僕、
絵を描くことが好きなんだけど、それは秘密にしている。学校ではアニメや漫画が好きな、明るい性格の一般高校生として過ごしているんだ。
STARRYでは絵のことがバレちゃったけどね。性格はまだ隠せている……かな? いや、やっぱりもう隠せてないかもしれない。
実はあの喜多さんと幼馴染なんだ。長らく疎遠にしてたんだけれど、この前やっと関係修復できたよ。
幼馴染なのも周りには秘密。どう思われるか、ちょっと怖いし…。
「ぼっち・ざ・ろっく!」のことを思い出したのは、高校の始業式の日。それまでは転生者としての自覚なんてなかったんだけれど、奇抜な恰好をした後藤さんを見たらふと浮かんできたんだよね。
それから紆余曲折あって、今では結束バンドのみんなとも仲良くなれたと思う。STARRYでのバイトは断られちゃったし、原作イベントもいくつかは関われなかったんだけど…。オーディションライブを見れたのはすごく良かった!
ステージの上に立つみんなは輝いていて、ついそれを絵に描いちゃったんだ。描いた絵は結束バンドのみんなにも好評だったし、僕にとっても大事なものになったよ。またみんなのライブを見たいな…!
なんだかんだ楽しく過ごせている僕だけど、悩みがないわけじゃない。
いやむしろ、悩み事はいっぱいあるような…? それはともかく、今一番悩んでいることがあって…。それは――――
――目の前にある、3枚のライブチケットについて。
まず1枚目は、オーディションライブの日に後藤さんから買ったものだ。後々の展開を考えれば買わないという選択肢もあったけど、周りの目が許さなかった…。
そもそも震えながらチケットを差し出してくる女の子相手に「だが断る!」なんてできるはずもない。そんな胆力があったら、もっと別の人生を歩んでいただろう。
まあ1枚目はよしとして…。問題は残り2枚。
これも後藤さんのノルマ分。つまり本来はファン1号さん・2号さんが購入するはずのもの…。これが今、僕の目の前に置かれている。
もちろん買ったわけじゃない。そんなことをすればどうなるか分かっていて、買うはずもない。このチケットは、相談のために出されたものだ。
そう、僕は今――チケットを売る当てがないか、後藤さんから相談を受けている。
(いやまあ、結束バンドのメンバー以外で相談できそうなのは僕しかいないだろうけど。よく相談する勇気が出せたな……)
ギターを辞めてからは学校でもほとんど話さなかったし、そのまま夏休みに入っちゃったから、最近はあまり交流していなかった。
だからロインでメッセージが送られてきた時なんかはすごく驚いたし、ファミレスとはいえ会えないか訊いてくるなんて、天変地異の前触れかと思ったんだけれど……この展開は好都合かもしれない。
今の後藤さんは、原作ほどぼっち状態じゃない。ちょっと話す程度の仲とはいえ、チケットを買ってくれそうなクラスメイトが数人いる。
本来ならクラスメイトに声をかけるか、僕の交友関係をいかしてチケットを売るのが正道だろう。……というか、おそらく後藤さんが期待しているのはこの方向だ。
しかしながら、その手段をとることはできない。
このチケットがクラスメイトの手に渡るということは、後藤さんのチケットノルマがここで達成されてしまうということ。そうなれば、後藤さんが路上ライブをする理由はなくなってしまう。
廣井きくりとの出会い、ライブ中の成長、ファンの獲得……様々なメリットがある路上ライブイベントを、潰してしまうわけにはいかない。
特に後藤さんの成長要素が欠けることは、致命傷に繋がりかねない。
結束バンドが初ライブで失敗して、立ち直れなくなるパターンまで考えて…。そんな光景は見たくないと、イメージを振り払った。
なんとしても、成功させてみせる。
――この場を収めつつ、路上ライブイベントに繋げる方法…。
頭の中で計画を組み立てる。相談相手に選んでくれた後藤さんには申し訳ないけど、ちょっと苦労してもらわないといけないな…。
僕が計画を立てている間、後藤さんの顔色はなぜかどんどん悪くなっていった。
~~Side:後藤ひとり~~
私にとって、学校生活は地獄だった。それこそ、結束バンドが売れたら高校中退したいと思うほどに…。
でも今は……中退するかどうか、ちょっとだけ迷っている。学校生活を楽しいとまでは思わないけど、前ほど苦痛じゃないから。
たまに自分から挨拶できるようになった。
CDの貸し借りなんてことも、やっちゃったりした。思い切ってデスメタルを持ってきたら、ちょっと引かれちゃったけど…。
喜多さん経由でライブの話を聞いたらしく、「すごいじゃん!」とか「頑張ってね~!」なんてロインがきたりもした。
あるいはここでチケットの話に繋げられれば、こんな思いはしなくて済んだかもしれない。
でも個別のロインでチケットを売るなんて到底できないし、学校は夏休みだからクラスメイトに会う機会もない。
授業があるならふとした拍子にチケットの話題を出せたかもしれないのに…。いや、やっぱり無理だ。机の上にチケットを出しておくので精一杯かも…。
クラスメイトに売るのは難しいし、お母さんに頼るのも意地を張って断っちゃった。ふたりは全然信じてくれないけれど、私にだって友達(?)くらいいるもん…。
バンドメンバーに相談したら、ノルマも達成できない役立たずって思われちゃいそうだし、頼れるのは畔くんだけだったんだけど……この選択、間違いだったかもしれない。
(畔くん、なにか企んでいそうな顔をしてる…!? 嫌な予感しかしない…!)
オーディションライブの日を境に、畔くんは元気を取り戻したように思う。それは良かったんだけど、こういうところまで戻らなくても良かったのに…。
今までの経験からすると、また無茶なお願い事をされそう。逃げ出したいけど逃げ出せない…。陰キャの悲しい生態もあるし、ここで逃げたらチケットノルマが…。
血の気が引く思いをしながら、畔くんの宣告を待つ。注文した料理が運ばれてきたけど、手をつける気にならない…。
考えがまとまったのか、畔くんがこっちを見てきた。何をやらされるんだろう…?
「いいよ、チケットのことは任せて」
「あっありがとうございます……」
「その代わりといってはなんだけど……この日、予定空いてるかな?」
畔くんが指定した日は、自主練の日だった。合わせ練習の日だったら休めたかもしれないのに…。
戦々恐々としながら「あっ空いてます」と答えると、畔くんはにこやかに笑って言った。
「じゃあ、その日は一緒に遊んでほしいな」
「ハッハイ…。あれ、それだけ……ですか?」
「それだけだよ…。金沢八景の方がいいな。待ち合わせ時間とかは後でいい?」
「あっ大丈夫です」
話は終わりということなのか、畔くんは本格的に食事に手をつけ始めた。思ったよりもあっさり終わった頼み事に、拍子抜けしてしまう。嫌な予感とか、思い過ごしだったのかな…?
畔くんがチケットと引き換えに3000円を置いてくれて、ようやく一安心できた。これでチケットノルマについては、もう気にしなくていいはず。や、やったぁ…!
心配事がなくなってから食べるケーキは、とてもおいしく感じられた。
――機嫌よく食事をする私は、気がつかなかった。
畔くんがときたま、申し訳なさそうな……あるいは、屠殺場に引かれていく家畜を見るような。そんな目で、私を見ていたことに…。
更新は週2回程度を目安にやっていきたいです。
亀更新ですがよろしくお願いします。