やはり俺の加速世界は間違っている   作:亡き不死鳥

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一ヶ月を越えるとは自分でも思ってなかった。
今まで何十話と書いてきて、今回ほど手が進まなかったのは初めてです。しかも幕間回みたいな感じにしかならない…



戦場にダイブしたなら…

 

 

 

 

 

 

「ねえ二人とも。災禍の鎧がどうやってできたか、知ってる?」

 

加速世界のどこかのいつか。暗闇入り混じる場所で白いアバターが問いかける。

 

「どうやってできたか、ですか?いえ、新参の僕にはなんとも…」

 

「私も詳しくはないですねえ。とはいえ、えっらい憎しみに塗れてるのは一目で分かりましたけど」

 

その問いに各々の手が弄っていた物を止めて返答する。一人は蛸の足のようなもの、もう一人は鋭い針という違いはあるがどちらもその答えは知り得なかったようだ。

 

「そう、憎しみ。それで正解だよ。あれは巨大な憎しみを加速世界最強の鎧と高攻撃力の剣が合わさって生まれた物。まだ心意を発現できる者が殆どいなかった頃、その憎しみは途轍もない負の心意が生み出したの」

 

見た感じの答えはそこまで外れてはいなかったらしい。いや、これは単なる暇潰しなのだろう。ただ受け答えする壁役が欲しかっただけなのかもしれない。だが二人はある組織の末端。唯一それとかけ離れている彼女の口滑りはとても興味深く、それに関心を傾けていた。

 

「……あーでも、憎しみって言ったらこのゲーム内かなりありますよね?PKなりEKなり人の悪意グイグイ入り混りのごった煮状態じゃないですかぁ。そんな中で何代も残せる恨みが篭ったアバターが出来るんですか〜?」

 

「普通は無理だね。そんなことが出来たらこの世界は二、三十の呪いアバターが溢れかえっちゃうよ」

 

さも当然と肯定する。ならばなぜあんな悍ましく恐ろしい鎧が加速世界に放たれたのか。いや、そもそもそれは何者なのか。

 

「けど、そこで例外となるのがメタルカラー。そもそも考えてみて欲しいんだけど、基本メタルカラーは防御力が物理か効果に強い人型しかいない。でーもー、硬いアバターなら緑がいるし近接型が欲しければ青がいる。言っちゃえば、メタルカラーなんてこのゲームには必要ないんだよ」

 

その言葉を受けて二人はほう、と改めて考えさせられる。数は多くないが二人もメタルカラーとは戦ったことはある。だがそこに必要なのはそのメタルカラーにはどんな攻撃が効くか、または効かないかくらいでその存在価値など考えたこともなかった。

 

「……つまり、そのメタルカラーにはこのゲームに関わる何かがある、とお考えなのですか?」

 

「いやいやここまで意味ありげに言ったけど、私的にはメタルカラーなんてどーでもいいの。というか、ある程度の仮説と実験はもう済んでるしね。

そ・れ・よ・り・も…」

 

一旦言葉を切った白いアバターを前にした二人にゾッと悪寒が走る。ああ、これはアレだ。この人特有の、面白いオモチャで、それも壊れるまで遊ぼうとしている残虐性が溢れ出ているんだろう。短くもない程度には接している二人はそれを肌で感じていた。

 

「メタルカラーよりもさらに希少な、そもそも色なのかすら分からない()はなんなのか、気になるんだよねぇ」

 

フワッと白いアバターの胸に浮かんだ瞳が薄く輝きだす。それには何が写っているのか、それは本人にしかわからない。何も知らない二人は静かに、その()に同情した。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

突如巨獣級エネミーに襲われたシルバー・クロウ達は、逸る気持ちを抑えながらも慎重に回避を優先しつつ戦っていた。だが王が二人いるというのに予想以上に対処に手間取っていた。

 

「……おかしいな」

 

そんな中、エネミーがビルの上に戻っていったタイミングでブラック・ロータスが口を開いた。

 

「…おかしいって、あのエネミーがですか?」

 

無制限フィールド初加速のクロウがロータスの独り言を聞きつけるが、いかんせん初めてのものに違和感を覚えるはずもなく、詳細を尋ねる以外には他の人達に頼る他なかった。そもこの世界のエネミーは最弱の小獣級エネミーですら単独討伐適正レベルは7以上。空を飛べると言っても瞬間速度は明らかにあちらが上なので気軽に飛べるわけもなく、クロウも地上戦を強いられていた。

 

「ああ。エネミーにしては動きが理知的すぎる」

 

ロータスの言葉にはて、と首を傾げる。エネミーはAI搭載であるのだからある程度理知的なのは当然なのではないだろうか。そう尋ねる前にロータスは再びエネミーに突っ込んでいく。

 

「もう少し細かくエネミーの動きを見ながら行動してみるんだ」

 

「は、はい。わかりました」

 

すれ違いざまにそう言われたが、見ながらといってもどうすればいいのだろうか。とりあえずエネミーの動きを追うことにした。

ロータスが斬りかからんと突っ込むと即座に跳躍し、ビルの上に飛び乗り火球をロータスに向けて吐き出した。ロータスはそれを回避するがその時にはエネミーは固まっていたパイルとレインに飛び掛っていく。それをパイルとレインの二人が別々のビルの間に転がり込むことでそれを回避したところへ、着地により隙ができたエネミーにロータスが斬りかかるも、それから距離をとるように跳躍を……

 

「……あれ?」

 

それは長年のゲームで培った経験故か。なんとも言えない違和感だった。そう、あのエネミーはまるでプレイヤーのように戦い方を選択しているのだ。近距離戦が得意なロータスには遠距離攻撃を、遠距離が得意なレインには近距離攻撃を繰り広げている。

このゲームがどうかはわからないが、ゲームのエネミーは基本的に一番ダメージを与えたプレイヤーかスキルでヘイトを集めたプレイヤーを優先的に狙うはずだ。そうでなくても目の前に獲物(プレイヤー)がいるのに躊躇いなく回避に移るというのはあまりにも人間味がありすぎる、AIらしからぬ動きだ。

 

「ギャアアァァォォ!!」

 

そしてビルの上で咆哮。まるでインターバルのように戦いの最中に挟むそれは、本気で狩る気がないようにも見えてきた。現にあの大きさのエネミーと戦っているのに、互いに決定打どころか碌にダメージが入っていない。ロータスに至っては目に見える限り一太刀も与えられていない。その全てが近づく前に逃げられているせいだ。

 

「……まさか、アレは人の手によるものなのか?」

 

クロウはそんな結論に至った。純然なるAIとしてではなく、人の意識や思惑が入り込んでの行動だとしたら、今までのエネミーの不可思議な行動に説明がつく。

ならば、その()()はこのエネミーを使って何をしたいのだろうか。ターゲットがこの四人のうちの誰かなのか、それとも一人だけなのかはわからない。だが誰も死に落ちしていないところを見ると、四人とも目的の人物ではないのではないかと思えてくる。

 

「………いや違う!」

 

そうだ。今僕たちは()()しにきているんだ。そう、災禍の鎧討伐。そんな前提条件を一時的ながら忘れていた。八王会議の中、それ以外ではリアルでしか災禍の鎧討伐についての情報は漏れていなかったはずだ。

つまり、王の誰かが此度の事を仕組んだ事になる。その目的まで考えつくほど頭は良くないが、相手の思い通りに進んでいる今の状態はマズイと言わざるをえない。

そう結論をつけたクロウは火球を避けているロータスに近づき抱えると、一旦エネミーの近くから離脱して近くのビルの間に身を隠した。

 

「先輩!あのエネミーはきっと時間稼ぎです!」

 

「……ふむ、君もそう考えたか。だがそれはそれで色々と困った事になるな」

 

「なんでですか?ここはエネミーを引きつける役とウルフ先輩に助太刀に行く役で分ければ…」

 

「そのウルフがアレを操っていたらどうするつもりなんだ。彼奴が消息を眩ました今、最も怪しいのはウルフだ。その場合助太刀役だけで災禍の鎧と戦うことになるやもしれない」

 

その言葉にはっと息を呑む。この場におらず、未だアバターが謎に包まれているウルフなら可能なのではないかという思い。そして、もしやそれをロータスは知っているのではないか?

 

「……先輩はウルフ先輩がこのエネミーを操っている方法を知ってるんですか?」

 

「………いや、ハッキリ言って皆目検討もつかないよ。この世界にはエネミーを操る方法があるにはある。しかもある程度レベルが高い者ならそう難しくもない方法だ」

 

「だったら…」

 

「だがそれはこの場にいる必要がある。先ほど赤いのに情報圧を調べさせたが、彼奴の反応はなかった。となると遠隔操作の類だろうが、そんな複雑怪奇なことをウルフが出来るとも考え辛い。とはいえ…」

 

「なら今はそれでいいじゃないですか!」

 

ロータスの言葉を遮るように声を張り上げる。先輩に面と向かって怒鳴るなど自分でも驚きだが、今は一刻を争っている時じゃない。確かに先輩の言う通り、ウルフ先輩が何かをしているのかもしれない。だが、()()()()()()()しれない。そして自分はそれを信じたいんだ。二ヶ月前からロクに関わってないし、むしろ会ってからも殆ど話していない。でもあの人は、昔僕が忘れた()()を持っている気がしてならないんだ。

 

「……僕が行きます」

 

「…なに?」

 

「僕がウルフ先輩のところに行きます。僕一人ならウルフ先輩が何かをしていても、逆に何もしていなくても被害を一番抑えられます。ここからの離脱も数が少ない方がいいでしょう?」

 

必殺技ゲージは二割ほど誌が残っていない。誰かを伴って行くには安全圏までの距離に不安が残る。当然鎧の元にエネミーを連れて行くわけにもいかないので、こちらとしても足止めをされてくれないと困ってくる。そしてやはりこの中で一番機動力があるのは僕だ。だったら、僕がやるしかないじゃないか。

 

「……災禍の鎧は、今まで君が戦った何者よりも強く、恐ろしい物だ。そこにウルフも加わるかもしれない。それでも君は…」

 

「僕はあなたと約束しました。前人未到のレベル10。そこにあなたを連れて行くと。だから、これくらいどうってことないです。それに…」

 

…本当はすごく怖い。かつて手も足も、翼さえ使い立ち向かっても足元にすら届かなかった相手と再戦するかもしれない。最低でもかつて王全てを相手取ったアバターとは戦うことになる。ウルフ先輩が王の中で最弱だと先輩は言ったが、その人にすら何もできなかったのだ。そんな人達に挑むなど死にに行くような行動かもしれない。

 

「僕は……ブラック・ロータスの子ですから」

 

強く、真っ直ぐで、絶対に引かない。そんな親を誇り、力になりたい。期待に応えたい。色んな思いが混ざり合っている。だがそれらが全てこの先の戦いを望んでいるのだ。

 

「……そうか。なら、任せてるぞ」

 

「はい!任せてください!」

 

「うむ。なら、親として一つだけアドバイスを授けよう」

 

おおっ!と声に出しそうになる気持ちを抑えて耳を傾ける。やる気満々とはいえ無制限中立フィールドは初めてなことにかわりはない。どんな些細な事でも力になるのだから。

 

「君は…戦っている時に雑念が入る傾向にあるな」

 

「えっ⁉︎あ、いや、その。どうしても、こうなったらどうしようとかって思考が入ってしまって…」

 

「別に思考する事が悪いと言ってるわけじゃない。いかに勝つか考え続けるのは大事な事だ。だが君は、過剰な程に敗北を恐れる傾向にある。だからそんな君に必要な事を今ここで伝えよう」

 

一泊置き、微笑みかけるように続けた。

 

「負けたら…なんて余計なことを考える必要はない。クレバーな撤退なんざ尚更さ。そんな物に価値はない。一度戦場にダイブしたならば、相手が誰であろうとひたすら戦闘あるのみだ」

 

では、行ってこい。最後にそれだけ言って先輩は再びエネミーに向かっていった。逆に僕は、その場に立ち尽くしていた。

 

「……ひたすら戦闘あるのみ、か」

 

ストンと心に落ちた言葉は、先ほどまで渦巻いていた余計な感情を拭い去った。肩に乗っかっていた重荷が全て抜け落ちたかのようで、今ならどこまでも飛べるような気すらしてくるじゃないか。

 

「……よし!」

 

気合を入れなおしたクロウは、エネミーに見つからないようにその場を飛び立った。

 

 




書けなくて思ったこと。
自分が本当に書きたいのは三巻以降なんじゃないかな。
書いててあんまおもしろくなかったら、少し駆け足になるかもしれないです。

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