凡人擬きは少女を曇らせたい   作:コンソメ

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第3話

雨が降る。

 

空が嗚咽を漏らすように。

 

雨が降る。

 

水滴の弾丸に全身を撃ち抜かれる。

 

雨が降る。

 

憎悪を纏った雨が。

 

視界を塞ぐ、聴覚を犯す。少年がシャクティにアーディを預けて数分間。少女はその場に立ち尽くしたまま、天を仰いでいた。

 

周囲の遺体を運んでいくファミリアの同胞を見て実感する。

 

殺させてしまった。

 

自分の命を守ること以外で、決して人を殺したがらない少年に………人質を殺されて涙を流していた少年に、誰かの未来を救おうと必死だったあの子の思いをあの子自身の手で踏み躙らせたのだ。

 

雨が幾筋の涙のように少女の顔を流れていく。

 

少女は過去に少年の矜持をへし折ったことがある。その未来を見通す異能に映るすべてを救おうと走る少年を止めた。自分が願えば止まる確信があった。

 

『全員を救おうとして辛くなるくらいなら今は私だけを守って』

 

だから、誰かの未来を見て救おうとするのは止めるように頼んだ。アリウスに死んでほしくなかったからだ。救える未来があるからと、手を伸ばして救えない現実に心を砕かれて欲しくなかった。

 

だから、都市を走り続ける少年の誓いを歪めた。

 

それなのに。

 

否、そんな言葉(呪い)をかけたからこそ。

 

「あああああああああああああああああああ」

 

慟哭は雨の音に掻き消され、喉を傷めるまで叫び続けた少女の哀れな姿だけが正義の眷属の眼に焼き付いていた。

 

 

 

 

少年がここにいれば邪悪に笑っていることだろう。少年にとって殺しは結果であり、忌避する心はすでに壊れているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「何かシャクティの視線がきつくて逃げ出しちゃったけど、ミスったかな」

 

「久しぶりね。アリウス」

 

「命を手放せばそんな不安を感じなくて済むわ」

 

闇を貫いて帰ってくる甲高い声。歌声のように通りに響いたのは無邪気で醜悪な姉妹の笑い声だった。纏っている衣は踊り子のように露出が激しく、二人合わせて鏡のようだ。

 

長い髪はひとつないし二つに結わえられており、外見上の幼さの印象に一役買っている。

 

罪悪など知らない赤子のような滑らかな白い肌と禁断の果実を彷彿とさせる艶美な褐色の肌は、その実欲のはけ口にした途端に男を食い殺す食人花であることをオラリオの冒険者はとっくに理解している。

 

「それは名案ね!ディナお姉さま」

 

「ええ、素晴らしいでしょう?ヴェナ」

 

姉と呼ばれた一人は金の髪を持つ白妖精、妹と呼ばれた一人は銀の髪を持つ黒妖精。

 

「大規模な抗争………まあ、出張ってくるよな」

 

それぞれ左右に涙を模したような奇怪な刺青を刻み今も繋いだ両手に指を絡め、無垢な妖精のようにはしゃいでいる。

 

「えぇ、現れるわ、だってこんな素敵な宴だもの!」

 

「あの子もこの子もみんなディナーお姉様と私が殺してあげなきゃ!!!!!」

 

「じゃなければ神にもらった命がもったいないわ!!!!!」

 

醜悪で吐き気を催すほど可憐な笑みを浮かべる終いを見て吐き気を覚える。同時にほんの少しだけ、同族意識がある。姉妹と彼は絶対的に壊れているという意味では同一だった。妖精たちは猟奇と快楽の虜であり惨たらしく人を殺すことに至上の喜びを覚えてしまったエルフにあるまじき外道の中の外道だ。

この姉妹が最も多くの冒険者と罪なき民の命を奪っていることは間違いない。

 

そしてその邪魔を最もしたのは紛れもない予言者と謳われる少年である。最も、邪魔をしたのは神の意向なわけだが。

 

「いい加減俺につきまとうのやめろよ!フレイヤファミリアのエルフ達にしろって!!!!!俺の前に現れるな」

 

「「無理だわ!無理よ!だって、私たちあなたのことが誰よりも気に入っているの(ぶっ殺したいんだもん)」」

 

「心に決めた人がいるんでパス」

 

「「振られてしまったわ、泣いてしまいそう」」

 

「嘘つけ」

 

「ヘグニやヘディンのことも殺したいけれど、最初はあなたじゃなければだめね」

 

「やはり殺すのはあなたじゃないと………でも安心して今日ここに来たのは殺しに来たからじゃないの!」

 

「あなたに届け物があるの」

 

姉妹の目線の先には二人の人間がいた。鎖で手足を拘束され、動くことができないようだ。二人ともかつて少年が救った人間であり、片方は冒険者、片方は一般人の少女だった。

 

「アハッ、早くしないと魔法で焼けてしまうわよ?」

 

「さあッあなたの答えを見せてちょうだい!!!!!」

 

膨大な魔力が吹き荒れる。花開くのは巨大なマジックサークル、数は二つ。

 

毒々しい黒と紫。冒険者の男と一般人の少女の頭上に現れる。少年は、7秒後の光景を目にする。

 

「開け、第五の園。響け、第九の歌」

 

妹の高らかな詠唱が一瞬で終わる。それは超短文詠唱でもなければ、高速詠唱による早業でもない。

 

魔法の待機状態。

 

少年と接敵する前に呪文を唱え発動直前の魔法を維持し続けていたのである。

 

ラプラス(未来視の魔法)が告げる。片方しか救えない未来を。姉妹の瞳が雄弁に告げていた。

 

どちらを選ぶのか?

 

二者択一のクソみたいな選択肢を突きつけてきた。これから戦力になり得る冒険者か、か弱き未来ある一般人の少女か。それに対して、アリウスはどちらも選ぶことはなかった(・・・・・・・・・・・・)

 

赤い殺意が妖精を切り裂く。アリウスは人質二人を見捨てて、姉妹を殺すことを選択したのである。

 

「………え!?」

 

「!?」

 

「『業火を謳う、道化は笑い、愚者は嘆きと憎悪を寿ぐ』」

 

妹の傷に動揺している白妖精の首をアリウスが握る。天空のマジックサークルが完成すると同時に灼熱の炎が姉を焼き払う。

 

凡人であるが故に、彼は自分にできることとできないことを常に把握している。

 

できないことは絶対にしないしできることは必要になればどんなことでもする。そこに感情や倫理のブレーキというものは一切存在していない。そんなものは当の昔に壊れた。

 

彼もまた姉妹と同じ狂人である。

 

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