やはり俺の加速世界は間違っている   作:亡き不死鳥

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遅くなってすみません。
もう一つの作品に熱中してたら遅れました。
久しぶりに書いたんで違和感あるかも。


波乱の昨日、混乱の今日

 

 

 

 

家族水入らず、という言葉がある。

家族とは最も身近で最も遠慮せずに最も楽でいられるコミュニティだ。なんせ生まれた時にはそのコミュニティに既に入っている状態という特典付きなのだから対人スキルの乏しいぼっちにも優しい設計はまさに神の作りし至高のシステムと呼べるだろう。他にも誰かから『どこからどこまでが家族か定義してもらえるかしら?』なんて言われる事もない。友達なんかよりよっぽど分かりやすく信頼できるってもんだ。

嗚呼、迷惑をかけ迷惑をかけられ、助けられ助け合う家族の心はなんと美しいことか。

結論を言おう。

 

 

「家族水入らずとか言って息子を置いて旅行にいった俺の両親は心が醜い」

 

「あんた家族に家族扱いされてねえんじゃねえの?」

 

 

いやそれはない。ないと信じたい。……ない、よな?なんで後半になるにつれて不安になるんだよ。だけど母ちゃんの『学校あんだから行きなさい』ってどう考えてもおかしいと思う。だって小町も学校じゃん!小学校と中学校に休みの違う日はここのところありませんでしたよ?

いや小町はいい。小町は可愛いから旅行に連れて行ったのもなんら問題はない。問題があるのはあのクソ親父だ。小町を溺愛するあまり俺を目の敵にするのは分かるが、旅行に行く前にここぞとばかりにドヤ顔するのはやめて欲しい。うっかり殴りそうになった。家族のよしみでやらないけど。代わりに冷蔵庫のビールの炭酸でも抜いてやろうかと考えたが、それをやると母ちゃんが怖いのでそれも却下。とりま水扱いされたので親父のコーラを水で薄める作業を決行した。

 

「まあ家の奴等がいない方が私は都合がいいけどなー。よかったじゃねえか。家族が出払ったおかげで私は寝床が確保出来て、私のお願いも聞けて一石二鳥だろ?ね、おにーちゃん」

 

「…へーへー、そっすね」

 

まあ未来の事は今度考えるとして今は今の事を考えよう。前述の通り家族三人は旅行に出かけ、残っているのは俺と目の前で俺の漫画を読んでいる上月由仁子ことスカーレット・レイン。ブレイン・バーストのレギオンマスターでレベル9のバースト・リンカー、二代目赤の王だ。初代の赤の王の話は諸事情で今回は割愛させてもらう。

 

まあそんな事はどうでもいいんだよ。この表では天使の笑みを浮かべつつ裏では堕天使の如き性格をしている小学生様は、俺の悪事(勘違い)を黙認する対価として数日の寝床を要求してきたのだ。

なんでも、『寮長のババアと喧嘩した』とのこと。元々反りが合わなかったらしく二三日は帰らないと豪語して飛び出たはいいが、行く宛があるわけでもなく公園で黄昏て居たところを小町に拉致られたらしい。

 

……うん、色々突っ込みたいところがあるんだけど。まずついさっき友達になったばかりっていうのがビックリだわ。流石は俺の可愛い妹小町ちゃん。どうやら俺と小町にはコミュ力で圧倒的な差があるようだ。知ってたけど。小町のコミュ力を言い表すと『……くっ、コミュ力6万……10万……馬鹿な、まだあがるだと!?』って感じ。…え、俺?『コミュ力たったの5か、ゴミめ』。5もねーよバーカ。

 

「おいウルフ、目がスゲー勢いで腐ってきてるけど大丈夫か?」

 

「…うるせぇ、目が腐ってるのは元からだ。つーかお前他の王にリアルバレした事についてはいいのか?」

 

「……………あー、お前も王だったっけ」

 

『は?何言ってんのこいつ』みたいな顔やめて欲しい。素で忘れられてたって一瞬で分かるからな。最近ではソーンの奴が毎回毎回俺が話すたびにビクッとするから話が振られない限り沈黙を保つ事にしてる。その結果誰も俺に話を振らないので存在を認知されていない事がある。

…なるほど、そう考えると仕方が無い気がしてきた。

 

「まああんたが何かしない限りは私は何かする気はねえよ。ここで警察に突き出して寝床無くしても困るしな。次は問答無用だけど」

 

「だから勘違いだって言ったろ。小町だと思ったんだよ」

 

なんせ俺の部屋にズカズカ入ってこれるのは小町くらいだからな。まさか俺のBT(ボッチ)フィールドを破ったのが上月だったとは驚きだ。こいつの正体が実は使徒なんじゃないかと錯覚しそうになる。堕天使だったけど。

 

「…随分妹を可愛がってんじゃねえか。もしかしてチェスナッツ・ニードルって小町か?」

 

「残念ながら外れだ。小町はバーストリンカーじゃねえよ」

 

「およよ、んじゃいろはか。てかお前レベル9だろ?私が言うのもなんだけどよ、子とか作らねえわけ?」

 

……恐らくその言葉は単純な疑問を口にしただけなのだろう。ただタイミングが悪かった。丁度今日思い出してしまった記憶を、トラウマ第一号と呼べる追憶を、再び思い起こしてしまう。無力な自分を、残酷な世界を、性根の腐ったPK集団達を。

そして、一人しかいないレギオンを守り続けている自分の女々しさを改めて突きつけられた気がした。

 

「………俺には子も親もいねえよ」

 

「…ふーん。あ、そ」

 

口から出た言葉が自分の思っていたよりも冷たく聞こえた気がしたが、それを察してくれたのかそれ以上上月は喋るのを辞めた。

 

そこから先は特に特筆すべき点はなかった。俺が適当に作った飯を食い、部屋からラブプラスを発掘されてバカにされ、スマブラでボコられバカにされ、プリキュアをバカにされサドンデスルールを忘れて対戦しかけたくらいだ。

いやープリキュアの時はマジでやばかった。ボッチのガンジーを自称する俺も抵抗しかけるとは。『警察』の二文字で瞬殺されたけどな!

 

まあ一概につまらないと言うほどの一夜ではなかったのは認めよう。あそこまで騒いだのは小町以外だと初めてだったしな。

 

……だからあまりにも不意打ちだった。次の日の放課後に黒雪が車に跳ねられたと聞いた時は。

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

河北総合病院へと足を向けた俺を出迎えたのは今にも死にそうな顔をした有田だった。目元に涙を溜め、こちらと向き合いつつもチラチラと手術室の方に目を向けているところを見ればこいつが黒雪を相当心配してるのが分かる。

……なんだよ、しっかり親子やってんじゃんか。

 

「あー、それで黒雪の容体……は分かるわけないか。一応事の経緯だけ教えてもらってもいいか?」

 

「…はい」

 

小さく返事をすると有田はポツポツと話し始めた。昨日俺と別れてから有田の幼馴染と黒雪が衝突したこと、黒雪が何者かにリアル割れして幾度か襲撃されていたこと、そして…有田と黒雪が喧嘩していたところに突っ込んできた荒谷から黒雪がレベル9のみに許されたコマンド、所持ポイントの99%を失う『フィジカル・フル・バースト』で有田を自分を犠牲に助けたこと。

 

………こんな時、俺はどう言えばいいのか分からない。そもそも俺と黒雪の関係ってなんだ?

友達?いや違う。リアルを知っていても俺と黒雪は友達なんて言うほど関わりはない。せいぜい知り合いってところだろう。

なら仲間?それも違う。おなじゲームをやっていてもレギオンは別。言わば敵同士だ。

だったら……なんだ?俺と黒雪の関係って。知り合いのお見舞いってだけならわざわざ事情を効く必要もない。敵同士ならそもお見舞いに来ることもないだろう。

 

「………比企谷先輩」

 

どこか決意を固めたような目で俺を見据える有田が沈黙を破った。今までオドオドしてる姿ばっかりだったから少しばかり新鮮である。

 

「お見舞いありがとうございました。僕が黒雪姫先輩が起きるまで待ってるので安心してください」

 

「…お前の話だと黒雪のポイントはレッドラインなんだろ?しかも襲撃者もいるらしいし。なら俺もここで…」

 

「大丈夫です」

 

今度は話を遮られた。

 

「大丈夫です。 僕は……まだブレインバーストを始めてたった数日、ほんのちょっとしか経ってないのに黒雪姫先輩に沢山の物を貰いました。なのに今日……僕は……」

 

後半になるにつれ声は小さくなっていく。自責の念に駆られているのか視線も下がり、体そのものまで小さくなっていくような錯覚を覚える。

 

「……だから、僕は絶対に黒雪姫先輩を守ってみせます!たとえ何があって、誰が来たとしても」

 

「……………前に俺が言った言葉、覚えてるか?ポイントが0になった瞬間ブレインバーストとその全ての記憶を忘れるってやつ」

 

「……もちろんです」

 

「お前と黒雪が知り合ったのはブレインバーストがあったからだ。その記憶を忘れるって事の意味……分かってるよな?」

 

そう、それはつまり『黒雪と有田の関わり全ての記憶』が消える事と同意だ。それと同時に黒雪と有田の繋がり全てが消える事となる。現在では元とはいえイジメられっ子の有田とトップカーストである黒雪。 別世界の人間を周囲は決して認めない。唯一の例外があるとすれば、それはトップ自身がその存在を認めた場合のみそれが許される。トップ以下の人間は最終決定をトップに任せ、それに従う事はあれど逆らう事は決してないからだ。

だが黒雪の記憶が消えた場合、その例外も共に消える。トップの周りにトップが許可しない生物がまとわり付くのを周囲は認可しない。それどころか確実に排除に走るだろう。

その意味を有田が理解していないはずがない。上位の存在の慈悲は許されても、下位の執着はありえない。それは……下位の人間の方が強く意識するからだ、自分の立ち位置を。あるべき場所を。

長い沈黙の後、有田ら再び俺の目を見据えた。

 

「………………はい」

 

…その全てを受け入れ、その全てを背負うと言うならば……俺にここでやる事はない。大人しく退散しよう。有田の親ではないが、バーストリンカーとして親子の絆を信じ切っている俺だ。少しくらい黒雪の子を信じてみようと柄にもなくそう思っちまった。

 

「そうか。なら、俺は帰る。家に喧しい居候を待たせてるんでな」

 

「…ありがとうございます」

 

「………おう」

 

病院の外に出るまで見送ってくれた有田を一瞥し俺は大人しく帰路につく。振り返る事はしない。ぼっちはぼっち故に自分の意見を絶対に曲げない。だからさっきの選択が間違っていないと、俺だけは俺を信じてやらなければならないのだ。

 

「あー、まだ上月の奴家にいるんだよな」

 

独り言を呟きつつも歩を進めていく。うーん、正直あいつのテンションに付き合う元気が今日はねえしな。飯も適当にしてから……そうだ。

 

 

 

久しぶりにあいつの所に行ってみるか。

 

 

 

ニューロリンカーを操作し一通のメールを送る。ゆっくり過ごしたい時の加速世界内のベストプレイスへの言伝をメールに載せ、俺は残りの家路を辿った。

 

 

 

 

 




イ、イッタイダレナンダー?
うーむ、ヒッキーに違和感がないか心配。なんか偉そうというかヒッキーらしくないというか。うーん。
まあ久方ぶりなんで感想待ってます。

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