やはり俺の加速世界は間違っている   作:亡き不死鳥

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書いてて思った。黒雪姫との和解どうしよう。
そして思った。ウルフいるならクロウいらなくね?
さらに思った。だったら段階踏み倒して会議しちゃおう。

で、設定再構成してました。
今回も幕間みたいなもんです。俺TUEEE!感が否めないけど仕方がない。ウルフのアバター性能をまたチラホラ出してるバトル回です。


災禍の鎧、急襲

 

 

 

 

天災は突然襲ってくるものだ。晴れていたはずなのに急に雨に打たれたり、地震が起きたと思ったら棚にしまっていた黒歴史本が飛び出してきたり、しかもその後慌てて部屋に入ってきた妹に見られたりもする。

だが、天災も怖いが何より怖いのは人災だろう。誰もいないはずの廊下で行われた告白がいつのまにか知れ渡っていたり、みんなが楽しみにしている給食のカレーをうっかり転んで零してしまったり、しかもその後の昼休みにふて寝したら授業にすら遅れて笑い者にすらならなかったり。おかしいな、天災も人災もみんな経験している気がする。そして後半の犯人俺だし。

まあ何が言いたいのかというと、告白の時は周りに気をつけろってことだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルゥオオオオオオオオ!!」

 

「待て!まだ現実逃避が終わってな…うお!」

 

 

メーデーメーデー!こちら比企谷、現在帰宅中の乱入により理性失ってんだろこの化け物と言い放ちたくなるクソ野郎と遭遇!しかもクッソ硬い鎧にクッソ鋭い剣持ってるんですよ助けてくださいヘルプミー!

 

「あっぶねぇ、一発でも切られたら体力全部もってかれる自信あるぞこの野郎め。つーかなんで俺に乱入してくんだよ乱入とか何ヶ月ぶりだよちょっと嬉しく思った気持ち返せよちくせう。てかほんとだれ?『チェリー・ルーク』?だれだよ知らねえよ怨み買った覚えも会った覚えもねえよだから見逃してくれませんか…ねっと」

 

興奮からか混乱からか口数がいつもの数倍多くなってる気がする。でもようやく落ち着いてきた。これはあれだ。回想でもう一回ゆっくり今までのことを思い出すんだ。じゃないとほんとやってられねぇ…。今でもやってられないんですがね!

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

あれは今から五分前、校門から出て少しした時。

 

バシィィィン!

 

加速音とともに身体が透過していき、目の前には《HERE COMES A NEW CHALLENGER!!》の文字。そして猛スピードでこちらに向かってくるであろう対戦相手。と思いきやいきなり上空からすぐ近くに落下してきやがった鎧のお化け。上からとか予測できるわけないので、思わず声を上げてしまったんです。そしてロックオンされ、今に至る、と。

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

回想みじけー。まあただ対戦挑まれたってだけなら回想すら必要ないが、そうでもしないと目の前の現実をうけとめきれないんだ。

未だ攻撃をしてないし受けてもいない俺は完全な無色透明なわけだが、なぜか相手は普通に攻撃してくる。蝙蝠のような音でも出してるのか、それとも単純に足音とかで判断しているのかは不明だが、どうやら相手には俺の存在を認識できる何かがあるようだ。

それだけじゃない。今の今まで絶対に認めたくなかった現実、実を言うとそれは対戦を挑まれたことじゃない。ハイランカーに急襲されるのは極々稀に以前もあった。だがこいつの鎧、そして剣、さらに攻撃力に凶暴性に至るまで、俺はこいつ()()()()ではないが、過去にこれと同じような存在に出会ったことがあるのだ。

 

「お前…《クロム・ディザスター》か?」

 

剣戟が一瞬止まり、相手が体制を立て直している間に問いかける。とはいえ相手が本当に()()クロム・ディザスターなら返事を期待するだけ無駄だろう。そう分かっていても一回は聞かないと気が済まなかった。なぜなら、あいつはかつて王達全員で加速世界から追いやったはずなのだから。

 

「いや、ある意味予想通り、なのか?」

 

だがそれと同時に納得の感情も出てきた。このクロム・ディザスターとは《災禍の鎧》とよばれる強化外装を着装した者に与えられる名だ。そして災禍の鎧には様々な特徴が存在する。一つはこの鎧を着装した人間は、何故か異常に凶暴になる呪われたアイテムであること。他にも強化外装は稀に、持ち主が全損する折に自身を倒したプレイヤーに譲渡されることがあるのだが、この鎧に至っては譲渡率が今回含めて100%であることなどだ。かつて譲渡された回数は今回含めて四回。つまりこいつは五代目災禍の鎧所有者というわけだ。

そして四代目まではプレイヤー達が結束し倒していたわけだが、俺たち王が四代目を倒した後、全員のアイテムストレージを確認しても誰もその強化外装を持っていないと言った。前例に従うならこれはありえないことだ。疲れたからと特に何も考えなかった自分を少しばかり殴ってやりたい気分になる。

 

「ふぅ。ようやく落ち着いてきた。あと、いい加減鬱陶しくなってきたぞ」

 

この回想中や思想中、ずっと目の前の剣ぶん回してる奴の攻撃をひたすらに避け続けているのだ。しかも吠えまくるから超怖い。だが戦っている感じを見るに、こいつは完全に俺の姿が見えているというわけでもなさそうだ。縦斬りは殆どなく、広範囲を斬れるように横斬りを多用してくる。それさえわかればこちらとしても反撃に出るのもやぶさかではない。こちとら目が腐っててもバーストリンカーなのだから。

 

「まずは逃げだな」

 

とはいえこの硬い鎧相手だと通常攻撃はまるっきり意味をなさないだろう。いくら速く動けても殴れば痛いし、相手が硬ければ攻撃は通らない。ならば必殺技に頼るしかなかろう。幸いにも今のステージは壊しやすい《風化ステージ》だ。数少ない俺が素の攻撃力でも壊せるステージなのだからこれを利用しない手はない。

 

「ルァアアアア!!」

 

後ろから雄叫びと共に足音や建物が壊れまくる音がするが、正直あまり気にならない。ここだけの話、一時期、というか小町全損のすぐ後荒れていた時期に、ひたすら強くなりたい速くなりたいという向上心とも考えなしとも言える理由で、なんと四神に定期的に挑んでいた時期があったんだ。定期的といってもレベルが上がったり行き詰まった時などの限定的な期間ではあったが。それでも馬鹿だろ、と今では俺自身すら思う。しかし決してマイナスではなかった。あの経験からどんなにデカく速いエネミーも怖くなくなった。ごめん嘘、やっぱ怖いのもいるけど恐怖で動けなくなるような事態はなくなったと言っていい。

 

『スザク』ほど威圧的で広範囲に即死レベルに熱い炎を吐いてくる奴はいないだろう。

『セイリュウ』ほど厄介で多種多様な特殊技を使って来る奴はいないだらう。

『ゲンブ』ほど重くて硬くて暑苦しい奴はいないだろう。

『ビャッコ』ほどデカイくせに速い奴はいないだろう。

 

あいつらと戦ってからすぐでも巨獣級程度では大した恐怖もなく自然体で戦えるようになっていた。それだけ四神の強さを身にしみさせられたわけだ。いやほんと強かった。だからレベルドレインはやめてください強くなれません。むしろ弱体化一直線。真っ先に行くのやめたね。

 

「こんくらいでいいか」

 

視界の端にある必殺技ゲージにはもう7割ほどのゲージが溜まっている。チェリー・ルークに至ってはフルチャージだ。しかしその点は大した問題はない。何故かは知らないが、クロム・ディザスターになると必殺技を発動しなくなるのだ。ひたすら叫ぶだけで人語を話さないので、必殺技コマンドを言えないのだと勝手に判断している。その代わりアビリティなどは普通に使ってくるので、そこを見極めるまで油断できない。というか油断したら喰われるから絶対に出来ない。トラウマ(物理)とか笑えもしない。

 

軽く開けた場所まで逃げ切り、改めてクロム・ディザスターと相対する為に振り向いた。しかしそこに奴の姿はなく…

 

「上か!」

 

殆ど転がる形で、飛来してきたクロム・ディザスターの着地を回避する。方法は分からないが奴はこちらの居場所がある程度分かるらしい。対戦時間が半分近く過ぎたとはいえ互いのライフは共にMAX。つまり未だに俺は完全な無色透明だ。それでも攻撃を仕掛けているということはまだあの鎧には俺たちの知らない性能が隠されているのだろう。

 

当のクロム・ディザスターはこちらがようやく対戦の意思を見せたからか、今度はすぐ飛び掛らずこちらに向けて手を突き出してきた。

 

独走者(ワン・トップランナー)

 

それと同時こちらは必殺技を発動し、突き出された手の射線上からズレるように超スピードで移動した。

 

ボコン!

 

そんな鈍い音が俺が元いた場所から響いた。見ると、背にしていた建物の一部がクロム・ディザスターの元にまるで吸い込まれるように飛んでいくではないか。あのままそこにいたら、吸い込まれたのは俺だっただろう。そのあとは…正直考えたくない。

だが今のは収穫と言える。前回の討伐にも参加していたが、あの様な技は使っていなかった。それは二回に渡って行われた上空からの奇襲もそうだ。前代災禍の鎧はミミズのような身体で、酸を吐いたり触手を出したりするアバターだった。共通点といえばあの巨大な剣を使っていることぐらいだ。むしろ他の共通点がないまである。ないのかあるのかは想像にお任せしよう。

 

(近接戦はもう嫌になるくらい見たしなぁ。あとは…また他の王達との会議とかありそうだし、言い訳程度に善戦が好ましいか)

 

伊達に加速世界最速の名を他称されているわけではない。避けに専念すれば太刀の一本や二本、いや一本なら避け続けるなど昼飯前だ。むしろそれくらいできないと、黒雪恐怖の一ヶ月を切り抜けることなど出来なかったことだろう。必要に迫られれば人間なんでも出来るもんだ。

 

(正直ドローでもいいんだけど、それだとレディオ辺りがウザそうだから却下。勝つならまずはあの硬い装甲を剥がす必要がある)

 

チラッと必殺技ゲージを見ると、まだ半分ほど残っている。

 

(いけるな)

 

身体を反転させ、今度は自分からクロム・ディザスターに突っ込んでいく。待望の餌が懐に飛び込んでいくのを感じたのか、クロム・ディザスターは勢いよく巨大な剣を振り下ろしてきた。

遅くはない。むしろ速い。そして強い。そんな一撃だが、俺は人型アバターから狼型アバターに変化することにより剣の下を突っ切った。

 

「グルゥ…」

 

今度こそ当たると思っていたのか、小さく呻き声をあげるクロム・ディザスター。狼型に変形したことすら気づいていないだろうが、今のこいつは隙だらけだ。容赦なく行かせてもらうとしよう。

 

色彩捕食(カラー・ダウン)

 

必殺技コマンドを唱えると同時、俺は目一杯に口を広げる。そして何かを吸い込むような感覚を携え、下顎をクロム・ディザスターの身体を斜め上に削るように()()させた。

 

「グルァ⁉︎」

 

俺は必殺技が終わる瞬間を見計らいクロム・ディザスターから距離をとるが、当のクロム・ディザスターは驚愕の声色で自らの腹を見ている。

まあ当然といえば当然だろう。なんせ、鎧の一部分。正確に言うならば俺の口が通った場所が()()()()()のだから。

 

もちろん本当に消えているわけではない。触ればそこに感触はあるし、そこを殴られたとしても透明部分から見える本体に攻撃が行くわけではない。色彩捕食(カラーダウン)とはその名の通り色を喰う必殺技だ。強化外装の場合は色が消えるだけで俺に影響はないが、アバター本体の色を喰うとそのアバターの色を奪うことも出来る。というかそれしかできない。相手へのダメージもない。が、これがなかなかに使える。

どう使えるのかというと…

 

孤高狼の殺戮爪(ロンリー・スレイヤー)

 

今度は離れた場所からこちらがクロム・ディザスターに手を突き出した。すると俺の指先に存在する爪が勢いよく伸び、クロム・ディザスターの腹にある色が消えている部分に向かっていく。

だがまあこんな遠くからこんな攻撃しても普通に避けられるか防がれるだろう。あたりまえのようにあっさり反応したクロム・ディザスターは剣を振りかぶり爪を叩き折ろうとする。しかし、それは俺に対してしてはならない行動だ。

 

ガギィンと音を鳴らし、爪と剣がぶつかり合う。しかし爪は何にもないかのようにそのまま突き進んだ。

 

これは俺の必殺技の特徴でもある。ようは『相手の干渉を受けない』のだ。例を出すならば、独走者(ワン・トップランナー)を発動している間は速度を落とす系の効果を受けず、臆病風の発生地(ナーブ・エスケープ・ゾーン)はどんな突風が吹いていようと真っ直ぐ吹き続けるわけだ。俺の無事が前提条件ではあるが。

 

「グルルルォオオオ!」

 

しかし敵もただではやられてくれない。振り下ろした状態であるにも関わらず、体をひねり爪の射線上から自分の身体を外した。

それに対し、俺はほんの僅かに手をずらした。それだけで爪はそれが本来のコースだったかのように軌道をズラした。俺の必殺技は全て俺を中心として発動しているからか、追従性がとても高く扱いやすくて助かる。

 

だがクロム・ディザスターの方は助からなかったようだ。再び爪が正面にきた結果、俺が先ほど消した場所に爪が突き刺さった。

本来なら俺のような低攻撃力の必殺技に当たっても鎧に阻まれ、ただ吹っ飛ぶだけで済んだだろう。だが、あそこは色が消えている。さらにさらに、孤高狼の殺戮爪(ロンリー・スレイヤー)には貫通属性が備わっている。

前にも説明したが、このブレイン・バーストにとって『色』とは『強さ』であり『長所』だ。それがなくなれば、元がいくら強いものでも簡単に破れる紙装甲となる。つまり、全ての属性が弱点になった部分に貫通属性が付属した必殺技を喰らえば…

 

バギィィィン!

 

元が神器級の防御力があろうと、こんなあっさり突破できる。

 

「悪いな、今回はここまでだ」

 

腹に爪を受け、爪をめり込ませたまま吹っ飛んでいくクロム・ディザスターに声を投げかける。

俺の必殺技は元々効果が地味な分、必殺技ゲージの消費が少ない。多くても二割くらいで大抵の技は発動できる便利な仕様だ。まあ一部例外はあるけどそれはいいだろう。

 

現在俺の必殺技ゲージはまだ二割ちょいのこっている。そして残り時間は既に30秒をきった。逃げに徹すれば負けは間違いなくないだろう。

 

「あー。会議、あるよなぁ。肩凝りそうだ」

 

それから試合が終わるまでの数十秒は、今よりもこれからの面倒臭さに嘆息していた。そして、少し遠くから聞こえる雄叫びを上げている存在とまた戦うことが確定しているという事実に再び、ため息をついた。

 

 

 

 






ウルフの必殺技解説コーナー

レベル3必殺技
色彩捕食(カラー・ダウン)
ウルフラム・サーベラスの能力捕食(ウルフ・ダウン)の色バージョンです。しかしダメージ効果はなく、ただ色だけを持ってきます。通過された部分は全耐性を失い、貫通や切断などに極端に弱くなってしまいます。
緑系統の硬い防御力がある相手に効果的な必殺技です。

レベル7必殺技
孤高狼の殺戮爪(ロンリー・スレイヤー)(友人命名)
爪を飛ばすのではなく、伸ばすことによって攻撃する必殺技。先端にのみ貫通属性付属。必殺技ゲージ先払いで、伸びる時間は自由に決められるが、最大15mを越えると元に戻ってくる。伸縮自在ではないうえ、貫通属性もそこまで強いわけではないので上記必殺技と合わせるか、ただ吹っ飛ばしたり、伸ばした爪で攻撃するかしか使い道がない。



予告は怖いのでしませんが、ちょっと忙しくなりそうなので投稿がさらに遅れる可能性は十分あることだけご承知を。


文句や感想はバシバシどうぞ。

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