やはり俺の加速世界は間違っている   作:亡き不死鳥

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うーん最近はお気に入りも増えないしそろそろはっちゃけたくなってきた


蒼い可能性

『梅郷中の新入生にバーストリンカーが現れたらしい。それもマッチングリストに現れず、さらに心意を使う、な』

 

ああ、唖然。無情でもある。ああ神よ、なぜ俺に試練を設けるのですが。あれか、修学旅行サボれるのを喜んだからか。それとも学校そのものを休めるのを喜んだからか。どんだけ俺の一喜一憂に敏感なんだよオーマイゴッド!

 

『……まてまて。意識飛んだからちょっと聞き逃したっぽい。新入生にバーストリンカーはまだいい。初日に休んでたかしてたんだろう。心意?馬鹿な親でも居たんだろう、うちの親父もそうだからそれもまあいいさ。マッチングリストに出ない?バックドアっていう前例がある。また何処かのアホ天才が抜け道を見つけたんだろ。なんだ、何も問題ないじゃないか』

 

『……まあそんだけならわざわざ来なかったんだけどな。もうちょい厄介なことになってる』

 

『厄介?』

 

『シルバー・クロウの翼が奪われた』

 

『はぁ⁉︎』

 

入院してるからーとか考えてた言い訳が全て吹き飛んだ。リアルの口から声を出さなかった自分を褒めてやりたい程に。

有田の翼。アレは、ダメだ。アレがあの背中以外に生えるなんて考えられない。あの空を飛ぶ姿に俺が、アイツが、いや俺たちだけじゃない。それこそオリジネーター達すらもだ。あの自由な姿にどれだけの、どれだけの希望や羨望を感じたか。

 

『……事情は分かった。それで、それを伝えて俺に何をさせるつもりだ?』

 

自己分析は得意な方だ。たった一言で動揺したのは恥ずかしいが認めよう。が、それをニコが知るはずもない。ならばこそニコがここに来た理由があるはずだ。そも梅郷中の事態をニコが知っていることがおかしい。ということはそれらをリークした梅郷中生徒、主に有田か黛が後衛に潜んでいるのは明らか。だが今俺は言い訳云々を抜いても動ける状態にない。件のバーストリンカーを何一つ知らない俺に行動を起こすのは不可能だ。

 

『そいつについては外にいる奴に聞きな。言っちゃなんだが、あたしは仲介役だ。事情は聞いても対応はできないといった立ち位置に関しちゃあたしも似たようなもんだしな。門限も近いし』

 

そういうと直結ケーブルを引っこ抜き、病室の外に出て行った。さらばの一言すらない流れるような退室。どうやら門限がヤバいのは本当だったようだ。そして閉じた扉がまた開かれる。今度は眼鏡のついた優男風の梅郷中生。

 

「黛か」

 

「ええ。そんな状態なのに、申し訳ありません」

 

「ほぼ自業自得だ、気にすんな。で、結局俺がやることはなんだ」

 

「無色の王よ。単刀直入に言います」

 

バッと腰を90度に曲げて頭を下げる。俺が例のあの人だったら絶賛するお辞儀だ。だが相手が誠意を出してくる。それすなわち厄介ごとであるということが分かりきっている。そして当然、黛の口から出たのは厄介な注文だった。

 

 

「僕に、心意を教えてください」

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

side???

 

 

 

空間に一人の少女。その対面には少年が一人。青い世界が広がる加速した世界で二つの影が各々のアバターに身を包み、ティータイムを楽しむかのようにゆったりとしていた。

 

「倉嶋先輩は相変わらずの笑顔ふちょー。有田先輩は半ベソで、眼鏡先輩は悲劇のイケメン。黒い先輩に至っては未だ何も知らずに笑ってて?透明先輩は布団のお化け〜っと。よーくもまぁ一人でこれだけやれることで。透明先輩は自爆だけど、リアルの手の速さはさすがじゃん?ダッカー君」

 

亜麻色のドレスを着たお姫様が嗤うように口火を切った。対面の真っ黒な鎧を着込んだ少年も吐き捨てるように応答する。

 

「ふん、当然ですよ。あとその名で呼ぶな針娘」

 

「有田先輩のは脅しビデオにプラスして翼までとったんでしょう?なら単独行動は辞めて、そろそろ姐さんに…」

 

「いいえまだです。お前も余計な手出しは無用ですよ。翼も、黒の王も、全て奪ってしまえばいい。あの回復アビリティですら今や僕の手駒に等しい。それら全てをあの人に捧げるまで、手を借りるつもりはない」

 

ねっとりとした、そして嬉々とした声で言葉を振るう。声には幼さが消えきれていないのに、狂気だけは滲み出ている。そんな目の前の青年に少女は苦々しく口を歪めた。

 

「あーキモいキモい。女の子従えて喜んでる変態ですかっての。しかも絶賛調子ノリノリ。そんなんだから()()()もどっかの誰かさんに奪われ…」

 

「黙れ」

 

ガコンッ!と鎧から剣を取り出し姫君に斬りかかる。武士道も何もない。仮初めの姿に価値もない。そんな見せかけの姿を嘲笑うように少女はその剣を楽々避ける。

 

「あれ〜?図星突かれて怒っちゃった?ダッカー君もまだまだ子供っぽーい」

 

「何度も言わせるな針娘。僕はダスク・テイカーだ」

 

ギリっと唇を噛み、吼える。このダスク・テイカーという少年こそが前述した梅郷中の見えざる加速者であり、シルバー・クロウの翼を奪った張本人なのだが、その威厳も余裕も今は薄れている。そんな彼を尻目に少女は針のように鋭い傘をクルクル回す。

 

「なら私も何度も言わせないで欲しいなぁ。私達は加速研究会。ダスク・テイカーも、そして私も、加速利用者である前に姐さんの為にこのゲームをやってる。今更言っちゃなんだけど、慎重に動いた方がいいんじゃない?リアルで調子に乗るのも姐さんが何も言わないから私も言わないけど、そろそろ痛い目に遭うよ?」

 

「はっ。そんなことありえませんよ。僕が奪われるなんて、ありえない。奪い、奪い、奪い奪い奪い奪い奪い取る。その為の、力なんですからね!」

 

腕に光る過剰光。意志の力はバトルアバター以外にも纏わりつく。まごう事なき心意の力。そう、奪う力だ。

 

「………ま、私は暫く観客しとくからね。ダッカー君が失敗したら、次は私の番」

 

「次はない。その呼び方にも次はない事を覚えとくといいですよ」

 

「ダッカー君♪」

 

「死ね」

 

心意の剣を躊躇いなく振るい、同じ過剰光を纏った少女の傘とぶつかり合う。どちらも濁ったようなドス黒い色を携え、合わさった二つの力が互いを喰らおうと蠢き合う。

 

「………」

 

「………」

 

その光は動かない。味方同士、の筈なのに殺伐とした雰囲気。それらに二人は違和感を抱かない。どちらも一人の人間に心酔して行動しているだけで、互いの事が大嫌いなのだから。

 

「………」

 

「………」

 

「「……バーストアウト」」

 

そして示し合わせたかのように、二人の姿は消え去った。梅郷中学のネットワークに歪な跡を刻んだままに。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

「………さて、やるか」

 

「お願いします」

 

場所は無制限中立フィールド。目の前には黛ことシアン・パイルが存在する。今回ばかりは特に何もなく協力することに決めた。というより有田の翼もそうだが、相手がバーストリンカーである以上俺の身元が突き止められてる可能性が高い。主に事故のせいで。

かといって俺は怪我で動けない。なら多少の申し訳なさを感じるが二年生ボーイズに頑張ってもらうしかないだろう。打算するのはお手の物。計算はできないけど。

 

「その前に確認しとく。お前、心意についてはどこまで聞いた」

 

「必殺技ゲージが減らないこと。光ること。心の闇と向き合うこと。心意には《射程距離拡張》《移動能力拡張》《攻撃威力拡張》《装甲強度拡張》の4種類が存在すること。そしてこれらの心意は各々のデュエルアバターの性能に適したものしか習得できない。

……こんなところでしょうか」

 

「全部合ってる。習得方面はどうだ。ニコのところから説明だけでそのまま来たのか?」

 

「一応初歩の初歩は習得しました。……《蒼刃剣(シアン・ブレード)》!」

 

コールを響かせるとパイルが鉄杭の切っ先を握りこみ、過剰光を発生させる。そしてその手を頭上に掲げると、右腕に存在していた杭打ち機が消え去り刀身一メートル半に及ぶ剣が現れた。

 

「……基礎も十分。言っちゃなんだが、それ以上は自分次第の領域だ。心意は欲望や願いの顕現。本人以外にそれは出せない。なのに何故俺に教わりに来た」

 

聞くと、パイルはどこか躊躇うように黙り込む。それも数瞬。決意を決めたように顔を上げる。

 

「……赤の王は、真正面から僕に心意を叩き込んでくれました。ハルは能見とは比べられないほど綺麗な心意を使って、真っ向から戦っています」

 

心意。それには二つの性質がある。正の心意と負の心意。勇気や希望に基づく正の心意と怒りや憎しみに根ざす負の心意。有田達のは正の心意で件の能見とやらは負の心意を活用しているのだろう。

 

「心意を習得した時、僕には二つの思いが湧き上がりました。一つはハルと同じ力を持って隣に立てる喜び。……けれどもう一つは」

 

強く強く拳を握りしめ、吐き捨てるように言い切った。

 

「……この蒼い輝きより、能見の使うドス黒い心意の方が強そうだと…そう、思ってしまったんです…!」

 

パキンッと蒼い剣がひび割れ砕ける。

なるほど、ようやく理解できた。その葛藤は黛のような理性が強く、そのくせイイ奴であるのに清濁合わせ飲める輩には辛いものがあるだろう。こいつは有田のような愚直一直線じゃなく、自分の優秀さや効率の良さを理性で判断できる奴だ。だからこそ、去年のバックドアを堂々としかけることが出来たのだろう。頭が良く、それを使いこなせる自信があり、目的のために手段を選ばない強引さも兼ね揃えている。

そしてそれ故に、ただ正しいと信じているもののために自分が強い力を振るうことに違和感を覚える。頭のイイこいつのことだ、理解しているのだろう。自分が()()()()()()()()()()()人間だということを。

 

「……オーケー。約束だ。心意、享受してやる」

 

「……ありがとうございます。でも、僕が教わりたいのは…」

 

「言わなくても分かってる。お前が教わりたいのは《負の心意》だろ?自分にはそっちの方があってる。けど正の心意よりのニコや有田には頼めない。なら、人間的に負の属性を持ってる俺に焦点を当てたわけだ」

 

「そ、そこまでは言ってないですけど。…だ、大体合ってます」

 

「そうかい。ならそんなお目が高いお前に、もうちょっと先の心意を教えてやるよ。習得できるかは知らないけどな」

 

「もう少し、先?」

 

「ああ」

 

首を傾げるパイルに向けてニヤッと歪んだ笑みを浮かべる。

 

 

 

「正の心意と負の心意。両方同時に扱える方法を」

 

 




原作のパイル君不憫だし強化してもバチは当たるまい。
あと次適当設定出します。原作との矛盾は当たり前のものと受け止めてどうぞ。
当たり障りないのも飽きてきたので。

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