山梨県、某所。
転生者達の互助組織にして今や国内随一のオカルト組織、ガイア連合が居を構えるこの地では、組織の拡充や住人の増加に伴い、それまで無かった住居や施設がどんどん増加していた。
それはオカルト関連の施設に加えて、住居や店舗、娯楽といった、日常生活に必要な施設も含まれる。
そんな発展と変化のさなかの街にあって。
ここ【柳夢クリニック】は、やや街はずれに近い、活気から取り残されたような場所に建っていた。
* * * * * * * * * * * * * * *
「…………」
カタカタとキーボードを叩く音が診療室に響く。
顔色が悪く、手入れの足りない短めの黒髪の男--この病院の医師の居る部屋は、普通の個人病院とあまり変わりはない。
こじんまりとした室内に、簡素なベッドが一つと、PCと書類が乗った机が一つ。
変わったところと言えば、壁に貼られた医療品メーカーによる宣伝兼啓発ポスターに混じって、
「……。では次の人を」
「はい」
男の声に、外に控えていた
白に近い亜麻色の髪に、
「長靴ニキさまー、長靴ニキさまー」
「あ、呼ばれた」
胡乱な名前の呼び出しに反応する人物がひとり。
応えた少年は別に長靴は履いていないし、そもそも到底本名ではないが、まばらに座る他の患者は気にした様子もない。
もっとも、ここの利用者が本名ではない呼称で呼び合うことは、半ば暗黙の了解のようなものだった。
看護師によって入口のカーテンを開けられ、診察室に少年が入っていく。
「よろしくお願いします」
「はい、長靴ニキさんですね。こちらの方にお座りください。
今日はええっと、風邪みたいな症状があると」
「はい。熱っぽいというか、腰とかがだるい感じもあって……なんか、
「なるほど、
「ケットシーです」
少年の話を聞きながら、男はキーボードを打ち、症状を記載する。
「ふむ……ちょっと触診とか血圧とかの確認と、血液検査もしておきましょうか。
変身中に症状が強くなるということですし、変身後も見てみましょう」
「お願いします」
普通の病院と変わらず、しかし途中で少年が直立した黒猫の姿になりつつ、診察は続く。
ここ【柳夢クリニック】は、俺達向け、それも霊障か病気か分かりづらいような症状の初期診断をメインにした個人病院である。
228:名無しのデビルサマナー
覚醒してちょっとレベル上がると病気とかほぼ無くなるしな
会社の健康診断で血糖値まで下がってたのはビビった
229:名無しのデビルサマナー
注射ニガテなワイ、採血の針に緊張しすぎて硬化、針を弾く
230:名無しのデビルサマナー
>>229 そんだけ強いなら針ぐらい大丈夫だろうがww
231:名無しのデビルサマナー
>>230 それでも緊張はするんだよォ!
232:長靴
戻りましたー
233:名無しのデビルサマナー
>>232 お、戻った
234:名無しのデビルサマナー
>>232 おかえりー
どうだった?
235:名無しのデビルサマナー
この感じだと大したことはなかったかな?
236:長靴
教えてもらった柳夢クリニックに予約して、見てもらいました
とりあえず呪いとか感染症とかじゃなかったです
237:名無しのデビルサマナー
それならよかった
238:名無しのデビルサマナー
じゃあ何だったんだ? 単なるお疲れ?
239:長靴
ええっと、先生が言うには
「季節柄、夜中に周囲の野良猫が元気になってるからね。多分、そこかしこの声で気分が盛り上がったんだろう」
「端的に言えば、君は今『発情期』だ」
だそうです
240:名無しのデビルサマナー
ええ・・・?
241:名無しのデビルサマナー
いや草
242:名無しのデビルサマナー
ケットシーって発情すんの?
243:長靴
なんかレベルが低くて制御が甘いのと、半端に肉体寄りなこと、あと若くて健康な男子生徒の欲求の強さが絡み合って事故ってるって言ってました
精も出さないかとか言われたけど断りました
244:名無しのデビルサマナー
もったいない! ナース式神にヌいてもらえるチャンスを!
245:名無しのデビルサマナー
いやあの看護師シキガミ怖くね?
246:名無しのデビルサマナー
〇学生の性癖歪ませようとするな
247:名無しのデビルサマナー
あの先生わりとマッドよね
248:名無しのデビルサマナー
>>246 でも俺らなんだし、ちょっとくらいええやろ
診療時間を終え、休診の札が掛けられた柳夢クリニックの奥。
患者の入らない事務スペースの、さらに隠し扉から地下へ降りた先で。
男が、電話型の呪具で連絡を取り合っていた。
「面白いサンプルが手に入った。もう一体分使いたい」
『確かに現在空はありますが、材料はご自身で?』
「大丈夫だ、こちらで準備する。そちらには機材と調整を頼む」
昼白色の蛍光灯で照らされた部屋の壁には、茶色の薬瓶と瓶詰された組織サンプルが並ぶ金属キャビネット。
床は撥水性のビニール張りで、部屋の奥に人ひとりが入れる程度のガラス容器が横たわり、中には何かの液体の跡。
そして、部屋の中央の手術台には
『珍しいですね。【完成派】と【前進派】を掛け持ちする私には、情報は与えたくないと思うのですが』
「他派への情報料も対価に含める、という形だ。私だけでは安定しない。せっかくなので万全を期したい」
『そういうことでしたら構いません』
その後いくつかの確認を行い、男は通話を終えて。
キャビネットの横に置かれた、檻とも筒ともつかないものに目を向け、笑みを浮かべた。
・医師の男
医者俺達。医学生時代にどうにか時間を作って覚醒オフに参加。他の俺達と連絡を取り合いつつ勤務医を数年経験し、独立という体で山梨へ移住、柳夢クリニックを開設する。
何人かの黒札同士でサークル活動のようなものを行っているらしく、時折クリニックに休診の看板が立つ。
・柳夢クリニック
ガイア連合山梨支部に程近い、郊外に建てられた個人病院。
事実上黒札限定の会員制で、高レベルの人や治療班に話すほどではなさそうな不調の初期診断を受けていて、
診断次第では治療班への紹介状や解呪依頼の書類を出してくれる。
患者が変なことをされた話は無いのだが、一部の俺達からは「啓蒙高そう」「使者にされるのでは」と評判(?)である。
・長靴ニキ
最近すれ違ったネコミミ少女シキガミを目で追うことが増えた。