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不良が退学になったところで俺の生活に変わるところなどなく、今日も今日とて学校に向かわなければならない。だが登校する間は密かに俺の楽しみの場となっている。ブレイン・バーストはリアルタイムで行われている為、当然他人の戦闘を見ることが出来る。観戦リストに見たい奴を登録するだけでそいつが戦闘をする時勝手に加速してくれる。もちろん朝早くから戦っている奴は稀だが、朝一番の興奮を俺に与えてくれるのだ。
なんて事を思っているといつも通り世界が青く染まり、続いて世界が変貌していく。建物の一部が崩れ落ち、ドラム缶から火がチラチラと出ている。世紀末ステージだな。
対戦者は……おっ!最近俺が注目してるアッシュ・ローラーじゃないか!バイクを乗り回す世紀末メガラッキーでギガクールなバーストリンカーだ。
対戦相手は…
「シルバー・クロウ?」
視界の下で自分の姿を見ながら遊んでいる野郎がいる。ニュービー?あ、でも見方によってはかっこいいかも。
とか思ってる間にシルバー・クロウが空を飛んだ。いやバイクに轢かれてね。打撃ダメージと落下ダメージのワンキル喰らってゲームが終わった。
……派手な開幕戦だ。俺の時なんか勝手が分かってない者同士三十分彷徨ってただけだからな。結果は負け。話しかけたら殴られてそのまま時間切れ。なにそれ超理不尽。
「………学校行こ」
加速世界第一のトラウマを呼び起こした俺は朝から重い足取りで学校へ向かうはめになった。
☆☆☆
「シルバー・クロウってこいつかよ…」
直結するなら俺いらなくね?との俺の意見は聞かれることもなく却下され、その日も食堂に強制連行された。相変わらず有田と黒雪が直結してたので無視して牛丼を食っていると対戦を申し込まれた。この学校にバーストリンカーなんて俺含め三人しか居ないので申し込んだのは有田だろう。
視界が変わる。空がオレンジ色になり足元が草花で満たされる。《黄昏ステージ》か。
「ひ、比企谷先輩?それが先輩のアバターですか?」
「………」
ブレイン・バーストを入れて数日の有田でも驚くだろうな。なんせ…
「体が……ボヤけてる?」
俺には色が
「《クリア・ウルフ》。それが俺のアバターだ。透明色、カラーサークルにもメタルカラーチャートにも属さない、色と呼んでもいいのかすら分からんやつだ。本来ならボヤけすら無いんだが《神聖系》のステージだと何故か見えるらしい」
これマジチートじゃね?って思うだろ?実際通常対戦なら一回殴って後は休んでれば時間切れで勝てるからな。
…そんなことばかりしてたら挑んでくる奴も観戦リストに入れる奴もいなくなったが。このアバターの得意な事は『逃げる!隠れる!不意をつく!』。極力戦わない。絶対に働きたくないでござる!
……まぁそれはともかく、このクリア・ウルフは攻撃力、防御力が桁違いに低い。それを補う為の必殺技だが攻撃の為の必殺技がレベル7まで無かったくらいだ。劣等感から生まれるアバターといっても偏りすぎでしょ、流石に消えたいとまでは思ってないんですがねぇ。
「てか今朝のあれ有田のだったんだな」
「おや、八幡も見ていたのか?」
「おお見てた見てた。カラスが空を飛んだ瞬間は初めて見たな」
「ちょちょ!比企谷先輩!」
「フフ、初めての闘いだ。仕方ないだろう。…さて、八幡。頼みがある。ハルユキ君に戦い方を教えてやってくれないだろうか?言葉では色々と限界があるのでな」
「断る、と言いたいがその前にコイツに聞きたい事があるんだけど?」
「ぼ、僕にですか?」
バーストリンカーになるなら個人的にどうしても言いたい事がある。
「……お前さ、本当にいいの?加速ってのはお前が思ってるより人の心を掻き立てる。
なんせバーストポイント、加速する為のポイントがゼロになった瞬間ブレイン・バーストは強制アンインストール。しかも一部の人間しか知らないがブレイン・バーストの記憶までなくなっちまう。自分の為に他人を蹴落とすのを完全黙認してるゲームだ。
リアルでぼっちしてれば味合わない苦しみをゲームで感じるかもしれない。親に裏切られる事もあれば、レギオン…仲間に裏切られる事だってある。
軽い気持ちで、ただの遊び感覚でやるんなら、悪い事は言わない。辞めとけ」
ブレイン・バーストは最高年齢でも15歳までしかいない。だから殆どの人間は遊び感覚でやっているのかもしれない。
だが、ブレイン・バーストは思考速度を1000倍に引き上げる事で数年以上の精神年齢の加速を促す事もある。
年を食えば何がつくか?それは知恵だ。相手を蹴落とし自分の利益だけを着々と上げる為の知恵を身につける。そこから始まるのがプレイヤーキルなどだ。
そして実際に仲間がポイント全損したときの絶望は……正直耐えられるもんじゃない。そして、現実に戻り何も覚えていない奴との対面で、今までの絆が全て消える絶望を知るんだ。
…別にこれは裏切りじゃない。それでも隣に居た奴が、隣で戦ってた奴が、隣で笑ってた奴が、自分との関わりを否定した日には……
「……比企谷先輩」
……余計な感傷に浸っちまった。有田の考え…まぁ何となくだが、答えの察しはつく。
「僕は……僕はまだ、先輩に黒雪姫先輩に返すべき事があります!先輩は、僕を地獄から救い出してくれた」
「もうそこに地獄はない。今まで以上の生活は確実だ」
「それに!先輩には何か目的があるはずです!スカッシュゲームをチェックしたり、こうしてレクチャーする手間をかけるだけの目的が!」
「その目的がお前のポイントだったらどうする?お前が稼いだポイントを取る為かもしれない」
「それくらいなら幾らでもやります!僕は…もともと黒雪姫先輩みたいな人と話せるような存在じゃ無いんです。……それでも僕は先輩の期待に答えたい!先輩の掛けてくれた慈悲に報いたい!それの答えが……何であっても。…だから僕は戦います、バーストリンカーとして!」
マスクで分からないが有田は真剣な目で力強く黒雪に言った。俺がやったのは忠告ですらない。ただ自分を押し付けただけだ。……らしくない。
「…悪かった。少し言い過ぎた。黒雪も悪かったな、お前の子なのに俺が口出しして」
「……いや、ハルユキ君の素直な気持ちを直接聞けて嬉しかったよ。だかなハルユキ君、慈悲なんて言葉を使うな。私は愚かで無力な中学生でしかない。君と同じ場所に立ち、同じ空気を吸う人間だ。…距離を作っているのは君の方だよ。この仮想のたかが2mが、君にはそんなに遠いのか?」
……遠いだろうよ。むしろ恐怖を感じているかもしれない。トップカーストの視界に入る、それだけで苦痛な人間だっている。……それに繋がりができちまった人間は裏切られる事を恐れるものだ。……繋がりが、切れた事がある人間なら、尚更な。
「……先輩は僕を地獄から救い出してくれた。これ以上は望みません」
「…そうか」
有田の返事に些か悲しそうに黒雪は返した。
……思い出してしまう。
俺があの時、期待を持たなければ後悔せずに済んだのか?
俺があの時、希望を持ち続けなければ絶望せずに済んだのか?
……なぁ、教えてくれよ。
小町
次回は過去編かな?
話はとっとと進めるに限る
そして読みにくいのはすみません