やはり俺の加速世界は間違っている   作:亡き不死鳥

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思った以上に手が進んだ今回。原作剥離が絶好調な今日この頃。
更新速度は上がらないけど。


孤立したレギオンマスター

 

 

 

 

クリア・ウルフこと比企谷八幡は風を切り裂くかの如きスピードで駆け抜けていた。よく当たる悪い予感は、今回も裏切ることなく的中したらしい。その証拠に少し前から転々と死亡マーカーが地に散らばっている。マーカーはプレイヤーが殺された時間から数えて一時間で消えるので、数多くのマーカーが残っているということはそれを行った者がまだ近くにいるという証拠に他ならない。

 

「……上月め、なにが一日以上あるだ。こりゃ電車乗った瞬間加速してるぞ」

 

走りながら小さく毒吐く。この時間、このタイミング、そして何よりこの死亡者の数が下手人の正体を教えてくれている。というか、こんな惨状を作り出せる存在がそうやすやすといてたまるかという思いもあるが。

 

「……ッ!見つけた!」

 

近辺を走り回ってようやく見つけた。あの身の丈を超える大剣、あのドス黒いアバター。そして今にも死亡マーカーを更に増やそうと大剣を薄緑色のアバターに振り下ろそうとしている姿勢を見、すぐさま突っ込んだ。

 

認識不能の捕縛者(ステルス・シャッター)‼︎」

 

そして必殺技コマンドを叫ぶ。狙いは当然クロム・ディザスター。発動した事だけ念頭に入れ、次はディザスターを無視して狙われているアバターに目を向ける。そしてそのままディザスターの剣の軌道に割り込むように身体を割り込ませた。

 

「キャァァァアアア!!!」

 

「ユロォォォォ……ッッ⁉︎」

 

そして俺に大剣が当たる寸前、ディザスターはまるで電池が切れたかのように行動の全てを急停止した。

 

「ちょっと待ってろ。ちゃんと相手してやるから」

 

ディザスターを横目に襲われていたアバターを抱えて勢いのまま走り去る。きっちり三秒後にディザスターは再び動き始めたが、先日の対戦を見るに縦横無尽の動きはしても直線運動では間違いなく此方に部がある。なら最優先はこいつをどこか安全な場所に送る事だろう。

 

「な、なに⁉︎浮いてる⁉︎」

 

「落ち着け。今からあいつの見えないところまで運ぶ。その後は早めにポータルで脱出しろ」

 

突然の事態についていけていない少女に用件を簡潔に伝える。さすがに目の前で仮想世界とはいえ死にかけてるやつを見捨てるのは忍びなかったから助けたが、これで誘拐犯的な扱いはないよね?見えてないから特定はされないだろうけど。

 

「え?あなた…誰?」

 

「名乗るほどのもんじゃない。……よし、ここでいいな。早く逃げろよ」

 

聳え立つビル群の間に下ろし、すぐに元来た道を引き返していく。といってもやはり追いかけてきていたのか思った以上に早い衝突となった。

 

「オラァッ!」

 

「……ユルゥ」

 

地を走っていたディザスターに向けて蹴りを打ち込む。当然それはあっさり大剣に阻まれた。それを踏み台に距離を取り、これからの行動を考える。

さっきまで常時必殺技発動状態だったため、俺の必殺技ゲージは尽きている。つまり現状最も簡単なのはロータスやレインの救援が来るまでの時間稼ぎという事になる。戦っていれば先ほどまでのように他のアバターが巻き込まれる事もないだろうからな。

 

「……クリア……ウルフ」

 

「…ん?」

 

わずかに見える程度に色を付けながら時間を稼ごうと思っていたら、何故かディザスターに名前を呼ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

……いや、え、ちょっと待って。

 

 

 

 

 

 

今度は何をどう言おうとしてるのを聞き逃さんと聴覚に意識を張り巡らせ、ディザスターに耳を傾ける。何故かディザスターは俯くように動かないという不思議な行動を取っているので、警戒を切らなければ問題ないだろう。なにより、ただの聞き間違いであってくれと願う俺がいるのが事実だ。

 

「……レベル9。倒セば、僕ハ強クなれル。……強ク、もっト強ク」

 

困惑する俺の心境を知る由もなく、ディザスターは人の言葉を話し続ける。さすがにこれ以上俺の聞き間違いを疑うことは無理そうだ。

 

「…………お前、もしかして」

 

そして最悪な予想が頭をよぎる。というか、現状が既にありえない。災禍の鎧は使用者の精神を丸ごと乗っ取り、まるで獣のように使用者を支配する。そこに理性があるはずがないのだ。

過去に何度も災禍の鎧討伐に駆り出されてきたが、喋る奴など見たとがない。圧倒的な凶暴性を秘め、目の前に(獲物)がいるのに動きを止めるなど考えられない。だが目の前でそれが起きている以上、それを組み入れて考える必要がある。つまり……

 

「……意識があるのか?」

 

「………」

 

その返答は……

 

 

 

 

 

 

 

 

鳥群の爪痕(イニューマラブル・エッジ)!」

 

 

 

 

 

必殺技のコマンドと、ディザスターの手から伸びる大量の鉤爪によって行われた。

 

 

 

 

「……こりゃあ、レインが来るまでにどうにかしないとヤバいな」

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリア・ウルフが災禍の鎧と戦闘を開始した頃、クロウ達は真下にウルフが付いてきていると信じて疑わず、相変わらずゆったりとしたスピードで空を飛んでいた。といってもすでに目白通りも通り越し、池袋の中心地はもう目と鼻の先だ。

 

「おっと、ここで停まりな。まだチェリーの奴がこっちに来んのはだいぶ時間があるはずだけど、念を入れて地上から行こうぜ。飛んで行ったんじゃ下から丸見えだ」

 

レインに頭を引かれ、多少グラつきながらクロウは高度を下げていく。地上にある程度近づいたところでパイルが手を離し、それを確認するとクロウもゆっくりと着地。二人の王を地面に下ろした。

 

「さってと、んじゃゆっくり行くか」

 

「そうですね。ところで、無色の王はここにいますか?」

 

パイルの言葉に全員が身構える。いつ、どこで言葉が発せられようとも今度はビビらない心構えが出来ていた。

しかしそれを裏切るように辺りからの反応は何もない。声が聞こえることもなければ足音が響くこともない。ウルフの性格的に、こちらの反応を楽しむという悪趣味なこともしないだろうという思いから全員が首を傾げた。

 

「う、ウルフ先輩いないんですか?僕達を見失ったとか?」

 

「…追いつけない速度ではなかった、というかむしろ我々が置いていかれる程度のスピードしか出してなかったわけだし、その可能性は高いな。かといってあいつがそんな間抜けな真似をするかと言われると、それもなんとも言えんな」

 

「そーか?よく知らねえけど結構適当な感じするし、見失ったなら見失ったで別行動でもいいとか思ってんじゃねえの?」

 

「……それも否定はできんが、基本あいつは全体の一番後ろをついて行く人間だからな。考えなしに逸れるとも考え辛い。まあこれ以上は本人がいない以上無駄な論議だ。あいつは放っておいて先に進もう」

 

薄情というべきか信頼と呼ぶべきか、特に心配されることなく四人はサンシャインシティに向けて歩き出した。そして然程も歩いてないところで、クロウは奇妙な物体を見つけた。

 

「……あの、先輩。あれもここのオブジェクトか何かですか?」

 

遠目に見る限り、あれには何かの文字と数字が浮かび上がっている。もしかしたらドロップアイテムかも…!などとクロウはゲーム脳丸出しで近づこうとするが、それは三人の手によって制止された。

 

「辞めた方がいいよ、ハル」

 

「うむ。大方アイテムか何かだと思ったのかもしれんが、そんな素晴らしいものでは決してないからな」

 

「そーそー。むしろ、あんたもなる可能性がある代物だぜ?」

 

クックック、と笑うニコに戦慄する。どういった物かは分からないが、自分があの物体に変化するとなると妙に背筋が寒くなるのだ。

 

「ハル、あれは『死亡マーカー』なんだ。この世界で体力が0になるとアバターからあのマーカーに変わる。そして一時間経つと、また元の姿に戻るって寸法さ」

 

「な、なるほど。ここで死んだら強制的に現実に戻るのかと思ってたけど、そういう仕組みだったのか」

 

つまりあれは一時的な墓なのだろう。マーカーの状態で自分がどうなるのかは分からないが、元に戻るまで意識もないなんて事はないはずだ。つまり今もあそこではそのアバターが此方を見ているかもしれないわけで…。

そう考えると近づかなくてよかったとホッとする。誰だって自分が死んだ姿をジロジロ見られるのは嫌だろう。それにここは無制限中立フィールド。元々不可侵条約を結んでない身で関係ないが、ここでは誰を襲おうと許される本物の無制限地帯。そんなことで恨みを買う必要はないのだから。

 

「って、あたっ!」

 

考え事に夢中になって、何故か目の前で停止していたパイルにぶつかってしまった。

 

「タク、どうしたんだ?急に止まったりして」

 

「……ハル、前を見てごらん」

 

メットに覆われた鼻をこすりながらパイルの横をすり抜けて目の前に広がる景色を一望した。

 

「………なんだよ…これ」

 

そして、絶句した。ほんの僅かだが、開けた通り。そこには点々と続く光の道が出来上がっていた。それもただの光じゃない。その全ては先程見かけた死亡マーカーにより出来上がっていたのだ。

 

「……かなりの数がある事から狩りの途中だったか、あるいは他に目的があったのかは定かではないが近場にエネミーの気配はない。ということは…」

 

「まさか、もうチェリーが来てるってことか⁉︎」

 

ロータスの仮説を引き継ぐようにレインが声を荒げる。何故ならこの四人が加速したのはチェリー・ルークが電車に乗った事を察知してすぐの事だからだ。加速している間は当然身体は放置したままとなる。それを人の密集する電車で行うなど正気の沙汰じゃない。

 

「………まさか、あいつはこれを知っていたのか?」

 

沈んだ様子のレインが呟いた言葉は、この場の全員の耳に届いていた。ここでいう『あいつ』とは、言うまでもなくウルフの事だろう。この場にいない現実、イレギュラーが発生している現状、庇う事はできても否定することはできないだろう。

 

「……なんにせよ、急がなければならないな。これがウルフの思惑だろうとそうでなかろうと、今はこの惨状を作り出した張本人を見つけ出すのが先決だ」

 

「………ああ、分かってる。分かってるさ」

 

噛みしめるように前を向くレインを見ながら、クロウは何も言えずに黙っていた。今のレインがウルフへの怒りを燃やしているのか、それとも他の事を考えているのかは分からないが、今自分に出来ることは王である二人の手助けを最優先する事だと自分に言い聞かせた。

 

「なら急ぎましょう!まずはこの先……に…」

 

光を辿ればその先にウルフかチェリーがいる。そう思い、自分に言い聞かせるように叱咤激励を飛ばそうとするも、それは突如現れた巨大な影に阻まれた。

 

「シュロロロァァア!」

 

今の今までどこにいたのか、それを感じさせないほどの存在感を醸し出しながら、赤黒い獅子はビル群の上に鎮座していた。そしてその瞳は間違いなく此方をロックオンしている。

 

巨獣(ビースト)級だと⁉︎クソッ、なんでこのタイミングでこんな大物が!」

 

「言ってる場合か!全員構えろ!気を抜けば、体力すべて持っていかれるぞ!」

 

その時には巨獣級エネミーはすでに動き出していた。高く跳躍し、そして口からドス黒い炎を覗かせ、それをクロウ達にピッタリと向けている。そこから何が放たれるのかは言うまでもないだろう。

 

 

「避けろぉぉぉぉぉ!!」

 

 

戦いの火蓋は、高く上がる火柱により切って落とされた。

 

 

 





レベル4必殺技
認識不能の捕縛者『ステルスシャッター』
必殺技の射線上に最も早くぶつかったアバター、またはエネミーを三秒間完全停止させる必殺技。
一見強そうだが、三秒止まったところでクリア・ウルフに大ダメージを与えられるスペックがないので基本逃げる為の時間稼ぎか不利な状況のリセット用。相手の必殺技発動と同時に止めると必殺技の強制キャンセルが起こせるので何気に使いどころは多い。


てなわけで、原作剥離その1。災禍の鎧が意識を持ってる。よって必殺技の使用と僅かながらの意思疎通も可能。何気に厄介。
原作剥離その2。黄色のレギオン?知ら管。
原作剥離その3。良かれと思ってエネミー出しておきました!

くらいかな。この先の展開は作者の腕だけが知っている。脳は知らない。

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