

 

「そうですねー。ダッカー君が出来ないのは当然として、私も難しいと思いますし。生理的に」

 

「…前から思ってたんですが、そのあだ名止めてくれませんかねぇ針娘。酷く不愉快です」

 

「レベル4に上がったばっかのひよっ子をなんて呼ぼうが私の勝手ですー。ダッカー君が私に追いついたら名前で呼んであげるよ」

 

「…ほう、それはいい事を聞きました。ならその針、全部奪ってあげましょうか?魔王徴発令(デモニック・コマンディア)で全て奪い取れば僕より下になるでしょうし」

 

「その前にダッカー君が針鼠なるのが先だと思いますけどねー。あ、針蛸の間違いでしたっけ?」

 

「貴様ッ…!」

 

「はーいはい。喧嘩はそこまでだよー」

 

一触即発の場面に釘を刺したのは、いつの間にか鮫から降りてきたF型アバターだった。たったそれだけで二人は争いを止め、少年は舌打ちをしながら再び石に座った。

 

「ナッツちゃん。さっき来たって言ってた一人は今どうしてる?」

 

「へ?そりゃあ……あれ⁉︎もうダンジョンの中に入ってる⁉︎しかもさっきより早いです!このままだとあと5分もしないうちにここに着いちゃいます!」

 

「…ふふ、来たんだ」

 

ワタワタと慌て始める少女。しかし女性の方はむしろ楽しそうに笑った。

 

「三人は先に帰っていいよ。私はこれから来る人にちょーっと用事があるからさ」

 

この言葉により、狼狽えていた少女はさらに狼狽え、話を聞いていた少年も一緒に慌て始めた。

 

「危険ですよ!巨獣級エネミー三体を潜り抜ける人と二人っきりなんて!」

 

「今回は針娘に同意です!あなたに何かあったら…」

 

「大丈夫だって。ね?」

 

「「……!」」

 

そんな二人の心配も一蹴し、女性は二人に笑みを向けた。これが二度は言わないという警告なのか、心配は要らないと言われているのかを判断できるほどの感性は二人にはない。しかし、確かな強迫観念を植え付けられたのだと理解させられた。

 

「……わかりました。行きますよダッカー君」

 

「…あなたが僕に命令しないで下さい。では、お気をつけて」

 

それだけ言い残し、少年少女はついに最後まで会話に参加しなかった一人の元まで行き、影に溶けるように三人の姿は消え去った。

 

「さぁて、ゆっくりお話でもしようかな?ウルフ君」

 

三人が消えるのを見届けることすらせず、()()アバターはじっと入り口を見据え続けた。

 

 

 

 





ま、まさか新しい敵⁉︎イッタイダレナンダー。
どこに出そうか全く決めていなかった一人の役割が嵌め込めたので一安心。このポジションならきっと彼女も輝いてくれるはず。

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