Infinitum Exosphere - 無限の成層圏を超えて - 作:一般通行ポーランド空軍士官
何事もなく順当に1時限目、2時限目、3時限目と授業は進んでいく。本国で事前に学んだ甲斐あって無事─日本語を全て解するわけではないのでポーランド語版教科書を頼りにしながらも─授業に追いついている。
そうして何とか無事に3時限目までの授業を終えて昼休みを迎えたので、シャールカとオレクサンドラ、そしてシルヴィアの3人を誘って5人─俺とバーシアを含める─で昼食を摂りに食堂へと向かう。
アルドナ、エリザベーテ、ビルギットの3人は彼女ら3人で昼食を摂る先約があったようなので誘わないでおく。そしてクリシャは副担任としての仕事があるため職員室に向かっていった。
食堂に到着し、食券機の列に並んでどのメニューを選ぶか考えながら順番を待つ。
「さて、昼飯は………………イタリア的なものにするか。
オッソ・ブーコ*1とカルナローリ*2のリゾット・アッラ・ミラネーゼ*3添えとアロスティチーニ*4を2本を3枚にミネストローネ、そして飲み物は紅茶でっと…………」
今日の昼食は何となく目についたイタリア料理にしよう、渋沢栄一とかいう中年男性が印刷された紙幣を一枚投入して該当する食券のボタンを押していく。ボタンが押されるたびに発行される食券が取り出し口の受け皿に重なっていく。
受け皿に重なっていた食券と釣り銭を回収し、受け取り列に並ぶ。他の生徒らと同じように食券を注文機に一枚ずつ入れてオーダーを通し、プレートを受け取るとそのまま前に進んで注文した料理を受け取ってから良さげな席を探す。
「スタニスワフさん!こっちにシャールカと一緒に席確保しといたよ!」
「助かった、このまま見つからなかったら立ちっぱなしで飯を食わなきゃならんとこだったよ」
「お気になさらず、それにボクとしても少し聞きたいことがありますので」
「どうぞ、機密に触れるような情報以外なら答えてやるよ」
「どうしてスタニスワフ大佐はISを動かしてしまったんですか?」
「それはだな…………IEってやつを試験する予定が、そのIEにISが混ざってた。それでその混ざってたISがよりにもよって俺の割り当てられたやつだったのさ、その後はまあ色々専用機受け取ったりバーシアとクリシャと合流したり訓練したりってところだ」
「そう言うことですか……………でも"織斑一夏"よりはマシでしょうね、彼はどうやらIS学園と本来受ける予定だった高校の受験会場を間違えた挙句そこにあったISに勝手に触れるような人間ですし。
少なくともボクとしては彼よりもスタニスワフ大佐の方が信用できますよ、それに軍人である以上に同じスラヴ人ですからね」
「実際にこのテーブルにいるのは全員スラヴ人だからな、更に言えば少なくとも一応面識はあるわけでもあるし」
「まーお堅い話はここまでにしてさ、早く冷めないうちにご飯食べようよ!」
「それもそうだな。主の恵みに感謝して頂くとしよう」
誘った3人とバーシアが先に確保していた席に向かい、料理の乗ったプレートを丁寧に置いてから椅子に座る。
先に席を確保していた4人に感謝しながらもシャールカの質問に答えていく。こうして振り返るとやっぱり俺と言うのはどうにも運勢の上下が激しいな。
その答えを聞いたシャールカは次に"織斑一夏"少年がISをどのようにして動かしたかを話すが、流石に勝手にそこにあるものを触るのは如何のものかと思うよ。
とは言えどこんなお堅い話はオレクサンドラの一言でお開きになり、俺らは食事に専念することにした。
まずはオッソ・ブーコから肉を一切れ取り分けて黄色いリゾットに乗せ、それをスプーンで掬って口に運ぶ。そうすればリゾットにサフランの僅かな香りの後にオッソ・ブーコの調味料や香味野菜、白ワイン等が見事に調和した味が口内に広がる。
次はアロスティチーニを一本取って角切りになった肉を1つ歯に挟んで串から引き抜き、そのままその小さな羊肉をしっかりと噛み締める。一回噛むごとにシンプルな塩味がついた肉汁が炭火の香りと共に溢れる。
最後にポーランド人的には1番のメインでもあるスープ、ミネストローネをスプーンで1杯掬って具材と共に流し込む。ミネストローネはシンプルで気取った味付けこそしていないが、その分素材の味が引き立っており、どこか家庭的な温かみを感じる。
「いいね、ワインが欲しくなってきた。今からでも一本取ってこようかな?」
「流石にここでお酒を飲むのはまずいんじゃないですか…………?冗談なら良いんですけど、本当にやったら怒られますよ………………」
「冗談じゃなくて本気だよ、実際これを食ってみればわかるさ。これは本当に冗談抜きで酒が進む最高のつまみなんだよ」
「クワス*5なら許してくれるでしょ、アルコール度数低ければジュースだから無罪!」
「…………それでいったらビールもジュースになるんですけどそこらへんどうなんですか?」
「麦を加工しただけでクワスもビールも原料的にはほとんど一緒だから、ジュースに分類しても大丈夫だし無罪!」
「それに、だ。アルコールは神の血であり、聖別の儀式にも必要だから持ち込みと使用を許してくれたっていいのにな」
「そーだそーだ!IS学園は生徒のアルコール含有飲料の持ち込みを認めろー!」
アロスティチーニからもう1つ羊肉を串から引き抜いて噛みつつ感想をこぼす。すでに俺は成人してるので俺だけでも酒を食事に持ち込むことを許して欲しいもんだがねぇ……………
そんなこぼれた感想にバーシアはたしなめてくるので串焼きを突き出して反論する。今すぐにでも酒を取りに行きたいが今はその感情を押さえつける。
そんな中オレクサンドラはクワスならば無罪だと言い出す。シルヴィアの呟きにも有識者によっては戯言だとも、あるいは─その有識者がスラヴ人ならば─賛同するような理論をぶち上げていく。その後に続いた俺のアルコールは神の血云々はただ単に合法的に酒を持ち込んで飲む為のそれっぽい嘘に過ぎない。
そんな冗談のような俺の理論にもオレクサンドラは賛同したのでスラヴ人という民族はつくづくアルコールとの関わりが途切れないだろうなと思いながら料理を口に放り込む。
なおここまで一連の会話はポーランド語やウクライナ語、チェコ語を用いた会話なのでこれら3個の言語に精通していなければ理解するのは難しいだろう。
「大佐、ご一緒してもよろしいですか?」
「どうぞ、副担任としての仕事はどうだった?」
「書類仕事は慣れませんよ……………体動かしていればよかった騎兵将校時代や代表候補生時代とは大違いです……………」
「まあ、これも経験だよ。こういう小さな積み重ねが人間を発展させるのさ、だから今は耐えてその仕事に取り組みたまえ」
「大佐ぁ〜…………………疲れたのでちょっと胸貸してください………………」
「どうぞ、好きなだけ使え」
「えっ…………スタニスワフさんってコヴァルスカ先生と付き合ってたんですか!?」
「いや?こいつは俺の元部下さ。昔は跳ねっ返りだったが、俺という色んな意味でイカした男に出くわしちまってからはこうなったのさ」
「なるほど………………なるほど………………?」
そんなこんなで食事を進めていた俺らだったが、副担任としての初仕事を終えてきたクリシャが書類仕事に精神を若干やられてふらついていたので、胸を貸してやれば思い切り抱きついて頭を擦り付ける。
そんな俺らのよくやる光景を初めて目の当たりにした4人と周囲にいた女学生らは色めき立つ。
「なあクリシャ、後どれぐらいこのままでいるつもりなんだ?」
「まだやる気が補充できてないです……………………」
「そうかぁ………………」
いつまでこうしているのか聞いてみたが、帰ってきた答えは『まだ時間がかかる』とのことだ。
こうなったらもうただこいつが満足するまで待つしかないのでおとなしくされるがままの状態になる。せめてもの救いは飯を食い終わっていたことだろうか。
一応ある程度は教師になるにあたっての心構え等を学んでいただろうが、それでも慣れない仕事に疲れ切ってしまったんだろう。そう思いながら少し頭を撫でてやる。
「あの……………そろそろ移動したほうがいい時間になりましたよ」
「だ、そうだ。クリシャ、また後で好きなだけ抱きついていいからもう離れてくれよ、な?」
「むぅ…………わかりました、大佐が言うならそれで受け入れますよ……………」
「……………ボクたちは一体何を見ていたんでしょうね…………?」
「まあ、気にする必要はないさ。あれはまあ…………よくやることだからさ……………」
「えっ…………?」
「それよりもほら、早く移動するぞ!急げ!」
「あっはい!」
さて、撫でられてご満悦なクリシャだが、こいつにとっての至福の一時は制限時間を迎えつつあることによって終わりを迎えた。
駄々を捏ねるクリシャを宥めすかしながらも空の皿が乗ったプレートを返却口に置いて、教室へ戻ることにした。
さて、どうか全て授業が終わるまではクリシャの精神が保ってくれると嬉しいんだが、どうなるかなぁ……………
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