Infinitum Exosphere - 無限の成層圏を超えて - 作:一般通行ポーランド空軍士官
とりあえずはなんとか─とは言っても初日で言語問題から若干息切れ気味だが─授業を終えて、寝床に行くことになった。
ただし、どうやら本国の手回しで建設中の"駐留区画"ができるまでは俺とクリシャやバーシア、そして"インテルマリウム"に所属する代表候補生らは学生寮ではなく別の場所に泊まるらしい。
そして今は教室にてそこまでの案内人を待つこととなったわけだ。一体誰が来るんだろうな?せめて"精神的疫病"*1持ちじゃなけりゃあいいんだが。
「確か私たちの案内人はビルクステッドさんですね、私たちのいる1年6組の担任です」
「そうか、なら安心できるな。あの人はおそらく"精神的疫病"に感染していない、ならば十分信用できる」
「"精神的疫病"って一体なんですか?なんかあまり穏やかじゃない言葉ですケド…………」
「簡単に言えば女尊男卑とかナチズムとかそう言うのの信奉者が"精神的疫病"保持者だな。そして秘密警察に逮捕されて専用の収容所に隔離されることになり、そのあとは知らん」
「えぇ……………それって大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ、何せこれを基準にして逮捕することを認める法案を可決するかどうかの議会及び国民投票の結果は一部のタルゴヴィツァ人*2と余所者を除けば反対者はいないからな」
「それはいつに施行されたんですか?」
「確か施行されたのは戦前で2036年だったな、秘密警察に関しては31年からあったが」
「そうなんですか………………それとビルクステッド先生が来ましたよ」
「よし、一旦おしゃべりはここまでにしとこう。俺らの寝床がわからなくなっちまう」
俺とクリシャの会話に出てきた"精神的疫病"と言う単語に興味を持ったビルギットが意味を訊ねてきたので知っているところだけを答える。本当に末路までは知らんので話せるのはどっかに連れてかれる、と言うところまでだが。
そうしてちょっとばかりのおしゃべりをしていたが、何かの入った封筒を抱えたビルクステッド女史が俺らの元にやってきたので一度中断する。
「皆さんいますね?先生が案内するのでしっかりついてきてくださいね〜!」
ビルクステッド女史の案内に従って俺らは雛鳥のようについていく。実際1人を除けば俺らはここの土地勘なんて皆無に等しいので案内は純粋にありがたいものだ。
暫しビルクステッド女史について行ったが、案内はとある建物の前で終わりを迎える。
「ここがこれからしばらくの間建設中の居住区画の代わりに皆さんの寝泊まりする"VIP宿泊棟"になります〜!それからこちら宿泊棟に入るのに必要なカードキーですので紛失しないでくださいね〜!」
「ところでこのVIP宿泊棟の設備はどのような感じなんですか〜?」
「例えば最新の設備がそろったキッチンと食堂に、シャワー室が併設されたトレーニングジムに室内プール、それから男女に分かれた大浴場とかがありますよ〜。詳しいことはこの地図にあるのでそれに目を通してくださいね〜」
「へえ!そりゃあ見てみたいね、どんなのがあるんだろうな?」
「スタニスワフさんは料理するんですか〜?」
「結構頻繁にするな、俺の腕前はそこのクリシャがよく知ってるよ」
「コヴァルスカ先生、スタニスワフさんの料理って美味しいんですか〜?教えてください〜」
「…………ええっと………まあ、美味しいですね……………」
「あらぁ〜!ちょっと気になるので料理が余ったら私にも分けてくださいね〜」
「まあ、それくらいならいいですよ。自分とそこのクリシャにバーシアの分に1人分増えるくらいならなんともないですし」
「楽しみにしてますね〜!それとこれが皆さんの部屋の鍵になるので無くさないように気をつけてくださいね〜!」
その建物の扉をビルクステッド女史が開けて俺らも中へ入り、そのままエントランスで施設の大まかな案内を受ける。その際出てきた最新の設備がそろったキッチンとやらが気になってつい声が出てしまう。
実際頻繁に料理をする身としては気になってしまうのが性というものだろうか、そんな俺の─194cmの大男が─料理を本当にするのか気になったビルクステッド女史が聞いてきたので答えるついでに腕前はクリシャに評価してもらうことにした。
クリシャの答えを聞いて味が気になったビルクステッド女史が余った料理があれば分けて欲しいと言ってきた。正直良く食うのもあって一人増えるくらいは正直苦でもないのでその頼みを受け入れる。
頼みを受けてもらえたビルクステッド女史はにこやかな笑顔で俺らの部屋の鍵とVIP宿泊棟に入るのに必要なカードキーを配っていく。受け取った鍵の部屋番号を確認するとポケットに押し込む。
「それじゃあ後は皆さんで好きなように過ごしてくださいね〜!」
案内を終えてビルクステッド女史は学園へと戻っていき、俺らは解散して各々でVIP宿泊棟の探索を始める。なお俺はクリシャと昼にした約束を果たすために割り当てられた部屋へと向かう。
割り当てられた部屋の鍵を開けて中に入り、ベルトと軍帽を外してジャケットを脱ぎ、洋服掛けに掛けてからベッドに腰掛ける。クリシャの方も俺と同じくラフな格好になってから抱きついて俺の胸に顔を埋めてくる。
「それじゃあクリシャ、昼の約束通り好きにしていいぞ」
「ありがとうございます……………」
「はぁ…………とりあえず今まで良く保ってくれたな、今はゆっくりと休めよ」
「すぅー………………ふぅー………………良い匂い………………」
「匂い嗅ぐのだけはやめてくんねぇかなぁ………………」
まだ俺に抱きついて胸板に頭擦り付けるならまだ良いんだが匂い嗅ぐのはちょっと気になるからやめてほしいんだよな……………まあ、好きにして良いぞと言った手前やめてくれというのも少し思うところはあるので大人しくクリシャの抱き枕になりながら頭を撫でてやる。
結局1時間ほど抱き枕にされていたが、夕食をまだ摂っていなかったのもあって空腹感が強まってきたのでクリシャを一旦引き剥がしてから夕食を作りに─ついでにキッチンにあるものと使い方を覚えるためにも─キッチンへ向かおう。
そう思っていたのだが、どうにもこの部屋に俺とクリシャ以外に誰か来ていたようだ。地面に落ちてライトの光を反射していた青色の髪は、おそらくここに誰かがいるということを察するには十分すぎる材料であった。
クリシャは心ゆくまで俺の胸に頭を擦り付けたことで気力が戻ってきたようなので、聞かれないようハンドサインを使い、2人で手分けして不法侵入者を探す。
「あっ……………」
「お?」
「は、ハレンチ!」
「へ?」
「いくら上司と部下だからと言って、付き合ってもいないのに抱き合うのはおねーさんあんまり良いものじゃないと思うなー」
「ハレンチなのはあなたでしょう!?なんですかその格好は!売春婦なんて呼んでいませんよ!今すぐ帰りなさい!」
「ば、売春婦って……………そんなわけないでしょう!?私はロシア国家代表の"更識楯無"よ!」
「それで、その自称ロシア国家代表サマがなんで他人の部屋にいるんですか?回答次第ではその首斬り落とす!」
「えっ……………ちょ、ちょっとあなたの方からも彼女に何か言ってもらえないかしら!?おねーさんなんでもするから、ね?」
「クリシャ、首は斬り落とすな。目的だけは聞き出せ」
「了解。それで?自称ロシア国家代表の売春婦サマは何故この部屋のシャワールームに隠れていたんですか?」
「そ、それは………………」
「成程、でしたら斬り落としますね。自衛の為に武器を使用することは認められていますので」
「い、今から言うわよ!本当は家からの命令であなたを探るように命令されていたの!」
「本当ですか?嘘ならあなたの首を斬り落として公衆の面前で罪状を書いた札と共に晒しますよ」
「本当よ?私は日本の対暗部用暗部"更識家"の第17代目当主でこのIS学園の生徒会長よ!ここまで全部本当のことだから確かめてみれば私が言ったことは全部真実だってわかるはずよ!」
「そうですか、そんなこと知らないので拘束しますね」
あらかた部屋の中を探し終えて後はシャワールームを残すのみとなり、クリシャと顔を合わせて一気に扉を開いて中を確認する。そうしてみれば青い髪の痴女が立ち尽くしていた。俺性的なサービスとか一切頼んでないんだが。
さて、立ち尽くしていた痴女だがなぜか俺らのことをハレンチだのなんだのと呼びつける。お前の格好の方が大概だろうが、裸に近い状態でエプロンだけとかその投げたブーメランお前に刺さってるぞ。
そんな痴女の言葉にクリシャも負けじと激しい反論を始める。その182cmもの高身長と恰幅の良さから発せられる迫力に、青い髪の痴女は少し押されているようだ。そのまま論破してやれ!
一応押し問答で名前と所属はわかったが、それだけでは不十分なのでクリシャがサーベルを思い切り鞘から抜いて刃を痴女の首筋に突きつける。一応目的だけ聞き出すように命令を下しておく。
そうして遂に迫力と圧力に負けた痴女は不法侵入した目的と更なる情報を話し始める。その痴女が情報を全て話し終わったら即座に痴女を拘束し、IS学園の教師に事態を報告して引き取ってもらう。
飯を食う前にこんなことが起こるとは誰が予想できるんだろうな?迷惑な痴女め、俺に何を期待して来たんだ?俺のとこに来るぐらいなら他のやつにやってくれよ。
「あ、あの……………こんばんは、ビルクステッド先生………………」
「あらぁ〜?どうして更識楯無さんがここにいるんですかぁ?ポーランドからの書簡*3で干渉やプライバシーの侵害は禁止されているはずですよねぇ?
それじゃあ更識楯無さんはちょーっと先生と一緒にお話ししましょうね〜」
「はい………………わかりました…………………」
「お疲れ様です、ビルクステッド先生」
「いえいえ〜、お気になさらず〜」
「一体何があったんですか?ボク良く状況が掴めないんですけど……………」
「ああ、今ビルクステッド女史が引っ張っている青い髪の痴女が俺の部屋にあるシャワールームにいたんだ」
「は?書簡で干渉やプライバシー侵害は禁止されてますよね?なのにそれを破ってきたと?」
「そう言うことだろうさ、とりあえずはこのことを他のやつにも伝えてくれ」
「わかりました、それではボクは他の子たちにも伝えて来ますね」
「おう、そうしてくれ」
全く、傍迷惑な痴女だよ。こんな奴のために時間を奪われたなんて、ビルクステッド女史も気分は良くないものだろうよ。
そして痴女が連行されていっているのを野次馬しにきたシャールカに何があったかを教えて他の代表候補生らにも伝えるよう依頼する。俺の依頼を受けたシャールカはすぐさま他の代表候補生らに先程起こった事件を伝えに行く。
はぁ……………あんな痴女と明日から顔を合わせる可能性があるとは、なんとも難儀なものだ………………
さて、とりあえず事件は処理できたからさっさと晩飯食って風呂入って寝るか…………………