Infinitum Exosphere - 無限の成層圏を超えて - 作:一般通行ポーランド空軍士官
Sekcja9. 9カ国合同戦闘団“インテルマリウム“ - 或いは欧州伝統の揃わぬ足並み -
俺は今ポーランド政府経由で日本国政府に用意させた高層ビルの中にあるホテルの一室に滞在している。そして昨日はポーランドはワルシャワから飛んできた影響で時差ぼけがあったので1日休んだ。
そして今日、在日ポーランド大使館へ上から行くように命令されたために行って来たわけだが……………まさか俺が在日駐在武官に任命されるとはね……………更には祖国ポーランド含め合計9カ国の合同による戦闘団の司令官にもなるとは、大出世したと喜ぶべきだろうか?
何はともあれ今は我らが偉大なる永遠の祖国ポーランドに乾杯しよう。自由なるポーランドよ永遠なれ!
「はてさて……………祖国が俺のことを大事に思ってくれてたのは嬉しいんだが、戦闘団まで結成するとは幾ら何でも過保護すぎねぇか?」
「政府からしてみれば日本で発見されたブリュンヒルデの弟君の"オリムラ・イチカ"少年よりも、自国で発見された自国の将校で多大な戦果を挙げてきた"スタニスワフ・エウゲニウシュ・シャレ=グルスキ"の方が価値があるってだけですよ。
それに、私たちの祖国ポーランドがそう簡単に同胞を見捨てるような国でもないでしょう?」
「まあ、それもそうだ。それこそ在外ポーランド人どころかポーランド系まで受け入れるような国だったからな、我らが祖国は」
「そしてその戦闘団を構成する代表候補生らとの顔合わせはしておかなくて大丈夫なんですか?」
「連携を円滑にする為にもそれは良い案ではあるんだがまず何人かこのホテルにいないんだよなぁ……………」
「……………まぁ、肝心なところで足並みが揃わないのは欧州の伝統芸とも言えることですからね………………」
「ああ、世の中うまく行くわけってもないもんだからな。順調に物事が進めばラッキーってなもんさ」
軍服をラフに着崩し、ソファにもたれかかって脚を組みながら封筒の中から書類を取り出す。
戦闘団に配属される代表候補生らのプロフィールや国籍と所属、所持する専用機といった諸々が記載されている書類に目を通して行く。覚えるのが億劫だが、これから背中を預けることになるのだからおとなしく読み進める。
「それで、俺が指揮官として任命された戦闘団の名前は……………"インテルマリウム"か。いいね、バルト海にアドリア海や黒海の間に位置する国々の集合体ってわけだ。それにラテン語だからあまり変に名称で揉めずに済む。助かるね、面倒ごとにならないよう配慮してくれるなんて」
「少なくとも政治の事情からでしょうが、それでも衝突の種になるようなものがなくて助かりますね」
「その通りだな、それで………………なんだ?ルームサービスでも頼んでたのか?」
「いいえ、サービスは頼んでいませんし頼んだのはもうすでに届いています。私が応対しますので大佐は装備を整えてください」
「了解、援護できるぞ」
クリシャと駄弁っていたが、真夜中に俺らが泊まる部屋の扉がノックされたので警戒する。クリシャが扉へ向かうと餞別と称して押し付けられた試作品の拡張領域搭載キャリーケースから自動小銃とその弾倉に銃剣を取り出す。
取り出した小銃に銃剣を銃口部分にある着剣機構を使って取り付け、弾倉を装着して薬室に弾を送り込み、安全装置を解除し、銃口を扉に向けて構える。
「どちら様ですか?私たちはサービスを頼んでいません、直ちに退去しなさい。警告に従わない場合は自衛措置を執行いたします」
「あ、あのぉ…………私は"インテルマリウム"に所属することになったリトアニア共和国の代表候補生"アルドナ・エミリア・チャルトリスキテ"ですぅ………………」
「…………どうやら杞憂だったようだな、これは片付けておこう」
「失礼しました、それで…………私たちに何か用事ですか?」
「ええっと……………そのぅ…………今いる人たちで先に顔合わせをしたいなと思いまして……………」
「そういうことなら早めにやっておこう。それで、どこでやるか決めておかないか?」
「ええ、その通りですね。それと先程はすみません、どうにも招いてない客人かと思ってしまいまして…………」
「そのぉ…………私は気にしてないのでお気になさらず…………それで、どこで顔合わせをやるかですよね?それでしたら"フレネル・スイート・ラウンジ"というスイート客室に宿泊している人だけが使える広くて食事も出来るラウンジがあるので、そこにしませんか?」
「ラウンジか……………良いね、そこにしよう」
「それじゃあ私は他の子達にもこのことを伝えてくるので先に行っててください!」
クリシャがドアホン越しに扉の向こうへいる者に警告をするが、どうやらノックをしたのは俺の指揮下に入る代表候補生の一人だったようで、小銃を取り出す必要性は消え去る。
紛失しないように小銃を拡張領域ケースに収納し、クリシャは扉を開けてノックした張本人であるリトアニアの代表候補生を部屋に招き入れる。
話を聞くと向こうも今いる者で先に顔合わせをしたいということなので場所を選ぶ。件のリトアニア代表候補生が良さげのラウンジで行うことを提案したのでそれに乗る。提案に乗っかったのは正直面倒くさくなったのもあるが。
「それでは…………ラウンジに行きましょうか」
「そうだな、それじゃあ……………バーシア、起きろ!顔合わせに行くぞ!」
「……………現在起動中……………バッテリー残量82%………………機体に異常はありません……………」
「おそらく問題はないのでラウンジに行きましょうか」
「そうしよう、バーシアは……………まあ追いつくだろ」
たったまま充電しながら目を閉じて休眠状態に入ってたバーシアを叩き起こし、起動するのを待つのも面倒なので先にクリシャとラウンジへ移動を始める。
しばらく廊下を進んでいたが、後から完全に起動したバーシアが走って追いかけてきたので一度立ち止まり、着崩していた軍服をしっかりと整える。
「よお、遅かったな」
「………………部下を置いて先に行くのは良い将校の振る舞いだとは言えませんよ?」
「それは悪かったと思っているが、文句をつけるんだったらまずはもうちょっと早く起動してほしいな。それよりもほら、早くラウンジに行くぞ」
「…………了解しました……………」
追いついたバーシアも引き連れて再びラウンジまでの移動を始める。
しばし館内地図を参照しながら歩き続けてラウンジに着くと、先程扉をノックしてきたリトアニア人代表候補生アルドナと同じく代表候補生であろう4人の少女らのうちアルドナともう1人が俺らへ手を振ってくるので振り返し、彼女らのテーブルに近づく。
「さて、と……………さっきぶりだな、アルドナ」
「…………どちら様ですか?今私たちが話してたところなんですケド……………」
「君ら"インテルマリウム"に配属される代表候補生だろ?俺がその司令官だと言ったらどうする?」
「…………え?」
「"ビルギット"ちゃん、この人が"インテルマリウム"司令官の"スタニスワフ・エウゲニウシュ・シャレ=グルスキ"ポーランド空軍大佐だよ!」
「…………え?マジなんですか?」
「真実さ、君らも書類かなんか受け取ってるはずだろ?」
「ええっと…………本当みたいですね……………あの……………」
「何も言わんよ、いきなり声をかけられたらそんな反応をしたって当然さ」
「スタニスワフさんが寛大で良かったね!ビルギットちゃん!」
「こそばゆいから耳元で囁くのはやめて、"エリザベーテ"」
「えへへ、ごめーんね!」
リトアニア人代表候補生─つまりはアルドナ─に声をかければ、長い銀髪で色素の薄い長身の少女がその灰色の瞳を細めて警戒しながら若干不機嫌な声色で注意してきたからポーランド本国より大使館経由で送られたデータをその液晶に写したタブレット端末を見せる。
それを見せると先ほどまでの無愛想さは何処へやら、焦って書類を拡張領域から取り出して俺の顔と書類とを見比べる。その際編み込んだブロンドの髪が特徴なナイスバディの少女が目の前の銀髪眼鏡っ娘に耳元で囁く。
くすぐったそうにしていたその銀髪少女はブロンドの少女─エリザベーテ─へ止めてくれと言うとブロンドの少女は軽い謝罪をする。おそらくじゃれあいのようなものだろうと思いながら眺めていたが、本題に映るべく咳払いをして口を開く。
「あー…………ごほん!さて諸君、私はこれから諸君らの指揮官となる"スタニスワフ・エウゲニウシュ・シャレ=グルスキ"空軍大佐だ。出身はポーランド共和国のマウォポルスカ県タトラ郡、シャレ=グルィ村。これからよろしく頼むよ、お嬢さん」
「そして私がこちらのシャレ=グルスキ大佐の副官の"クリスティナ・ヤドヴィガ・コヴァルスカ"騎兵大尉です。出身はポーランド共和国マウォポルスカ県ノヴィ・ソンチ市。よろしくお願いいたします」
「んでこいつが俺の従兵の"バルバラ・モツヌィ"だ。バイオロイドで出身は…………ポーランド共和国のマゾフシェ県ノヴィ・ドヴル郡、モドリン要塞ってところか?」
「はい、その通りです」
「それじゃあ君たちも自己紹介を頼むよ。名前だけでも大丈夫だから誰からでもどうぞ」
「えーっとそれじゃあ…………私からいきますね。私はリトアニア共和国代表候補生の"アルドナ・エミリア・チャルトリスキテ"です。出身はリトアニア共和国のズーキヤ地方にあるヴィリニュス郡ヴィリニュス市出身です。よろしくお願いします」
俺ら3人が先に自己紹介をすればアルドナがそれに続いて自己紹介をしていく。そして次にエリザベーテが自己紹介をしようと立ち上がる。その際恐らく銀髪少女に何かをするであろうことを察知して目をやれば微笑んできたので「そのまま続けていいぞ」という意図を込めてエリザベーテへウィンクする。その意図を汲み取ったエリザベーテは自己紹介を始める前に銀髪少女の耳に息を吹きかけてから自己紹介を始める。
「ひゃん!?」
「わたしはラトビア共和国の代表候補生、"エリザベーテ・ヴァルスラヴァーネ"だよ〜。出身はラトビア共和国のラトガレ地方にあるダウガウピルスだよ〜、よろしくね〜」
「うぅー………………!」
エリザベーテが自己紹介を終えて、唐突に耳へ息を吹き掛けられた銀髪少女は立ち上がってエリザベーテへ抗議をしようとしたが他の少女らの視線に気圧されて引き下がる。
「え、えーっと…………私はですね…………エストニア共和国の代表候補生、"ビルギット・サンドラ・ティーフ=ライドネル"です……………出身はエストニア共和国のハリュ県タリン市です…………」
「次はボクの番だよね?それじゃあ行くよ…………ボクの名前は"シャールカ・リブシェ・スヴォボダ"で、チェコ共和国の代表候補生をやっているよ。出身はチェコ共和国のパルドゥビツェ州のチェヒ*1地方側にあるパルドゥビツェ市の出身だよ」
「そして最後にあーしことウクライナ代表候補生の"オレクサンドラ・スヴャトスラヴァ・ザポロージェツ"の出番が来たというワケ!あーしはウクライナの苗字からもわかるようにザポリージャ州のザポリージャ市出身!よろしくね!」
「これで今いる"インテルマリウム"のメンツは全員だな?」
「そうなんだけど、でも9カ国の代表候補生が揃っているってワケじゃないんだよ。なんでだろうね?」
「まあ、多分機体関係で何かしら遅れているんだろうさ。それとポーランドの代表候補生はすでにIS学園にいるぞ、どうやら俺らより先輩なようだ」
「成程、そういうことですか」
「何はともあれ諸君、これからは9カ国合同戦闘団"インテルマリウム"の一員として仲良くやろうじゃないか!」
「今のところはスラヴ人が多めだけどそれに関しては?」
「間に合えば
「その組み合わせは安心できないなぁ……………」
「それからクロアチア人も追加しとくよ」
「本当に安心できなくなってきた!?」
「多分一応は利害関係の一致とかで衝突だけはしないから安心しろ。恐らく多分な………………」
「ボクその言葉をとにかく信用できないんだけど………………」
「私も信用できない……………」
「とりあえず何か頼みます?私はこのヒレステーキにしますね。大佐はどうしますか?」
「俺はこのカルボナード*2とやらを試すよ、それからベルギービールも追加で」
「わかりました、それでは注文しますね」
とりあえず今いる"インテルマリウム"の面子で顔合わせとそれぞれの自己紹介を終えてこれから部隊の一員となる少女らと握手をしていく。
今後新たにやってくる3人が─特にハンガリーとルーマニアは歴史的に仲が良いわけでもない─今回のように仲良くしてくれることを祈りながら顔合わせを終えて各々自分の食事をラウンジの給仕に注文して会食を始める。
斯くして顔合わせとその後の会食を何事もなく終えた彼らは部屋へと戻り、各々のやり方で夜を過ごす。