やはり俺の加速世界は間違っている   作:亡き不死鳥

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8月1日、今月の分も投稿できたぜ(目逸らし)

夏、暑い、忙しい、怠い。
執筆ペースが上がるかは分からないので、ここで特に書くことはないですね。

とりま幕間終了。ようやく災禍の鎧編に突入できそう。


失敗の過去、未知の現在、不安の未来

 

 

 

 

加速世界には様々なダンジョンが存在する。

迷宮のようにあらゆる罠が仕掛けられている物もあれば、ひたすらエネミーを突破しなければならないモンスターダンジョンのような物もある。さらに言えば大きさもピンからキリまであり、大きいものでは何日も潜らないと踏破が不可能なのや少し進めばすぐにボス部屋に辿り着けるほど小さいダンジョンもある。

 

今回潜ったのは比較的小さいモンスターダンジョンだ。川、湖、海などの水系のエネミーが多く存在し、そこまで広くない洞窟内に小獣(レッサー)級エネミーがちょくちょくいるので下手をすると小獣エネミーに囲まれて大変な事になるダンジョンである。

そんな中でも俺は特に気にすることもなく、モンスターの間を通り抜けながら疾走していく。そも小獣エネミー一匹ですら平均的なレベル7プレイヤーと同じくらいの力量があるのだから一々相手になんぞしてられない。めんどいし。

 

さて。今俺が目指している場所だが、それは当然最深部…ではない。

一時期エネミー狩りに没頭していた事があり、その時に近場であるこのダンジョンも攻略したので構造は大体把握している。

だから知っているのだが、このダンジョンのボスは最深部の一つ手前の部屋に存在している。ボスそのものはただのでかい鮫なので問題はないが、最深部にはかなり大きな部屋の中心に宝箱を模したトラップが仕掛けられている。開けると警音が鳴り響き壁に空いている穴から多種多様なエネミーが這い出てくる仕掛けだ。子獣エネミーばかりならともかく、野獣系や下手すりゃ巨獣系が出てくることがある初見殺し極まりないダンジョンなのだ。

まあ全滅すれば巣穴に戻るので無限EKに陥る心配がないだけマシと言ったところか。

 

「……さて」

 

敵をすり抜け足音を殺し、辿り着いたはボスの部屋。そこには扉がある訳でもなく、本格的なボス部屋というよりは野生のボスとでも言えるお粗末な部屋だった。

でもそれは現在では好都合。扉があれば即ばれてしまうので、戦いに来たわけではない身としてはありがたい。しかし中からは戦闘音もしなければ話し声すらしない。中を軽く覗いたが人っ子一人見当たらないではないか。代わりにボスエネミーと思われる鮫型エネミーだけは悠々と泳いでいたが。

 

「……えー、もしかしてもう帰った?てかそれ以前に来てない?いやそれならそれでいいけどさ」

 

「いやー残念ながらまだいるし来てるんだよねー」

 

バッと自分でも驚くような速さで後ずさりする。声の発生源は入り口からちょうど見えない死角に位置する部分からだ。さらに加えるならば聞いたことがある声であり、その人物は俺が途轍もなく苦手としている人物である可能性が…

 

「もう、逃げるなんて酷いなぁ」

 

……悪い予感ほどよく当たると言うが、本当にその通りだ。目の前に現れたのは白く怪しく妖しい存在だった。胸に宿る一つ目に全てを見透かされるような錯覚を抱くのは、俺が彼女の能力を知っているからだろうか。

 

「……なんでいるんすか?スピリットさん」

 

「つれないなー。ウルフ君が来るまで何度もエネミー達と遊んでたんだよ?」

 

クスクスとマスク越しに聞こえる声が、薄ら寒い感触を俺の背中に与えてくる。既に俺に対して『読心』アビリティを発動されていることだろう。それだけでも全てを掌握されている錯覚に陥ってしまう。

だがここまできたら搦め手は不要、というより無意味なので正面から切り込んでみることにした。

 

「……最近巨獣級エネミーが何匹もテイムされてるって事で来たんすけど、あれってスピリットさんの仕業っすか?」

 

「ん?そだよ」

 

あっさり自白、か。

 

「色々調べてたらさー、面白いことが分かってね。ちょっと試してみたくなったんだ。エネミーの()()を利用したテイムを、ね」

 

「エネミーの……感情?」

 

正直自白だけで十分だったのだが、動機すらペラペラ喋ってくれるとは思わなかった。この人はもっと口が固い人だと思ってたが…。

しかしそれは置いといても話題的には結構気になる話だった。

 

「まぁ正確にはエネミーの感情はAI、作り物だろうけどね。それでも多種多様なものがあるの。純粋な好意や好奇心だったり、目の前でチラチラ鬱陶しいだったり、さらには絶対に敵わないっていう降伏心だったりね」

 

……エネミーの感情。パッと何かを思い起こすわけではないが、心当たりは幾つかある。なんというか、エネミーも行動が違うのだ。

活動範囲に入った瞬間嬉々として襲い掛かってくるものもいれば、逆に此方に敵意がない限り見て見ぬ振りを貫くエネミーもいる。…当然攻撃すれば全てのエネミーが襲ってくるが。

 

「調べた結果だと、アイテムなしのテイムが出来るのは相手に好意を持っている場合と敵わないと悟った諦めや恐怖を抱いた時なんだよね。ま、大抵のエネミーは最後までどっちも感じないことの方が多いけどね。テイム用のアイテムは感情の揺れを促して、好意によるテイムを可能にしてるって感じかな。まあこっちはどうでもいいけど」

 

スイッと手を横に振るようにして、この話は終わりだと言外に告げてくる。

 

「そんなことより、重要なのは2年ぶりにウルフ君と話が出来たってことだよね。お姉ちゃんも忙しくてさ〜、ロータスちゃんが戻ってくるまでもう少し掛かると思ってたから焦っちゃった」

 

「……ロータスが戻ってくるのは予想してたんですか?」

 

「もちろん。ウルフ君だって知ってるでしょ?ロータスちゃんの強情さや単純さ。それに、脆さと強さも」

 

…知っている。1年以上見てきたんだ、全てを理解しているなどとは烏滸がましくて言えないが、ある程度は理解しているつもりだ。

入学した当初、あいつが既に学校と家以外の場所でグローバル接続を切っていた時の話だ。学校では嫌でもグローバル接続しなければならない関係上、同じ学校のバーストリンカーからは逃れる事は出来ない。俺の事前調査で二年と三年にはバーストリンカーは存在していなかったことは判明していたが、一年に関しては全く分からなかったのでほぼ運任せだった。

 

…そして学校に足を踏み入れて直ぐの俺の気持ちを、誰が理解できるだろうか。その場で即加速した俺がみたもの、それはマッチングリストに存在する『Black・Lotus』の文字。その場で頭を抱えなかった俺を褒めて欲しい。八王会議でロータスが宣言したレベル10到達、そしてロータスの懐に飛び込んでくるレベル9(極上の餌)。嫌な未来しか見えなかった。

 

当然と言えば当然なのだろう。入学式が始まった瞬間、ロータスに戦闘を挑まれた。即座に学校外に逃げ出した俺を誰が責められようか。開幕1秒で心意を使って学校をバターのように切り裂く奴の相手をする自信もなかったので、その日から毎日30分ロータスの刃から逃げる日々が始まった。対戦に一日一回の制約が無ければ俺は今頃全損していたかもしれない。

 

それからおよそ一ヶ月程経った頃だろうか、ようやくロータスからのドロー申請による話し合いが催された。為された提案は、互いのリアルを公開してブラックロータスと『ロスト・ネメシス』…と言っても俺だけなので、俺とロータスの間に不可侵条約を結ぼうというものであった。現実世界におけるアドバンテージを互いが持つという危険性もあるが、現状を考えると願ったり叶ったりなのでロータスに先に集合場所である食堂の食堂の一番奥、そのさらに真ん中の席というリア充の中でもトップカーストしか座れない場所に行ってもらうことを条件にその提案を受けた。

明らかに相手のテリトリーなのだろうが、俺のテリトリーだとどうしても人気が少なくなってしまうので仕方ないっちゃ仕方ないが。

 

座っていたロータスの顔は思い出すだけでも恐ろしいくらいに鋭かった。親の仇を見るような目で直結ケーブルを渡してきた黒雪には、下手なことをすればぶっ殺すという鉄の意志が感じられた。直結中は同じ相手との対戦は一日一回という制約を無視できるので、既に覚悟を完了してきたのだろう。

しかし、俺にはその覚悟がとても脆く見えたのだ。恐怖と後悔を押し固め、自分の逃げ道を無理矢理塞いだかのような、そんな弱さが。

だからだろうか、特に警戒することなく直結し、何事もなく和平を結び、そのまま飯まで一緒に食べる仲になったのは。いや最後のは違うな、俺は飯は一人で食べたい派だ。翌日からも誘ってきたのはあっちだし。

 

「ふふっ、色々思い出してるみたいだけどお姉ちゃんを無視するのはいただけませんなぁ」

 

「うおっ」

 

かなり深く考え込んでしまっていたらしく、普段なら警戒を解けないスピリットさんが眼前にいることにすら気づかなかった。不機嫌そうな声色なのに、どこか楽しんでいるような雰囲気を醸し出す。見えるのに見えない不思議さが、俺は苦手だ。

 

「過去を懐かしむのもいいけど、これからは未来を見た方がいいんじゃない?今までが準備期間だとするなら、今は本番当日くらいだよ?」

 

「それなら問題ありませんよ。当日なら裏方で待機してるのが俺の役目ですから」

 

「それは現実世界の話でしょ。加速世界でみれば、ウルフ君は主役を張れるくらいの立ち位置にいると思うけどな〜」

 

「名も知られてない王が出てきても盛り上がらないですよ。ナイトやソーンが暴れてるくらいでちょうどいいんです」

 

そもそも過去とは懐かしむものではなく後悔するものだ。あの時なんでこんな事言ったんだとか、なんで俺は難聴系主人公じゃなかったんだとか考え始めて死にたくなるものだ。

かといって未来を考えればいいと言われても、まるっきり分かってないものとか考えるだけでも不安で鬱になるので、やはり今を何も考えずに生きるのが一番だと思いました。結局考えてないし。

 

「……ま、ウルフ君がそういう考えならそれでいいけどね。でも気をつけてね。…舞台裏は、客席から見えないだけで舞台の上であることに変わりはないんだから」

 

「……」

 

一瞬、ほんの一瞬だけ真剣味が出たと思いきや、それも即座に霧散し、スピリットさんは俺の横を通り抜けていった。

 

「バイバイ、ウルフ君。物語の冒頭、それに相応しいこわ〜い敵が出てくるまでは舞台裏で待っててね」

 

そのままヒラヒラと手を振りながらダンジョンの入り口へ去っていく。スピリットさんの言葉を信じるならば、目的は俺との対話だったらしいので、これ以上モンスターがテイムされることもないだろう。

だが、やはり嫌でも耳に残ってしまう。《本番当日》、そして《こわ〜い敵》。まるでこれから起こることを見透かしているような言い草を、わざわざ俺にしてくる理由がまるで分からない。それでも、警戒を強要された。

世迷言だと切り捨てられたらどれだけいいだろう。だが俺には無意識的かつ意識的にあの人を警戒している。その人から受けた警告は俺の心に、まるで蛇のようにヌルリと入り込んでしまった。

過去の失敗、現在の無知、未来の不安。その全てが俺を覆うように渦巻いている。それを実感しながら、来る時とは違いゆっくりと入り口へ歩き出す。

舞台裏で待機している俺、舞台の上に再び上がったブラック・ロータス、そしてその横に付き従うシルバー・クロウやネガ・ネビュラスの仲間達。役者はだんだん揃っていく。なら、脚本家達はどうなのだろうか。これから『何か』を起こす者は、既に準備を終えているのだろうか。

スピリットさんが何をしようとしてるのか、誰と、誰を、何を、なんで。そのすべてに俺は答えられない。そして未知は何も作らない。そのくせ未来だけは勝手に作り上げていく。未知は不安を生み出し、不安は失敗を作り出す。そして失敗が積み上がり、過去が生じる。

 

やはり未来は、不安ばかりだ。

 

 

 

 




次はいつになるやら。
期待不安の未来が今動き出すかも分からんね。

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