悩みまくったけどこれ以外のルートが見つからなかった。非力な私を許してくれ…。
てか書くの難ッ!
突如始まったクロウとナッツの対戦。それ自体は終わったが、入学してきたバーストリンカーがナッツとやらだけと確信できるわけではないので、結局再加速して対戦リストの確認をした。そこには先ほど対戦していたナッツともう一つ見慣れない名前があったが、それが恐らく有田達の幼馴染なのだろう。後で確かめる必要はあるが、以外の名前はなく積まれていた荷が一つ降りた気分になる。
しかし一つ荷が降りたとしても黒雪同行の修学旅行が迫ってる時点でなんとも言えない。話しかけてくるのが黒雪だけとはいえ、間違いなく不快な視線がこちらに向くだろうことは想像にかたくないのだから。
「……本屋にでも行くか」
ふと思いついた事を小さく口にしてみる。この情報社会のご時世、紙媒体の本はほぼ一掃されて久しく、存在していても年齢制限などのフィルターは最低限でも付属されている。なので家にある親父のアカウントで買う方が効率もいいのだが、人間は時に効率悪く無駄なことをしたくなるものだ。紙媒体の本だって探せば普通にあるし、本屋の端にレトロコーナーとして数は少ないが置いてある。たまにはそんな片隅の仲間を漁りに普段行かないところに行ってみたくなったのだ。
地図アプリを開き行ったことのない本屋の場所を探してみる。一番近いところだと中野第一エリアと杉並の間。少し遠いが歩いて十分いける距離だ。気分転換を兼ねている今では丁度いい距離といえるだろう。
「……そういや、あん時のこと聞くの忘れてたな」
歩いていると思考が暇を訴えだす。ふと思い出したことを小さく口に出すと頭はそれでいっぱいになった。これは道中のいい暇つぶしになるだろう。
(黒雪が入学式の在校生代表挨拶をした時、一瞬目つきを変えて新入生に視線を回した時があったんだよな)
アレがあったからわざわざ時間がかかるのを覚悟で教室待機を決めていたのだ。アレがなければ来賓挨拶も聞いてたし入学式に眠ることもなかっただろう。嘘だ。
しかし黒雪の奇行が存在したのは事実。あの御仁なら敵意にも敏感そうだしそれを察知したのではないか。サッちゃんが察知…。寒ッ!
「………お?」
目の前を横切る小さい存在。高さは膝より低く、まるでよちよち歩きをしているかのように歩を進めている。犬だ。しかも首輪がついていることから飼い犬と見て間違いないだろう。というか飼われている動物には例外なくその存在を確立させるチップが埋め込まれているので、そちらでも判断できている。だがそれならおかしな話だ。もう何年も前から屋外でのペットの放し飼いは禁止されている。それなのに一匹でぬくぬく歩いているところを見ると、散歩中に逃げ出したのだろうか。チップのおかげで飼い主が判別できるので捨て犬や捨て猫の可能性はありえないが。
「……っておっかねえな」
ぼーっと見てるとその犬はさも当然のように車道に向けて一直線。車にも対物センサーがついているし事故を起こす方が難しいのだが、いかんせん動物が危険な場所に向かってるのを見過ごすのも気がひける。それに万が一にも車のセンサーや制御AIを切っているバカがいないとも言い切れないのだから。だから走るスピード上げんじゃねえ!
「おい、ちょっとま…」
「サブレー!どこー?」
そして同時に聞こえる少女の声。それも車道の反対側から。ああ、飼い主見つけたから走ったのか、と進めそうになっていた足を止める。のも、束の間。
「は?」
偶然とは重なり合うもので、バカとバカは引き寄せ合うのか。今まさに車道に飛び出した
気付いた時には走り出していた。その足は普段加速世界で体感してるスピードより遥かに遅く、現実という縛りを実感させられる。そのくせ犬を助けられないほどの距離ではなく、横から響くブレーキ音すら聞こえてくる。
「……フィジカル・バースト」
意識を加速する。体は遅くなる。否、体だけではない。世界の速度も同時に遅くなる。意識を肉体に止めたまま3秒間のみ知覚速度を10倍にする。……のだが、困った。車が速い。肉体が追いつけない。その上加速の寸前にバランスを軽く崩したのか、下手すりゃ『フィジカル・フル・バースト』ですら間に合わないかもしれん。
「………ハッ」
掠れた笑いが漏れるが既に車は目の前。俺が逃げるのは不可能。ならば……
「おら、もう飛び出すなよ」
右手で掬いあげるように犬の腹を持ち上げて前方に押し出す。ミニチュアダックスフンドなので大きさは大したことはない。フィジカル・バーストでタイミングや力の加減もまあまあできる。高さと強さを間違えなければ怪我もしないだろう。
そんな驚くほど冷静な思考があっても車は急には止まってくれない。事故を起こす方が難しいと言われるこの時代で自分以外も含めて二回も人身事故の存在を目の当たりにするとは、付いていなさすぎてなけてくる。そしてフィジカル・バーストも時間切れのようだ。意識の加速はなくなり現実が迫り来る。
(……こりゃ修学旅行はいけn…)
ガンッ!と車から音が響き、その音に吹き飛ばされるように意識を失った。
☆☆☆
「………二週間入院か」
天井を見上げながら小さく呟く。吹っ飛ばされたあと気を失った俺は、気づいたら病院のベットに寝かされていた。三日間寝っぱなしだったとか運転手や犬の飼い主がお見舞いに来たとか医者の方に聞かされたが、残念ながら記憶にないので放置が安定。むしろ修学旅行に絶妙なタイミングで行けないことに笑いすら溢れてくる。
「…暇だ」
足いてーとかゲーム三昧だぜーとか色々言ってやりたいのだが、吹っ飛ばされた衝撃よりも着地の仕方が悪かったらしく、右手と左足を骨折したのでニューロリンカーの操作が上手いことできない。昔左利きってカッコいいと思っていた時期に練習しておくべきだったとちょっと後悔。
フルダイブすれば現実の怪我など関係なくなるのだが、病院のローカルネットに接続している以上患者の方々がログインしまくっているだろう。知り合いのいない不特定多数の場所にはいたくない。学校ですらろくにフルダイブしないのだからなおさらだ。
ならゲームでもするかと画面を弄ろうとすると、そのタイミングで病室の扉がノックされた。何故かは知らないが個室をいただいている身であるので客の目当てが俺であることは間違いない。かといって俺に見舞いに来てくれる相手がいるだろうか。
「……どうぞ」
「邪魔するぜー」
控えめに返事をすると豪快に扉を開けて下手人がおいでませ。背丈は低いのに蛇でも睨み殺さんとばかりにこちらを睨みつけてくるのは、悲しいかな知り合いだったりする。
「……ニコ」
「よー。ひっさしぶりだなぁ八幡。三ヶ月ぶりってとこか。なのになっさけない姿みせやがって。あっちでのカッコつけはどうした」
「現実でカッコつけた結果がこれなんだよ。速さが足りなかった」
加速世界でなら車の速さも貧弱貧弱ゥ!と鼻で笑ってやれるのだが、現実だとそうはいかない。重力は重いし俺は鈍いしぼっちだし。ぼっちは現実でもだがそれは言うまい。というより本当に何故犬のために突っ込んだのか今でもわからない。俺の中に未だ静まらぬヒーロー願望やシュミレーテッドリアリティ症候群にでも陥りかけているのだろうか。そのうちアイキャンフライしそうで怖い。ここが病院だから特に。
「……つーか何しに来たんだ?というか、なんで入院したこと知ってんだよ」
俺の頭がお花畑説を考えることよりも、今はそちらの方が重要だ。災禍の鎧事件以来、関係が全くなかったわけではない。暇だと送られてくるメールやチェリー・ルークの中の人の愚痴のような惚気話の相手をしたりもした。だが今回の件は言いふらすことでもないので誰にも言っていないはずだ。犬を助けて轢かれるとか世代が古過ぎるもの。
「あん?小町ちゃんから聞いたに決まってんだろ」
オーマイシスター。何故俺の恥を広めるのですが。というよりニコと関係が続いてたことにビックリ。うちの妹には一度あったら皆友達みたいなリア充の御触書でもあるのだろうか。旧世代型ぼっちの理解の外に存在している代物だ。
「つーより、あたしが八幡に用事があったから小町ちゃんにアポとったんだよ。八幡だと逃げそうだし。そしたらうちの寮の近くの病院に入院してるって聞いたからな。門限ギリギリなのに来てやったってわけよ」
「なんでわざわざ?会って言う必要がある話なのか?」
「おう、多分お前の想像以上にな」
そう言うと懐から直結ケーブルを差し出してくる。躊躇いなくソレを首筋に刺すと、ニコはなんとも言い難い表情になるが今はそれより大事な話があるのだろう。小さく咳払いするとベッドの側の椅子に座り込んだ。
『単刀直入に聞くぜ。さっきも言ったが門限が近いからな』
『ああ』
『八幡はいま梅郷中で起きてる事についてどんだけ知ってる?』
『は?』
突然の問いかけに首をかしげる。そも事故ってから学校の話題など欠片も耳にしてないのだ。精々が黒雪からの呆れの含まれた吠えメール程度のもの。それに加えて上月は梅郷中とは無関係と言っていい。なのに梅郷中について聞いてくるということはだ、必然的に何かが起こってることの裏返しだ。
『……何があった。ここに来るってことは俺より知ってるから来たんだろ?』
『まあな。つっても聞いたのは一つだけだがな』
キッと目線を鋭くする。さっきから回りくどく言っているのは偶然ではないだろう。何を意図しているかは分からないが、早く言えと目に力を込める。それを見ると諦めたように小さく息を吐き、真っ直ぐ。こちらを見据えた。
『梅郷中の新入生にバーストリンカーが現れたらしい。それもマッチングリストに現れず、さらに心意を使う、な』
修学旅行行った後の八幡を考えても原作通りにしかならなかったので、もういっそ不参加で。場面描写が変えられないのが難しいところ。
あと最後にもう一回。ご都合主義万歳。