Infinitum Exosphere - 無限の成層圏を超えて - 作:一般通行ポーランド空軍士官
さて、俺は今グルジョンツ郊外のIS候補生学校にいる訳なんだがな……………
ISを動かしちまった後は他国の研究者やらが何人か来て俺に「解剖させてくれ!」って頼み込んできたこともあったし、またある時は西から来た女権団体の碌でなしがクソほどどうでも良いことをぺちゃくちゃと唾飛ばしながら捲し立てて来たので国家保護局*1に電話して引き取ってもらったりと色々あったわけだ。
「よおスタン!久しぶりじゃないか!調子はどうだ?」
「ん、久しぶりだな、ボレック。調子は上々だよ、そっちはどうなんだ?」
「まあ、悪かないね。それとマリアのやつがすごい生き生きとIEを動かしてるな、あんなの初めて見たよ」
「へえ、それは初耳だ。是非とも一度見てみたいね」
「まあ、すぐに見れるだろうよ。ところでその"フサリア"はどうなんだ?」
「こいつか?こいつは素直で操縦し易くてありがたいね。それに、最近はテストパイロットのイグナツィ・バヤンや"乳牛少佐"ブランカ・オルリンスカにも勝ちを掴めるくらいにはなってきたよ」
「ほーう!それなら俺らと模擬戦やってみないか?」
「で、誰とやるんだ?先に代表を選抜しといてくれよ」
「それならマリアで良いだろうな、あいつが1番操縦上手いし」
適当に使えそうなアリーナを探してふらついていると整備室の扉の脇に寄りかかってる顔馴染みの
許可を通しているかはわからないが、まあうまくやるだろうと思いながら聞いてみる。
「ところで模擬戦の許可は取ってあるか?」
「いや、こっちで段取りを決めてはあるから許可の方に問題はないんだが、機体とパイロットの状況次第ってとこだからな…………」
「段取りは決めてたのか…………まあ機体とパイロットの状況に関してはまあどうにもならんから最悪仕方ないとして諦めるが」
「それでだが…………っと、この様子だと多分マリアの整備は終わったな」
「ああ、ここマリアが使ってたのか?」
「そうだ、それじゃあお前もここの反対側の出撃ピットに向かっててくれ」
「あいよ、"世界一の戦闘機乗り"は伊達で名乗ってる訳じゃないってこと教えてやるからな!」
「はいはい、わかってますよって…………」
あいつらが段取りを決めてたとは驚きだが、思い返せばボレックはこう言うのも得意だったからなんら不思議ではない。そしてここの整備室はマリアが使ってたのか…………まあ、ボレックは言伝担当だろうな。
さて、マリアの整備も終わって万全の状態になった。あとは俺がピットに移動してアリーナへ出撃し、模擬戦を開始して勝つだけだ。そうとくればさっさと移動するかね。駆け足で反対側のピットまで移動し、整備室から離れる。
「……………スタンは来ましたの?」
「来たよ、今向こうのピットに走ってったが」
「あら、そうでしたの。それでしたら私もピットに向かった方がよろしいかしら?」
「そうしとけ。それとあいつもお前とやるのを楽しみにしてたぞ」
「そうですの、でしたら楽しめそうですわね」
「それじゃあ、武運を祈ってるよ」
「ええ、私は強いので負けたりなどしませんわ」
整備室から自身が操る機体の整備を終えたマリアは顔を出し、ボレスワフへ来客が来たかを訊ねる。その問いに走って行く長身で銀髪を棚引かせた男の背中を指しながら答える。
その背中を眺めながらその内に秘めた闘志を溢す。
さて、走ってピットに入り、通常の軍服─とは言っても自前で規定に沿って仕立てたもの─からISスーツとIS対応耐Gスーツに着替え、機体を展開して身に纏う。
出撃用カタパルトに脚部を固定して射出準備を整えるとシステムからカタパルトのコントロールが委譲される。
4秒数え、息を吸った後にまた4秒数えて息を吐くことで呼吸を整え、調子を整える。これまでの教官相手とは確実に違う同僚との模擬戦に、無意識に口角が上がる。
「スタニスワフ・エウゲニウシュ・シャレ=グルスキ大佐、乗機は"フサリア"級Biało-Czerwone Hipogryf。出撃する!」
そう叫ぶと同時に急激に加速されたことによって体に押し付けられた重圧がかかるが、射出されると同時にそれは消え失せてその純白と深紅の翼は飛翔する。
「来ましたわね、スタン」
「ああ、遅れていないよな?
「遅れていませんわ、もっとゆっくりしてもよろしかったのに」
「時機を俺が逃す訳ないだろう?お前だって知ってるはずだが」
「ええ、それもそうでしたわね。貴方と云う人はそんな性格ですもの」
「はは…………お前は良い女だよ…………ははは…………」
「お褒めいただき至極光栄ですわ。それでは、始めましょう?」
「ああ、そうしよう。楽しい舞踏会の始まりってか?」
推力不足で若干高度は落ちるが少しずつスロットルを上げてスラスターの出力と迎え角を上げて先に射出されていたマリアと同じ高度まで上昇する。
少しばかりの世間話をして、最後にちょっとした軽口を叩いたと同時にスピーカーから模擬戦が始まったことを伝えるサイレンが鳴り、空中で静止していた状態から右へフットペダルを踏み込む要領で機体を右へ横転させながら拡張領域より15.5mm機銃"Burza"*2を取り出して数秒ずつの指切り射撃をする。時々弾道確認用に混ぜられている曳光弾が弾道を描き、15.5mmの徹甲弾や榴弾がマリアの元へ殺到するが、彼女は容易く避ける。
マリアの方も拡張領域より
「ああもう!非常に厄介ですわねぇ!」
「そりゃどうも!ウチのモットーは"徹底的に敵を掻き乱せ"なんでな!」
「非常に素晴らしいモットーですわね、それでもそのモットーを実行される側にはなりたくないのですが!」
「ならさっさと堕ちてくれよ!」
「堕ちませんわ!それより貴方が堕ちるほうが似合いますわ!」
「ほざけ!そう簡単に俺が地面に堕ちるかヨォ!」
口論じみたオープンチャンネルでのやり取りをしながらも互いに射撃戦を続けるが、最大火力を叩き出すまで電力をチャージしきった"Piorun"でマリアを撃ち抜くチャンスを掴むと即座に引き金を引く。放たれた極超音速の砲弾は胴体へ直撃するかに思われたが、その射撃を勘付かれたか左へと避ける。しかし胴体へ命中するはずの砲弾は本来の照準先とは違う右主翼に大穴を開けて─大穴が開きこそすれど主翼が完全に取れたわけではないのは、この互いに装備している"フサリア"機が頑丈であることを証明するには十分だろうが─バランスを崩す事には成功した。
「全く!厄介ですわね……………ですが非常に愉しくもありますわぁ!」
「
「あら、早く堕ちてくださいまし!」
「俺を叩き堕としたけりゃあそれに見合う対価を支払うこったな!」
マリアの方も両手に持っていた自動小銃を片方収納して俺と同じレールカノンに切り替えて3発の速射を撃ち込んでくる。素早く右へ左へ、下へ上へ飛ぶ方向を変えながら回避していく。小銃弾こそ回避できたがレールカノンの砲弾は一発足を掠める。
レールカノンを拡張領域へ収納し、左手に光学ランス"Biały Orzeł"*5を展開し、白く光るその刃を突き立てる為に合計8基のスラスターを個別に吹かして"
「うぐうっ!?」
「いよーし、成功したか…………たまには賭けをやるのも良いかもな!」
「やってくれましたわねぇ……………乙女のお腹にその固くて太いモノを深々と突き立てるなんてぇ………………!」
「なんか誤解されそうな言い方なので訂正したらどうよ……………」
「拒否致しますわ!私はただ事実を述べたまでですわ!」
誤解を招きそうな表現を訂正して欲しかったんだが、まさか拒否をするたぁ思いもよらなんだ…………まあいいさ、とりあえずこれであいつのSEはやっとこ半分削れたわけだが。
とは言ってもこっちだって無傷じゃなくある程度はダメージを喰らってるわけだ、早いとこ決める為にも白兵戦に持ち込んでやるか。
そうと決まればランス"Biały Orzeł"や機関銃"Burza"の展開を解除して拡張領域に収納し、右手に超振動長剣"Miecze Grunwaldzkie*6"を、左手に光学刃直剣"Kirasjerzy*7"を展開してフルスロットルで懐へ入り込む。マリアは俺を追い払おうと小銃と新たに展開した"Burza"で弾幕を張るが回避軌道を取りながらも速度を緩めずに少しずつ接近する。
「ああもう!来ないでくださいまし!しつこい殿方は嫌われますわよ!」
「そーですか!だがしつこくても近づかなきゃあお前さんを切り刻めないだろうがよぉ!」
「これだから陸軍から来たのは嫌いなんですのー!どうしてどいつもこいつも白兵戦に持ち込もうとするんですの!?」
「それが"フサリア"だからさ!」
「えっ…………ああっ!?弾薬切れっ………………!」
「いよーっし!マリーシャつーかまーえたぁ!」
銃弾を回避して接近し続けていると弾薬切れによってマリアの張っていた弾幕が止む。その好機を見逃すはずもなく素早く"
なんとか回避を試みるが、スタニスワフが両手に持つ2振りの剣の両方の射程圏内であった上に回避を始めるよりも先に到達したために、彼女にできたことはただ最後の一撃を受けて模擬戦が終了した事を示すサイレンの音を聞くことだけであった。
結局SEを全て失い、敗北したマリアの搭乗するIEの展開は維持されたままだが、ただ中央で無言のまま俯きながら立ち尽くすマリアの姿を怪訝に思ったスタニスワフは彼女の元へ近づく。そして近づいたスタニスワフの肩をマリアはがっしりと掴む。
「………………負けましたわ!!」
「お、おおう……………そうだな、うん…………俺の勝ちってこった」
「ですが次は私が勝利いたしますわ!そう!今日の雪辱を晴らす為にも!」
「そうかぁ…………まあ、頑張れよ……………?」
「ですがまずは私の服を切り裂いた上に私のお腹に太くて硬いモノを深々と突き立てた責任を取ってもらいますわ!」
「せめてちょっとで良いから言葉を置き換えてくんないかなぁ……………」
「拒否致しますわ!私ただで譲ってやるつもりはありませんの!」
「そもそも俺が取るべき責任って一体なんなんだよ……………」
なんか無言で俯いて立ち尽くしてたので様子見のために近づいたらなんか肩すごい強い力で掴まれたし、かと思ったらいきなりデカい声聞かされるわ、意思表明はされる─これ自体は問題はないが─、挙げ句の果てにはまた誤解を招きかねない表現で叫ぶしそもそも責任ってなんだよ……………
「あら、その責任とはですね…………私を昂らせた責任ですわ!」
「えぇ…………どういうことなの……………」
「大したことではありませんのよ?ただちょーっと私の家系図に加わってもらうだけですのよ、大したことではないでしょう?」
「大したことだよ、こんなことで結婚相手見つけたくねえよ」
責任てそういうやつかぁ…………まさか一戦交えただけで興奮するとかマゾヒストか、それとも戦闘狂ってやつかぁ…………?戦友のこんな一面知りたくなかったんだがなぁ………………
そりゃあそろそろ結婚相手は探し始めた方がいいよなとか思ってたけど、こんなんで結婚する事になりましたは嫌すぎるんだが………………
「それで、返事はどうなんですの?できれば
「結局変わんねえだろうが、いくらなんでも婚期逃したくないからって焦りすぎじゃあないか?」
「いいから早く答えてくださいまし!さもないと押し倒しますわよ!」
「そうかぁ…………俺の答えは
「つまり……………どういうことですの?」
「俺の答えは否、否だと言ったんだよ!」
「そうですの……………残念ですわ……………」
「そういうわけだから俺のことをお前の家系図に組み込むのは勘弁願うよ」
流石にここまでいえばマリーシャも俺を家系図に組み込む事を諦めたようでなんとかひと段落ついたのでさっさとピットに戻ることにしよう。若干不安は残るんだがな!
出撃したピットへ戻るスタニスワフの背中をマリアは熱い眼差しで見つめながらアリーナの中央に浮き続けていたが、ピットのシャッターが閉じたのを見届けると彼女も自身が出撃したピットへ戻る。
「ヨォ、スタン。なかなかやるじゃあないカ!」
「久しぶりだな、アロイス。ところでちょっと聞きたいことがあるんだが良いか?」
「大丈夫だヨ、なーんでも俺に話すといいサ!」
「マリーシャって戦闘して興奮するような特殊性癖持ちだったっけ?」
「イヤ、俺もあいつが模擬戦であんなに興奮するのは初めて見たヨ」
「えぇ…………じゃあなんだ?俺はあいつに目をつけられちまったってことかぁ?」
「多分そうなんじゃないカ?俺らでもあれは初めて見たからナ」
そっかぁ…………あいつの性癖を俺が開花させちまったのかぁ……………家に帰りたい……………でも今は「暫くここに留まって訓練を受けながらIS操縦の技量を上げろ」って命令だから動けねえんだよなぁ……………
軍人ってやつは上官や上層部の命令なら一言でも従わなきゃいけないんで悲しくなってくるな………………
多分暫くはマリーシャの奴に押し倒されるのを警戒しながら生活するしかないのかぁ………………憂鬱だ………………
憂鬱な気分になりながらもISの展開を解除して耐GスーツとISスーツから通常の軍服に着替え、割り当てられた宿舎へ急いで入り、扉や窓を施錠する。
そしてどうか翌日はこんなことにならないでくれと祈りながらベッドに入り、毛布に包まる。