やはり俺の加速世界は間違っている   作:亡き不死鳥

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どのタイミングで切るかを考えてたら一ヶ月経ってた。
時間って怖い。


開幕の火花

side黛

 

 

無色の王の修行から翌日。昨日のことを思い出しながら、僕はひたすら頭を回していた。というのも、どうにも予想外なことをしでかしまくる幼馴染であるハルからのダイレクトメッセージが大変頭の痛くなる内容だったからだ。

 

「…BIC。ブレイン・インプラント・チップか。頭の中に言わばもう一つのニューロリンカーが存在しているから、マッチングリストの表示の有無を自在に操作できたわけだね」

 

『ああ。それを今日能見に問い詰めてきた。そしたら無制限フィールドで俺とタクと能見の三人で、ポイント全てを賭けた一回きりの決闘。それでケリをつけようって…』

 

その言葉に少しばかり黙り込む。事は重大だ。ハルが更衣室に侵入したという映像を握られ、ハルの翼を奪われ、チーちゃんすら奪われた相手をようやく追い詰められる場所に来た。だが、そう簡単によし行こうと言えるわけでもない。

 

『………どう思う?』

 

「………危険だ」

 

今度ばかりは即答する。無制限フィールドとは、安易に自分の全てを賭けられる場所ではない。常に不確定要素が蔓延り、なにが起こるかわからない。相手が能見なら尚更だ。あの男がこんな危険な賭けを嬉々としてふっかけてきた以上、間違いなく罠を仕掛けてくるに決まっている。それが想像の範囲内であるかは別にしても。

 

「……でも、このチャンスを逃すわけにもいかない。またどんな手で僕達に干渉してくるかわからない以上、口約束で終わりにできる地点を僕達は既に通り越している」

 

『そうだよな。よし、決闘を受けよう。正直一発勝負のほうがありがたいしな』

 

「あはは。ハルは一極集中型だからね。始まったら速攻で終わりそうだ」

 

『せっかく心意の修行をしてきたお前には悪いけどな』

 

そう言って二人で笑いあう。昔から何度もこうして楽しく笑いあった。笑って、泣いて、一緒に進んでいく。

 

…そして、いつの間にかハルが一歩前にいるんだ。その背につけた翼を広げ、僕に背中を見せつける。きっとこのままい能見と戦いにいけば、またいつものようにハルが先陣を切り、再び僕に背中を晒すのだろう。

 

「うん。だからハルにお願いがあるんだ」

 

『お願い?なんだよ、急に改まって』

 

ハルの背中を見るのは嫌いじゃない。だけどね、ハル。僕も男の子なんだ。カッコイイ姿を見せつけられて、黙っていられるほど僕は大人じゃないんだよ。

 

「能見との決闘。初めは僕に任せてくれ」

 

そろそろ君も、僕が頼れる男だってことをこの背中で知ってくれ。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜9時。世界の全てが白で染められた《月光ステージ》の中を右手の釘打ち機を揺らしながら梅郷中の校庭を目指して歩いていく。ここまでにちーちゃんがハルの家に突然訪問してきたりと小さなアクシデントもあったが、それ以上に自分が全く動揺も緊張もしていないことに驚いている。まるで明鏡止水の境地にすら達していると思える集中力が心に訪れているようだ。

 

「……まだ、能見は来ていないみたいだね」

 

梅郷中の校庭を見渡せ、逆に校庭からは見つかり辛い場所に隠れて様子を見る。待ち伏せの気配もなく、能見の姿も見当たらない。だがそれで油断もできない。能見にはハルを貶められ、ちーちゃんを苦しめられた。その策略を前に気を抜ける時間などありはしないのだから。

 

「…五分待って来なければ一旦離脱しよう。罠を仕掛けられる可能性が……いや、待った」

 

これからの行動を決めようとすると、少し離れた場所から風切り音が耳に入る。無音の月光ステージにその音は一際大きく響き、そしてその音の発信源である黒い影。それは優雅に空を舞いながら螺旋の軌道で校庭の中央に降りていく。そして最後は月光ステージに解けるように、音すら立てずに着地を果たした。

それは言うまでもなく、親友の翼を奪った略奪者。能見ことダスク・テイカーだ。

 

「……行こうか」

 

能見の動向を観察しつつも一分間、何もせずにただずむ姿から目を逸らさずにこちらも校庭に向かう。互いの距離が初めの中程まで来てからは互いをにらみ合うように警戒を強めていく。

そして二十メートル程の距離を開けて僕達は歩みを止めた。ブレイン・バーストでの戦う前の最低距離は十メートルだが、今回はそれに習う必要もない。

そして数秒の間を空け、能見はやれやれと言いたげなポーズで切り出した。

 

「……まあ確かに?対戦の時間を決めていいと言ったのも、いくらその時間を寸前で延長してもいいと言ったのも僕ですけどね!まさか一時間も引っ張るとは思いませんでしたよ。

アレですか?こそこそ周りを這い回るネズミの浅知恵ってやつですかね?こないだまで蝙蝠のようにパタパタしてた先輩にしてはとてもよく似合ってますけど」

 

「お前相手に警戒は幾らしても足りないってことは学習したからな。その成果がこの決闘だよ」

 

「くくく。足をかじった程度で勝利宣言とはね。いいでしょう、早始めましょうか。ネズミからただの豚にしてさしあげますよ」

 

そう言うと能見は右手を掲げるようにこちらに突き出した。その指先には真っ赤な一枚のカードか挟まれ、その存在の危うさを主張している。

 

「これがこの戦いを飾る《サドンデス・デュエル・カード》です。僕対お二人の全ポイントをこのカードにチャージし、僕かお二人両方のHPゲージが0になったら終了です。僕か二人のうち片方が勝利すればポイントの総取り。先輩方両方が生きていればポイントは半々に分けて与えられます。

ああ、そちらはチームにしてあるので最後の一人になるまでーなんてことはないのでご安心を」

 

「……なるほどね。つまりはこういうことか」

 

ルールを把握し、飄々とした態度を崩さない能見を睨みつける。

 

「この決闘は、誰かが死ななきゃ終わらない」

 

「ええ、その通り。そしてその場合必ずどちらかはブレイン・バーストを永遠に失う。一切の憂いも保留もなくね。

ああ言っておきますがポータルから離脱したらその時点で敗北なので、お忘れなく」

 

「退路もなし、か。君らしい徹底ぶりだね」

 

「お褒めに預かり光栄ですよ。先・輩?」

 

腰を折り曲げニヤニヤとした笑みを浮かべているだろうマスクの下から笑い声が漏れる。これで僕達が受け入れればもう後戻りはできない。それは能見にとってもだ。

 

「よし、いいだろう」

 

ハルと目配せしあい、それを受け入れる。それに能見が頷き、左の指先でカードに触れた。何度か操作を行い、それをこちらに投げつける。それを受け取りカードを確認する。

能見がいっていた通りのサドンデスルール。イエスかノーかの確認を二回。躊躇うことなく指を打ち付け、それをハルに投げ渡す。それを受け取り緊張した動作でカードを眺める親友から視線を外し、能見の様子を見続ける。

まるで余裕綽々といった姿は揺らがない。腕を組み、自分が絶対強者であると確信を持ったまま。負けるわけがないと分かっているような姿だ。

 

何かある、そう確信めいたものが頭に浮かぶと同時に目の前にカウントダウンを告げる数字が現れる。参加者全員の許諾を得たシステムが働き出し、ゴングを鳴らす支度を始めた。カウント10から徐々に減り、それがゼロへと到達すると同時にデュエルの開始を告げる炎の文字が目の前を赤く染める。

 

それが起きても能見は身動き一つ取らない。初撃を躱す算段があるのか、まるで早く攻撃を仕掛けてこいとでも言わんばかりの格好を崩さない。

 

「……じゃあハル。初めは僕が行かせてもらうよ」

 

「……ああ。でもタク、やっぱ二人で一緒にやったほうが…」

 

「ダメだよ。あの能見が、何もせずに、何も仕掛けずにここに立つわけがない。ハルはそっちを警戒しててくれ」

 

能見はあいも変わらず動かない。心意も発動しないところを見るに初めは遊んでやろうとでも考えているのだろう。

なら、それに乗ってやる意味もない。

 

「…………へぇ」

 

目の前の相手からの嘲笑を無視して右手の杭打ち機に心意の光を込め、その先端を胸の前でもう片方の手を使い握りしめる。

 

「《蒼刃剣(シアン・ブレード)》!」

 

その杭を右手な杭打ち機を吹き飛ばしながら引き抜く。そこには過剰光を先に宿した大剣が握られ、明るい蒼色の存在を主張していた。僕の始まりの心意にして、正の心が宿った(つるぎ)である蒼刃剣。

 

「…ふーん。一丁前に心意を習得してきたわけですか。お二人とも付け焼き刃がお好きなようだ」

 

「安心しなよ。僕のは確かに付け焼き刃だけど、それを打ってくれた人は君以上の心意使いだからね」

 

「………素人が。ならお望み通り剣で相手してあげますよ」

 

ようやく腕組みを外し、能見はその両手に濃い紫の心意を纏わせる。さらに腕の先からまるで剣のように光が伸び、実態を伴って現れる。それを振り上げ、剣を構えて相対する。ようやく戦いのムードが出てきたというものだ。

 

「さあて、用意はいいですか?」

 

「いや、まださ」

 

「………は?」

 

いざ尋常に、とでも言えそうな雰囲気に水を差されるとは思っていなかったのだろう。惚けたような声が実に面白い。

 

「言っただろう?これは付け焼き刃さ。単純な剣の腕でなら君に負けることはないけどね。でもここは、初めから全力で行かせてもらうよ」

 

両手に抱えた大剣を左手一本で抱え直す。片手で扱うには重たい代物だが、これはただの前準備だ。

空いた右手に再び想いを込める。でもそれは蒼刃剣のような綺麗な心じゃない。もっと醜く、もっと弱々しい負の心。勝ちたいし穿ちたいし貫きたい想いが止まらない!

 

「《穿光蒼杭(アン・ライトニング・シアン・スパイク)》!」

 

砕け散ったはずの杭打ち機がどす黒い蒼色の光によって蘇る。鉄の輝きは存在せず、だがその先は鉄よりも尖っている。首を貫くことに関してはここにこれ以上の存在はいないだろうことがこの光が証明してくれているようだ。

これで右手に負の杭打ち機を、左手に正の大剣を装備して正負両方の力がこの身に宿った。だがこの姿を見て何を思ったか、嘲りと驚愕を十二分に含んだ笑いを能見は浮かべた。

 

「………は、ハハ。なんですか、それ。二刀流にでもなったつもりですか?そんな正と負の心意を両手に持って、それで強くなったおつもりで⁉︎わざわざ分けてあるものを同時に使ったところで一つと一つ。中途半端にしかならないとなぜ分からないんです⁉︎」

 

「そうだね。この状態で戦っても、多分途中でどちらかが維持できなくて僕は負けるだろう」

 

「…それが分かっているのにそれですか。いやあ残念だなぁ。先輩はそっちのネズミと違ってもっと、それこそ、僕と同じくらい頭が回る人だと思っていたんですがねぇ。まあ僕より固い頭であることは間違いないでしょうけど」

 

腹を抱えながらどこまでも笑いを抑えない。それが今の僕にはどうしようもなく哀れに見える。正負両方を抱えている今、僕にはどちらの自分とも正面から向き合っている状態だ。それ故に、とてもよく見えるよ。醜悪な自分と、まるで瓜二つな()()の姿が。

 

「……頭が固いか。まあ、生来の(さが)ってものは簡単には変わらないよ。頭で理解できないと違う答えを見つけたくなる。それが教えられた答えでも、納得したくないんだよ」

 

「…………なんの話で?」

 

「1+1は1と1じゃなく、2だって話だよ!」

 

ガツン!と両手の武器をぶつけ合う。大剣と杭打ち機が重なり合い、そして互いを拒絶し合うかのように反発が始まる。正と負。相反する属性同士がまるで水と油のように合わさることを嫌悪しているのだ。

けれどもこれは両方僕だ。もともと一つで、それが分かれたに過ぎない。どちらも僕で、どちらも大切な心の一つ。今はただその気持ちがそっぽを向いているに過ぎない。だから一つの方向に全てを向け合わせてそれが一つに重なる時、それはより強大な力となる。

 

 

 

手に剣を、身に鎧を、心に意思を。

 

ただ、友を守る力に!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《蒼騎士(シアン・ナイト)》‼︎」

 

 

 

 

蒼は蒼く、元の色がただ輝き出す。否、輝いているのではない。純度が100%にまで至り、色そのものが輝いて見える。身には蒼々とした甲冑が、右手にはレイピアを太くしたような先の鋭い剣が。左手には身を半分は隠せる巨盾が。元のアバターより若干細めに変わった姿は、しかし存在感を数倍に増し加えて壁のような圧迫感を生み出している。それは眼前の能見を三歩下がらせ、真後ろのハルとちーちゃんが唾を呑むことすら忘れるほどに。

 

「……待たせたね。決着をつけよう。

………ダスク・テイカー」

 

 




オリジナル要素説明足りねーと思うこともあると思いますが、まだ勘弁願います。次あたりでやっぱ簡単な修業中パートという名の説明会挟みますので。


*これ以降は読まなくても結構です。

実はこの小説の俺ガイル達がどんな過去を辿ってこうなったかが分からないという感想貰いまして幕間扱いで番外編でも書こうとやる気になったんです。
……が、幕間って何書けばいいんだろう?という悩みにぶち当たりまして。

レッド・ライダーと絡ませる話は1割くらい考えたんですが、それ以外の番外編でどんな話が見たいですかね?必ず書くとは口が裂けても言えないんですが、脳内以外から取り入れた話も書けるようになりたいと思うので何か希望があれば出していただけると助かります。

見ていただいた方はありがとうございました。あわよくば協力をお願いいたします。

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