書き直したんでもう一度どうぞ。
「アンリミテッド・バースト」
家に帰り上月を適当にあしらった俺は、自室に戻りコマンドを唱えた。行き先はブレイン・バーストの上位世界、レベル4以上からしかいく事の出来ない無制限中立フィールドだ。殿堂入りしないと会えないミュウツーの洞窟とかレックウザの塔みたいな所。古いか。
行き先は旧東京タワー。杉並区から渋谷区を越えた港区の奥にそびえ立つ高い壁がそれだ。距離が結構あるのだがそこは『ウルフ』と名がつく俺のアバター。走る事なら負けはしない。
某タイトルに走らされる人と違い姿も見えないしご乱心の王様の邪魔も入らないので、セリヌンティウス役のあいつの元へ行くのにも弊害はない。フィロストラトスもいないしな。
しかし着いたら着いたで問題がある。先程旧東京タワーと言ったが、真の行き先はこの頂上。上を見上げると腰が痛くなりそうな程の高さを誇り、フィールドの属性によって壁が姿を変える厄介な柱は悉く侵入者を拒んでいる。
現在の属性は焦土ステージ。地形が脆く生物もいなければオブジェクトを壊しても必殺技ゲージすらたまらない煤けたステージだ。旧東京タワーも例に漏れずまるで火に焼け焦がされたかのように炭化して、巨人に祈られまくった嘆きの壁のようだ。
「さて、登るか」
ここで一つ言っておくと俺のアバターは平面走行は得意だが壁面走行は苦手だ。つーか無理。なのでいつも裏技を使う。右見て左見てもう一回右を見る。アッシュ・ローラーやスカーレット・レインみたいな乗り物アバターの気配なし!他にも後ろ見て上見て誰もいない事を確認した。
普段なら見えないし気づかれないしでこちらも気にもしないのだが、これからやる事は見られるとちょっと事なのだ。
旧東京タワーの麓に付き体制を整える。発動するのは必殺技でもなければ通常技でもない。ブレイン・バーストの裏技、
それはともかく俺は心意システムを発動する。黒い過剰光が身を包み、今ならなんでも出来る気がする全能感が溢れ出す。それと同時に駆け出す。一気に数十メートルを駆け上がり、炭と化した旧東京タワーを登って行く。
「よっと」
数十秒で頂上に到着した。旧東京タワーは無制限中立フィールドでは円柱状になっており、天辺は平らになっている。そしてそこでは下でどんな属性のステージになっていようとも、変わる事なく緑の草木と緑の屋根の家が存在している。
そう、ここは加速世界のホームだ。ブレイン・バーストではめっちゃ高いバーストポイントと引き換えに加速世界に家を買う事が出来る。といっても俺の家じゃない。この家は何度も言って来た『あいつ』の家なんだ。
緑の屋根の家にノックする。すると中からキュルキュルという緩い音がして扉を開けられ…
「こんにちは。久しぶりね、狼さん」
この家の持ち主、スカイ・レイカーが現れた。
☆☆☆
レイカーに迎え入れてもらった俺はテーブルで向かい合いお茶会もどきをしていた。
「本当に久しぶりですね、狼さん。現実世界だと……一ヶ月ぶりくらいでしょうか?」
「あー、そういやそうだっけ。リアルが充実し過ぎて忘れてたわー」
いやーほんと充実してたわー。家では小町。学校で一人、稀に黒雪。昼休みに黒雪に絡まれる事を除けば満点だったな。そこが最大の減点だが。
「……そうですか。楽しそうで何よりです」
………何故か部屋の室温が下がった気がした。特に背筋のあたりが。加速世界なのに風邪か?いや、加速世界での感覚は二倍に強化されているはずだ。つまり現実世界の俺が風邪になっている可能性が高い。もしや上月の仕業か?最近はやりの構ってちゃんか?だが無意味だ。俺が構ってやるのは小町だけだからな!
いやまあそれはいいとして、なんかレイカーの視線が冷たい。もしや俺が来たのが迷惑だとか、一ヶ月前にも来たくせにまた来やがったのか、的な意見を主張されてるとしたら八幡立ち直れない!
「……いや、あのさレイカーさん?前にも、というか何回か言ってると思うが別に俺が来るからってわざわざ迎えて貰わなくても大丈夫ですよ?ここには何度も来てるんで困る事もないんですが……」
俺は緑の庭からフィールドを見渡すのが好きなんだ。独りで広大な世界と対面する妄想とステージの属性ごとに違う風景を見渡すのが趣味になりかけているくらいだ。なので独りでも大丈夫…どころかむしろ独りがいいのだが、レイカーの要望でここに来るなら連絡しろと言いつけられたのだ。
リアルでこそ会っていないがメルアドを押し付けられたので毎回連絡はしているのだが……正直必要性があるように思えない。俺が連絡し、今のようにお茶会をした後レイカーと並んでフィールドを眺めて飯食って帰る。これが俺とレイカーの基本的な関係だ。
……うん、やっぱ必要性ないよな?
「狼さん」
再び底冷えするような声が響く。目元だけ見るなら笑ってる。レイカーは口も鼻もないから目元でしか判断出来ないがまあ笑っている。
「言いたい事は、それだけですか?」
怖い!レイカーさん怖いよ!笑っているのに怒っているのがわかるデスマイル辞めてくれません?いやほんとこえぇよ。あと怖い。
「ひゃ、いや、あの、なんでもないっす、はい」
「そうですか、では今日はゆっくりしていってくださいね」
今度こそ普通の笑いを見せてくれた。やっぱ何事も普通が一番。完璧超人の生徒会長や負完全の副会長よりも普通で普通な庶務が一番だよな。途中から普通じゃなくなったけど。あ、ついでに一番好きなキャラは球磨川先輩です。
「そういえば……」
無心で妄想の世界に入り浸っていると、何かを思い出したようにレイカーが口を開いた。今度はどんな言葉で俺のSAN値を削ってくるのかと思わず身構える。
「私、最近子が出来たんですよ。誰かさんが一ヶ月も来ていただけなかったせいで言うのが遅れましたが」
「……へぇ。レイカーに捕まるなんてそいつも運の悪いこって」
「なにか?」
「にゃ、なんでもないっす」
……ふむ、子か。黒雪もそうだったが最近ハイレベルプレイヤーの子作りが流行ってるのか?iPS細胞の波が加速世界にも到来しているとか。
加速世界にもビッチ化の波が!実はアバターにもiPS細胞が埋め込まれているという今明かされる驚愕の真実ゥゥゥ!そんなオカルトありえません!
「なにか?」
本日二回目のデスマイルいただきましたー。すみません、ノーセンキューで。
顔どころか顔色すら分からない筈なのに心の中を覗いてくるレイカーさんまじさとり。もしくは俺のさとられ説。べー、超やべーわ。
「………まあいいでしょう。元々こんな事が話したかった訳ではありません。誰かさんが一ヶ月も来ていただけなかったせいで話したかった事がたくさんあるんですよ」
本日二回目のマジスマイル。いやほんと、アバターなのにうっかり惚れそうになるから辞めて欲しい。そしてそのまま告白して振られるところまでいってしまいそうだ。振られちゃうのかよ。
…しかしまあ?こんな嬉しそうに言われてるのに断るのも悪いし?少しくらい雑談に応じてやってもいいかな。それに…ほらあれだ、煉獄ステージ見ても気が滅入りそうだし?変遷が起きるまでだったら別にいいかなーって、ハチマンはハチマンは思ってみたり。
そう結論をつけ入れてもらった紅茶に口をつける。
うん、甘い。
そこからは適当な会話が八割を占めた。ロータスが子を作った話。小町の魅力を延々と聞かせたりとかもした。その流れでレイカーの子の話も聞いた。
…アッシュ・ローラーだというのは意外だったが。というか話している間のレイカーの生暖かい視線がやけに気になった。千葉の兄妹なら妹の話が八割を占めるよな?な?
そして時は流れ遂に訪れた変遷が加速世界全てを覆いつくした後、俺とレイカーは共に外にでた。
「氷雪ステージですか。待った甲斐がありましたね」
ミルク色の空に分厚い氷で出来たオブジェ達。煉獄ステージと比べりゃ天と地だ。それに荒れ狂う吹雪の中で自分だけが特等席にいるという優越感は何者にも捨てがたいものがある。
それに加えて俺はこの旧東京タワーの上で感じる風が好きだ。氷雪ステージのように冷たい風が吹き付けるのも、煉獄ステージのモワッとした風が吹き付けるのもその場その場で変わっている世界で、自分だけは変わらずにいる事実に酔いしれたりする。
「はい、狼さん」
いつも通り旧東京タワーの端っこに腰を下ろした俺にレイカーが手を差し伸べてきた。
……いつもやる事ではあるが、とてつもなく気恥ずかしい。
だが既に慣れきったイベントなので、俺は差し伸べられた手に自分の手をおいた。
「
俺のコマンドと同時、俺の身体の色が空色に変わる。
これは俺の初期アビリティで他人の色、特性を写し取る事ができる。しかし俺は声を高々にして言いたい。
これ、なんの意味があんの?
色が貰えても強化外装が写し取れるわけでも、ましてや必殺技を写し取れるわけでもない。完全に色だけ。あと一応その色の特徴も。だったら無色のほうが強いんじゃないんですかねぇ?
「ふふ、お揃いですね」
……頬をかき目を逸らす。まあ心意の黒色を纏ってるよりは目に良いので問題はないが、やはり慣れないものがある。ボッチにはお揃いとかペアルックとかは無縁のものだからな。
そうこうしているうちにレイカーが俺のすぐ隣に腰掛けてきた。これも毎度思うけど近いよ。肩と肩が触れ合いそうなレベル。ボッチのパーソナルスペース侵略してますよね。
「さて、景色を見ながらお話を続けましょうか。例えば……今日きた本当の理由とか」
………俺はレイカーには敵わない。何度も思うが、改めてそう思った。
次回からは!自分はこんな失敗をしないよう努力致します!
いやほんと、すんませんです。
一応の戒めとして活動報告に失敗した方も書いておいたんで暇だったらどうぞ。