やはり俺の加速世界は間違っている   作:亡き不死鳥

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八幡がHachimanにしかならなくて、書いたり原作読み直して漸く分かった。捻くれ度が足りないんだ。これも全部シリアスが悪い。


ってことでもうお気に入り減少どんと来いの精神で駆け足します。早く三巻書きたい。


言葉

 

 

 

 

sideレイン

 

 

 

 

風を切るスピードで加速世界を駆ける一個二色の存在。その一色であるスカーレット・レインは四足歩行にシフトチェンジしたクリア・ウルフの背にしがみつきながら思考の渦に巻き込まれていた。

 

 

『人は変わらない』

 

 

ウルフはそう言った。先刻はボンヤリとしか耳に入っておらず言葉すら発することができない状態であった故に、ウルフからの懇願に近い言葉にしか反応を返すことができなかった。

しかし、この言葉にだけ疑問が残ってしまう。目を閉じなくても思い出せるチェリーの変容。チェリーは変わらなかったかもしれないが、様々なものに変えられてしまった。ブレインバーストに、災禍の鎧に、そしてあたしにすら変えられた。

本人が変わらなくても他人が変えられる、変えてしまう。これからあたしはチェリーに『断罪の一撃』を撃つ。変えられて変えられて、歪に歪み、崩れてしまったチェリーを元に戻すために。

……それにあたしは耐えられるだろうか。今回の件で、最も大きな責任はあたしだ。チェリーを変えた時責任、変わったが故に出てしまった被害の責任。その責任を弾丸一発で済ませることができる。言葉にすると、なんて軽々しいんだろう。

 

ギュッと目の前の背中を強く抱き締める。温かくも冷たくもない、銀色に光る硬い背中。この背中に言いくるめられるわけでも言い含められた訳でもない。それでも、目の前の自らの子を亡くしてしまった者の背中から語られた言葉は、実感しか篭っていない、哀愁と悲哀が込められていた。それから語られた現実世界での再会に、心が動かなかったと言えば嘘になる。亡くしてしまった絆をもう一度作り上げる機会が得られる。それは、それはとても魅力的だ。

 

「……なぁ、ウルフ」

 

気がつけば、目の前の背中に呼びかけていた。頭によぎる程度の疑問が、これからを予期してか自然と口が動いていく。

 

「お前さ、なんでレギオンなんて立ち上げたんだ?加速世界(こっち)で亡くしちまった妹と現実でまた繋がれたなら、妹と離れちまったブレインバーストを辞めたくなったりとか思わなかったのかよ」

 

あたしみたいにレギオンマスターだったわけじゃないのにレギオンを立ち上げ、そのくせレギオンメンバーなんて一人もいないのに領地を確保する。あたしには考えられない選択だ。

加速が与える影響は理解している。上手く使えば現実でのカンニングや思考年齢を引き上げてくれ、加速という他の人が持っていない物を持っているという優越感もあるだろう。

それでも最も親しい友人や兄弟を亡くし、その記憶や存在を知覚できない世界。レギオンのような他の繋がりも無かったこいつには、加速世界を去ることを止める存在もいなかったはず。なんの縛りもなく、悲しみが置かれている世界にこいつは、何を想っているのだろう。

 

「……辞めよう、と思った事は、まあ、ある。あん時はまだ子供だったからな。ストレス全部発散して、弱っちい身体使い倒して、それで俺もアンインストールしちまおうってな」

 

「…なら、なんでそうしなかった?」

 

一字一句聞き逃しまいと耳を傾ける。他人に左右される訳じゃないが、チェリーを、『親』を殺す以上、こいつと同じ悩みを抱く事があるんじゃないか。それと同時に、いつもより口が軽くなっているこいつ自身の事も気になっている自分がいた。話していると、先の事の不安が紛れているせいかもしれないが。

 

「……なんていうか、否定できなかったんだ。無くなっちまったけど、確かにあった物を、俺も忘れたら知ってる奴が消えちまう。

それは過去を否定した事になるんじゃないかって思ったら、辞めれなくなった」

 

「過去を否定、って。…間違った過去は、否定しないとダメじゃないのか?」

 

過去は過去、今は今。今起きてることは、そんな簡単に忘れ、割り切れるものじゃない。自分を悔いて、自分を恥じて、間違った自分を正し、未来の自分は間違えないと誓い、自分を変えるべきじゃないのか?

 

「…過去の自分を否定して、今の自分を否定して、そのくせ未来の自分を肯定するなんてできるわけないだろ」

 

悩む頭に出された言葉は、またも哀愁と悲哀が混じり合い、

 

「昔最低だって自分を、今のどん底の自分を認めてやれなくて、いったいいつ誰を認めることができるんだよ。否定して、逃げて、何もかも忘れたって変わらない。変わった気に、成長した気になってるだけだ」

 

そして、不思議なくらい心に引っかかりる。

 

「だから俺は変わらないって選択をした。過去を認めて、今を認めて、それでも過去を忘れない。だから俺のレギオンは、妹の存在を加速世界に刻み込むために作ったんだよ。あいつが忘れても絶対に俺は忘れない、ってな」

 

言ってから恥ずかしくなったのか、走りながらブンブンと顔を左右に振り出す。ちょっと気持ち悪い。それに釣られて進路も僅かにブレて酔いそうになり、二重の意味で気持ち悪い。

……だが、なんとなくだけど、ほんの少しだが、分かった気がする。これから自分がどうするのか。チェリーになんて言うのか。変えてしまったあたしが、変わろうとしたチェリーへの行動を。

そう、意気込んだ時だった。

 

カッ!と前方から爆発が起こる。光り輝く派手なものではなく、まるで隕石が落ちたかのような荒々しい爆発。それを引き起こしたのが誰かは分からない。しかしそこにチェリーがいることは間違いないだろう。

 

「…急ぐぞ」

 

「………ああ!」

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

辿り着いた先には巨大なクレーター。そしてその中心地、ボロボロで焼け焦げてはいるが間違いない。この世界で何度も、幾度となく見てきたアバター。鎧が破壊され、左手と右足が欠損しているが、その中から顔を出しているのは、昔と変わりないチェリーの顔だった。

 

「…そうか。お前がやってくれたのか。…サンキューな、シルバー・クロウ。あとは、任せな」

 

クレーターの淵に蹲り、ダメージにより動けないクロウに声だけかけてチェリーの元へ向かう。右手に身体と同じ色の銃を携え、『断罪の一撃』を装填する。

 

 

「………チェリー」

 

「……………ニ、コ」

 

 

クレーターの中心に二人きり。あたしは立ち、チェリーは横たわっているという違いはあるが。

……真っ直ぐにチェリーの目を見て話したのはいつぶりだろうか。不規則に点滅しているチェリーのアイレンズだが、その視線は此方から外れることはない。

もう一歩、踏み出した。

 

「……ゴメン、ニコ」

 

「……なんで謝ってんだよ」

 

「僕、強く、なりたかったんだ」

 

「……分かってる。今なら分かる。チェリーはさ、変わりたくなくて、変わろうとしてたんだよな」

 

人は変わらない。変わるのは環境だ。ずっと同じレベル、同じ位置にいることなんてできやしない。同じ関係でも、立ち位置が変われば同じにはなれない。だからきっと、この不器用で真面目な『親』は変わろうとしてたんだ。また同じ位置に立ちたくて、ただただ愚直に、強くなることで、変わろうとしていた。

 

 

「多分さ、チェリーからしたら変わっちまったのはあたしなんだと思う。レギオンマスターなんかになって、今まで頼ってたくせに忙しくなったらそっちを優先しちまう。ほんと、親不孝者だった」

 

 

昔レギオンマスターになって間もない頃、一度だけチェリーに応援されたことがある。それは何の気もない、多分自然と出てきた言葉だったもの。

 

 

『ニコちゃん、頑張ってね』

 

 

それを言われたあたしは馬鹿みたいにやる気になった。先代がいなくなって無法地帯になってた赤のレギオンを纏め上げて、そんで先代の頃よりデッカくしてやろうって。そうすれば、チェリーが喜ぶと信じて疑わなかった。

 

「今更遅いって思うかもしれないけど、それでも言わせてくれ」

 

でも、そんなことじゃない。そんなことよりも、何よりも、チェリーに言うべきことがあった。照れ臭がって、無い見栄張って、ハリボテのプライドを建てる前に、たった一言。伝えるべき言葉があった。

 

 

「チェリー。こんなことになっちまったけど、あんたはあたしの…世界でたった一人の親だ。それは永遠に…レベルが変わろうが、現実だろうが、記憶がなくなったって…それは変わらないよ」

 

 

遅過ぎた一言。だけども絶対に告げなければいけない一言。こんな間際で、こんな瀬戸際だったけど、どうしても言いたかった。

チェリー以外を親だと思ったことなどないし、チェリーのことをどうでもいいと思ったこともない。けど、口にしなければ伝わらない。行動ですら示せなかった自分が、相手に何も言わずに分かれというのは横暴だろう。だからきっと、これも自己満足に過ぎないのだと思う。ギリギリになって言いたいことだけ言って、それであたしがチェリーに何を求めているのか、あたしにも分からない。けれど、今の言葉は捻くれ者のあたしの嘘偽りのない本音だった。

 

 

「……ありがとう」

 

 

そう言うとチェリーは、ずっと合わせていた目線を上にあげて空を仰いだ。いよいよ、お別れだ。これ以上の言葉は蛇足にしかならないだろう。近づき、寝ているチェリーの身体を抱き起こして抱き締める。きっとこれが、この世界での最後の触れ合いだ。

 

 

「バイバイ、チェリー。現実で、今度こそ、ずっと遊ぼう」

 

右手の拳銃をチェリーの胸まで持ち上げ、その引き金を引いた。音も光もささやかな銃弾は、チェリーの身体を無数のコードに分解して空に巻き上げていく。この中にはチェリーの記憶も含まれているのだろう。それが空に呑まれた時、現実のあいつはこの世界を忘れてしまう。

最後の『ありがとう』に、どんな想いが込められていたのか、その答えは分からない。でも、最後に空を見上げたあいつは、笑っていた気がした。都合がいい想像をしているのかもしれないけど、最後の最後で、あたしはあいつと繋がった気がしたんだ。

 

「……ッ」

 

そう思っても、チェリーの存在が消えゆくたった十秒の間、何かを叫びたくなる衝動を抑えるのに必死だった。本音を話し、別れを口にした。なら、それ以上の言葉で濁しちゃいけない。

 

 

 

噛み締め呑み込み身体に抑え込んだ言葉は、一筋の雫となって両の目から流れ落ちた。

 

 

 

 

 






この何話か週一で投稿できてるので続けたい所存であります。

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