忙しいやら風邪引いて深夜テンションが働かなかったとか色々ありました。鼻水やばいね今年の風邪。ティッシュ一箱使い切っちゃったよ。
「……まあこんなところだな」
挨拶や啀み合いもほどほどに始まった八王会議。誠に遺憾ながら、此度は俺が話をしないと会議そのものが成り立たない状況だ。なので俺は簡潔に今現在判明している『災禍の鎧』について他の王達に説明した。
鎧の所持者のアバター名が『チェリー・ルーク』であること。方法は不明だが、空を飛んだり遠距離にある物体を手元に引き寄せられることなどだ。
「……なるほどな。んじゃあチェリー・ルークについてからいくか。誰かそいつについて知ってることはあるか?」
司会進行を務めるナイトの言葉に殆どが肩をすくめるか不動を貫く中、一人だけ立ち上がった奴がいた。
「発言させてもらうぜ」
それは赤のレギオンマスターであるレインだった。
「チェリー・ルークはうちのレギオンのメンバーだ」
爆弾発言としか思えないセリフを悠然とした様で言い放った。自分のレギオンの不祥事を何事もなく言えるところは二代目とはいえ流石王というべきか。俺のように不祥事を起こさないどころか、存在すらしていないメンバーなしとはまるきり違う振る舞い方だ。
「おやおや、まさか赤のレギオンとは。しかしおかしいですねぇ。そもそも『災禍の鎧』は『四代目クロム・ディザスター』の討伐の際に完全に消滅したのを確認しませんでしたっけ?」
「それはこっちが聞きてえよ。あたしは前回の鎧の討伐に関わっちゃいねぇから知らないが、本当にあんたらは鎧の消滅を確認したのか?」
ギロッと周りの王全てを睨みつけるようにレインがアイレンズを光らせる。自分のレギオンメンバーが災禍の鎧に呑み込まれ、しかもその原因がほぼ間違いなく俺たち王ときてる。かといってレインも分かっているのだろう。その問いかけの意味が全くと言ってないということを。
所詮は口約束。自分のアイテムストレージに鎧が存在しようがしまいが、それを知るのは本人のみ。結局真実を知るのは鎧を手に入れた奴だけなのだから。
「……まあ、鎧が本当に消えたかは分かりませんが、私としては幾つか気になることがあるんですがねぇ」
ニヤリ、とでも聞こえてきそうなほど愉快な顔をしたレディオがこちらへ笑みを放つ。
「災禍の鎧ことクロム・ディザスター。過去にも鎧の所持者は存在してきました。ですが……その全てが狩場を無制限中立フィールドとしていました。しかし今回に限って、しかも一度きりだけ、通常対戦を行いました。それによって災禍の鎧の発見はこうして早まったわけです。
ですがしかし、例外というのは何かしらの意味があってこそ起こると、私は思うんですがねぇ。そこらへんについて、何か心当たりはありませんか?……特に、お二人は」
チラッとこちらに視線を流してくる。言外にお前らが犯人じゃねえの?と言いたいのだろう。実際無罪の証明など出来はしないので言うだけタダ。表立った動きが起きなくても、疑惑をこちらへ押し付けることが出来るとふんだのだろう。相変わらずいい根性してやがる。
だがこちらも中々にいい根性をしているらしく、チャリっと自らの刃を鳴らし応戦する奴がいた。
「…ほう、つまりはアレか。通常対戦が行われたのは杉並区。そして襲われたのはウルフ。しかも隣は赤の領土だ。鎧を纏わせるに近く、逆に誘き寄せるも容易い。暴論を言うならばすぐさま飼い犬に手を噛まれたとしても不思議はない、と。
…なるほどな、確かに私とウルフは一番の容疑者のようだ」
具体性のない問いかけにペラペラと自分を追い込む説を築き上げていくロータス。そしてさりげなく巻き込まれる俺。
いやまあ犯人扱いを受ける覚悟はしてたさ。でもね、わざわざ自分ごと火の海に飛び込む必要はないと思うんだ。
「待て待て。いくらなんでも状況証拠過ぎるだろ。領土云々言ってるが、ここは東京なんだ。行こうと思えば端から端までいける程度の距離しかないだろうが」
「それはその通りだ。うん、もっともだな。
だがなウルフ、私は私の領土で暴れられて少し気が立っているんだ。襲われたのがウルフだったからよかったものの、もしうちのレギオンメンバーが襲われていたらすぐにでも彼奴の首をはねに行っていたことだろう」
「あーはいはい襲われたのが俺でよかったですねー」
「拗ねるなよ。感謝しているのは事実だ」
いま感謝してたんですか全く気づかなかったです。お前が襲われてよかったって言葉は絶対に感謝する時に使わないと国語学年3位は思うんです。
「まあなんにせよ、災禍の鎧をのさばらせておくわけにはいかない。また被害が出る可能性も高い、というより確定的だろう。ならばこちらから出向いた方が手間が省けるというものだ。
ま、つまり何が言いたいのかというと、私とウルフが災禍の鎧の討伐に立候補しようということだ」
「ふーん、たった二人であいつやっつけてくれるんだ?こっちとしては願ったり叶ったりだけど」
「煽るなよソーン。俺嫌なんだけど。
そもそも待ち伏せでもしないと全損させるのはキツイのに、それを二人だけでなんて……」
無茶無理面倒無謀と言おうとしたが、相当昔に忘れ去っていた存在が思い起こされた。
「…あ、いや、その手があったか」
「気づくのが随分遅いじゃないか。レギオンマスターの自覚が足りないんじゃないか?」
「レギオンメンバーがいないもんでな。自覚しなくても弊害はないんだよ」
ロータスはとっくに考えついていたらしいが、レギオンマスターには幾つか他のプレイヤーには使えないシステムが存在している。そのうちの一つである
つまりこれがある以上レギオンメンバーはレギオンマスターに逆らえず、逆にレギオンマスターは気に入らない奴を好き勝手断罪出来るわけだ。これの事を考えると、レディオのメンバーとかよくあいつの下でやっていけるものだと感心する。バナナの王様のあいつとか見てるだけで笑ってしまうだろうし、嫌味ったらしい言葉を聞いて舌打ちでもしてしまうもんならレギオン追放や断罪の流れになってしまわないだろうか。あいつ陰謀とか完全犯罪とか好きそうだし。
「…ようするに、俺とロータスにチェリー・ルーク所属レギオンのマスターであるレインで討伐ってことか」
「そういうことだ。事態の解決に最も適してると思うが、異論はあるか?」
他の王を見回しながらロータスが問いかける。真っ先に反論(俺が参加することについて)したいのだが、いかんせん突破口が思いつかない。問題があるとすれば、ロータスは過去に裏切りの経験があり、俺はレギオンメンバーの不在による力不足が否めないこと。さらに言うならばレインは災禍の鎧との対戦経験がないことも含められるかも知れないが、断罪の一撃の存在によりここは安パイだろう。
あれ、前者二つが凄い反論の材料になりそう。でも理由の一つが悲しくなるからやめておこうそうしよう。
「あの、発言いいですか?」
沈黙を破ったのはこれまでずっと無言を貫くどころか、フィールドでも貫いてるんじゃないかと思えるほど不動を保っていたコスモスの代理、アイボリー・タワーだった。
「先ほど黒の王は自身と無色の王が災禍の鎧を所持していた可能性が高いと示唆してましたけど、それなら鎧討伐の途中の裏切りの可能性を考慮すべきと思うのですが」
アイボリー・タワーの無機質な声に会議全体の空気が固まる。なぜならそれはかつて実際に、目の前で起こったことだ。この場に存在するブラック・ロータスによる、初代赤の王レッド・ライダーが全損させられるという事象をもって。
「……確かに。既に前例がある以上、警戒をするべきなんだろうが……。うーん、なら俺も行くか?流石に三対一で暴れる奴もいないだろう」
「
「そのとおりです!災禍の鎧など、我々にかかれば…」
「いや、その必要はない」
突然のナイトの発言に慌てたコバルトとマンガンが起こしたわずかな喧騒だが、ロータスが何の躊躇もなく言葉を遮った。
「赤の王はともかく、私とウルフは互いに重大な秘密を握り合っている。少なくとも私とウルフの間での裏切りはないと思っていい」
「へえ。二人とも随分と仲が良くなったんだね。いいんじゃないかな?一回任せてみれば」
「おや。貴女にしては珍しいことをおっしゃる。いいんですか?哀れな仔犬が凶刃の餌食になっても。…クックック」
仕方のないこととはいえ裏切るとしたら俺ではなくロータスというのはあいつらの中での共通意識のようだ。つまり俺が裏切らないと思われてるわけで、これは信頼されているということになるのではないだろうか。違うか違うね。てか仔犬って俺のことかよ。
「まあね。私としては……どっちが裏切られても構わないかな、ってね。むしろ推奨?」
「いやせめて隠せよ」
敵意満々どころか殺意満々である。しかし黒雪が裏切るとは今更感があり考え辛いが、他の王が付いてくる場合これ幸いと首を斬りにくる可能性もある。というか考え辛いだけで黒雪に殺られる可能性も当然ある。土壇場になってレギオンメンバーを見捨てられないとレインが裏切る可能性だってなくはないのだ。
同じ卓を囲もうが、何年来の知り合いだろうが敵であることに変わりはない。その事を改めて思い出させるという意味では、この会議も無駄ではなかったと言うべきか。
「ま、思うところはあるだろうが一応満場一致ってことで。災禍の鎧討伐はウルフ、ロータス、レインの三組で行ってもらう。異論はないな」
ナイトの言葉で締めくくり、それに言葉を挟むものはいなかった。頭上のカウントを見ると、残り3分を切っているのでこれ以上続けると第二回戦突入の流れなのでそれは全員遠慮したいのだろう。
こちらとしてもレインもロータスも連絡先はあるので、危険を犯した話し合いになることもない。レギオンメンバー同士の観戦で話し合いが行われるセッティングでもしてやれば勝手に決めてくれることだろう。メインはレインだしアタッカーはロータス。サポートに徹して攻撃を受けないようにするだけの簡単?なお仕事です。やらなくていいことなら、やらない。やらなくちゃいけないことは手短に。最高だと思います。
とにかく終わったならここにいる必要もないだろう。コバルトのドロー申請にYesを押し、帰れるよう自由の身となる。
「バーストア……ん?」
スィッと軽く視線を左に寄せる。なんとも言えないが、僅かな視線を感じた。自意識高い系としては勘違いの可能性もあるが、目線の先の人物的に勘違いではないと思う。
そこには会議が終わったと言うのに、体制も崩さずピシッとした姿勢のまま真っ直ぐに聳え立つ、いや聳え座る?アイボリー・タワーがこちらを見ていた。
『物語の冒頭、それに相応しいこわ〜い敵が出てくるまでは舞台裏で待っててね』
…此処にいないはずの、スピリットさんの声が聞こえた気がした。そうか、ついに来たのか。物語が動き出し、舞台裏から引きずり出される時が来たようだ。
ゾクッと背筋に悪寒が走る。今回の話にスピリットさん、それに付随する誰かがいるとしたら、きっとタダで終わることはないのだろう。脚本家達がいつから動いているのかは分からない。だが、野に野獣を放ち、それすら台本に加えてくる奴らに俺はどう立ち向かえばいいのだろう。そもそもの目的すら見えてこないミステリー。
気づけば30分前に見た個人ブースの中で冷や汗をかいていた。この状態を見られたら冷たい目で見られそうではあるが、現実の質感が今は妙に安心できた。
しかしゆっくりはしていられなそうだ。汗を拭い立ち上がる。少しばかり忙しくなりそうだ、そう思い図書館を出ようとすると、視界端に小さなアイコンが浮かんでいることに気づいた。
「…メール?」
受信に気づかなかったと言うことは、会議中の2分の間に来たことになる。随分とタイムリーなメールだ。
「差出人は……だれだ、これ。内容は…」
軽く調べてもウイルスなどの反応はない。悩んでても仕方がないので、恐る恐るアイコンをタップした。そこには……
「………はぁ?」
一ヶ月かかったとはいえ進まない。しかも年末年始にかけてかなり予定が詰まってて定期更新とか無理ぽ。遅くなる確率激高。
なのでゆっくり付き合ってくださる読者様の理解をお願い致します。