◆秋風ハーモニー
『NA~n』
「だめです」
『mya!?』
「こいつ、こういう時だけ、鳴き声が甲高くなるんだよな……」
夫は、秋刀魚のためにはプライドも糞も捨て去り柄にもなくすりすりと寄ってきた白い毛玉を、むんずと掴んで回収していく。
秋だ。
秋といえば秋刀魚である。
祖父が、子供の頃は大衆魚とよばれていたこの細長い魚も、最近ではすっかり高級魚になってしまった、と嘆きながら取れ立てピチピチを大量に玲と夫(あと、猫と犬)の家まで持ってきてくれたのだ。
もちろん、釣りのお供は夫の父で玲から見れば義父だ。
なんでも、昔ちょっと縁ができた釣り宿の若夫婦の厚意で船を出してもらったそうだ。
「…………祖父の交遊関係の広さは、いまだに把握できませんね」
「陽務と自力で知り合いになられるような人だしね…………」
そう返してきた夫は夫で、謎に人脈が非常に広い。プロゲーマーとして培ったものだけなら分からなくもないが、繋がりがよく分からないものも多すぎる。結婚式に、礼儀作法その他諸々をしっかり学んできた玲をしても、対面するのに緊張が走るレベルの各界の重鎮達が参加したことも記憶に新しい。
「そろそろ良いんじゃない?」
「そうですね」
たっぷりの脂が落ちて立ち上る音に炭のはぜる音も混ざりあって、なんとも食欲をそそるハーモニーを奏でている。
せっかくなので炭で焼こうという話になったのはちょうど昼頃だったが、すっかり空はオレンジ色をしている。
「あ、鱗雲」
「秋ですねえ」
陽務 玲
……この子のダイエットを考えたいと思います
[体重計にのる白猫の写真]
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◆年の瀬ring dong
ゴーン、ゴーンと鐘の音が響き渡る。
鐘と言っても、西洋風のものではなく近所のお寺の、いわゆる鐘楼だろう。
そういえば、あそこのお寺には今年中学生になったばかりの、住職のお孫さんがいたなということを思い出す。
「年の瀬だねえ」
「年の瀬ですねえ」
まだまだもう少し、日付が変わるのに時間はあるけど、確かに今日は大晦日だ。
「玲さんは、今年はどうだった?」
「色々──いろいろありました」
陽務楽郎の問いかけに、陽務玲は少し考えて、そう返す。
激動というほど、明確な何かがあったわけではないけど、まったく例年と変わらない、なんてこともなかった。
結局のところ一年なんてそんなものなのだ、とは二十数年生きてきた玲の取りあえずの結論だ。今後は変わっていくかもしれないけど。
「楽郎君は、どうですか?」
「俺も──玲さんと同じかなあ」
夫は少し間をおいて、玲と同じ様に返す。
年越しに、夫の同僚とシルヴィア・ゴールドバークの試合が行われていて、大々的に中継がされているのだけれど、それを頑なに見ようとしないのが、空いた間の理由かもしれないけど、それは指摘しない。
言ったところで、素直には答えないし、絶対。
こたつの中で、足が触れた。
「やり残したこととか、ありますか?」
「んー」
夫の両足が玲の足に絡んで、固定された。
「どうだろうね」
ちょっと非難の目を向けたけど、ついと視線を逸らされる。
「玲さんは?」
「私は、そうですね……。 なら、楽郎君、ちょっと顔をその角度で」
「はい?」
がら空きになった頬に、唇を落とした。
「取りあえずは、これでやり残しはなくなりましたかね」
「あー」
座卓の向かいの夫の両手が延びてきて、今度は玲の顔が固定される。
玲は目をつぶった。
「玲さんって、だいぶ……本当にかなり強くなったよね」
「誰かさんに、鍛えられたせいですかね」
「…………強くなりすぎじゃない?」
「顔隠しの、妻ですし」
「本当にさあ…………」
カウントダウンが始まる。
「楽郎君」
「玲さん」
「「今年もよろしくお願いします」」
陽務 玲
新年明けましておめでとうございます。また今年もよろしくお願いします。
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