やはり俺の加速世界は間違っている   作:亡き不死鳥

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学校が一段落ついたので投稿。
幕間は思いつかなかったよ


暗躍する影〜王の居ぬ間に?〜
最低から始まる入学式


学生にとって一年の初めとは二回ある。一回目は一般的な年の初めである元旦、正月である。普段話題にも出ないくせに律儀に毎年顔を見せる親戚に愛想を振りまき、お年玉を寄越せと要求する忙しい数日であろう。

二回目こそは学生特有のもの。そう、入学式である。一年生にとっては顔見知りや名も知らぬ奴らが入り混じり、新たな生活に期待に胸を膨らませる者、不安で胸が縮んでいく者が初々しく並び立つ。二年生は部活動の後輩を確保せんがために優秀そうな新入生に唾をつけようと目論み、三年生は最高学年に至ったことで受験生であることを突きつけられ絶望する。それが入学式だ。

詰まる所この行事で嫌な思いをしていないのは二年生のみ。いや帰宅部もいるからそれよりも少ないかもしれない。というより眠いし絶対少ない。ということはだ、学生の3分の2はこの行事に反対ということになる。校長の長い話も、来てくださったらしい来賓の方々の言葉も、代表挨拶だって誰も望んでいないことだろう。

結論を言おう…

 

「……だりぃ」

 

前振りしまくりの尺稼ぎで悪いが。そう、今日は入学式である。去年まで小学生だった存在が制服に着られて先輩達に見られながら歩く行事だ。

『怠い』。この一言に限る。来賓挨拶で去年も一昨年も似たような言葉を聞いたのは記憶違いではあるまい。皆が皆長ったらしい言葉で『ご入学おめでとう』の一言を言うために壇上に上がり、礼だけさせて降りていく。新入生のみにされる礼に何度も返礼をする一年生達。それを見るだけでどんどん憂鬱になっていく。あの中に何人のバーストリンカーがいるのだろうか。一昨年の入学式当日に対戦リストに『ブラック・ロータス』の文字があったのは比較的新しい俺のトラウマだ。鼻先き数センチを掠めたあの剣戟を俺は忘れないだろう。

 

眠い頭を叩き起こしている間に式は校歌斉唱に突入しようとしていた。これが終われば教室で校内のローカルネットに接続するためのアカウントが配布される。そこに知らないアバター名があれば……

 

「………はぁ」

 

掠れた溜息は歌に混じり、新入生を歓迎した。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

「………はぁ」

 

「どうした、溜息なんてついて。気分が優れないなら保健室へ行け」

 

「……命令口調さすがです」

 

入学式が終わってもすぐ帰れるわけではない。が、精々年間予定表や宿題の提出くらいなもんで既に帰宅可能時間だ。しかし一年生が学内ネットワークに接続するまで待機するのにわざわざ移動するのは億劫だ。騒がしい周囲を尻目に再度溜息をついていると前の席に移動してきた姫様に絡まれたのが現状である。

 

「…で、なんで来たんだ?帰んねえの?」

 

「分かりきったことを聞くな。それに私は生徒会だ。部活動紹介に便乗しての二学期にある選挙アピールや単純な雑務などやることは山ほどある」

 

「なら生徒会室に行けよ」

 

「私は既に仕事は終了済みだ。わざわざ仕事をもらいに行くことほど馬鹿なものはあるまい」

 

「あー、違いないな」

 

「ん」

 

「ん?あ、おう」

 

前に陣取られ、さらに話の流れ?で直結用ケーブルを渡されてそれを首に装着する。自らの流麗な動作に惚れ惚れしたくなるが、完全に慣れてしまっている自分に嫌気がさす。嫌気よりも色気が欲しいです。

 

『聞いているかは知らないが、焦る要因を一つだけ取り除いてやろう。つい先ほど連絡があった。倉嶋君がブレイン・バーストのインストールに成功したようだ』

 

『いや誰だよ』

 

『ああ、まだあったことはなかったか。倉嶋千百合。ハルユキ君とタクム君の幼なじみさ』

 

『…それで、アバター名は?』

 

『あの子達も新一年生にいるかもしれないバーストリンカーが気になるらしくてな。それのチェックと並行してお披露目会だそうだ』

 

『……一年生にバーストリンカーいたら区別が怠いだろうに』

 

誰もいなけりゃともかく、リストに新しい名前が二つ以上あった場合はわざわざその倉嶋何某に再加速させることになる。山勘で外した場合『俺の島で何してんだああん?』と威圧していることと同義だ。まあインストールしたばかりというしレベル1のアバターを選択すればいいが、例外というものがあるかもしれない。ぼっちは用心深いのだ。他人の不幸については興味深さが勝るが。

 

『未確定な未来を憂いても仕方あるまい。もっと近場で確定した話をしようじゃないか』

 

『確定した話?』

 

『修学旅行さ』

 

『………あー』

 

この学校は修学旅行を四月に行う。二年生でいく学校とあれば、三年の夏にいく学校もあるらしいのでそこは特色と言えよう。しかし修学旅行と聞いて誰もが色めき立つと思ったら大間違いだ。最後まで残されるグループ決め。誰とも話さず外を眺める移動時間。グループの最後尾を付いて回る現地見学。ぼっちからしたら何も嬉しくないイベントが修学旅行には所狭しと押し込んである。

 

『…で?修学旅行がどうかしたか?』

 

『うむ。八幡のことだ、まだ回るグループは決まっていないだろう?』

 

『すげえ決めつけてんな。その通りだけどよ』

 

『そこでだ。私のグループに来ないか?』

 

聞きましたか奥さん。この人一緒のグループじゃなくて私のグループって宣いましたよ。実際黒雪メインのグループなんだろうし自覚もあるんだろうけどさ。そしてこういう場合俺以外のメンバーは完全にこいつの取り巻きだろう。なのでここでとる行動は限られている。

 

『断る』

 

もちろん理由なく断っているのではない。ほら、あれだ。甘い言葉をかけられたらとりあえず断れって親父に教育されてるんだ。それに余り物グループっていっても悪いことばかりじゃない。余り物にされるだけあって皆が皆ソロで時間を潰す術に長けている。なので互いが互いに全くと言っていいほど気を使わない。沈黙で取るコミュニケーションはぼっち同士の高等技術と言える。やだ、誰もコミュニケーション取ってない。

 

『……一応、理由を聞こうか』

 

『いやほら、お前のグループってリア充やキョロ充とかの塊だろ?普段からつるんでる奴らの中に不純物が混ざるのは良くないと思うんだ。何事も99%より100%の方がいいに決まってる。そうだ、そうに違いない』

 

『いやに必死じゃないか。なんだ、私の誘いは不満か?』

 

『不満か不満じゃないかも聞かれりゃ不満だろ。何が悲しくてアウェイからハイアウェイにランクダウンせにゃならんのだ』

 

『どちらにしろアウェイなのか…。あとそのハイアウェイの使い方は間違っているぞ』

 

知ってる。でもハイとか超とかスーパーとかつけるととりあえずパワーが上がった気になるのはアニメの見過ぎでしょうか。しかしパワーが上がってもランクダウン扱いになるとは。日本語って不思議。

 

『……そもそもだ。なんでわざわざ俺を誘うんだよ。気を使ってんなら辞めろって病院で言ったろ』

 

『うむ、それなんだがな。あれから私も考えてみたんだ。なぜ八幡と関わり続けていたのかをな』

 

『……はぁ』

 

『なに、難しいことでもない。単純に、私が八幡を気に入っていたからだ。打てば響くし投げれば投げ返す。そんな友人のような関係が、思っていたより気に入っていたから。無論今回もそうだ。お前と修学旅行を回れば楽しめそう。そんなくだらない理由さ』

 

『………気にいる要素ないだろ。ただのぼっちだぞ?』

 

『前から思っていたが、八幡は物事を難しく考え過ぎだ。人間の行動全てに意味や理由がある訳じゃない。気紛れで進むこともあれば無意識に止まることもある。 その全てを考えて行動しているのなら、人間はもっと賢い存在だったろうさ』

 

そう言って笑う黒雪から思わず目を逸らす。それからふと思う。今俺は意識して目を逸らしただろうか。いや、確かに黒雪の笑顔を直視できないと思いはしたが目を逸らそうと意識したわけじゃない。

……ああ、そういえば経験があった。子供の頃に失敗して親に怒られた時、ひたすら「なんでこんな事したの?」と怒り気味に聞かれたもんだ。それに「やりたかったから」と答えても何を考えてそんなことをしたのかと何度も問答が始まったもんだ。

意味も理由もない。ただ気に入っただけ、か。

 

『………分かった。黒雪のグループに参加させてもらう』

 

『そうか。まあそんな顔をするな。私のグループといっても班行動は一日目と最終日の移動のみ。その後は誰と組もうがほぼ自由行動だ』

 

『……ならやっぱ俺じゃなくていいんじゃ』

 

『ふとした時に話したくなる存在を隣に置いておきたいんだよ。八幡ならどこにいても同じ行動をしているだろう?なら、それが私の隣でも問題あるまい?』

 

『……もう好きにしてくれ』

 

我儘お嬢様の手綱を握るのは、俺では力不足だ。むしろ手綱を握られて振り回されるのがお似合いなのだろう。それに黒雪も言っていたように俺の行動は場所では変わらない。隣に誰がいようと好きな時に寝るし見張りがいようとダラける時はとことんダラけるのが俺だ。邪魔はさせない、俺の心にノーエントリー。

 

『……む、そろそろ一年生がネットワークに接続する頃合いか』

 

話が一段落済んだからか時計を確認した黒雪曰くそうらしい。俺も時計を確認すればまあまあいい時間が経っている。新一年生をチェックするには充分な時間帯だ。

 

『んじゃあ一旦確認するか』

 

『そうだな。では早速…』

 

『『バースト…』』

 

 

バシィィィィン!

 

 

合わせたわけではないが重なる筈だった俺たちの声。その声は最後まで紡がれることはなく、聞きなれた加速の音で打ち消された。世界は打って変わって白く移りゆく。これは《氷雪フィールド》だ。気づけば俺の体はいつもの透明な姿へと変わり、隣には白によく映える黒いアバターが立っていた。俺も黒雪も観戦者としてこのフィールドに呼ばれたのだろう。

 

「対戦者はシルバー・クロウに……」

 

もう片方のアバター名は知らない名前。でも軽く記憶に引っかかる、なんか見たことがあるような…。

 

 

『Chestnut・Needle』

 

 

右上の名前にはそう表示されていた。上げていた視線を前に向けるとそこでは二つのアバターが対面している。片やお馴染みのシルバーカラー。そしてもう一つ。

 

 

 

「初めまして!本日より入学しましたナッツです!みなさん、よろしくお願いしまーす!」

 

 

 

栗色のアバターはピシッと敬礼をすると、あざとさ全開の声で高らかに声を上げた。

詰まるところそういうわけで、面倒そうな奴が入ってきたことだけは確信した俺は、小さく口を引き攣らせた。

 




ようやく三巻です。まあ構成は殆ど決まってないですが、手が軽くなることを祈りながら書いていきます。

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