黄金律者の徒然 作:フィッツジェラルド
「――――本当に、それで良いのかい?というか、普通はそんな物選ばないんだけど?」
「?別に、ドンパチするつもりが無いのなら、ベストな選択だと思うが?」
「それは…………」
金髪の麗人は困った様に言葉に詰まる。
無作為に選ばれた、転生枠。これに選ばれたのは、一人の青年だった。
特典を選ばせての転生。大抵のものは、ここで巨大な力やら、憧れの能力を手にして別の世界の人生を謳歌する。
だが、彼は違った。俗物的であり、同時に現実的。
「ハァ……まあ、決まりは決まりだからね」
「ああ」
頷く青年。同時に、彼の足元が淡く光り、極光と共にその体は消え失せる。
転生を果たした青年を見送って、金髪の麗人は虚空へと腰かけた。
「黄金律、ね」
倫理哲学などのものではなく、Fateのスキルの一つ。
人生においてどれ程の財産が付いて回るかの宿命をさすもので、高ランクともなれば一生遊んで暮らして猶も余る財を得る。
青年が望んだのは、このスキルのランクA+++という業突張りにも程があるほどのもの。
しかし同時に、真理でもある。
どんな強大な力を得ようとも、人間社会を生きる上で必要なのは資金だ。社会というものが形成されてから、富を持つ者こそ強者。
しかし、それだけだ。権力財力などの身体に伴わない強大な力というものは、そういうものを踏みつけに出来る原始的強者に後れを取る。
「それじゃあ、面白くないんだよねぇ」
麗人は蠱惑的に微笑む。
彼、或いは彼女含めた天上の存在にとって、この転生は端なるお遊びの領域を出てはいない。
彼らにとって、人一人の命に価値など無い。しかし、その一方でその一つの命が紡ぐ
故に、今回も面白い事になると思っていたが、しかし足りない。
世界の三割以上の財産を一個人で所有する姿は面白いかもしれない、だが足りない。
何故なら、今まさに送り込んだ世界は血腥い場所であるのだから。
最低限度の戦闘能力は、必須。
「…………うん、こうしようか」
黄金律に変化はない。馬鹿の場合は
特典の譲渡は、一種の契約だ。そこに相手の要求を弄る余地はない。故に、青年には要求通りの黄金律A+++が渡されるだろう。
しかし、それだけではない。
特典を一つ選べ、とは言うが。一つしか特典を付けられないとは言っていない。
「精々、面白い一生を送ってくれるかな」
人ならざる者は、嗤う。
舞台の幕は上がり、演者は役へと興じよう。
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人は百パーセント望むがままには生きられない。
その事を、
生まれは、極々普通の一般家庭。夫婦間が冷え切って、子は鎹をそのままに表したかのようなそんな家。
時は、1967年。徳川は生を受ける。
子供らしくない子供。外で遊びまわるのも、遊ぶというよりもトレーニングに近く、大抵は本を読んで過ごす物静かなタイプ。
何より、金に困った事が無い。寧ろ、
金、そう金だ。彼は転生に際して、黄金律のスキルを獲得した。
Aランクですら、一生贅沢三昧のままにニートかましても金が余るというのに、彼の場合はその上を行く
単純に金銭を拾う事から始まり、兎にも角にも増える増える。
気付けば、十歳の頃には小金持ち。いや、大金持ち。
ただの子供だったならば、徳川はこのまま親に金銭を接収されて、親の為の外付けバッテリーのように金を生むだけの存在となった事だろう。
『華麗なるフィッツジェラルド』
文豪ストレイドッグスに登場する異能力の一つ。その効果は、消費した金額によって身体能力が強化されるというもの。消費する財産は、必ずしも金銭に換算できるものでなくても行使可能。
能力内容は単純で、金額が高ければ高いほどに身体能力強化に掛けられる倍率が上がり、尚且つその効果発動時間も伸びていく。
僅かな財貨でも身体能力が強化されるが、しかし発動すればするほどに貧乏になり、能力の行使は難しくなるだろう。
だが、徳川天理は違う。
彼には『黄金律:A+++』という頭のおかしい
要するに、余程バカな使い方。それこそ、一秒間に数兆円規模でも能力を使い続ける様な事をしなければ、消費される財貨よりも自分が得る事が出来る財貨の方が多い。
ごくごく普通の一般人程度の身体能力しか持たない両親が、身体強化した徳川に勝てる筈もなく、金銭的マウントと腕力的マウントによる圧力を持って、彼は更にその食指を伸ばしていった。
気付けば、彼は日本を飛び出していた。正確には、お隣韓国に始まり中国、ソ連、モンゴル、ベトナム、タイ等々。
あらゆる国で、資金援助を持ちかけながら根を張り巡らせていたのだ。
徳川自身、特に理由があっての事ではなかった。ただ、前世において義務教育など終わらせてしまっていた彼は、暇だった。それだけ。
はてさて、世界を回る彼だが、この世界は前世とは大きく違った部分がある。
何と言うべきか、色々と欠けているのだ。
直近の大事だと、第二次世界大戦。そこに連なる様に原爆などのその戦争において大きく広がっただろう事柄がすっぽり抜けている。
そして何より、世界で跋扈する“悪魔”という存在。
人々の血を食らい、その恐怖心を持って強大な力を有する異形存在。
そして、運命は回る。
「――――………ハァ」
白い雪が所々剥げて、岩盤を覗かせる荒野にて徳川天理は口元を拭った。
着ていた、白の汚れ、ジャケットなど殆ど焼失。スラックスも左裾が膝より下が千切れてしまっていた。
だが、見るからにボロボロの彼の前には尋常ではない巨体な怪物が今まさに息絶えそうなほどにボロボロの状態で仰向けに倒れている。
その頭部は拳銃の様な形状。その両腕もまた大量の銃火器で構成されており、見た目に合わせるように何れもが巨大。下半身は腰より下が粉々に粉砕されて、幾つかの給弾ベルトがまるで零れた腸のように凍った大地に広がっていた。
「やれやれ……まさかここまで私の財産を消費させられるとは……さしずめ、“銃の悪魔”といった所か」
疲れた、と徳川は肩を回す。
彼は別に、悪魔を殺す職業『デビルハンター』という訳では無い。
今回、彼が目の前の銃の悪魔討伐に乗り出したのは、偏にこの悪魔に目の前で仕事相手並びに居合わせた街の人々を殺されてしまったから。
大口取引であったのだ。これを機に、ソビエトでも大きな商機を得られた、筈だったのだ。
だが、蓋を開けてみれば目の前で取引相手は爆散し、己の頭部にも弾丸が撃たれていた。後者に関しては、パッシブ発動の異能力によって反応、迎撃を敢行。
そこから、紆余曲折を経て、自分に喧嘩を売ってきた悪魔を発見、戦闘行為に突入する事になった。
「さて、トドメだ」
拳を鳴らして、呻く悪魔へと徳川は足を進める。
発動する能力。金色の光がオーラのように体から吹き出し、全身に緑のラインが走った。
同時に、その足は地を蹴り、その体は宙へと舞い上がって死に体の銃の悪魔へと躍りかかっていく。
その一撃は、まるで隕石のよう。
哀れ、必殺の一撃を叩き込まれた悪魔はその胸部を中心に大きなクレーターの中央に半ばめり込む様に押し潰され大きく一度痙攣すると、それっきり動かなくなった。
悪魔の胸部の中央に立ち、苦悶に満ちた人の顔にも見える部分を踏み躙りながら、徳川は冷めた目を悪魔へと向ける。
彼のポケットに放り込まれて無事だったラジオ。
そこからは、悲鳴のような女性の声が響いていた。
要約すれば、銃の悪魔の被害者は世界各国に及んでいるという事。それも、合計上陸時間が数分という短いものでありながら直ぐには把握しきれないほどの犠牲者が出ているという。
「…………こういう時、携帯電話の有難みというものが分かるね」
今は持っていないが、と徳川はため息を吐いた。
因みに、今は1984年の11月18日。先月誕生日を迎えた徳川は17歳になっている。
「ハァ……お前のせいで、今回の商談がパアだ。オマケに、今回の消耗の補填には少し時間が掛かる。スーツも仕立て直さなくちゃならない。この極寒の大地で、だ。ええ?どうしてくれる?」
何度も銃の悪魔の体を踏みつけながら、徳川の愚痴は止まらない。
補足をすると、彼自身は金儲けにそこまで貪欲という訳では無い。ないが、ソレはソレ、コレはコレ。態々ソ連のくんだりにまでやって来て御破談になったなど労力の無駄にも程がある。
続く悪態。強くなる踏みつけの力。
最初は一般人の暴力程度だった。だが、気付けばその体は強化されており、踏みつける足は振り下ろす度に亡骸へと深くめり込み、その体を地中へと沈めていく。
広がるクレーター。そのクレーターから火山の噴出物のように舞い上がる土煙。
元のクレーターから、更に三回りほど広くなった頃、徳川の耳がとある音を拾った。
それは、車の走る複数の音。それも、大型車。
すり鉢状になったクレーターの中心で、振り上げた足を静かに下した徳川は、音が聞こえてくる方へと顔を上げた。
少しの間を置いて、トラックの止まる音と共に複数の足音と、それからクレーターの縁に立つ軍人たち。
彼らの持つ銃の銃口が真っすぐに徳川へと向けられた。
「――――………驚いた」
「…………こっちとしては、こんなソビエトのくんだりで日本語を聞くとは思わなかったがね」
その軍人たちの中心に立つ赤毛の女性。そして、彼女の口から飛び出してきた言語に、徳川の眉間に皺が寄った。
「銃の悪魔は、私が処理をしようと思っていたんだけど……まさか、倒されているなんて。それも、
「今はそうでもないさ。随分と消耗させられた。一張羅も台無しだ」
女の言葉に、徳川はおどける様に肩を竦める。
淡々と交わされる二人の言葉だが、しかし周りを囲む軍人たちは心穏やかには居られない。
彼らは知っている。今まさに、ボロボロのスーツ姿の少年の足元で亡骸を晒す悪魔は、世界屈指の強大な存在であったという事を。
それを、足蹴にする。しかも、討伐したであろう彼は目立った怪我が見受けられない。いや、ボロボロではあるのだが手足の欠損であるとか、後遺症の残りそうな大怪我の類が欠片も無いのだ。
寒風が吹く中で、軍人たちは揃って空気の冷たさとは違う寒気を覚え、大なり小なりその蟀谷や首筋、背中に脂汗を滲ませ、口の中はその一方でカラカラに乾いていた。
「とりあえず、投降してもらえる?」
「温かなココアでも貰えるのなら」
周囲の状況など知らぬとばかりに、異常者二人の間にはそんな気の抜ける様なやり取りしかなかった。
そして、この出会いは後の未来を大きく変える事になる。もっとも、それを知ろうと思って知れるのは、悪魔ぐらいのものなのだが。